「綾瀬さん、本当にこの子を堕ろすつもりですか?神城さんの状態はご存知のはずです。この子を失えば、彼がもう一度父親になるのは極めて難しいんですよ。中絶してしまったら、もう取り返しがつきません」病院側のスタッフは信じられないという顔で私を見つめ、神城慎也(かみしろ しんや)の健康診断書を差し出してきた。「綾瀬さんが今回、神城さんの子どもを授かったのは、医療的にも奇跡としか言いようがありません。ですから、よく考えて」「結構です。堕ろしてください」私は静かな口調で医師の言葉を遮った。この子のことを気にかける人間が、誰一人としていないのなら。わざわざ命がけで出産して、この世界で苦しませる必要なんて、どこにもない。私は中絶手術の予約を終えると、そのまま慎也の別荘へ戻った。彼はちょうどキッチンから出てきたところで、手に弁当箱を持っていた。私の疲れ切った姿を目にしても、慎也は一切足を止めなかった。ただ冷淡に言い残しただけだ。「鍋に栄養補給の鶏スープを残しておいた。夜ご飯のとき、ちゃんと飲めよ。さっきあれだけ献血したんだから、しっかり補給しろ」そのまま玄関へ向かおうとする彼を見て、私は思わず口を開いた。「あなたは……どこへ行くの?」その瞬間、慎也の眉がピクリと動いた。あからさまに不機嫌そうな表情で返す。「病院に決まってるだろ。澄香はあんな大事故に遭ったんだ。誰かが付き添わなきゃいけない。お前みたいに他人事みたいな顔して、何も感じない奴じゃないんだよ」そう言いながら、彼は私に向かってまるで見るに堪えないものを見るような目を向けた。「献血一つであれこれ言って……お前、どこまで冷血なんだ?実の妹なのに、助ける気もないなんて」その瞬間ーー心がガラガラと音を立てて崩れ落ちるような気がした。私は唇の内側を噛みしめ、血の味を感じながら、慎也をじっと見つめた。「私が冷血?それって……誰のためにこんな体になったと思ってるの?この子がいなければ、私はとっくに澄香に血をあげてた」子どもという単語を聞いた瞬間、慎也は勢いよく距離を詰め、私の目の前に立ちはだかった。その目には怒気がこもり、睨みつけるように彼女を見下ろす。「まだ子どもを言い訳にする気か?ただ献血だろ、命を取るわけじゃない!お前、自分を何様だと思ってる?ちょっと血を出
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