All Chapters of クズ男が本命の誕生日を盛大に祝ったが、骨壷を抱えた私はすべてをぶち壊した: Chapter 101 - Chapter 110

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第101話

しかし、これまで深雪はこのような場に出席したことがなかったため、誰一人として彼女のことを知っている者はいなかった。深雪はむしろ堂々としたもので、名前を書いた後はその場にいる顔なじみに向かって挨拶を始めた。「直美さん、秀子さん、私、深雪ですよ」深雪はにこやかに歩み寄り、直美に軽く微笑んだ。「この前、お誕生日のとき、私がスイーツを手作りしたんですよ。どうでしたか?」もちろん直美は彼女を覚えていた。ただ、目の前のこの輝くような女性が深雪だとは本当に気づかなかったのだ。三か月前、直美の誕生日会で、深雪は喜び勇んで出席したものの、丸一日厨房に押し込められ、スイーツを作らされ食事の席につくことすら許されなかった。その間芽衣はまるで花のように静雄の傍らに寄り添い、注目を一身に集めていた。宴が終わってからようやく直美は知ったのだ。厨房にいたのが松原家の奥様で、静雄の隣にいたのは愛人だった。この件について、直美はずっと申し訳なく思っていた。ただ、なかなか埋め合わせの機会がなかったのだが、今日は絶好の機会だった。彼女はすぐに深雪の手を取って、笑顔で言った。「松原家の奥様だったね。知らないはずないじゃない。さあさあ、皆さんに紹介するわ。この方は松原商事社長の奥様、深雪さんよ。皆さん、よろしくね」直美は深雪の手を取り、まるで実の姉妹のように親しげだった。深雪は事前に調べており、今回の宴会が直美の主催であることを知っていた。だからこそ、彼女の助けがあれば、自分が気まずい立場に追い込まれることはないと確信していた。「ところで、ご主人は?」直美がそう言って深雪の背後を覗くと、次の瞬間その笑顔がぴたりと固まった。まさか、このような場で静雄が空気を読まずに愛人を連れてくるとは思ってもみなかったのだ。直美は名門の娘であり、静雄を恐れる必要はない。今日の宴会は彼女が精魂込めて準備したものであり、そんな場に汚れた存在を入れるわけにはいかなかった。彼女は深雪の手を引き、大股で静雄のもとへ行き、眉をひそめて問い詰めた。「松原さん、これはどういうこと?こんな正式な場に、愛人を連れてきてどうするつもり?」「直美さん、何をおっしゃるんですか?」芽衣の目から、ぽろぽろと涙がこぼれた。「私愛人なんかじゃありません」「ご主人に奥さんも
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第102話

本来なら、この件はここで終わっていたはずだった。深雪は多少なりとも屈辱を味わったが、別に恥をかくほどのことではなかった。ところが、芽衣はどこでも芝居を打つ性分で、すぐに深雪の前に立ちはだかった。「深雪さん、ごめんなさい。わざとついて来たわけじゃないんです。ただ、私うつ病が再発して気分が落ち込んでいて......静雄さんも私が可哀想だから連れて来てくれただけなんです。どうか彼を責めないでください。それに、あなたたちもう離婚手続きに入っているじゃないですか。私と松原さん、私たち......」深雪は元々、突っ込む理由がなかったのだが、まさかこの女が本当にここまで頭が回らないとは思ってもみなかった。その含みのある言葉に、思わず笑い声を漏らした。「芽衣さん、ニュースを見なかったの?」「ニュース?」芽衣はずっとベッドに縛り付けられていたため、外の情報などまったく知らなかった。深雪は親切そうに自分のスマホを取り出し、今朝の記者会見の映像や、切り取り動画を探し出して見せた。彼女は余裕たっぷりに、芽衣の顔色がみるみる灰色に変わっていくのを眺めた。芽衣は深雪のスマホを握りしめ、目を見開き、怒りに震えた。馬鹿な彼女にも、今日自分が罠にはめられたことはすぐにわかった。「静雄さん、ごめんなさい......私知らなかった、本当に......」「芽衣を先に送ってくれ」静雄は手を引き抜き、芽衣に一瞥もくれなかった。彼は常に冷静な男であり、この状況で最も正しい選択を理解していた。芽衣は、まさか静雄が大勢の前で自分を置き去りにするとは夢にも思わなかった。前代未聞のことだったが、彼女は愚かではない。この場で騒ぎ立てるような真似はせず、必死に涙をこらえて出口へ向かった。しかし数歩進んだところで、突然その場に崩れ落ち意識を失った。大介は彼女を抱き上げると、百メートル走の勢いで会場を後にした。この騒ぎで、場にいた全員の視線が集まった。静雄にとって、これほどの大恥はなかった。しかも今日は深雪のせいではなく、自分の判断の悪さによるものだった。深雪は芽衣が運び出されるのを見届け、ため息をつきながら少し困ったように言った。「......彼女のうつ病、悪化しないといいけど。やっぱり見に行ったほうがいいんじゃない?」「何がうつ病だ
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第103話

今日の結果はすべて自分のせいとはいえ、静雄は自分がここまで恥をかいたのは、芽衣と無関係ではないと感じていた。だが、確信を得ることはできない。まして、芽衣の瞳をのぞき込んでも、そこに一片の計算すら見えず、奥歯を噛みしめてこの屈辱をすべて飲み込むしかなかった。静雄は直美に向かって、何事もなかったかのように笑みを浮かべた。「うちの妹が世間知らずで、お見苦しいところをお見せしました」「家の中で世間知らずなのは構わないけど、外には連れて来ない方がいいわね。ここにいる人たちは皆、顔の利く人ばかりなんだから」直美はそう一言を言うと、そのままくるりと背を向けて立ち去った。結局は他人の家庭のことであり、心の中で何を思おうと口に出し過ぎるのは得策ではない。夫婦の関係に影響を与えるのも避けたい。名家で大切なのは利益である。彼女たちは深雪を気の毒に思い同情もするが、それが自分たちの利益を揺るがすことは決してない。一方その頃、延浩はすでに超日グループの社長渡部健次郎と会っており、二人は和やかに談笑していた。延浩はその高い技術力と華麗なキャリアを武器に、新メディア開発の受注をあっさりと獲得した。これは業界でも初の快挙と言える。控室を出た延浩は、ちょうど人々が集まって静雄の噂話をしているのを耳にした。耳障りな言葉が飛び交っており、深雪の方はうまくやっていると察した。赤ワインのグラスを手に、会場を見回すと、隅の方に一人で座っている深雪を見つけた。彼女の容姿は群を抜いており、人目のない片隅にいても、その華やかさは隠しようがなかった。すでに何組かの年配の男性が彼女に声をかけていた。さきほどの静雄の態度は皆が見ており、彼がこの正妻をまったく大事にしていないことは明らかだった。それならばと、彼らはこの機会を逃すまいと近づいてくる。「奥様、一杯ご一緒しませんか?」白髪の紳士が近づき、温和で礼儀正しい笑みを浮かべた。だが、その瞳に宿る貪欲は隠しきれない。深雪は相手の意図を瞬時に見抜いたが、慌てることなく礼儀正しく微笑んで首を振った。「申し訳ありません、お酒はあまり得意ではなくて」「お酒なんて慣れればいいんですよ。俺に恥をかかせるつもりですか?」男は不満げに鼻を鳴らした。「ご存じですか?松原商事の衣料部門の原材料の八割は
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第104話

「これは名刺です。もし本当に行く当てがなくなったら、うちで面倒を見てもいいですよ」その人は、遠慮もなく深雪の手に名刺を押し込んだ。この行為は、明らかに無礼であり、冒涜的ですらあった。本来、この男ほどの地位と教養を持つ人間がすることではないし、まして深雪は自分の名義でこの宴に出席しているわけではない。今の彼女は静雄の妻、松原家の正妻という肩書きを持っているのだ。つまり、この人の振る舞いは深雪への侮辱ではなく、静雄への侮辱であり、さらには松原商事全体への侮辱でもあった。もしここで深雪が黙って屈すれば、松原商事は今後ずっと顔を上げられないだろう。会場にいる者たちは皆、場慣れした強者ばかりで、深雪に色目を使っている者も少なくない。この人は単なる先陣を切った捨て駒であり、皆が注目しているのはこの状況で深雪がどう動くかということだった。深雪は表情を一切変えず、柔らかな笑みを浮かべながら名刺を受け取り、ひと目見て言った。「西条紡織様?そうですか。弊社は今後、御社とは一切お取引しないことになりそうですね。今期の契約が終わったら、次はありませんよ。私の言葉が本当かどうか試してみてもいいですよ」そう言うと、深雪は本当に名刺をきちんとしまい込んだ。西条進次郎は、メンツを潰される覚悟はしていたが、まさかここまで真っ向からやられるとは思ってもみなかった。大勢の前で取引中止などと言い渡されて、彼は顔色を変え怒りにまかせて鼻を鳴らした。「ふんっ、お前ごときが何様だ?松原商事が本当にお前の家だとでも思ってるのか?」「とおっしゃるのは、松原商事が西条社長のものなんですか?それとも、西条社長も芽衣さんと同じで、私の夫と交際してるんですか?」深雪の顔には、純粋な疑問がそのまま浮かんでいた。その瞬間、延浩がこらえきれずに吹き出した。緊張していた場が、彼の笑い声で一気に注目を集めた。「......あれ、江口家の留学帰りの坊ちゃんじゃないか?」「帰国しても家業に戻らず、自分で起業したって聞いたぞ」周囲がひそひそと噂を交わす中、進次郎は話を逸らすため、延浩を睨みつけた。「何がおかしい?」「何を笑おうが勝手だろ。それに、いい歳して少しは落ち着けないのか?若い子を見りゃすぐ手を出すなんて、悪い癖だな」そう言って、
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第105話

「俺みたいな人間を舐めんな?」「それより君、この数日会わない間に......実力がまた上がったんじゃないか?」延浩は、きらきらと輝く深雪を見つめ、胸の奥に温かな感情が湧き上がった。これこそが、自分の知っている深雪だ。輝く存在であるべきなのだ。延浩の視線に気づき、深雪はふっと笑った。「そっちは、うまくいったの?」「君の助けがあったからもちろん順調だよ」延浩は正直にそう答えた。もし深雪が時間稼ぎの妙案を思いついてくれなければ、今回の契約はこんなにスムーズには進まなかったはずだ。だが、その言葉を聞いた深雪はすぐに距離を取るように言った。「私は何もしてないわ。あなたに実力があるからこそよ。私には関係ないわ」そう言いながら、深雪は声を上げて笑った。ちょうどその時、宴会場に音楽が流れ始めた。延浩が手を差し出した。「一曲、付き合ってくれる?」「もちろん」深雪は少しもためらわず、その手を取って、二人は舞踏会の中央で回転し始めた。一方その頃。静雄は健次郎とじっくり協議を進めるつもりで万全の準備をしていたが、まさかの門前払いを食らった。「松原社長、申し訳ありませんが、今回の商談はすでに終了しております。最高のパートナーとの契約が決まりましたので、ご参加ありがとうございました」外で応対するのは助手だったが、その口調は落ち着いており、へりくだる様子はない。松原商事はH市では顔が利くが、超日グループは京市の大企業で、地盤も資本力も桁違いのだ。地方の企業など比べ物にならず、彼らに逆らえる立場ではない。助手一人でも、静雄を簡単にあしらえるのだ。「失礼ですが、最終的にどちらの会社を選ばれたのですか?」静雄は厚かましくも食い下がらなかった。しかし、相手は鼻で笑い、淡々と告げた。「申し訳ありませんが、それについてはお話致しません。どうぞお引き取りください」言うやいなや、ドアを閉めてしまい、一切の余地を与えなかった。すでに今日は多くの屈辱を味わった静雄だったが、この仕打ちで怒りは頂点に達した。金縁眼鏡の奥の瞳には、抑えきれない炎が燃え盛っている。それでも彼は、生まれつき体面を重んじる人間だ。怒りで我を忘れても、この場で感情を爆発させることはなかった。ただ、ネクタイを引き
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第106話

「深雪こそが俺の妻だ。だから失礼じゃないのか!」静雄は冷たい顔で鼻を鳴らした。延浩は腹も立てず、肩をすくめてにこやかに言った。「それはご縁ですね。彼女は僕の後輩で、結婚していないと思っていたので、顔を立ててダンスに誘ったんです。松原社長が来られたなら、僕はこれで役目を終えますよ」欲しいものはすでに手に入れている彼にとって、この場で静雄と衝突する理由はなかった。ましてや、こんな場で取り乱すべきではない。周囲の人々は静雄を指さしてひそひそと囁いた。言葉には出さずともその仕草や表情と視線が、すでに彼を恥の晒し者にしていた。静雄はその悪意をひしひしと感じ、怒りをすべて深雪にぶつけた。「君は恥を知らないのか!」「ごめんなさい」深雪は目を伏せ、しおらしく謝った。静雄の渾身の一撃は、まるで綿に吸い込まれたかのように空を切った。彼は信じられない思いで妻を見つめて気づいた。この女は、無害そうなペットなどではなく、主人に牙を剥く、棘だらけの薔薇なのだ。周囲の視線がさらに強まるのを感じ、静雄は冷静さを取り戻した。今夜これ以上恥を重ねるわけにはいかない。奥歯を噛みしめ、深雪の手を掴んで自分の控室へと引きずっていく。ドアを蹴飛ばすように開け、力任せに深雪をソファへ投げつけると、そのまま覆いかぶさり、薄手のドレスを引き裂き始めた。この人、狂ってる?深雪の最初の感想はそれだった。まさか静雄が、刺激を受けて狂って、こんな場所でこんなことをしようとするなんて。我に返った彼女は必死で暴れた。「何するの!あんた狂ったの?」「狂ってるのはお前だろ!」三年前、泣きついて俺に抱いてくれと頼んだのを忘れたのか?今さら恥ずかしがるなんて何様だ!お前みたいな女は家で子どもを産んでりゃいいんだ。外に連れ出したら、すぐに羽目を外すんだ!」そう吐き捨てながら、静雄は深雪の下着にも手をかけた。本当に頭がおかしい。ここで濡れ場を演じるつもりなど毛頭ない深雪は、咄嗟にテーブルの花瓶を掴むと、そのまま静雄の額めがけて叩きつけた。一切手加減はしなかった。額から鮮血が噴き出し、静雄は頭を押さえて愕然と彼女を見つめたが、すぐに怒りに染まった。「俺を殴ったな!これこそお前の狙いなんだろ!」一発じゃ足りない!
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第107話

静雄は口を閉ざしたままだったが、その目と表情が気持ちを物語っていた。その気持ちこそが、深雪には吐き気を催すほど不快だった。彼女は静雄を力いっぱい突き飛ばし、冷たく鼻を鳴らして、大股で部屋を出た。今夜欲しいものはすでに手に入れた。これ以上、この場で誰かと取り繕う気もない。ましてやこんな不快な男と一緒にいる必要などない。ここまで騒ぎになった今、深雪が会場を去るのは自然な流れだった。彼女はそのまま会場を後にした。一方、入り口に立つ大介は、静雄を見て少し複雑な表情を浮かべ、恐る恐る口を開いた。「社長、病院に行かれた方がいいと思いますが......」「......ああ」額の傷からはまだ血が滲んでおり、病院に行くべきだった。車に乗ると、大介は進次郎の件を報告し始めた。言葉は慎重で、できる限り中立かつ客観的な立場を装っていた。だが、今の静雄は不機嫌の極みで、その話を聞くや否や、大きく手を振って言い放った。「注文は取り消せ!」その一言に、大介は内心ほっと息をついた。気が立って深雪に意地を張るのではと危惧していたが、幸い冷静さは失っていない。誰が味方で誰が家族かということは分かっている。深雪は本来、タクシーで帰るつもりだった。だが、会場を出てみると、そこは山の上で、タクシーを拾えるのは数キロ下ったふもとだった。足元を見下ろし、思わず苦笑した。この靴で歩き続ければ、命がけになるのは目に見えていた。その時、延浩の車が近づき、彼は窓を下ろして笑いかけた。「送っていくか?」ふざけた調子の彼に、深雪は少し肩の力が抜け、そのまま助手席に乗り込んだ。すると延浩が、一足サンダルを差し出した。「ハイヒールは見栄えはいいけど、足には辛い。これに履き替えた方が楽だよ」用意の良さに、深雪は胸の奥が温かくなり、微笑んだ。「もしかして、最初から用意してたの?」「車に置いてあるんだ。君が不便そうな時のために」延浩は淡々とそう言った。彼は一度、彼女を取り戻すと決めた瞬間から、この習慣を持つようになっていた。全力で愛し、温もりを与え、守る覚悟をしていた。もちろん、深雪もその意味を理解していた。だがあまりに含みがありすぎて、返事をするのが怖くなり、あえてとぼけたふりをした。「ありがとう」深
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第108話

「どこなの?」深雪は目の前に広がる見知らぬ別荘を見て、わずかに眉をひそめ少し戸惑った。こんな夜中に男女が二人きりでいるところを、もし誰かに撮られたらと不安に思った。「忘れたか?俺はIT業界の人間だよ。安心して、ここで写真を撮られるようなことはない」延浩は、彼女が何を心配しているのかすぐに見抜いた。「静雄との関係が今かなり悪いことは分かってる。だから、帰って顔を合わせたくないんだろ?」「......うん。ありがとう」深雪は少し考えたが、自分が言えるのはやはり「ありがとう」くらいしかなかった。少し気恥ずかしそうに延浩を見て、小声で言った。「私、いつもあなたに『ありがとう』ばかり言ってる気がする。本当にごめんなさい」「謝る必要も、感謝する必要もないよ。俺は大人だ。自分の行動には責任が持てる」延浩は笑い、家に入るとすぐに毛布を取り出して深雪に渡した。今日の彼女は華やかな装いだったが、その分肌の露出も目立った。毛布にくるまれば、互いにもう少し落ち着いて話せるだろう。「あなたのプロジェクトはどうなったの?」「もう手に入れた。これで松原商事は大きな損失だ」延浩は正直に答えた。彼らは専門分野であるテクノロジーで勝負しているが、松原商事がテクノロジーに手を出したのは、単に業態転換を狙ったのだ。超日グループの今回の案件は、その転換の成否を握る重要プロジェクト。だが、それを横取りされた静雄は、これから長い間、不快な日々を送ることになるだろう。それを聞いた深雪は、ほっと息をつき、笑みを浮かべた。「それは良かったわ。古い取引先に頼って、どこまで持つか見ものね。しかもその古い取引先の半分以上は私のものなんだから!」「ちなみに、これからどうするつもりだ?」「松原商事で働くわ。そうすれば中枢の資料にアクセスできるし、あいつの犯罪の証拠が見つけられる」深雪は率直に言った。彼女が欲しいのは、静雄の涙や謝罪ではない。彼女が望むのは、彼を刑務所に入れることだ。それこそが、彼女の鬱憤を晴らす唯一の方法だった。彼女の目標がはっきりしているのを見て、延浩は笑って言った。「そういうことなら安心だ。俺も協力するよ」「ありがとう」深雪はまた「ありがとう」と言った。「もう感謝なんて言わなくていい。本当
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第109話

生き生きとした表情の深雪を見て、延浩は一瞬でその姿に引き込まれた。彼は、本当に久しくこんな深雪を見ていなかった。パソコンの画面を見つめるその瞳には、勝利を確信する光が宿っている。こんな深雪を見たのは大学時代以来だった。この数年間の結婚生活は、彼女の輝きを根こそぎ奪い去ってしまっていたのだ。そう思った瞬間、延浩は腹の底から怒りがこみ上げ、眉をぎゅっと寄せ、心の中で静雄を何度も罵った。しばらく見守っていたが、深雪はふいに口を開いた。「......そろそろ帰るわ」「帰る?どこに?」「松原家の別荘へ」深雪はUSBを片付け、挑むような眼差しで延浩を見た。「私はこういう人間よ。目的を達成するため、手段は選ばないの」ここまで追い詰められなければ、自分にそんな一面があることすら知らなかった。今では、なぜあの頃あんなに遠慮していたのかと後悔すら覚えた。もしもっと早く力を出し、手を打っていればあの子は死なずに済んだかもしれない。寧々は今も笑顔で生きていたかもしれない。寧々のことを思うと、深雪の胸は再び激しい痛みに襲われた。「正当な手段で、自分の正当な権利を守る。それは誰だってやるべきことだろ?」延浩はそう言いながら近づき、大学時代と同じように彼女の頭をそっと撫でた。口元に柔らかな笑みを浮かべ、心を和ませる言葉をかけた。ライトに照らされたその横顔に、深雪は一瞬二人が若かった頃へ戻ったのような錯覚を覚えた。そっと手を伸ばし、彼の頬に触れた。しかし、こらえきれず、その手を引き戻し、何も言わずに彼の横を通り過ぎて出口へと向かった。その背中を見送りながら、延浩は彼女が触れた頬に手を当て、密かに喜びを噛みしめた。深雪は今夜もまた、空虚な部屋でひとり過ごすことになると思っていた。しかし、松原家の別荘に戻るとそこには静雄がいた。彼はラフな部屋着姿で、険しい表情を浮かべて座っていた。深雪がドアを開けると、彼は歯ぎしりするような声を上げた。「もう午前1時だ。帰ってくる気があったのか?」お前は妻としてどうあるべきか分かってるのか!」静雄はテーブルをコツコツと叩き、不満を露わにした。その様子が、深雪には滑稽でしかなかった。結婚してからの彼女はずっと家にいて、何も考えず満足される妻であ
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第110話

「そんな駆け引きをして、俺が惚れるとでも思ってるのか?」静雄は鋭い目を光らせ、深雪の首を力強く締め上げた。こんなふうに感情を露わにする静雄を見るのは、深雪にとって初めてだった。これまでは、いつも熱のない態度で感情などまったく見せなかったが、それは情緒が安定しているのではなく、単に彼女を眼中に入れていなかっただけだ。その静雄がこうして激昂している様子は、深雪にとってやはり滑稽でしかなかった。彼女は首を掴まれても怯むことなく、逆にその手をがっしりと掴んだ。「静雄、知ってる?いっそあんたが私を殺してくれたらいいって。死ねば、もう苦しまなくて済むから」「お前......」静雄は信じられないという表情で、間近の彼女を見つめた。先ほど宴会で彼女は大きな注目を集めたが、こうして至近で見ると、さらに美しく見える。こんな美しさに、なぜ今まで気づかなかったのか。そして、ゆっくりと顔を近づけ、一晩中思い描いていた唇に口づけた。その瞬間、相手の体の反応を感じ取った深雪は、発狂するように激しく抵抗し、思い切り平手打ちを食らわせた。「このクズ!何をするつもりなの!」まさか拒絶されるとは思ってもいなかった静雄は、しかもこんな形で拒絶され、呆然とした。「お前、何のつもりだ!」「何のつもりって、狂ってるのはあんたでしょ!何を考えてるの!」深雪は反射的に胸元を押さえ、静雄を鋭く睨みつけた。その警戒と拒絶の態度に、静雄の中で怒りが燃え上がった。「俺を避けてるのか?なぜだ?」お前は俺の妻だ。これは俺の権利だ!」奥歯を噛み締めながら、静雄こう冷たく吐き捨てた。深雪には、それが滑稽でならなかった。この結婚を軽んじ、外で好き勝手してきたのは静雄のほうじゃないか。それなのに、今になってこの関係を盾に縛ろうとする。要するに、この関係は彼にとってどうでもよく、ただ都合のいい時だけ使う道具でしかなかった。最初から最後まで、この関係で縛られてきたのは彼女だけだったのだ。深雪の顔はますます冷えきった。「そんなことして、芽衣が悲しむんじゃない?あんた、彼女のために貞操を守ってるんじゃなかったの?」「お前!これは、お前が自分で招いたことだぞ!」静雄の衝動は一瞬で冷め、奥歯を噛み締めて深雪を睨みつけた。もは
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