個室の中は薄暗かった。女の子は桐島凛平の膝の上に坐り、緊張のあまり息も殺していたようだ。彼女は桐島凛平の噂を聞いたことがあった。聞くところによると、彼は喜多川家の長女、錐菜と元々相思相愛だったが、後にどういうわけかその妹の由希を好きになったという。そしてその後、錐菜は家を追い出された。女の子はこの話の成り行きから見て、由希はきっと男を虜にするような魔性の美女に違いないと思った。そうでなければ、この赫々たる名声を持つ大物が、彼女のために姉の方を捨て、今のような酒に溺れる自堕落な生活を送るはずがない。凛平は女の子が何を考えているのか知らなかった。彼は手を伸ばして女の子の顎をくいと持ち上げ、まるで工芸品でも品定めするかのように彼女を見つめた。その時、女の子は突然勇気を振り絞り、手を伸ばして彼の首に絡みついた。凛平は一瞬ためらったが、拒絶はしなかった。彼は元より色恋沙汰に無関心な人間ではなかったのだ。由希が去ってから、ただ他の似たような顔立ちの中から、彼女の面影を寄せ集めたいと願うばかりだった。残念ながら今回は、女の子がいきなり禁忌に触れてしまった。女の子は桐島凛平の耳元に顔を寄せ、媚びるような声で囁いた。「義兄さん......」その言葉を聞いて、凛平の酔いを帯びた目が、瞬時に覚醒した。冷たい顔つきになり、いきなり女の子を体から突き落とした!女の子は悲鳴を上げて床に尻餅をついた。「今、俺を何と呼んだ?」凛平は彼女を見下ろし、目の底には冷たい光が宿っていた。彼は酔ってはいたが、狂ってはいなかった。彼は、ここにいる女たちが誰一人として由希ではなく、永遠に由希の代わりにはなり得ぬことを知っていた。「あの......」女の子は恐怖に茫然とし、這うようにして個室から逃げ出した。凛平はたちまち興醒めした。ネクタイを緩め、外へ出て一息入れようとした。ある個室の前を通りかかった時、視界の端に中に坐っている一人の女の子の姿を捉えた。この子はK大学の制服を身に着け、体つきも髪型も由希に酷似しており、今、一人の男のそばに寄り添い、優しく彼の歌に耳を傾けていた。凛平の瞳孔は急激に収縮し、その眼差しに信じられないような喜びの色がかすかに浮かんだ。彼は急いで個室のドアを押し開け、大股でその男女の
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