「あ……」渚は咄嗟に身を翻して逃げようとした。「おい! 待てよ!」茶髪の若い男はあっという間に渚の腕を掴んで捕まえた。「何で逃げようとするんだよ。半年以上も行方をくらましておいて。俺が今までどれ位お前のこと探し回ったのか分かってるのか? スマホも繋がらない、アパートに行っても解約されていたし」渚は俯いたまま黙っている。茶髪の男はため息をついた。「おい、ちょっと顔かせよ」そして渚の腕を掴んだまま歩き出した。**** 渚と茶髪の男はファミレスの椅子に向かい合って座っていた。冷えて生ぬるくなったコーヒーが2つテーブルに置かれている。渚はテーブルの下で両手を握りしめて俯いていた。男は腕組みをして渚を睨んだ。「おい、渚。何とか言えよ。さっきから黙ってばかりで。お前、もしかして俺のこと忘れちまったのか?いや、そんなはずないよな? 俺を見て逃げ出そうとしたんだから」それでも渚は黙っている。「う~ん。どうもさっきから変な感じがするんだよな……。俺の知ってる以前のお前と今のお前、全く雰囲気が違って見えるんだが……。お前、渚に変装した偽物か?」「偽物じゃ……ないよ」ようやく渚は口を開いた。「偽物じゃ無いって言うなら俺の名前言えるはずだ。俺の名前は?」「橘……祐樹」「言えるなら、渚で間違いないかもな。だけどな! 絶対お前おかしいぞ? そんなキャラじゃ無かっただろう? なんかビクビクしてるし、本来のお前は喧嘩っ早くて血の気の多い男だったじゃないか。目つきだって凄く悪かったぞ?」「実は僕は……一部記憶が無くなってしまったんだ。どうして記憶を無くしたのかも覚えてなくて」声を振り絞るように渚は言った。「はああ? 僕だあ!? やめてくれよ! お前から僕なんて言葉を聞くと鳥肌が立ってくる!」祐樹は両肩を押さえて震えた。「ごめん……」「だ~から! そんな言葉遣いするんじゃねえ!」祐樹はドン! とテーブルを叩いた。「もう、この話し方が身について今更変えられないよ……」「あ~っ! もういい! 大体お前記憶が欠けてるんだもんな。仕方が無いか」祐樹はため息をついた。「あれ? そういやお前、あの事件がきっかけで仕事辞めたんだよな? それで部屋も引き払ったのか?」「う、うん。まあそんなところかな?」「じゃあ、今は何処に住んでるんだよ?」「知り合
Terakhir Diperbarui : 2025-05-03 Baca selengkapnya