背後からの険のあるミレダの声を受けて、ユノーは目の前に立つ人をまじまじと見つめる。 そして、ようやくある人物のことを思い出した。 皇帝姉妹と従兄弟の関係にある人物、フリッツ公イディオット。 やんごとない血を引いているにもかかわらず、その人の評判はかんばしくはなかった。 美術を始めとする芸術に傾倒し、父親の跡を継ぎ貴族議員の資格を得たものの、議会に出たことは一度もない。つまりは政には一切関わっていない。 気まぐれに宮廷に姿を見せたと思えば、歴代の皇帝が集めた書物を納めた書庫に篭り、日がな一日読書をしているような人物で、親譲りの愚昧公と陰口を叩かれている始末である。 そのせいか、ミレダの口調はいつになく鋭く厳しい。 鋭くその顔をにらみつけると、視線そのままの厳しい口調でこう言い放った。 「私達は、従兄殿と違って遊んでる時間がないんだ。用がないなら邪魔しないでくれないか?」 「かと言って、ぶっ通しでやっていても効率が良いとは言えないのでは? そうは思いませんか? ええと……」 穏やかな光を宿した瞳が自分に向けられていることに気がついて、ユノーはあわててその場にひざまずく。 次いで頭を深く垂れた。 「申し遅れました。蒼の隊の一員として皇帝陛下にお仕えしております、ユノー・ロンダートと申します。公爵閣下のご尊顔を拝し、光栄に存じます」 「『一員』じゃなくて、『司令官』だろう? お前は相変わらずだな。それに、こんな奴にそこまでかしこまらなくてもいい」 やれやれとでも言うようなミレダの言葉に、ユノーは驚いて顔を上げた。 仮にも従兄という人物に対して、あまりの言い様だと思ったからだ。 豆鉄砲を食らった鳩のように水色の瞳を丸くするユノーに、フリッツ公爵は柔らかく微笑む。 「気にすることはありませんよ。私はルウツ皇室に連なる厄介者ですから」 どうやら公爵は、自らにまつわる良からぬ噂を聞き及んでいるようだ。 だか、ユノーは反射的に首を左右に振る。 「いえ、そのようなことは決して……。小官の方こそ、陛下にお仕えするにはあまりにも至らぬ身でありながら、このような重責を……」 だが、ミレダは容赦なくぴしゃりと言い放つ。 「努力しているだけお前は立派だ。可能性を手放してしまった誰かとは大違いだ。卑下するな」 申し訳ありません、とさらにかしこまるユノー
Terakhir Diperbarui : 2025-05-08 Baca selengkapnya