「アレシア様、あの女性はもう怒っていないんですね。 ありがとうございました。 さっきは、どうなることかと焦りました。」 後片付けをしていたレオニーが、安心したようすで、振り向く。「少しお話を聞かせてもらったの。 そもそもドレスの色だけで女性を判断するような男性は、最初から内面を見ようという姿勢すらなかったのでしょうね。 そんな理不尽な態度を受ければ、誰だって傷つくわ。 その悔しさが、いつの間にかドレスそのものに向いてしまって、破局するドレスなんて呼ばれるようになったのかもしれない。 だから、心の痛みを癒してあげられれば、きっと過去に囚われずに、新しい恋に目を向けられると思うの。 そういう女性に丁寧にお話をしていけば、モナンジュに対する誤解も自然と消えていくはずよ。」「アレシア様はいつも明るくて、前向きですね。 私はどうしてもお客様の嫌な話を聞くのは苦手です。 ただの愚痴なのは聞くまでもなく、わかっていますから。」「そうね。 レオニーは資金繰りのこともそうだけど、こういう対応をするのが嫌で、モナンジュを閉じようと思っていたんだったわね。」「はい。 そのドレスを選んだのはお客様で、私は押し付けたわけじゃないって、いつも言ってやりたくなるんです。」「ふふ、そうね。」「こっちは、悪趣味なドレスを作らされてるのに、わかってる? って揺さぶってやりたくなります。」「確かに。 お客様の望みのドレスがセンスを疑われるものでも、注文なら作らざるを得ないわね。」「そうなんですよ。 それをこちらのせいにして、文句を言って来る人のなんと多いことか。 だから、最初から私達の作った完璧なドレスを黙って着なさいよって、言ってやりたくて、いつも爆発寸前で堪えているんです。」「そうね。 言ったらせいせいするでしょうね。」「はい、一瞬で後悔すると思いますけど…。」 レオニーは、しょんぼりと近くにある椅子に座る。「大丈夫よ、今は私がいるわ。 私がその人達の相手をするから。 そのために私はここにいるのよ。 レオニーはドレス作りに専念して。」「アレシア様に嫌な役回りを押し付けて、気がひけます。」「そんなことはないの。 私にはドレスを作る技術もセンスもない。 だから、私はできることをしているだけなの。
Last Updated : 2025-05-29 Read more