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出所の日、婚約者は別の女と年越しに夢中だった
出所の日、婚約者は別の女と年越しに夢中だった
Auteur: スイートオレンジ一粒

第1章

Auteur: スイートオレンジ一粒
私、天野悠(あまの ゆう)が出所したのは、折しも大晦日のことだった。

その日、迎えに来るはずだった婚約者の佐伯桐矢(さえき きりや)は、別の女と過ごす年越しに夢中だった。

私が記憶を頼りに家へたどり着いたとき、彼は早坂莉奈(はやさか りな)と親密に抱き合っている真っ最中だった。

「桐矢、今日、悠さんの出所日だろ?迎えに行かなくていいのかよ?」

仲間の問いかけに、桐矢は鼻で笑った。

「あいつを迎えに行くより、年越しの方が大事に決まってる。

何年も塀の中にいたんだ。いまさら一日くらい増えたって死にやしねえよ」

「悠さん、怒るんじゃないか?」

窓の外で吹き荒れる風雪よりも冷たく、私の心に突き刺さったのは、桐矢の薄情なその言葉だった。

「あいつが自分で招いた結果だろうが。どの面下げて怒るってんだ。

俺がこうしてまだ受け入れてやるってだけでも、ありがたく思えってことだ」

その言葉が終わるやいなや、桐矢はふと戸口に立つ私と目が合って、顔から笑みを消した。

部屋の無機質な照明が冷たく私の姿を照らし出し、心もまた冷え切っていくようだった。

桐矢はまだ、私を「受け入れてやってもいい」と思っているようだった。けれど、私の方はもう彼を必要としていなかった。

……

一瞬、その場の空気が凍りついた。

真っ先に我に返った桐矢が、大股で私へと歩み寄った。

肩までのショートヘアに流行遅れの古着をまとった私は、華やいだ雪の夜にあって、あまりにも場違いだった。

桐矢は一瞬ためらうそぶりを見せたが、すぐにそれを振り払うかのように、私の体をそっと抱き寄せた。

「どうして……迎えを待たなかった?」

頭上から降ってくる男の優しい声に、私は一瞬、心が揺らいだ。だが、脳裏には先ほどの光景が鮮明に焼き付いて離れない。

「ううん、平気。道は覚えてるから」

嘘だった。雪に打たれながら刑務所の門前で、私はずっと彼を待ち続けていたのだ。見かねた年配の看守がタクシーを呼んでくれるまで。

桐矢の肩越しに、私の視線はその背後に立つ女――莉奈の姿を捉えた。

莉奈は完璧なメイクを施し、鮮やかな赤の高級ブランドスーツに身を包んでいる。私の視線に気づくと、彼女は即座に瞳の奥の憎しみを隠し、にこりと作り笑いを浮かべた。

「あら、悠さんじゃない。

出所なさったのね、すごい偶然。

ちょうどお正月にも間に合ったし、これは……ダブルでおめでたいってことかしら?」

言い終わると、莉奈はすっと立ち上がり、桐矢の腕にこれみよがしに自分の腕を絡ませた。その瞳には、あからさまな挑発の色が揺らめいていた。

私はかろうじて唇をきつく結んだ。

桐矢は莉奈に腕を絡ませられたまま、もう片方の手で乱暴に私の腕を掴むと、皆が集う輪の中心へと半ば強引に座らせた。

莉奈は桐矢の親友である本田相馬(ほんだ そうま)と、示し合わせたように目配せを交わした。

相馬はすぐに合点がいったというように、人を小馬鹿にしたような嫌味な笑みを浮かべ、私を値踏みするように見つめた。

「へえ、この方が例の許嫁さん?三年ぶりでしたっけ?

いやあ、ずいぶん老けましたね。莉奈さんの隣にいると、正直、母娘かと思いましたよ」

甲高い嘲笑が部屋に満ちた。莉奈は顔を赤らめ、恥じらうように相馬の肩を軽く叩いた。

「もう、相馬ったら、何言ってるのよ」

そう言いながら、莉奈は私に向き直り、猫なで声で囁いた。

「若い男の子って、すぐこういう冗談を言うの。悠さん、どうかお気になさらないでね」

嘲笑の声は、プロジェクターから流れるBGMさえもかき消すほどだった。込み上げてくる屈辱と怒りに、私は爪が食い込むほど強く拳を握りしめた。

私が押し黙ったままでいると、桐矢が苛立ったように、肘で軽く小突いてきた。

「みんな仲間内の冗談だろ。場をしらけさせるなよ」

桐矢の言葉は、まるで鋭い刃のようだった。それが私の心を容赦なく切り裂き、刺すような痛みが胸の奥に広がっていった。

他の誰に何を言われようと構わない。だが、桐矢だけは違うはずだった。彼こそが、誰よりも私を理解し、どんな時も揺るがぬ味方でいてくれるはずの人間だったのだから。

それなのに今、私のこの苦しみは、彼にとってはただの気晴らしの冗談の種でしかない。

込み上げる感情を悟られまいと、私は無理やり話題を変えた。

「……お母さんは?」

桐矢の目に一瞬、後ろめたさがよぎったが、彼はすぐにそれを取り繕うように言った。

「ああ、お義母さんなら、静かな方がお好きだから、ここにはいらっしゃらないよ。また日を改めて、俺も一緒にお伺いしよう」

私は小さく頷いた。すると桐矢は、私の薄着に気づいたのか、上着を取ってくる、と寝室へ向かった。

莉奈たちとだけこの場に残されるのは耐え難く、私はとっさに化粧室へ行くと言い訳を残して席を立った。

冷たい水で顔を洗おうとした、まさにその時だった。

背後から、声が投げかけられた。

「――147番」

身体が、本能で反応した。私は瞬時に振り返り、直立不動の姿勢をとっていた。

「はいっ!」

「ぷっ!」

莉奈の甲高い笑い声が響いた。口元を押さえてはいるものの、その声は、私の耳に突き刺さった。

私の濡れた髪先から、ぽたり、と水滴が洗面台に落ちた。私は目の前の女を冷ややかに睨み据えた。

「何が、そんなにおかしいの?」

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