All Chapters of 溺愛メイドは予知能力あり: Chapter 21 - Chapter 30

31 Chapters

第13話 間違った判断

 その日は夜も遅く「明日さくらに伝えなさい」と智彦に説得された聖は、素直に次の日を待つことにした。 朝が来て、さくらの喜ぶ顔を想像しながら聖は彼女を探した。 メイドの朝は早い、もう起きて仕事に取り掛かっている頃だろう。  今の時間は厨房にいるかもしれない、そう思った聖は厨房へと急いだ。  厨房では、朝食の支度をするコックやメイドたちが忙しそうに走り回っている。 声をかけづらい雰囲気に、どうしたものかと考えあぐねいていると、「聖様、どうされましたか?」 旭が声をかけてきた。「旭、さくらは何処だ?」 「はい、私も探しているのですが、見つからなくて。部屋にもいませんし、いつもならもうここへ来ているはずですが」 旭の心配そうな表情を見ながら、聖はなんだか妙な胸騒ぎを感じた。 まさか、そんなわけないと思いながらも、聖の足はある場所へと駆け出した。  隣の部屋ではメイドたちが忙しなく、朝食の準備を整えている。  その音を聞きながら、智彦はいつものようにソファにゆったりと腰かけ、新聞に目を通していた。「父上!」 聖が血相を変えやって来ると、そのことをわかっていたかのように智彦はいつも通り対応した。「何か用か?」 智彦は聖を見ようとしない。  聖はさらに嫌な予感が膨らんでいくのを感じ、ゴクリと唾を飲み込んだ。「……さくらは、さくらは何処ですか?」 智彦が新聞を畳んで、机に置く。 ゆっくりと聖に向き直ると口を開いた。「この屋敷に、さくらはもういない」 聖には、その言葉の意味がわからなかった。「どういうことです!」 聖が叫ぶと、智彦は冷酷な目と声で告げる。「さくらはこの屋敷から出て行った」 その瞬間、聖はすごい速さで智彦の側まで近づいていく。  そして智彦の胸ぐらを掴み、立たせる。 聖の瞳は怒りに満ちていた。
last updateLast Updated : 2025-06-28
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第14話 彼女の居場所①

 某ホテルの一室。  さくらは何をしようかと思案していた。「さくら!」 突然、いきおいよく扉が開かれる。  部屋でくつろいでいたさくらは、目を丸くして突然現れた聖を見つめた。 さくらに駆け寄った聖は、おもいきり抱きついた。さくらはその勢いに押され、後ろにあったベッドに倒されてしまった。「聖様……」 さくらは突然の出来事に、呆然と聖を見つめる。「会いたかった」 聖がさくらをきつく抱きしめ、二人はベッドの上で抱き合う形となった。「父上に酷いこと言われたんだろ? ごめんな」 聖は苦しげな表情をし、さくらを見つめる。「……いいえ、旦那様は聖様のことを想ってされたことですから。私は平気です」 さくらが微笑むと、聖は愛しそうにさくらの頬に手を添えた。 二人は見つめ合い、そのままゆっくりと顔が近づいていく。「お楽しみのところ申し訳ありませんが、私もいること忘れないでくださいね」 その声に反応した二人は慌ててお互いの体を離す。そして、いそいそとベッドから降りた。 部屋へゆっくりと入ってきた旭に、申し訳なさそうな顔を向ける聖。「旭、すまない。さくらに会えた喜びで、すっかり君の存在を忘れていた」 聖は真っ赤な顔で、照れた様子で下を向いた。  そんな聖のことを、さくらは幸せな顔で見つめている。 そんなさくらの様子に、ほっと胸を撫で下ろした旭は優しく笑った。   この部屋は、旭がさくらのために用意したものだった。  屋敷からほど近い場所にあるホテル。そこにさくらは身を隠していた。 聖が屋敷を飛び出し、さくらを探していたあの日。旭もさくらを探していた。 旭はさくらが好きそうな場所を巡ってみたが、なかなか見つからず。次の手を考えていた。  そのとき、昔さくらが海を見るのが好きだと言っていたことをふと思い出した。 旭は付近の浜辺を捜索していく。  す
last updateLast Updated : 2025-07-01
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第14話 彼女の居場所②

 さくら、聖、旭は、そのままホテルの一室で、これからについて話し合うことにした。 聖がベッドの上に腰掛け、さくらをその隣に座らせる。  その真向いには、一人で佇む旭が二人へ真剣な眼差しを向けていた。「やっぱり、僕が父上にお願いする。話せばきっとわかってもらえる」 意気込む聖だったが、旭はすぐに首を横に振った。「待ってください。聖様はさくらさんのこととなると、冷静さを保てなくなります。  ここは、私がゆっくりと旦那様を説得していきます」 旭の言うことには一理ある、聖も自覚はあった。しかし、「その間、ずっとさくらはここにいるのか?」 「そうなりますね」 なんだか納得しない顔をする聖を、旭がたしなめる。「さくらさんに会いたいときは、ここに来ればいいのです」 「そうか、それもそうだな」 さくらは二人の会話に静かに耳を傾けていた。  すると突然、脳裏に映像が流れ込んできた。 誰かの中から見ている映像のようだった。 ここはお屋敷だ。  家族がくつろぐための大広間。  数メートル先に智彦の後ろ姿が見える。 映像は進み、徐々に智彦へと近づいていく。そして、すぐ手の届く場所で止まった。 その手には刃物が握られ、高々と振り上げられた。  それは、智彦へと振り下ろされようとしている。 そこで映像は、ぷつりと途切れた――「旦那様が危ない!」 突然叫んださくらを、聖と旭は驚き見つめる。「どういうことですか?」 能力のことを知っている旭は、すぐに反応を見せた。「旦那様が、お屋敷で誰かに刺される!」 その衝撃的な言葉に、聖はさくらを見つめたまま固まってしまう。 旭は冷静にさくらに聞き返した。「いつ?」 「はっきりとはわかりません、でも夕暮れ時でした」 さくらの言葉に、腕時計を見つめる旭。「もうすぐ夕暮れ時です。  
last updateLast Updated : 2025-07-03
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第15話 哀しい日①

 とうとうこの日が来た。  黒崎智彦、貴様に復讐するときが。 メイドに扮したその男は、口の端を上げた。 彼の名は藤堂(とうどう)。 藤堂は智彦が取引をやめた会社の社長の息子だった。  智彦に切り捨てられたことで会社は経営難に陥り、彼の会社は破綻した。 智彦のせいで会社が潰れたと思った彼は、復讐を計画した。 彼は少し前から新人のメイドとしてこの家に侵入していた。  智彦が一人になり、油断するその時を息をひそめ待っていた。今までもその機会は幾度とあったが、あの旭という執事が邪魔だった。 少しの気配も見逃さず、常に黒崎家の人物に気を配りつづけていた。 あいつには隙がなかった。  しかし、最近旭は屋敷を空けることが多くなっていた。 これは絶好の機会だ、そう思った藤堂は計画を実行することにした。  今、智彦は大きな広間の豪華なソファに一人座り、のんびりとくつろいでいる。  隙だらけだ。 幸運なことに、旭もどこかへ出かけていない――今ならいける! 藤堂は部屋のドアをノックすると、扉を開けた。「失礼いたします」 智彦はメイドなどに関心がないようで、こちらを見ることもなかった。  警戒心なさすぎだろう、と藤堂は心の中でつぶやいた。 ゆっくりと智彦へと歩みを進める。「旦那様……」 藤堂がすぐ傍で呼ぶと、智彦が振り返った。 至近距離にメイドが佇んでいることに、驚いた智彦が目を見開いた。「なんだっ?」 「旦那様は、藤堂という人物を覚えておいでですか?」 急に変なことを聞いてくるメイドに、違和感を覚えた智彦は眉を寄せる。 そのとき、部屋の扉が勢いよく開くと、旭とさくらが姿を現した。  少し遅れて、聖も駆けつける。 さくらは智彦に向かって走り出す。 それに反応するかのように聖がさくらのあとを追っていく。 藤堂は、急に現れ
last updateLast Updated : 2025-07-05
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第15話 哀しい日②

 病院に運ばれた聖は、すぐに手術室へと運ばれていく。 皆、祈るような気持ちで聖の無事を待った。  それは長く、途方もない時間のように思われた。  待っている間、さくらの体は震えていた。 恐くてしかたない、聖を失ってしまうかもしれないその恐怖に、さくらは耐えられそうになかった。「さくらさん、大丈夫ですか?」 旭が、温かいココアの入った紙コップをさくらに差し出す。  さくらは戸惑いながらもそれを受け取り、一口飲んだ。 なんだかほっとして、心が落ち着きを取りどしていくような気がする。「ありがとう……」 さくらのか細い声に、旭は優しく微笑む。  そして、旭は静かにさくらの隣へ腰を下ろした。 こういう彼の気遣いに、いつもさくらは救われていた。  本当に旭には頭があがらないことばかりだ。 旭に感謝しつつ、さくらは聖の無事を祈り続けた。   旭の処置が早かったおかげで、なんとか一命をとりとめた聖は、病室へと移された。 しかし、意識は戻らず、聖はずっと眠り続けている。  医者からは、いつ目覚めるかわからないと告げられた。  眠り続ける聖に、智彦はすがりつき、泣き叫ぶ。「聖、すまないっ、こんなことになるなんて!  私が刺されればよかったのだ、おまえが刺されることなんてなかった。  ……目を覚ましてくれ!!」 泣き崩れる智彦の肩に、そっと手を置く誠一。  悲しげな瞳を聖に向ける。「馬鹿だな、本当に……」 誠一の瞳にはうっすらと涙が滲んでいた。 聖の横でずっと手を握ったまま動かないさくら。  何も言わず、固まってしまった人形のように、ただずっと聖の手を握り続けていた。   それから、一週間が過ぎた。 さくらは片時も離れることなく、ずっと聖の側にいた。 智彦も誠一も、さくらが
last updateLast Updated : 2025-07-06
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第16話 二人の甘い時間①

「ん……」 さくらが目を開ける。 すると、いつもそこにあった聖の顔が無い。変わりに上半身が目に飛び込んできた。 慌てたさくらが上を向くと、優しく見下ろす聖の視線とぶつかる。 さくらは驚き、口をぽかんと開いた。「ひ、聖……様」 さくらは聖を穴が開くほど見つめ、震える手で聖の頬に触れる。 聖はその上からさくらの手にそっと触れた。「さくら……」「聖様!」 さくらが勢いよく聖に抱きつく。「よかった。――聖様っ、よかったあ!」 泣き喚くさくらを、聖は宥めるように優しく抱きとめた。「さくら……君が無事でよかった」 さくらの泣き声が響き渡る中、旭が聖に声をかける。「お目覚めになったのですね、本当によかった」 心からほっとしたような表情を見せる旭に、聖も微笑みを返す。「ああ、世話をかけたな。旭もいろいろありがとう」 穏やかに微笑む聖は、愛しそうにさくらを見つめる。 泣きじゃくるその背中を、ただ優しく撫で続けていた。  聖が目を覚ましたことを聞きつけた誠一と智彦が、急いで病院へ駆けつける。 先に着いたのは誠一。 誠一は聖を見ると、ほっと胸をなでおろし微笑んだ。「よく、頑張ったな」 誠一に褒められたことなんてなかった聖は、頬を染めながら嬉しそうに微笑む。「心配かけてごめん、ありがとう」 聖が可愛い笑顔を向けると、誠一もはにかんだように笑った。 次に病室に飛び込んできたのは智彦だった。 智彦は聖を見るなり、さくらと同様いきなり聖を抱きしめてきた。「聖! よく耐えたな。 ……生きていてくれてありがとう。いろいろすまなかった!」 大の男
last updateLast Updated : 2025-07-07
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第16話 二人の甘い時間②

 そして、聖はみるみる元気を取り戻していき、無事に退院することができた。 聖は話をするため、さっそくさくらを部屋に呼び出した。「さくら、まだメイドやめてなかったんだね」 メイド服姿のさくらを見て、聖がつぶやく。 さくらは聖の婚約者になったのだから、もうメイドでいる必要はなかった。「はい、だって何かしてないと落ち着かなくて。  いいんです、私はこの仕事が好きだから」 誇らしい笑顔を向けるさくらに、聖は嬉しそうに微笑み返す。「さくらがしたいなら、すればいいよ。僕もさくらのメイドは似合ってると思う」 しばしの沈黙の後、聖は急に真剣な表情になった。「さくら。……僕にずっと隠してることあるよね?」 ドキッとした。 さくらは高鳴る胸を抑え、必死に動揺を隠す。  しかし、もう言わなければいけない、それはさくらにもわかっていた。 意を決して、口を開く。「聖様、ごめんなさい、私――」 「未来が見える能力」 「え……」 「……だろ?」 さくらは驚いて聖を見つめる。「さくらが僕に何かを隠して苦しんでいるのはずっとわかってたんだ。言ってくれないことが寂しかったよ、信頼されていないのかって」 「そんなことっ」 「わかってる。恐くて言えなかったんだろ? 僕に嫌われるんじゃないかって」 さくらは聖のことを真っ直ぐに見れず、視線を逸らしながら頷いた。 聖が能力のことをどう思っているのかが気になる。 戸惑うさくらの腕を掴み、聖がさくらを引き寄せる。  さくらは聖の腕の中にすっぽりと収まった。「馬鹿だな……。僕がさくらを嫌うと思う? 離れていくと思う?  それは絶対にない。  ――反対に考えてみて、僕がもしその能力を持っていたとしたら、君は僕を嫌いになって離れていくの?」 聖の問いに、さくらはおもいきり頭を横に振る。「いいえ! 聖様のことを嫌うなんてありえません。
last updateLast Updated : 2025-07-08
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第16話 二人の甘い時間③

 そう言われた聖は不思議そうに首を捻る。「僕のせいなの?」 「聖様がお優しいから……」 さくらは聖の服をぎゅっと握る。  そんなさくらを、聖は愛おしそうに見つめていた。「僕はね、ずっと前から君の能力に薄々気づいていた。  まあ、決定打になったのは、今回の父上の件があったからだけど。  さくらはずっと僕のピンチを救ってくれていたよね? 気づかれないように気をつけていたみたいだけど、あんなに何度も助けられていたら鈍い僕だってわかるよ。  それでも、はっきりしたことはわからなくて、なんとなくそうかなって思ってた。  ……嬉しかったよ、いつも一生懸命に僕を助けてくれる君が、愛しくて、可愛かった。  一緒にいればいるほど、僕はどんどん君に惹かれていく自分をを止められなくなった。  誰よりも優しくて、一生懸命で、純粋で可愛いさくら……。  それなのに、なかなか打ち明けてくれないから、寂しかったな」 聖はさくらの髪に触れると、潤んだ瞳を向ける。  さくらもそれに応えるように、たどたどしく聖を見つめ返した。「聖様を失うぐらいだったら、今のままでいいと思ったんです。  言ったら嫌われてしまう、離れていってしまうと思っていたから。主と使用人という関係でも、例えどんな関係でも、ただお傍にいたかったんです」 さくらの瞳も潤み、艶っぽい輝きを含んでいた。  そんな瞳に見つめられた聖は、短い吐息をつく。「そんな瞳で見つめられると、我慢ができない」 さくらが何か言う前に聖はさくらの口を塞いだ。  聖の腕がさくらをきつく抱きしめ、彼女の動きを封じる。 別に抵抗するつもりもないので、さくらはそのまま聖に身をまかせた。 聖のキスが激しく深みを増していき、さくらは苦しそうに息を吐く。「ひ、じり……さまっ」 さくらの様子に、聖は唇を少しだけ離す。「さくら、可愛い……。先に進んじゃ駄目?」 聖が可愛く聞いてくる。  
last updateLast Updated : 2025-07-09
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第17話 彼らの密かな恋心①

 ある日の青天の午後。 太陽の光が燦燦と照りつける中、爽やかな風が洗濯物を揺らしている。「さくら、ちょっといいか?」 呼び止められたさくらは、洗濯物を干す手を止め、振り向いた。  ゆっくりと近づいてきた誠一が、さくらの横にそっと並ぶ。 何事かとさくらは大きな瞳で誠一を見つめた。「いろいろありがとう。父上のこと、聖のこと、あと……俺のことも」 さくらは不思議そうな顔をする。  智彦と聖のことはわかるとして、誠一に何かした覚えはない。 さくらが目をしばたたかせていると、誠一は急に吹き出した。「ははっ、そうだよな、なんのことかわからないよな。  ……それでいい。おまえはそのままで、いい」 誠一が優しい眼差しでさくらを見つめる。 最近の誠一は、以前に比べ、すごく穏やかな雰囲気をまとうようになってきていた。  これは嬉しい変化だと、さくらは密かに喜んでいる。「家のことは気にするな。  おまえたちが結婚したところで、黒崎家にはこの俺がいる。  いい嫁でも見つけて、この家を支えていくつもりだ。おまえらは自由にラブラブしてろっ」 誠一が嫌味っぽく笑うと、さくらは顔を赤くする。「な、何を……」 でもそれは、誠一なりの優しさだとわかっていたので、さくらは素直にお礼を言った。「ありがとうございます、お兄様」 冗談で言ったつもりだったが、誠一は真顔で黙ってしまう。 怒らせてしまったのかと、さくらは焦った。「す、すみません、調子に乗りました。最近の誠一様はお優しくなられたので、冗談も通じるかと」 さくらが慌てふためくその横で、誠一の頬がほんのりと赤く染まっていたことは誰も知らない。   屋敷には、いつもの日常の風景が戻ってきていた。 厨房で忙しく料理するコック、朝食の準備に走り回るメイドたち。  その中に、さくらの姿もあった。
last updateLast Updated : 2025-07-10
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第17話 彼らの密かな恋心②

 午後のティータイムの時間。 さくらは聖の部屋で、紅茶を入れているところだった。  熱々の紅茶をポットからカップにゆっくりと注いでいく。 その様子を、聖はすぐ隣で嬉しそうに眺めていた。 ずっと見られていると、どうも落ち着かない。  さくらは聖を注意する。「聖様、そんなにいつも見られていては、仕事がやりにくいです」 そう言っても、聖は全然言うことを聞いてくれない。  常にさくらから目を離さず、じーっと見つめてくるのだ。「だって、さくら可愛いから。  それに、見張ってないと誰かに盗られるかもしれないだろ?」 ちょっと拗ねたように唇を尖らせる聖。 可愛いなと思いつつ、さくらは眉を寄せ、反論する。「誰が私を盗るっていうんですか?  私を好きって言ってくれるのは聖様だけですよ。  それに、私は誰のものにもなりません、聖様だけのものですから」 自信満々にそう言い切るさくらを、聖はあきれたように眺める。 さくらはわかっていないのだ、自分がどれほど魅力的か。  そして、聖のライバルがすぐ近くに二人もいるということも、ちっとも気づいていない。「さくらは鈍いからなあ」 「私のどこが鈍いのですか?」 少し頬を膨らませて怒るさくらに、聖は笑った。「そういうとこが」 聖は急にさくらを引き寄せ、自分の膝の上に座らせる。「ひ、聖様っ」 さくらが顔を赤らめ、聖の腕の中でもがく。「僕だけのさくら」 耳元で囁かれ、さくらがビクッと反応する。「さくら、耳感じるの?」 聖が面白そうに問いかけると、さくらの顔がみるみる真っ赤に染まっていく。「そ、そういうこと言わないでください!」 「なんで? これからそういうことが大切なんだよ」 聖は楽しそうに笑っている。 そのとき、急にさくらの脳裏に映像が浮かんだ。 
last updateLast Updated : 2025-07-11
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