渚が面接を受けに行ったすぐ後に千尋も病院を後にした。<フロリナ>に戻って午後も接客や花の手入れ等で忙しく働き、千尋が仕事を上がる直前に渚が店を訪れた。「千尋、迎えに来たよ。一緒に帰ろう?」心なしか渚の声はいつも以上に明るかった。「渚君、迎えに来てくれたの? 忙しかったんじゃないの?」千尋は渚が買い物袋を提げているのを見て尋ねた。「大丈夫だよ、もう食事の準備は出来てるから。これはちょっと買い足してきた分なんだ」そこへ中島がやってきた。「渚君。毎日青山さんのお迎えご苦労様」「いいえ、僕は渚と一緒に帰りたいから迎えに来てるだけですよ」「む……相変わらずはっきりと言うわね。余程青山さんが大事なのね?」「勿論です! 千尋は僕にとって物凄く大切な人です」笑顔ではっきりと渚は言い切った。「おお~。相変わらずストレートな物言いをするわね……」質問した中島の方がむしろたじろいでいる。「な、渚君! 声が大きいってば!」千尋は慌てて小声で注意した。「あ、ごめん。つい大きい声出ちゃった」周囲にいた若い女性客たちも渚の発言が聞こえていたのか、ヒソヒソささやきあっている。「ねえ~聞いた? 今のセリフ」「うん、聞いた聞いた」「羨ましいなあー。一度でもいいからあんな風に言って貰いたいね~」「あの店員の女の子、羨ましいね」すっかり千尋は注目の的だ。(だから違うのに……)千尋は心の中で思った。渚は自分に愛情表現を向けてくるけれども、それはどうも男女の愛情表現とは違うように感じていた。そう、まるで家族。しかも親子関係に向けられる愛情表現のように感じられるのだった。だからこそ千尋も渚と同居生活を続けていられる。千尋自身、渚を一人の男性として意識してみたことは無かったし、多分この先も無いだろうと考えていた。「じゃあ、すぐに帰る支度するからお店の外で待っててくれる?」「うん、分かった。外で待ってるね」渚は素直に言うことを聞くと店の外へと出て行った。「渚君て青山さんの言うことなら何でも聞くよね?」中島が言った。「え? 本当ですか? 私そんなにしょっちゅう命令してますか?」「あ、ごめん。そういう意味じゃないのよ? まるでご主人様と飼い犬のような関係のようなって、あ~私ったら一体何しゃべってるのかしら…!」そこへ一人の女性客が声をかけてきた。
Terakhir Diperbarui : 2025-04-13 Baca selengkapnya