Semua Bab 君が目覚めるまではそばにいさせて: Bab 31 - Bab 40

131 Bab

1-32 焦燥 3

「渡辺さん、さっき電話がかかってきてたみたいだけど何の電話だったの?」接客を終えた中島が渡辺に尋ねた。「山手総合病院の里中って人から千尋ちゃんのことを聞かれたの。お休みだから伝言があれば伝えますって言ったけど大丈夫ですって断ってきたけどね」「え? 里中さんからだったの? 青山さんが休みだってこと知らないから電話してきたのね。何か進展あったのかしら……?」「千尋ちゃん、ヤマトがいなくなってさぞ心配でしょうね」渡辺がぽつりと言った。「本当にね……」「あ、店長こちらにいたんですね」突然男性が顔を出してきた。新しく雇った店員で年齢は29歳。千尋のストーカー事件をきっかけに中島は男性を起用したのであった。「ここの納品書で確認したいことがあるのですが」「分かった、原君。すぐに行くから」「お願いします」原と呼ばれた男性は、すぐ店の奥に顔を引っ込めた。「原さんて中々働き者ですよね」渡辺が言う。「そりゃそうよ、私が面接して決めたんだから。さて、仕事に戻りますか」「そうですね 」その時、自動ドアが開いてチャイムが鳴り響く。「「いらっしゃいませ!」」中島と渡辺は声を同時に揃え、接客へと向かった——****一方、その頃里中はパトカーを降りて警察病院の前に立っていた。「長井……」「里中さん! お待ちしてました」警部補自ら里中を出迎えに病院から出て来た。 「いや~すみません。わざわざご足労頂いて」並んで歩きながら警部補が話しかけてきた。「いえ、それより長井の目が覚めたって電話で教えて貰いましたが、どうですか? アイツの様子は」「いや~それが実はですね……ちょっと色々ありまして……」言葉を濁す警部補。「どうかしたんですか? アイツ、千尋さんにストーカー行為をしていたことを認めたんですか? それに自分がもう歩けなくなったことは話してあるんですよね? アイツが自分の罪を認めて改めるなら、俺は長井を自分の患者として受け入れてリハビリの訓練をさせたいと思ってるんです」「……」警部補は里中の話を黙って聞いている。「どうしたんですか? 何かありましたか?」里中は警部補の様子がおかしいことに気が付いて声をかけた。「里中さん、いきなり長井に会うと驚かれるかもしれないので、事前に伝えておきます。実は、長井は……」ガシャーンッ!! その時
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-04-05
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1-33 それぞれの思い 1

 床には割れた花瓶の破片と花が散らばり、びしょ濡れに濡れている。ベッドの上には顔を真っ赤にして涙でぐしゃぐしゃになりながら泣きじゃくっている長井がいた。周りにいる警察官達は引っかかれでもしたのか顔や手首などに赤い筋があり、血が滲んでいる。「皆出て行ってよーっ! うわーん! ママーッ!! どこにいるのー!?」「な、長井? お前、一体どうしたんだ?」里中はゆっくりと長井に近づこうとすると、今までにない程の憎悪のこもった目で睨まれた。「誰だ! お前は! 僕の前から消え失せろっ!!」長井は手元にあった時計を里中に向けて投げつけた。咄嗟によけた時計は激しい音を立てて床に落ちる。「だ、駄目です里中さん! ここは一旦引きましょう!」呆然とする里中の腕を引っ張ると警部補は強引に部屋の外へ連れ出した――「すみません! 警部補! 自分の見込み違いでした!」里中に会わせてみたらどうかと提案した警察官が頭を下げた。「むう……。いや、気にするな。長井の今の状態は誰の手にも負えないだろう」警部補は腕組みしながら唸る。「どういうことなんですか? 長井に何があったんですか? 説明して下さいよ!」里中は警部補に問い詰めた。「実は医者の話によると長井は幼児退行を起こしてしまったらしいんです」「幼児退行?」「原因はまだ分かっていませんが、例えば強いストレスやショック等の様々な原因により発症すると言われている精神疾患です。長井の場合、歩道橋から落ちて頭部を強打したのが原因か、もしくはその前に何か強烈なショックを受けて、あのような状態になってしまったのか……。まともに事情徴収出来る状態じゃないんです。おまけに誰がしゃべったか分からないが、二度と歩けない身体になったと本人に告げたようだし。こちらとしては長井が元通りになってから話すつもりだったのに……」警部補は深いため息をついて、里中を見た。「あなたに会わせれば、長井が元に戻るかと思ったのですが、逆効果だったみたいですね。かえって興奮させてしまったようだ。先程医者に注意されましたよ。大事な手術が控えているのにこれ以上患者を混乱させるなって」「……」里中は黙って話を聞いている。「とりあえず、長井の両親とは連絡が取れましたよ。実家が北陸のようで明日にはこの病院に着くそうです。」「長井の両親には全て話したんですか?」
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-04-06
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1-34 それぞれの思い 2

 夜の帳が下りて来た。すっかり暗くなってしまった部屋で千尋は膝を抱えて座ってる。警察官が帰った後、千尋は必死でヤマトを探し回った。長井が倒れていたという歩道橋の下にも行ってみたし、初めてヤマトと会った場所もくまなく探した。そして保健所まで捜しに行ったが、結局ヤマトを見つけることは出来なかった。もしかすると自分が不在の時に家に帰ってきているのではないかと思い、急いで帰宅してみれば予想は見事に覆された。 目の前にはヤマトの餌と水が置かれている。「ヤマト……」千尋は今日1日一切食事をとっていなかった。祖父が亡くなってから1日たりとも側を離れなかったヤマトがいない。胸にぽっかり穴が空いてしまったかのようだ。好きな料理を作る気力も残っていなかった。「どこへ行ってしまったの? ヤマト……あなたまでいなくなったら私本当に独りぼっちだよ……」千尋は肩を震わせて泣き続け、やがて疲れ果ててそのまま眠りについてしまった。「う……ん……」眩しい朝日が千尋の顔に当たった。「え?」千尋は慌てて飛び起きると自分の今の状態をぼんやりと考えた。「確か、昨夜はヤマトが帰って来るのをこの部屋で待っていて……それでそのまま眠ってしまった……?」時計を見ると6時を指している。床で眠ってしまった為、身体中がズキズキと痛む。「……取り合えずシャワー浴びよう……」ノロノロと起き上がり、着替えを自分の部屋から取ってくると脱衣所で服を脱ぎ、熱いシャワーを浴びて着替えた。「食欲……無いな」昨日から何も口にしていないが、何かしら食べないと。そう思った千尋はバナナをカットしてガラス容器に入れると冷蔵庫から無糖のヨーグルトに蜂蜜をかけた。「いただきます」手を合わせ、ゆっくりと口に運ぶ。たった1人きりの食卓がこれ程寂しいものだとは思わなかった。「私って……こんなに寂しがりやだったんだ」千尋はポツリと呟いた。本来なら今日も仕事を休んでヤマトの行方を捜したかった。けれどもいつまでも店を休んで職場の皆に迷惑をかけるわけにはいかない。それに働いていれば寂しさも紛れる。「今日は出勤しよう」千尋は簡単な朝食を済ませ、片付けを終えると中島の携帯にメッセージを送った。『本日は出勤します。ご迷惑をおかけしてしまい、申し訳ございませんでした』(お弁当、作り損ねちゃったからコンビニに寄ってから出勤
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1-35 それぞれの思い 3

 パートの渡辺は本日休みの日になっていたので、千尋はその分も接客やら配達等で退勤時間まで一生懸命働いた。常連客は久々に見る千尋の姿に喜び、多めに商品を購入していく客もあった——**** 1日の業務が終わり、シャッターを閉めた後中島は千尋に尋ねた。「青山さん、今日はこの後どうするの?」「本当はすぐにでもヤマトを捜しに行きたいところですが、家に帰ってヤマトを待ちたいと思います。家に戻ってきた時私がいないとヤマトが寂しがるので」「そう……ねえ、青山さん。ビラを作ってみる気はない?」「ビラですか?」「うん、ビラ。ヤマトの写真入りのビラを作るのよ。この犬を探しています。お心当たりの方は連絡を下さいって。連絡先はフロリナ>にして。この店にもビラを貼ってあげるから」「いいんですか?」「勿論、だってヤマトはこの店のマスコット的存在だったんだから。他にも得意先のお店とかにお願いして貼らせてもらうのよ」千尋の表情がパアッと明るくなった。「店長、それすごく良いアイデアですね! 是非お願いします!」「任せて、知り合いの人でDTPデザイナーの人がいるからビラを作ってもらえないか頼んでみるね。それじゃ、帰りましょうか?」「はい!」 中島は千尋と別れた後里中に電話をかけた。何回かの呼び出し音の後、里中が電話に出た。『はい』「もしもし、中島です」『こんばんは。連絡くれたんですね。千尋さんの様子はどうですか? ヤマトは見つかったんですか?』「それがまだ見つからないのよ。でもヤマトを探すビラを私が知り合いに頼んで作って貰おうかと思ってその話をしてみたらすごく喜んでくれたの」『俺にもヤマトを探すの手伝わせて下さい』その話に中島は驚いた。「大丈夫なの? 長井の面会に行くんじゃなかったの?」『もう長井とは会いません』「どうして? 何があったの?」『あいつ……頭がおかしくなってしまったんです。もう俺が誰かも分からなくなっていました。それどころかすごく憎まれているようで警察からも長井とは今後会わないように言われました。俺がいると余計長井の具合が悪化するって』「そうだったの…」『時間が取れる限りヤマトを探す手伝いをしたいので、ビラが出来上がったら俺にも分けて下さい。お願いします』「本当にお願いして大丈夫?」『はい。うちの病院の患者さん達もヤマトに会いた
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2-1 止まった時間が動き出す

 12月に入り、世間はクリスマス一色に染まっていた。<フロリナ>でもクリスマス用にアレンジされた植木鉢や小ぶりなもみの木、ゴールドクレスト、リース等が店頭に並び、それらを買い求める客で店内は賑わいを見せ、千尋をはじめ店員たちは対応に追われていた。 ようやく客足が途絶えたのは13時を回っていた。「青山さん、原君、遅くなったけど昼休憩に入っていいわよ」「え? 俺も青山さんと同じ時間帯に昼休憩入っていいんですか?」原は首を傾げた。「大丈夫よ、気にしないで行ってきて」「良かった~腹が減ってどうしようもなかったんですよ。助かります!」言うが早いか、原はエプロンを外すとすぐに外へ食事をしに行ってしまった。「店長はどうするんですか?」千尋は尋ねた。「あ~私は昼休憩はいいわ、でも3時のおやつ休憩は多め長めに取らせてね」「分かりました。それじゃお昼行ってきます。休憩室にいるので何かあったら呼んでくださいね」「あら、いいってば。お昼休みはしっかり休んで。そうじゃないとブラック企業なんて世間で言われちゃうから」中島は冗談めかして言った。「はい、では遠慮なくお昼休憩取らせていただきます」クスリと笑うと千尋は休憩室へ入っていった。 休憩室は広さ6畳ほどの部屋で、木目調の丸い食卓テーブルセットと食器棚が置いてある。壁際にはソファベッドも置かれて居心地の良い空間になっている。電子レンジやポット、ガス台に流し台もあるのでちょっとした料理も出来るので非常に便利である。千尋はヤカンでお湯を沸かすと、食器棚からペーパーフィルターとドリッパー、それに昨日コーヒーショップで挽いてもらったコーヒーをセットしてお湯を注いだ。部屋中にコーヒーの良い香りがする。「そうだ! 店長にもコーヒー淹れて持って行ってあげよう」食器棚に置かれている中島のコーヒーボトルを取り出すと千尋は慎重にコーヒーを注いで蓋を閉めた。店の様子を覗いて見ると中島は丁度接客中だったので千尋は一度顔を引っ込めてメモを書いた。<コーヒーを淹れたのでお手すきの時にどうぞ  —青山>メモとコーヒーボトルを店内に置かれているデスクに置くと、休憩室に戻った。今日のランチは手作りのサンドイッチである。バゲットにレタスやハム、キュウリを挟んだもの、もう一つはスクランブルエッグを挟んだバゲットだった。「いただきます」
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2-2 止まった時間が動き出す 2

 この2か月の間に様々な事があった。千尋をストーカーしていた長井の元へ両親は事件後、警察に呼ばれて上京してきた。特に母親は変わり果てた息子を見て、その場で泣き崩れてしまったと言う。その後、息子の手術に必要な書類の同意書にサインをし、無事に手術が終了すると長井を車椅子に乗せて地元北陸へ戻って行った事を千尋は警察官から聞かされた。結局、長井は重度の精神疾患で責任能力が無い。と言うことで罪に問われることは無かった。警察の話によると、未だに長井は精神状態が回復することは無いばかりか、ますます意思疎通が出来なくなってきていると言う。しかも白い犬に対して異常なほどの恐怖心を抱いているらしい。(一体、ヤマトとあのストーカー男性との間でどんなことがあったんだろう……。あんな状態で無ければ人づてにヤマトのことを聞けるのに)時々、千尋は考える。あの時自分にもっと勇気があればヤマトがいなくなってしまう事態にならなかったのでは無いかと。「ヤマト……」千尋はポツリと呟いた——****「里中、クリスマスイブの日、何か用事あるか?」仕事が終わり、ロッカールームで着替えをしていると、後から入ってきた近藤に声をかけられた。「何すか? 先輩。別に用事なんか無いですけど。って言うかそれ分かってて聞いてますよね、絶対!」里中は仏頂面で言った。「いやあ~実はこの日、彼女とデートなんだ。悪いけど俺と遅番変わってくれないかと思って。お前、確かこの日は早番だったよな? やっぱりクリスマスイブって特別なものじゃん? 昨日奇跡的にお洒落なイタリアンの店の予約を取ることが出来たんだよ! この店、すごく人気あるんだ。彼女に予約取れたこと話したら大喜びしてたぜ。男なら彼女と二人でロマンチックなクリスマス祝いたいって誰だって思うだろう? な? 頼むよ」パンッと近藤は手を合わせ、里中を拝むような態度を見せた。「……じゃ、条件があります」「ん? 何だ? 条件って?」「明日の夜、俺に酒奢ってくれたら替わってあげますよ!」「な~んだ、そんなことか。いいって、いいって。俺とお前の仲だ。好きなだけ奢ってやるよ!」「いいんですか? 先輩そんなこと言って。俺、浴びるほど飲みますよ?」「おう! 望むところだ!」有頂天になってる近藤を尻目に里中は深いため息を吐いた。「あ~俺も彼女欲しい……」正直な
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2-3 止まった時間が動き出す 3

「うわあっ!?」突然現れた男に里中は驚きのあまり、締まりのない声をあげてしまった。「な、何だよ? いきなり突然現れて! お前、誰だ?」まだドキドキする胸を押さえながら里中は男に言った。「え……と、僕はここの病院の守衛をしている者です。あなたに謝りたいことがあって」「謝りたいこと?」里中は守衛の顔をまじまじと見た。そして……。「あ~! お前、一度だけ千尋さんのことについて俺に聞いてきたことがあった奴じゃないのか?」「はい、そうです……」男はうなだれている。「俺に声をかけてきたってことは何か話があるんだろう?」「……どうしてもあなたに謝っておきたい話があって」「謝りたい話?」「実は、長井さんに脅されて花屋の女性の情報を漏らしていたのは僕なんです」「何だって?」里中は守衛の男から突然長井の名前が飛び出してきた事に緊張が走った。「一体、どういう意味なんだ?」「実は僕、長井さんとは昔からの知り合いで……色々便宜を図ってくれてたんですよ。僕っていかにも駄目人間に見えるじゃないですか? と言っても中身も本当に駄目人間なんですけどね。この仕事を紹介してくれたのも長井さんのお陰なんです」里中は一言も聞き漏らすまいと耳を傾けている。「そんなある日、長井さんに言われたんです。病院に花を持って来てくれる女性は何処の誰なのか教えろと。ほら、業者の人達も守衛室で受付する為に名前を書くじゃないですか? それで僕に聞いてきたんです」里中は黙って聞いている。「そこで僕は彼女がいつここに来ているのか、どこから花を届けに来てくれているのか調べて長井さんに報告していたんです」「……俺の事を長井にしゃべったのもお前の仕業なのか?」「い、いえ! それは絶対に違います! あなたのことは偶然駐車場にいる花屋の女性と会ってるのを長井さんが見つけて、嫉妬にかられたんだと思います。今まであんな恐ろしい目をした長井さんは見たことがありませんでした」「そうか、やっぱりあの視線は長井だったのか。でもどうして今頃になってそんな話を俺にしたんだ?」「僕、今月いっぱいで仕事を辞めることにしたんです。実は長井さんの件で警察の人が何度もやってきて職場の人達にも長井さんが犯罪者で、僕は長井さんの紹介で働いていることも知られてしまったんです」「……自分の意志で仕事辞めるのか?」里中
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2-4 戸惑い 1

――翌朝7時 いつものように千尋は台所に立ち、お弁当の準備をしている。今日は遅番の日なので、普段よりは朝が遅めである。冷凍焼きおにぎりをレンジで解凍し、アスパラと人参を茹でてる間に卵を手早く溶き、水・めんつゆ・だしを加えてフライパンで器用にだし巻き卵を作り、皿に移す。それらを冷ましている間に朝食を食べる事にした。 最近千尋の朝は和食からパンに切り替わっていた。新しく商店街にコーヒーショップがオープンし、そこで挽いてもらったコーヒーを毎朝ドリップして飲むのが習慣となっていた。その為に朝食は自然とパンを食べるようになったのである。千尋が特に好きなコーヒーはコロンビア。甘い香りとコクが特に気に入っている。トーストにサラダ・コーヒーと簡単な朝食を食べ終わると、お弁当を詰めた。 「さて、そろそろ行こうかな」千尋は時計を見ると立ち上がった。戸締りを確認し、玄関のカギを閉めると千尋は出勤した。 千尋が去った後をじっと見つめている人物がいた。昨夜千尋の家を見つめていた青年だ。「……ごめん、千尋」青年は呟くと、千尋の家の門を開けて中へと入った——****「それじゃ、配達行ってきますねー」荷物を抱えた千尋が中島に声をかけた。「はい、気を付けて行ってきてね」中島に見送られ、千尋は軽トラックに乗ると出発した。今日は千尋の外回りの日である。届け先は全部で10か所。12月にもなると注文が増えて件数が多いので時間が結構かかってしまう。その為、今日はお弁当持参で外回りをすることになった。「え……と、最初のお客様は……」千尋はお届け先住所をナビに打ち込んだ。「よし、それじゃ行こう」ルートが設定すると千尋はアクセルを踏んで車を走らせた——**** 千尋が全ての配達を終えて店に戻ってきたのは16時を過ぎていた。「ただいま戻りました」「お疲れ様、千尋ちゃん」出迎えてくれたのは花の手入れをしていた渡辺だった。 「お店、混みませんでしたか?」「うん、忙しかったけど大丈夫だったわよ。店長も原君もいたしね。それよりも、千尋ちゃんがいない時に男の人が訪ねてきたわよ」「男の人? 私にですか?」そこへ接客を終えて中島がやってきた。「すっごく格好いい若い男性だったわよ~。いつの間に彼氏なんて作ってたの?」「え? ちょっ、ちょっと待って下さい。私彼氏なんていませ
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2-5 戸惑い 2

17時半—― 里中は近藤と居酒屋に来ていた。「ほら、お前との約束通り今夜は俺が奢ってやるから好きなだけ飲め!」近藤は機嫌良さそうに言った。「それじゃ、俺遠慮なく飲ませてもらいますからね。あ、つまみも勿論先輩が奢ってくれるんですよね?」「ああ、いいぞ。遠慮するな」「はい、それじゃ……」里中はメニューにざっと目を通すと手を挙げて大きな声で店員を呼んだ。「すみませーん!! 注文いいですか?」「はい、お待たせしました」学生バイトと思わしき男性がオーダーを取るハンディーを持ってテーブルにやってきた。「え~と……まずはジョッキで生ビール。あと鶏のから揚げと揚げ出し豆腐に枝豆。揚げ餃子にジャガバター、焼きおにぎりをお願いします」オーダーを受けた店員が去った後、近藤がきた。きた。「おい……お前そんなに頼んで食べきれるのか?」「食べれなきゃ注文なんてしませんよ」「いや、それにしても……そんな身体の何処にあれだけの量が食えるんだ?」里中は細身の体で、ジム通いしているので引き締まった身体をしている。「好きなだけ注文していいって言ったのは先輩じゃないですか」「いや、確かにそうなんだけどさあ……」「先輩は何も食べないんですか?」「え!? お前、あれ一人で食う気だったのかよ? てっきり俺とお前の2人分だと思っていたぞ?」「俺はそれでも構わないですけど? でも先輩、俺が頼んだメニューでもいいんですか?」「ああ、俺は好き嫌い無いからな。でも酒は注文するぞ」そして手を上げると近藤は店員を呼んだ。「生ビールグラスで」店員が去ると、里中は尋ねた。「……先輩」「うん?」「もしかして、アルコール苦手ですか?」「ハッハッハッ……何を言い出すんだ? 俺はアルコールは得意だ!」それから約1時間後—―「確かに俺の彼女は可愛くていい子なんだけどさ~。ちょっとだけ贅沢な所があるんだよ。デートの時お金出すのはいっつも俺だし……まあ、それはアレだな。男の方が金を出すのは当然かな? とは思ってるよ。でも毎回高級な店で食事したがるのはどうかと思わないか? ……あ、彼女のいないお前に聞いても分からないか……」たった1杯の生ビールで近藤はすっかり酔っぱらってしまい、顔を赤くしてブツブツと愚痴ばかり言っている。「からみ酒かよ……。あーもう面倒だなあ。確かに今の俺に
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2-6 戸惑い 3

「あの……」千尋が近づいて声をかけると青年は弾かれたように振り返り、目を大きく見開いた。自分を見た時の男の表情の変化に気付きながらも千尋は話しかけた。「ひょっとしてこのお店で働く原さんのお友達ですか? もうすぐ原さん、出てくると思いますけど、呼んできましょうか?」青年は黙って千尋を見つめていたが、やがて徐々にその顔には笑みが浮かんできた。「あの、どうされましたか?」「会えた……」青年の口が開いた。「え?」「やっと、君に会うことができた。……千尋」まるで子供のように、ニッコリ笑う。「どう……して私の名前を知ってるんですか?」「僕の名前は渚……間宮渚」「間宮……渚……?」千尋は名前を口にして渚の顔を見上げた——****「ほら! 先輩、しっかり歩いてくださいよ!」里中はすっかり酔い潰れてしまった近藤に肩を貸して夜の街を歩いていた。「う~ん……もう飲めない……」むにゃむにゃと呟き、殆ど眠っている状態の成人男性に肩を貸すのは容易ではない。「全く! たかだかあの程度の酒で酔うなんて信じられないぜ」ぶちぶちと文句を言う里中。結局あの後ビールで気分が良くなったのか、里中が止めるのも聞かずに近藤は日本酒やらハイボール等を飲んでしまい、完全に潰れてしまったのである。そこで里中は悪いとは思ったが近藤の上着をあさり、財布を見つけると会計をしてしまった。「勝手に支払いしてすみません」里中はレシートの裏にメモを書くと近藤の財布に戻し、カウンターで酔いつぶれている近藤の肩を揺さぶった。「ほら、先輩。帰りますよ」「んあ?」近藤は頭を上げた。「しっかりして下さい、帰りますよ。ほら、立てますか?」近藤の腕を掴んで立ち上がらせた。「うん、うん。俺は大丈夫だ。1人でお家に帰れるのだー!」店内に酔っぱらった近藤の声が響き渡る。一緒にいる里中は恥ずかしくてたまったものではない。「分かりましたから、そんな大声で喚かないで下さい。ちゃんと聞いてますから」「うん、うん、さすが俺の後輩。聞き訳がよろしくて結構である!」赤ら顔でうなずく近藤を見て、4里中はもう二度とこの男とは一緒に酒を飲むのはやめようと心に決めたのであった。 近藤の肩を貸して歩きながら居酒屋での恥ずかしい顛末を思い出し、里中は頭を振り、記憶から追い払おうとした。「俺1人じゃ先輩
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