初恋の相手を亡くした伊織曜(いおり よう)は十年もの間、私を憎み続けた。どれだけ尽くしても、返ってくるのは冷たい視線と、「本当に償いたいなら、死んでくれ」の一言だけ。それでも、あの日、暴走トラックが突っ込んできた瞬間、私を庇って血まみれになったのは、曜だった。最期の瞬間、息も絶え絶えに私をじっと見つめて、曜はかすれた声で言った。「もし、お前と出会ってなければ......よかったのに」葬儀で、義母は泣き叫んでいた。「曜と芽依を一緒にしてあげればよかった!無理にあんたと結婚させなきゃよかったのに!」義父の視線は、まるで刃のように鋭くて冷たかった。「曜はお前のために三回も命をかけたんだぞ!あんなにいい子が......なんで、お前じゃなくて、あの子が......!」誰もが、私と曜の結婚を後悔してた。私自身でさえも、そうだった。ぼろ雑巾のように追い出された葬儀の帰り道、私はもう、生きてる意味すらわからなくなっていた。それから三年後――時をさかのぼるタイムマシンが現れて、私は過去に戻ることになった。今度こそ、曜との縁は全部断ち切るって決めた。誰の心にも後悔が残らない世界を、私が作ってみせる。今度こそ、曜のそばを離れて、彼に自由になってもらうんだ。……タイムマシンが激しい閃光を放ち、思わず私はぎゅっと目を閉じた。すると突然、耳元で曜の嘲るような声が響いた。「俺の親、死ぬってまで脅してお前と結婚させようとしてるんだぜ。立花真優(たちばな まゆ)、お前もなかなかやるじゃん。でもさ、結婚したところでお前に何が残る?俺たちが幸せになれるとでも思ってんの?」はっとして目を開けると、そこには生きている曜が立っていた。彼は両手をスラックスのポケットに無造作に突っ込みながら、目には隠しきれない嘲笑が浮かんでいた。未来の曜は洗練された風格を備えていて、どこか気品もあった。でも今、目の前にいる彼は気だるげで自由奔放。久々に見る、あの頃の少年のような瑞々しいエネルギーに満ちている。その姿を見た瞬間、鼻の奥がツンと痛んだ。タイムマシンは本当に私を過去に戻してくれた。だけど残念ながら、ちょっとした誤差があったみたいで、彼と初めて出会った日には戻れなかった。戻ったのは十年前――私と曜が結婚する、その日だった。それでも
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