晄夜は、翡翠のバングルが入った小箱を、そっと助手席のグローブボックスに収めた。けれど、グローブボックスを閉じようとしたその瞬間、一枚の書類が視界に入った。これは、いつからここに?彼はしばし凝視し、記憶をたどってみたが、どうしても思い出せない。手を伸ばしかけたそのとき、携帯が振動した。ディスプレイには、「藤原瑤子」の文字。「晄夜、両親もう帰ったよ。友達が退院祝いしてくれるって!あなた、もう仕事終わった?よかったら一緒にどう?」軽やかな誘いに、晄夜は一瞬も迷わず「行けない」と答えた。通話の向こうで彼女の声色が沈みかけたが、彼は「会議がある」とさらりと口実をつけて電話を切った。そして静かにグローブボックスを閉じ、車を走らせて帰路についた。いつもならぬくもりに満ちていた別荘。けれどこの日は、不思議なほど静まり返っていた。玄関を開けた彼は、リビングをぐるりと見渡して、多くの物がなくなっていることに気付いた。何ヶ月も前にテーブルに置いたままだったネクタイ、食卓にあった水の入ったグラス、ソファに並んでいたクッション……どれも、清香が少しずつ買い足してきた、暮らしの温度のようなものだった。かつての彼なら、そんな些細なものなど目に入らなかっただろう。だが今、それらがないことが、妙に胸を突いた。彼はすぐに執事を呼んで、問うた。「家の中、いろんな物がなくなってる……何があった?」執事は恭しく一礼して、淡々と答えた。「奥様が、すべて処分なさいました」答えを聞いた彼の胸に、何かが静かに沈んだ。けれど言葉にはせず、ただ黙っていた。そんな彼を見つめながら、執事は少し躊躇いながらも、そっと口を開いた。「旦那様、本当に奥様と離……」けれどその「離婚」という二文字が空気を割る前に——「晄夜っ!!雪の日は家にいるって賭けてたんだ、ほらやっぱりな!!」ドアが勢いよく開き、数人の友人たちがどかどかと雪を踏み鳴らして現れた。肩を組み、騒ぎながら彼を引っ張り出そうとする。さっきまで執事の口からこぼれそうになっていた「あの言葉」は、笑い声と喧騒の中にかき消されていった。「飲みに行こうぜ!久々にパーッとやらなきゃな!」とはいえ、彼らは晄夜の身体を気遣い、差し出すのは白湯ばかり。彼はそれをひと口だけ飲み、ふ
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