私、天野悠(あまの ゆう)が出所したのは、折しも大晦日のことだった。その日、迎えに来るはずだった婚約者の佐伯桐矢(さえき きりや)は、別の女と過ごす年越しに夢中だった。私が記憶を頼りに家へたどり着いたとき、彼は早坂莉奈(はやさか りな)と親密に抱き合っている真っ最中だった。「桐矢、今日、悠さんの出所日だろ?迎えに行かなくていいのかよ?」仲間の問いかけに、桐矢は鼻で笑った。「あいつを迎えに行くより、年越しの方が大事に決まってる。何年も塀の中にいたんだ。いまさら一日くらい増えたって死にやしねえよ」「悠さん、怒るんじゃないか?」窓の外で吹き荒れる風雪よりも冷たく、私の心に突き刺さったのは、桐矢の薄情なその言葉だった。「あいつが自分で招いた結果だろうが。どの面下げて怒るってんだ。俺がこうしてまだ受け入れてやるってだけでも、ありがたく思えってことだ」その言葉が終わるやいなや、桐矢はふと戸口に立つ私と目が合って、顔から笑みを消した。部屋の無機質な照明が冷たく私の姿を照らし出し、心もまた冷え切っていくようだった。桐矢はまだ、私を「受け入れてやってもいい」と思っているようだった。けれど、私の方はもう彼を必要としていなかった。……一瞬、その場の空気が凍りついた。真っ先に我に返った桐矢が、大股で私へと歩み寄った。肩までのショートヘアに流行遅れの古着をまとった私は、華やいだ雪の夜にあって、あまりにも場違いだった。桐矢は一瞬ためらうそぶりを見せたが、すぐにそれを振り払うかのように、私の体をそっと抱き寄せた。「どうして……迎えを待たなかった?」頭上から降ってくる男の優しい声に、私は一瞬、心が揺らいだ。だが、脳裏には先ほどの光景が鮮明に焼き付いて離れない。「ううん、平気。道は覚えてるから」嘘だった。雪に打たれながら刑務所の門前で、私はずっと彼を待ち続けていたのだ。見かねた年配の看守がタクシーを呼んでくれるまで。桐矢の肩越しに、私の視線はその背後に立つ女――莉奈の姿を捉えた。莉奈は完璧なメイクを施し、鮮やかな赤の高級ブランドスーツに身を包んでいる。私の視線に気づくと、彼女は即座に瞳の奥の憎しみを隠し、にこりと作り笑いを浮かべた。「あら、悠さんじゃない。出所なさったのね、すごい偶然。ちょうど
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