Semua Bab 【完結】青空と海と大地ーそらとうみとだいちー: Bab 61 - Bab 70

72 Bab

061 激昂

  時は流れ。 暦は3月に変わっていた。 大地の様子は特に変わらず、一日のほとんどをベッドで過ごしていた。 そんな大地に海は寄り添い、笑顔を向けていた。 大地の頬にキスし、「今日も生きてくれてありがとう」そう囁いた。  * * * 大地はぼんやり天井を見つめ、物思いにふけることが多くなっていた。 思索している、という訳ではない。 その時その時、浮かんだことを巡らせていた。 薬が減ったおかげで、少しずつ思考回路が戻っていく気がしていた。 まだ本調子には程遠い。しかし確実に、今の状況を俯瞰出来るようになっていた。 そして気付いた。 今の自分にとって、なくてはならないもの。 海の笑顔。 それが嘘くさいということに。 自分を殺し、無理矢理作った虚飾。 どうしてこいつ、こんな顔をするんだ?  怒りたければ怒ればいい。泣きたければ泣けばいい。 不満があるなら言えばいいのに。 ずっと笑顔のままだった。 そしてある日。 大地は聞いてしまった。 いつもの彼ならば、絶対口にしない筈なのに。 思考が散漫な今、何も考えずに聞いてしまった。  * * *「どうしてそんな作り笑い、海はしてるんだ?」  その言葉を投げかけられて。 隣で雑誌を読んでいた海の顔が強張った。「……海?」 海の様子に困惑し、大地がそうつぶやく。 海は雑誌を閉じ、肩を震わせた。「海……どうかしたか……」 大地が肩に手をやる。その手を荒々しく払い、海は大地を睨みつけた。「え……」 海の目に、涙が溢れていた。 そして震える唇を噛み、大
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-05-28
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062 それぞれの誓い

 「あんたの絶望は理解してる。愛する人を失ったんだから、そうなるのも当然だと思う。私もそうだった」「……」「でもね、それでもいいの。私にとって、あんたは世界一大切な人。大地と一緒にいる為なら、私はどんなことでも耐えられる」「……」「お風呂に入りたくないって駄々こねて、着替えもしなくて臭くても」「……ごめん」「ご飯を食べてくれなくて、泣きながら全部捨てるのが続いても。私は我慢する」「ひょっとしてお前、かなり怒ってる?」「当たり前でしょ。どうやったらあんたが食べてくれるか、私がどれだけ考えてると思ってるのよ」「そう……だよな……」「それなのにあんた、一口食べるか食べないかで『もういい』ってため息ついて。エンシュア飲んで煙草吸って」「……最低だな、俺」「そうね、最低。でもね、私はそれでもいいって思ってる。あんたと一緒にいられるんだったら、これぐらい受け入れなきゃって思ってる」「……」「ほんとはね、浩正〈ひろまさ〉さんにきつく言われてたんだ。何があっても、大地に感情をぶつけてはいけないって」「そう、なのか……」「今の大地と生活してたら、ストレスを感じることが多いと思う。それでもそれを悟らせてはいけないって。大地のような人は、それが伝わるとますます生きる意欲をなくしていくからって。俺はなんて情けないんだ、やっぱり死のう、そう思うって」「なるほど……な……」「大地と接する時は、なるべくいつも同じテンションでいろって言われた。だからそれに従った」「そうだったのか……」「それなのにあんた、デリカシーの欠片もなく、嘘くさいって言って」
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-05-29
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063 常識を無視した戦い

 「それはまた……すごい決断をしましたね」 その日の夜。  様子を見に訪れた浩正〈ひろまさ〉が、そう言って苦笑した。「ええっと、その……相談してからの方がよかったでしょうか」「ああいえ、そういう意味じゃありません。ただ何と言うか、すごいことをするなと思いまして」「そうですよね……」「ははっ、落ち込まないでください。二人で決めたことなんです、自信を持ってください」 そう言って、ベッドで寝息をたてている大地に目をやった。「大地くん、よく眠ってるようですね」「はい。それが私も不思議で……今まですごい量の眠剤を飲んで、それでも眠れてなかったのに。それなのにあっさり眠っちゃって」「……」「これってつまり、眠剤なんて必要なかったってことでしょうか」「いえ、そうはならないと思いますよ」 相変わらず穏やかな笑みを浮かべ、浩正が答える。しかしその言葉から、これからが勝負なんだという思いが伝わってきた。「今、薬を飲んでない大地くんがどうして眠れてるのか。それは僕にも分かりません。ただ言えることは、今の大地くんの体には、これまでの薬が残っているということです。楽観は出来ません」「そう……ですよね……」「ですがそう決断し、実行に移したんです。後は覚悟を決めて、この問題に立ち向かっていくしかありません」 海の肩に手をやり、小さくうなずく。「薬はもう、全て捨てたんですか?」「明日がゴミの日ですので、朝一番に出す予定です」「そうですか。これから大変だと思いますが、頑張ってくださいね」「いえ……大変なのは大地の方です」「勿論大地くんも大変です。ですが僕が以前話したこと、覚えてますか?」「……」「悩みや苦しみは、他人に起こった時の方が辛いって話です」「はい、覚えてます」「それが明日から始まります。恐らくですが大地くん、禁断症状で苦しむことになります。奇声をあげますし
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-05-30
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064 祈り

  次の日。 目覚めると同時に、大地がトイレに駆け込んだ。「え……大地、どうしたの」 海が心配そうにトイレを見つめる。するとすぐに、大地の嘔吐が聞こえた。「大地……」 トイレの前に立ち、大地が出てくるのを待つ。しかしいくら待っても、大地の嘔吐は治まらなかった。「ねえ大地、大丈夫なの」「……大丈夫、大丈夫だから……すまん、放っておいてくれ」「放ってなんかいられないよ! 中に入る!」「来るな!」「……大地……」「すまん海、見られたくないんだ……大丈夫だから待っててくれ……」「……分かった」 冷蔵庫からスポーツドリンクを取り出し、カップに入れてレンジで温める。そして同じくコップにも入れた。 冷たいのと温かいの、どちらがいいのか分からない。だから両方用意した。「……」 トイレのドアがゆっくり開く。入ってから既に10分が経っていた。「大丈夫? うがいする?」「ああ、すまん……」 青ざめた顔でコップを受け取り、水でうがいする。そして海に言って塩をひとつまみ口に入れ、もう一度うがいした。「どう? すっきりした?」「ああ、少し落ち着い……ぐっ!」 そう言ってもう一度トイレに駆け込む。そしてまた、何度も何度も嘔吐した。 それはまるで、獣の咆哮だった。  * * * それから大地は何度もトイレに走り、最終的に便器を抱えたまま気を失った。 トイレから出そうとしても、脱力していて持ち上げられない。 
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-05-31
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065 禁断症状

  この半月、本当に色々あったな。 睡眠不足な顔で笑い、海が大地の頭を撫でる。 大地はベッドで眠っていた。 正しくは、気を失っていた。  * * * たった二か月の投薬で、ここまでの禁断症状が出るんだ。そう思うと身震いがした。 薬を否定する気はない。必要な人が大勢いることは理解していたし、あの時の大地には必要だったんだと思う。 問題はそこではなく、過度に投薬したということだ。 確かにそのおかげで、大地は渇望していた死すら考えないようになった。しかしその代償として、薬がないと生きていけない体になってしまった。 薬に依存しないと、眠ることも出来ない。 少しでも不調を感じたら、迷わず安定剤を飲むようになった。 おかげで顔は浮腫〈むく〉み、呂律〈ろれつ〉もまわらなくなった。 記憶が混濁し、何度も何度も同じ話を繰り返すようになった。 そんな彼が、薬を断つと決断した。 海は喜んだ。しかし。 それがあまりにも無謀な賭けだったことを、今更ながらに理解した。 大地はこの半月、ほとんど眠っていない。 今のように力尽き、気を失った時にしか目を閉じてない。 食事も摂れなかった。薬を断ってから9日、水以外口に出来なかった。 大地はまず、匂いに異常なほど敏感になった。 自宅から100メートル以上離れた場所にあるラーメン屋。窓を開けると、その匂いに嘔吐した。 薬によって麻痺していた嗅覚が、薬を断ったことで急速に過敏になったから。そう浩正〈ひろまさ〉が言っていた。 おかげで食事を出しても、吐くようになった。 毎日体重を測っていたのだが、9日で11キロも減ってしまった。 そんな大地に涙した。 しかし大地は、「どうだ? 浮腫〈むく〉みも取れてきたし、だいぶ元に戻ってきたんじゃないか?」 そう言って笑った。 海は抱きしめることしか出来なかった。  * 
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-06-01
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066 絶望という名の病

 「これまでの苦痛は、本来大地くんが経験しなくていいものだった。これは理解出来ますか」 淡々と語る浩正〈ひろまさ〉に、海が静かにうなずく。「あの日、死のうとした時から服用し続けた多量の薬。それがなければ、こんな苦痛はこなかった」「……そうですね」「そして今、大地くんと海さん、二人が力を合わせたことで、その呪いから解放されようとしている」 そこまで聞いて。海の中にひとつの不安がよぎった。 浩正さんが言おうとしてること。それはもしかして…… 「――体から薬が抜ける。それは即ち、大地くんをあの日の状態に戻すということなんです」  目の前が真っ暗になった。 どうしてそんな簡単なこと、今まで気付かなかったんだろう。「薬によって、大地くんは思考自体を抑えつけられました。何も考えられない状態にされました。でも今、その状態が終わろうとしているんです。それはつまり、大地くんが本来持っている悩み、絶望が丸裸になって蘇るということなんです」「そんな……」「ひょっとしたら、以前より酷いかもしれません。薬によって封じられた思考が蘇る。ある意味、よりクリアになって彼にのしかかってくる訳ですから」「大地は……どうなるんですか」「分かりません。ただ……これまで僕も、色んな人を見てきました。流石に大地くんのような無茶なやり方ではありませんが、長い時間をかけて薬物依存から立ち直った人を多く見てきました。その経験上言えることは……」「浩正さん」 海が真っ直ぐ浩正を見つめる。「何を言われても大丈夫です。本当のこと、話してくれませんか。私はどんなことを言われても、歩みを止めるつもりはありません」 そう言われ、浩正は優しく微笑んだ後、口元を引き締めた。「その後、自ら命を絶
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-06-02
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067 躁と鬱

  それから数日が経ち。 禁断症状がかなり治まっているのを感じた。 短い時間ではあるが、夜も眠れるようになっている。 煙草の本数に気をつければ、頭痛も酷くならなかった。 少しずつ、食事も摂れるようになってきて。 肉体的にかなり楽になってきたと実感した。 しかし。 入れ代わるように、今度は心が蝕まれていった。 言い様のない不安。恐れ。 それらが全身にまとわりついていた。  * * * 体が震える。 ジャケットを出して羽織る。 しかし震えは治まらなかった。 なんなんだ、これは。 大の男が部屋で一人、何を震えてるんだ? 禁断症状の時とは違う、体が自分のものでないような感覚。 なんでこんなに寒いんだ? そう思いスマホを見ると、気温は20度になっていた。「はああっ? 壊れてんのか?」 しかしすぐに思い直した。 違う、壊れてるのは俺の自律神経だ。 そう言えば昨日、天気予報で5月並みの陽気になると言っていた。 そう思うと、急に暑く感じてきた。 慌ててジャケットを脱ぐ。シャツを脱ぐ。 全身に汗がへばりついていた。 大地はタオルで汗を拭い、新しいシャツに袖を通した。「……また……寒くなってきたな……」 再びジャケットを羽織り、苦笑する。 寒いんだか暑いんだか、よく分からん。 色々と……壊れてるんだな、俺。そう思った。 そして。 嫌な感覚を覚えた。 何かに監視されているような感覚。 視線を感じ、クローゼットを見つめた。「……」 何も起こらない。当たり前だ。 この家に住んでるのは俺と海。他に誰もいない。 海は今、買い物に出
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-06-03
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068 絶望の根源

  次の日。 目覚めてからずっと、大地は泣いていた。  * * * 昨日、異様なテンションで喋り続けていた大地。 浩正〈ひろまさ〉の忠告を思い出し、海はずっと緊張していた。 夜、大地が眠りについた時。乗り切れたと安堵した。 青空〈そら〉さんが守ってくれた、そう信じ涙した。 それなのに。今日は打って変わり、泣き続けている。 この不安定な情緒こそ、今の大地なんだ。 丸裸になった彼の心。 まるで獣に睨まれ、怯えている小動物の様だ。 泣き続ける大地をそっと抱きしめ、海は囁いた。「どうして泣いてるの?」「分からない……自分のことなのに、分からない……」「そうなんだ……でもそれ、普通なんじゃない?」「そう……なのか?」「だってこれ、大地が言ってたことだもん」「俺、なんて言った?」「自分のことが分からない、他人の方が自分を分かってる。そんなの当たり前だって言ってた」「ははっ……そんなこと言ったのか、俺」「大地は今、何を考えてるの?」「それは……」「泣いてる理由が分からない、そう言ったよね。だから質問を変えてるの。今、何を考えてる?」「……怒らないか」「怒らない。約束する」「……死にたいんだ」「そっか……」 笑みを崩さず、海は抱きしめる手に力を込めた。「青空〈そら〉さんがいないから?」「だと……思う……」「寂しい?」「ああ、寂しい……」
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-06-04
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069 自己問答

  俺が生きる意味。死ぬ意味。 それはなんだ? * * * 海は言った。俺の根底にはいつも、絶望があると。 その意味を読み解いた時、何かが変わると。 面白いやつだ。 そんな発想、思いつきもしなかった。  これまでずっと、死を渇望しながら生きてきた。 どうしてだ? 毎日飯は食えるし、欲しいものを買う余裕だってある。 自分の時間もあるし、仕事だってそれなりに楽しい。 煩わしい人間関係も持ってないし、特にストレスを感じることもないはずだ。 それなのに。 どうして俺は死を願ってたんだ? * * * 青空姉〈そらねえ〉が死んだ。 俺にとって唯一とも言える、この世界の光。 それが失われ、俺は絶望した。 ある意味壊れた。だから死を実行しようとした。 だが海は言った。 本当にそれだけなのかと。  確かに俺は今まで、青空姉〈そらねえ〉が生きていたにも関わらず、ずっと死を考えていた。望んでいた。 いや。 海に言わせれば呪いか。 青空姉〈そらねえ〉が死んだことで、その思いが強くなったのは確かだ。 しかし俺はそれ以前から、ずっと前から死にたいと思っていた。 それは何故だ? * * * 親父が憎かった。 俺が逆らえない弱い存在と分かった上で、自分のストレスをぶつけてきたあのクズが憎かった。 母親が憎かった。 いつも俺を罵倒し、心を殺してきた悪魔が憎かった。 お前たちは親という立場にも関わらず、俺たちを育てるという最低限の仕事もせず、ただただ見下し、排除することを望んでいた。 そんなお前たちを、俺はただの一度も親だと思ったことはない。 お前たちのおかげで青空姉〈そらねえ〉は右目を失い、心に深い傷を負った。 お前たちがいなければ、俺た
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-06-05
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070 ありがとう

  カーテンを開け。 煙草をくわえ、火をつける。「……」 大地は混乱していた。 海に促されて始めた自己問答。それが思いもよらぬ方向に進んでいた。 人を信じない。誰とも関わらない。それが自分の哲学だった。 それなのに今。実はそれを渇望していたという結論に辿り着いてしまった。 それは大地にとって、驚愕の事実だった。 本当は俺、人と関わりたかったのか? そう思い、眉間に皺を寄せ。白い息を吐く。 そして思った。 自分にとって、深く関わりたいと思えた他人。 青空〈そら〉。浩正〈ひろまさ〉。 そして海。  青空〈そら〉は死んだ。二度と関わることが出来ない。 その絶望は自分にとって、死を選択するに十分なものだった。 浩正さん。 生まれて初めて、尊敬出来ると思えた他人。 思慮深く、人の痛みに理解を示し、手を差し伸べる聖人のような男。 姉を愛し、共に生きることを誓ってくれた人。 だけど俺は彼に対して、いつも心を閉ざしていた。 もし、この人にまで裏切られてしまったら。二度と立ち直れないと恐れたからだ。  * * * 海。 星川海。 こいつと出会ってまだ、数か月しか経っていない。 それなのにこいつのことを、ずっと昔から知っているように思っていた。 この世界に絶望している同志。 最初はそれだけだった。そう思っていた。 だが青空〈そら〉は言った。『あんた、そこまでお人好しだったっけ。いつものあんたなら、後をつけてまで助けるなんてこと、した?』 その言葉に動揺した。確かに俺らしくない、そう思った。 海がどうなろうと、それはあいつの選択だ。 何より海は俺と同じく、近い内に死のうとしてるやつだ。そんなやつがどうなろうと、自分には関係ないはずだっ
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-06-06
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