安田翔真(やすだ しょうま)はあの可愛い転校生に告白しようとしている。彼は事前にみんなに声をかけて、私には内緒にしておくよう頼んだ。ただ、彼は知らない。おせっかいな誰かがとっくに私に教えてくれていた。私が翔真のことを好きで、彼と結婚したいと夢見ているなんて、誰もが知っている。今回、翔真はその転校生に一目惚れして、本気で恋に落ちた。私はきっと、泣いて喚いて大暴れするに違いない。こういう男女のドロドロ劇は、誰だって大好きだ。みんな、私がぶち切れて修羅場を起こすのを今か今かと待っていた。ただ残念なことに、翔真の告白が無事に終わるまで、私は姿を見せなかった。野次馬は何重にも取り囲んでいたのに、どこか白けた空気が漂っていた。翔真の顔にも、大して嬉しそうな様子はなかった。彼は新しい彼女を腕に抱きながら、スマホを取り出す。でも、電話もメッセージも一通もなかった。翔真は少しだけ眉をひそめた。そして、取り巻きたちに向かってこう言った。「今夜は俺のおごりだ。見てたやつ、全員な」そのひと言に、クラスメートたちは一斉に歓声を上げた。 ずっと茂みの陰に立っていた私が、ようやく姿を現した。目ざとい誰かが私を見つけ、すぐに叫んだ。「斉藤紗季(さいとう さき)だ、紗季が来た!」「ほらね、紗季が我慢できるわけないと思った」翔真はぱっと顔を上げ、私を見た瞬間、口元をほんのわずかに緩めた。騒ぎを期待してざわつく周囲の視線を無視して、私はまっすぐ翔真の前へと歩み寄った。「紗季」翔真は新しい彼女をさらに強く抱き寄せ、私を見ながら淡々とした声で言った。「恋ってものは、無理にどうこうできるもんじゃない」「俺たちはもう十年以上の付き合いだし、あんまりひどいことは言いたくない。昔の縁もあるし」「これからも、お前のことは妹みたいに思ってる」「困ったことがあったら、いつでも頼ってきていい」そう言い終えると、彼は声のトーンをぐっと落として続けた。「みんなが見てるんだ、もう騒ぐのはやめて、帰れ」「翔真」私は彼の言葉を遮り、静かに一歩、前へ踏み出した。彼はまた眉をひそめる。「紗季、言うことを聞け」私はふっと笑い、さっき腕から外したばかりのブレスレットを彼に差し出した。「来たのは、これを返した
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