真人は逆らえなかった。幼い頃に両親を亡くし、お祖父様の手で育てられた彼にとって、お祖父様は絶対的な存在だった。だからこそ、かつてお祖父様が萌香を無理やり追い出した時も、逆らうことができなかったのだ。旧宅では、久しぶりに顔を合わせたお祖父様が、やつれた孫の姿に思わず微笑みを浮かべた。「真人、おまえが莉緒を探してるって聞いたが、そこまでしなくていい。いなくなってくれて、むしろ良かったじゃないか。あの子は栗原家のために五年も尽くしてくれた。これ以上復讐なんて考えたら、人としてどうかと思うぞ」思いも寄らぬ言葉に、真人は呆然とした。お祖父様の口ぶりには、何か含みがあるように感じた。お祖父様は重いため息をつき、続けた。「昔のことは、わしが強引すぎた。お前と萌香の仲に、口を挟むべきじゃなかったと今では思ってる。でも、まだ間に合う。今は誰にも邪魔されることはないんだ。藤村家のご両親にも来てもらって、婚約の話を進めようじゃないか」その言葉に、真人の体が震えた。「じいちゃん、俺が莉緒を探してるのは、復讐のためじゃないんだ」お祖父様は一瞬で真人の態度の異変に気づき、胸騒ぎを覚えた。ある恐ろしい可能性が頭をよぎる。彼はじっと孫の顔色を見つめる。その表情は、どう見ても冗談などではなかった。「真人、莉緒はもういないんだ。離婚届にもサインした。これで終わりにすべきだ。藤村家もこの数年で立て直したし、お前の幸せを考えると、愛する人と一緒になるべきだと、わしは、そう思うぞ」真人は首を振り、祖父の目を見られずにいた。「じいちゃん、俺、萌香と結婚したいなんて、一言も言ってない。莉緒と離婚するとも、言ってない。ただ……」言葉が続かなかった。胸の奥で渦巻くこの感情が、全身を締め付けて息苦しい。お祖父様の表情が険しくなった。「真人、正直に答えろ。お前は萌香を、まだ愛してるのか?」答えは一つでよかった。真人は反射的にうなずこうとした。けれど、なぜだか首が動かない。確かに、彼はまだ萌香を愛していると思っていた。だからこそ、これまで数え切れないほどの無茶をしてきた。周囲は祝福しているように見えながらも、実は嘲笑していた。妻がいる男が、他の女に夢中になり、倫理を無視した振る舞いを続けている姿は、噂のネタだった。お祖父様が莉緒を送り出したのも、そのような世
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