暖かな光が優しく自分を包み込んでいる。 死後の世界という物が存在するとしたら、このような所なのだろうか。 そんなことをぼんやりと考えながら、シエルは目を開いた。 そこは、暖炉のある小さな部屋だった。 一体何が起きたのか理解できず、彼は自分が置かれた状況をまじまじと見つめた。 肩口の矢傷には真っ白な包帯がきっちりと巻かれ、わずかに薬草の香りがする。 身にまとっていたのは真新しい夜着で、横たわっているのは柔らかな寝台。 無論身体は清められている。 窓には緋色の分厚いカーテンが引かれ、燭台のロウソクが室内を明るく照らしている。 慌てて半身を起こそうとした時だった。 聞き慣れぬ老人の声が、前触れもなく耳に飛び込んでくる。「気が付いたかの? まだ動かれんほうが良い。傷口が開くからの」 視線を転じると、横たえられている寝台の脇に一人の老神官が座っていた。 醸し出す雰囲気から察するに、徳のある位の高い神官なのだろう。 顔をのぞき込んでくる慈悲深い眼差しに、シエルはおとなしく起きあがるのを止めた。「お前様も、神官とな? ここがどこだかわかるかの?」 ゆっくりとシエルはかぶりを振る。 やれやれと言うように老神官は続ける。「ここはアレンタ。エドナ最果ての地だ。死神が治める死者の街と言えばわかるかの?」「アレンタ……? では、聖地は?」「すぐそこじゃ。お前様は、巡礼者かの?」 答えようとした時、扉を叩く音が室内に響く。 ややあって扉が開き、現れたのは他でもなく、命の価値に重い軽いは無いと言っていたあの神官騎士だった。「気付かれたのですか、アルトール殿? 本当に良かった」 心底安心したようなアルバート。 が、シエルはさらに首をひねった。「失礼ながら何故俺の名を……? 一体これは&hellip
Last Updated : 2025-05-28 Read more