武本雷多《たけもと らいた》が倒した藤島龍ノ介・虎ノ介の兄弟の目・鼻・口からドロドロとした黒い、粘性のある液体のような物質が流れ出てきた。やがてその液体は別々の人型を成していった。二人の若く美しい女である。が、二人とも頭に二本の角が生えている。「…ハハハハハ。お前、いいねぇ。好きだぜ、強い男はよぉ。」一人が口を開いた。龍ノ介から出てきた方である。鮮やかな金髪のセミロングで、肌は浅黒い。「あら。あんたはどんな男でも好きでしょ、金熊《かねくま》。ホントに、見境《みさかい》ないんだから」虎ノ介から出てきた方の鬼の方が言う。こちらは色白で、淑《しと》やかな美少女といった風体である。美しく長い髪は、黒と鮮やかな紫のメッシュに、きらきらと銀色のラメがあしらわれたように輝いている。こちらの長髪メッシュの方の鬼が、今度は雷多に対して話しかける。「お前、どうやら普通の人間じゃないみたいね。お前に乗り移ってもいいんだけど、瘴気《しょうき》が全然ないみたい。…というわけで、サクッと死んでちょうだい」「オイオイ、せっかち過ぎねーか、星熊《ほしくま》。ちょっとは楽しんでから、ってのはなし?」「まあ、相変わらずサカっていらっしゃること。めんどくさいわね…。もし私らより強い男だったら、アリなんじゃない?」雷多は動揺していた。今まで、裏社会に半分以上足を突っ込んで生きてきて、組の抗争も含め、修羅場は数えきれないくらいくぐってきたつもりだ。生まれたときから肝っ玉の太さには自信がある方だし、何より自分には、天から授かった人間離れした腕力と屈強な肉体が備わっている。銃撃に巻き込まれるなどといったことがない限り、自分にとって恐れることなどないだろうと思っていた。ところが、今自分の目の前で起きていることは、明らかに超自然的な現象である。自分の肉体にものを言わせて解決するような問題であるようには思えない。「嬢ちゃんたち、俺とケンカしたいのか。俺は女は殴らないことにしてるんだが」「ハッ!聞いたか星熊!こいつ女に優しいぜ。『ふぇみにすと』てやつだろ?ますます惚れちまいそうだぜ…!!」金髪の鬼が一瞬のうちに雷多の正面まで間合いを詰め、右手で重黒木の喉元をつかむ。「…うぐッ!」そのまま右腕一本で雷多の大きな体を持ち上げる。とても女の腕とは思えない力である。このままだと窒息死は確実だ。だ
Last Updated : 2025-05-30 Read more