夕闇の中、荒れ果てた休息所は暖かな焚き火の炎に照らされていた。 浮かび上がるのは、二人の男と一匹の黒猫といういささか奇妙な一行である。 焚き火の側でころんと丸まる毛糸玉の姿を眺めやりながら、シエルはまるで他人ごとのようにペドロに問うた。 「で、一体皇都では何が起きているんだ?」 一方問われた側のペドロは面白くなさそうな表情で火をかきまわしながら、礼儀正しくかつどこか突き放したように答える。 「なかなか厄介な事になっていますよ。陛下直々にあなたへの指名手配書が出ています。早い話が賞金首ですね」 「やれやれ、ずいぶんと嫌われたな。それをわざわざ知らせに?」 「いいえ、もとはといえば、あなたが妙な手紙を書いたりするからです。あなたがあんなことを言わなければ、殿下も暖かく見守ってくれたでしょうに」 「ずいぶんな言い方だな」 「そのくらい言わないと、あなたは聞いてくれないでしょう? 違いますか?」 だが、ペドロの言うことは図星だったのだろう。シエルは返す言葉もなく視線をさまよわせる。 それからおもむろに、無言のままシエルは鞄の中からガロアの村で手に入れたパンを取り出そうとすると、毛糸玉ぴくんと頭を上げた。 そちらに笑ってみせてから、シエルはペドロに向かい、お前も食うかとでも言うようにそれを掲げてみせた。 けれど、ペドロは無言で首を左右に振り、さらに抑揚のない口調で続ける。 「いえ、遠慮します。……蒼の隊はあれ以降、ロンダート卿の配下に置かれました。殿下の独断ですので、部隊の中には反発する者も少なくありませんが」 「元々寄せ集めの傭兵部隊だ。今更どうなっても構わないだろ?」 素っ気ないその言葉に、ペドロはやれやれとでも言うように肩をすくめて見せる。 「無責任ですね。皆あなたに命を預けていたのに。あなたはいとも簡単にそれを投げ出す」 「俺にはそれだけの器はないし、資格もない」 「決めるのは、彼らです。あなたではない。違いますか?」 探るようなペドロの視線を意に介することなく、シエルはパンと干し肉を切り分けていた。 果たしてその声が届いているかは定かではないが、ペドロは言葉を継ぐ。 「いかんせんあの方……ロンダート卿は、人柄は申し分ないが経験がない。加えて残念ながらその能力が開花するまでの猶予が
Last Updated : 2025-05-18 Read more