ランスグレン。 古(いにしえ)のルウツ皇国の始祖である大帝ロジュア・ルウツの時代には、出城が築かれそれなりに栄えていたようだが、今となってはその面影は無い。 目前に広がっているのは、わずかに草の生えている荒涼とした大地である。 ユノーの初陣の地ルドラには適当に部隊を伏せておける木々が生い茂る場所もあったが、ここは彼方に地平線が見えるほどの平地だ。 軍勢がぶつかるにあたり、小細工が通用するような場所ではなかった。 単純に数の大小が勝敗を決するだろう。 けれど、『無紋の勇者』を欠いた蒼の隊はその数を減らしている。 前回出陣時のおおよそ三分の二弱程度が踏みとどまっているという有様だ。一方で、敵軍は万全の体制でこちらを叩き潰しに来るであろうことは間違いない。 そんな絶望的な状況で陣を張り、丸一日が経とうとしている。 幸か不幸か、死神の率いる敵軍の姿は未だ見ることはできずにいた。 「坊ちゃん、大変だ!」 背後から声をかけられて、ユノーは身体ごと振り返る。 と、シグマがこちらへと駆け寄って来るところだった。 「どうしたんですか? そんなにあわてて」 脱走者が出たぐらいでは、もう驚きませんよ。 そう言うユノーに、シグマは息を切らせながら首を勢い良く左右に振る。 「いや、そうじゃない。皇都の方から一個中隊くらいの軍勢が近づいてるって報告があったんだ。でもまあ、あの斥候隊長じゃないから、何かの間違いかもしれないけど」 それにしても、あの真面目だけがとりえの斥候隊長までいなくなるとは思わなかった。 恨みがましく嘯(うそぶ)くシグマに、ユノーは曖昧に笑って返す。 そんなユノーの脳裏に、良からぬ考えが浮かんだ。 宰相は、自分達が敵軍に叩きつぶされる前に、自らの手勢でとどめを刺そうとしているのではないだろうか。 あの宰相のことだ、万が一にも援軍などよこすはずもない。 援軍を装った子飼いの部隊で、内部から叩き潰そうとしているのではないか、と。 「とりあえず、早急に戦闘
Terakhir Diperbarui : 2025-07-29 Baca selengkapnya