All Chapters of 夏目さん、死なないで！ 社長のアプローチが始まった！: Chapter 331 - Chapter 340

使用人はすぐにブローチを恵子の手に渡した。恵子の真剣な表情を見て、一同は息を飲んだ。「凛......」恵子は興奮を抑えきれない様子で、震える手でブローチを握りしめ、「このブローチは、Y国のロイヤルファミリーの王妃の物なのかしら？」と尋ねた。「はい」凛は頷き、「昨年、王妃一家のご家族写真の撮影をさせていただきました。王妃は私の作品をとても気に入って、報酬とは別に、このブローチをくれました」と答えた。「このブローチは、本当に高貴な方しかお似合いにならないと思い、ずっと大切に保管していました。今日、恵子さんに贈ることができて、光栄です。ただ......」凛は泉を一瞥し、「泉さんは、こ

マイバッハの車内、助手席に座る翠は、悠斗の興奮した大声が聞こえていた。翠は聖天のスマホに向かって、「悠斗は私のことをすっかり忘れたかと思っていたよ。電話でずっと話しているのに、私に一言も声をかけないなんて」と返した。彼らは幼馴染みで、翠はどちらかと言うと男の子っぽく、いつも彼らの後ろをついて回っていた。後に、加賀家の大人たちはそんな翠を見かねて、相談の末、彼女を海外留学させた。そこで翠は徐々に淑女へと成長していった。大学卒業後、翠は帰国せず、世界中を旅して回った。結婚適齢期を迎えても翠が落ち着かないので、加賀家の大人たちは彼女を呼び戻し、適当な仕事を見つけては親孝行するようにと促した

「憧れを薄れさせる一番の方法は、手に入れることだって言うでしょう？だから応募してみたんです」渚はずっと凛をまっすぐに見つめていた。澄んだ瞳には強い意志が宿っていた。ベゴニアが凛だと知ってからというもの、渚は部屋に閉じこもり、集めた作品を眺めながら、深い自己嫌悪に陥っていた。渚はベゴニアが好きだったが、凛が嫌いだった。けれど、現実はその二つの感情が、一人の人間の中に共存することなんてありえない。何日も悩み続けた渚は、「ベゴニア」の求人情報を見て、熟慮の末、応募を決意した。面接に来る前は、すぐにベゴニアも大したことないと気づいて、このモヤモヤから解放されるだろうと考えていた。しかし.

「翠、お前は聖天と一緒に育ってきたんだから、彼が何を望んでいるのか分かっているだろう。感情なんてものは、今日あったとしても明日には消えてしまう儚いものだ。確かなのは利害関係だけだ。名家同士の結婚は、昔から利害関係が基本だ。そういう結婚は純粋ではないかもしれないが、間違いなく揺るぎないものだ。互いに支え合い、結びつくことで、長く続くことができる。お前たちももう子供ではない。そろそろ一族のことを考えるべきだ。この機会を逃したら、二度とないぞ」「......」あの日、慶吾は電話でたくさんのことを真剣に話した。翠は話を聞きながら、ぼんやりとしていた。心の中でかすかに声が聞こえた。「試してみ

「霧島さん、ぼーっとしてないで、こっちへ来て食べましょう」凛は聖天を自分の方へ呼び座らせたが、身長190cm近い彼がローテーブルに座っている姿は少し窮屈そうで、凛は気まずそうに笑って「あの......ダイニングテーブルに移動しますか？」と尋ねた。「大丈夫だ」聖天はソファに深く腰掛け、テーブルの上の料理をちらりと見ると、思わず眉をひそめた。凛はそれに気づいた。さっきは出前を頼むことに夢中で、聖天のような人はジャンクフードを食べ慣れてないないかもしれないということを忘れていたので、彼女は恐る恐る提案した。「それとも......今から改めて何か作りますか？」「いや、いい」聖天はなんだか