その日は夜も遅く「明日さくらに伝えなさい」と智彦に説得された聖は、素直に次の日を待つことにした。 朝が来て、さくらの喜ぶ顔を想像しながら聖は彼女を探した。 メイドの朝は早い、もう起きて仕事に取り掛かっている頃だろう。 今の時間は厨房にいるかもしれない、そう思った聖は厨房へと急いだ。 厨房では、朝食の支度をするコックやメイドたちが忙しそうに走り回っている。 声をかけづらい雰囲気に、どうしたものかと考えあぐねいていると、「聖様、どうされましたか?」 旭が声をかけてきた。「旭、さくらは何処だ?」 「はい、私も探しているのですが、見つからなくて。部屋にもいませんし、いつもならもうここへ来ているはずですが」 旭の心配そうな表情を見ながら、聖はなんだか妙な胸騒ぎを感じた。 まさか、そんなわけないと思いながらも、聖の足はある場所へと駆け出した。 隣の部屋ではメイドたちが忙しなく、朝食の準備を整えている。 その音を聞きながら、智彦はいつものようにソファにゆったりと腰かけ、新聞に目を通していた。「父上!」 聖が血相を変えやって来ると、そのことをわかっていたかのように智彦はいつも通り対応した。「何か用か?」 智彦は聖を見ようとしない。 聖はさらに嫌な予感が膨らんでいくのを感じ、ゴクリと唾を飲み込んだ。「……さくらは、さくらは何処ですか?」 智彦が新聞を畳んで、机に置く。 ゆっくりと聖に向き直ると口を開いた。「この屋敷に、さくらはもういない」 聖には、その言葉の意味がわからなかった。「どういうことです!」 聖が叫ぶと、智彦は冷酷な目と声で告げる。「さくらはこの屋敷から出て行った」 その瞬間、聖はすごい速さで智彦の側まで近づいていく。 そして智彦の胸ぐらを掴み、立たせる。 聖の瞳は怒りに満ちていた。
Last Updated : 2025-06-28 Read more