「鈴木先生はもちろん専門家よ!」芽衣の声が一気に強まった。かすかな焦りと苛立ちが混ざっていた。「静雄、変なこと考えないで。鈴木先生は、私の知り合いの紹介なの。精神疾患の治療で評判の先生だって言うから、あなたのためにお願いしたのよ。どうしてそんなふうに人を疑うの?」「俺のために?」静雄はその言葉をゆっくりと繰り返した。声は冷えきっていた。「それともお前自身のためか?」「静雄!」芽衣の声がついに鋭く跳ねた。「どうしてそんなこと言うの!?私があなたにどれだけ尽くしてきたか、わかってるでしょ?私はずっとあなたのそばにいて、支えてきたのに......体調が少し良くなったからって、今度は私を疑うわけ?そんなのひどい......」声が震え、泣き声に変わった。もし以前の静雄なら、その一言で全てを許しただろう。芽衣が泣いているだけで、どんな怒りも消えた。だが今の彼の胸の奥には、同情よりも冷たい空洞が広がっていた。「芽衣、責めたいわけじゃない。ただ、真実を知りたいだけだ」静雄の声は落ち着いていたが、どこか底知れない冷たさがあった。「本当に俺のことを思ってくれているなら、薬の成分と医師の情報を教えてくれ。それだけで安心できる」沈黙。電話の向こうからは、芽衣の呼吸音だけが微かに聞こえた。その沈黙が、何より雄弁だった。静雄の胸の奥が、ずしりと沈んでいく。もうわかってしまった。「......静雄、もう私を信じていないの?」芽衣の声がか細く震えながら戻ってきた。悲しみと絶望が滲んでいる。静雄は短く息を吐いた。「信じたい。だから信じる理由をくれ」言葉は鋭く、容赦がなかった。「......そう。わかったわ」芽衣の声が途切れ途切れになった。「もういいのね。私がどれだけ言っても無駄なんでしょ......だったらもう、いい」通話が途切れた。静雄はしばらく、その音を聞き続けた。やがて、スマホをゆっくり机の上に置いた。広いオフィスに、ただ時計の音だけが響いている。芽衣。お前は俺が暗闇の中で唯一、信じられる存在だった。それが......最初から、幻だったのか?胸の奥から疲労感がこみ上げてきた。静雄は椅子にもたれ、天井を仰いだ。だが、もう迷いはなか
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