三年の想いは小瓶の中に

三年の想いは小瓶の中に

last updateHuling Na-update : 2025-05-29
By:  月山 歩In-update ngayon lang
Language: Japanese
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結婚三周年の記念日だと、邸の者達がお膳立てしてくれた二人だけのお祝いなのに、その中心で一人夫が帰らない現実を受け入れる。もう彼を諦める潮時かもしれない。だったらこれからは自分の人生を大切にしよう。アレシアは離縁も覚悟し、邸を出る。

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Kabanata 1

1.帰らない夫

「アレシア様、旦那様から本日のお食事には忙しくて、間に合いそうもないから、先に食べていてほしいと早馬が届いております。」

 執事のヨルダンは、顔を伏せ、落胆した表情を浮かべる。

 アレシアは、食堂で夫と結婚三周年を祝おうと、料理人が心を込めて用意してくれた料理を前に、ため息を漏らした。

 私の夫であるトラヴィス・オフリー公爵の瞳の色である濃い青色に統一された室内の装飾品やムード作りのために灯された蝋燭達。

 そのすべてが、広い食堂の中心で一人、ぼんやりと椅子に座る私を静かに見守っている。

 どうして邸の者達が、私達夫婦の記念日を心を込めて祝おうとしてくれているかわかっている。

 誰しもが気づいているのだ。

 トラヴィス様と私の関係が決して順調ではないことを。

 だから、何とか二人の仲をとり持とうと皆が準備してくれたこの記念日の会は、トラヴィス様が帰らないことで、すでに破綻している。

「残念だけど、先に食べようかしら。」

 私が少し冷め始めた料理を前にそう言うと、ヨルダンや侍女達の顔に明らかに安堵の表情が浮かぶ。

「皆さんも一緒に召し上がって。

 きっとトラヴィス様は今日はもう食事を取らないでしょうから。

 一人で食べるより、みんなで食べた方が私も楽しいもの。」

 私のその言葉を受けて、使用人達はそれぞれ料理を運び込み、みんなで食事を始める。

 テーブルには、皆が食べる分のたくさんの料理が並べられていて、それを隔てなく食べるのが、私達の常だった。

「これ、とても美味しいわ。」

 私が特にお気に入りのミルクを使ったスープに満足していると、その言葉に長年公爵家に勤める料理人は、にっこりと笑みを浮かべる。

「アレシア様の好きな味付けは心得ておりますので。」

「ふふ、ありがとう。」

 トラヴィス様の帰りはいつも遅く、私は普段、このように使用人達と夕食を共にしている。

 最初は女主人と一緒に食事をすることに恐縮していた使用人達であったが、私と特に一緒の時間を過ごす侍女のエイダが躊躇うことなく食事を取るのを見て、次第に一人、又一人と加わるようになったのだ。

 エイダは、年若いが、母親も長らく侍女を勤め、この邸で一目置かれる存在だ。

 そのため、結婚して三年が経った今では、ほぼ全員と食事を共にするようになった。

 それは、トラヴィス様があまりにも私をかえりみることなく、毎日帰宅が遅いため、しだいに私を気の毒に思っていたのもあるだろう。

「この深い青色のカーテンやテーブルクロスが素敵ですね。

 どちらのお店で購入されたのですか?」

「それは、王都の他にいくつもの支店がある人気の生地屋の物です。

 エイダの友人の紹介で。」

 皆、それぞれに会話を楽しみながら、食事をしている。

 私はその光景を眺めながら、ふと私がここにいる意味はなんだろうと自答する。

 トラヴィス様にとって、私達の結婚はさして意味をなさないものなのだろう。

 祝う必要もない相手との結婚記念日。

 なんて、空虚で寂しい響きだろう。

 私はただ、トラヴィス様と夫婦として日々の出来事を語り、一緒にたわいのない楽しみを見つけて、二人で穏やかに生きていけたらと思っていた。

 けれども、その願いすら叶わない。

 彼にとって私はもう必要のない存在なのだろう。

 今、こうしてこの邸の使用人達だけが私を気遣ってくれている。

「アレシア様、以前よりお話していた通り、友人と一緒にドレスを作る夢があったのですが、その友人が経営するお店が資金繰りに困っていて、閉店の危機らしいんです。」

 エイダは、考え込む表情をすると、食事の手を止める。

「それは大変ね。」

「友人が心配なので、明日、そのお店を訪ねてきても良いでしょうか?」

「もちろんよ。

 私のことは気にしないで。

 …いえ、私も行っていいかしら?」

「えっ、アレシア様もですか?」

「ええ、何度もそのお店の話を聞いていたから、私も気になるの。

 私はここにいてもいなくても、変わりないし。」

 このオフリー公爵家に来てから三年が経つけれど、公爵家の執務などはすべてトラヴィス様が担っているし、邸の運営はヨルダンがしている。

 なので、私の役割は夜会にトラヴィス様と出席したり、お茶会に参加したりと、社交の部分だけであった。

 よく考えれば、私はここに必要とされていない。

 まるでお飾りのような存在だわ。

 私の言葉に使用人達は顔を見合わせ、視線で何かを伝え合っている。

 彼らにとって恐れていた事態が、いよいよ現実になろうとしているのがわかるのね。

 旦那様に大切にされない私が、ついに動き出そうとしているのではないかと。

 十中八九、この先、私は若い遊び人の男と付き合うようになり、邸での夫婦仲は険悪になる。

 政略結婚の二人が陥るありがちな展開だ。

 だからこそ、そうならないようにと使用人達は心を尽くし、今日の会を提案した。

 けれども、その気遣いが私を追い詰め、ついには私が外に目を向けるきっかけになってしまうとは、誰も想像し得なかったのかしら。

 ただ一つ間違っているのは、私には新しい男性を作るつもりが全くないということ。

 でも、ここで「私は新しい男性など作らないわ。」と邸の者達に宣言するのもどうかと思うから、あえて説明しないけれど。

「では、アレシア様、明日昼頃に参りましょう

 。」

「わかったわ。」

 私はこの無意味な日常から、ほんの少しだけでも解放されたいと思った。

 結婚してから、トラヴィス様との間にまだ子供はできていない。

 もし、二人の間に子供ができていれば、彼の気持ちが少しでも私に向いたのだろうか。

 そんなことを考えても仕方がないのだけれど。

 もう、彼に何かを期待するのはやめよう。

 彼に私を思って欲しいと思い実行してきた数々の努力は無駄に終わって。

 もう、新たな策など湧いて来ないほどにやり尽くした私は、抜け殻のよう。

 王都での食事や買い物、観劇やハイキングなど色々と誘ってみたけれど、時が経つにつれて、彼の私への関心はどんどん薄れていった。

 ここ二年は彼と過ごすことなど、ほぼなかった。

 新婚当初は幸せを感じていたけれど、今では彼は私を全く気にかけなくなってしまった。

 私はただ、夫婦二人で時を重ね、旅行に行ったりして穏やかな幸せを感じたかっただけなのに。

 でも、もうトラヴィス様のことは諦めよう。

 彼がこの先私を想うことなどないのだから。

 トラヴィス様を中心にして過ごしてきた三年間はついに終わりを迎えた。

 明日からは自分を大切にし、思いのままに生きてみよう。

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1.帰らない夫
「アレシア様、旦那様から本日のお食事には忙しくて、間に合いそうもないから、先に食べていてほしいと早馬が届いております。」 執事のヨルダンは、顔を伏せ、落胆した表情を浮かべる。 アレシアは、食堂で夫と結婚三周年を祝おうと、料理人が心を込めて用意してくれた料理を前に、ため息を漏らした。 私の夫であるトラヴィス・オフリー公爵の瞳の色である濃い青色に統一された室内の装飾品やムード作りのために灯された蝋燭達。 そのすべてが、広い食堂の中心で一人、ぼんやりと椅子に座る私を静かに見守っている。 どうして邸の者達が、私達夫婦の記念日を心を込めて祝おうとしてくれているかわかっている。 誰しもが気づいているのだ。 トラヴィス様と私の関係が決して順調ではないことを。 だから、何とか二人の仲をとり持とうと皆が準備してくれたこの記念日の会は、トラヴィス様が帰らないことで、すでに破綻している。「残念だけど、先に食べようかしら。」 私が少し冷め始めた料理を前にそう言うと、ヨルダンや侍女達の顔に明らかに安堵の表情が浮かぶ。「皆さんも一緒に召し上がって。 きっとトラヴィス様は今日はもう食事を取らないでしょうから。 一人で食べるより、みんなで食べた方が私も楽しいもの。」 私のその言葉を受けて、使用人達はそれぞれ料理を運び込み、みんなで食事を始める。 テーブルには、皆が食べる分のたくさんの料理が並べられていて、それを隔てなく食べるのが、私達の常だった。「これ、とても美味しいわ。」 私が特にお気に入りのミルクを使ったスープに満足していると、その言葉に長年公爵家に勤める料理人は、にっこりと笑みを浮かべる。「アレシア様の好きな味付けは心得ておりますので。」「ふふ、ありがとう。」 トラヴィス様の帰りはいつも遅く、私は普段、このように使用人達と夕食を共にしている。 最初は女主人と一緒に食事をすることに恐縮していた使用人達であったが、私と特に一緒の時間を過ごす侍女のエイダが躊躇うことなく食事を取るのを見て、次第に一人、又一人と加わるようになったのだ。 エイダは、年若いが、母親も長らく侍女を勤め、この邸で一目置かれる存在だ。 そのため、結婚して三年が経った今では、ほぼ全員と食事を共にするようになった。 それは、トラヴィス様があまりにも私をかえりみることなく、毎日帰宅が
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2.モナンジュ
「なるほど、つまりモナンジュのドレスを着ると破局すると言う噂が広まり、それが原因でドレスが売れなくなったのね。」「はい、アレシア様。」 私とエイダは王都にあるレオニーというエイダの友人のドレス工房に来ていた。 モナンジュというのはそのドレス工房の名前である。 そこはレオニーが数人のお針子を抱える小さな店ながら、思い通りのドレスが仕立てれると評判で、一時期はとても賑わっていた。 しかし、現在はお客様が激減し、破綻の危機に瀕している。 レオニーは私達に事情を説明した後、悔しそうに顔を伏せる。 ドレスは社交の場で必ず着るものだから、その中で破局する人が出てしまうのも仕方ないことで、それはドレスのせいではないのだ。 しかし残念ながら、自分の不幸を何かのせいにしようとする人が一定数いる。 今回はその「何か」がたまたまドレスだったというだけだろう。 それでも、そんな噂が立てば、不吉だからと買うのを躊躇う人がいるのは無理もないことだ。「でも、元々自分でシックなドレスをオーダーするからなんです。 私には似合わないとか、もう年だからとか言い訳して、くすんだ色のドレスを作った挙句、男性と破局した理由をドレスのせいにするなんて許せません。」 レオニーは怒りのために、拳をプルプルと震わせる。「そうね。 あくまでそれは自分のせいね。」「でも、アレシア様、私もう店を畳もうと思うんです。 元々私は、ドレスを作りたかっただけで、店を開きたかったわけじゃなかったことに気がついたんです。 店の経営を考えるのはもうウンザリで。 ドレス作りだけを考えていたいんです。 でも、子供がいても雇ってくれる店がなくて、自分で始めました。」「ここを辞めたら、代わりの仕事はあるの?」「ドレス作りの夢を諦めれば、子守として働くことができます。 好きではないけれど、お金のためなら仕方がないです。」 レオニーは肩を落として、つぶやく。「子供がいるからって好きな仕事を諦めるなんておかしいわ。 アレシア様、なんとかならないでしょうか?」 エイダも心配そうに、俯くレオニーの背に手を置く。「わかったわ。 同じ女性として、子育てしているレオニーに協力したいの。 だから、私がモナンジュの経営を引き受けるわ。 そしたら、レオニーはこの店を続けられるでしょ? でも、一つだけ条
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3.店の上の生活
「お目覚めですか、アレシア様。」 目を開けたアレシアは、窓から差し込む明るい日差しに目を細める。 昨夜、モナンジュの立て直し計画が進展せず、店の二階にある小さなお部屋にエイダと二人で寝ることにしたのだ。 元々この部屋は、下の針子の仕事が終えた後に、休むための仮眠室という名のベッドと机があるだけの小さなスペースだ。 人生でこんな小さなベッドになど寝たことがなかったけれど、寝れれば問題ないものである。 私はトラヴィス様と離縁になってしまうのも仕方ないと考えているので、こうして小さな部屋で生きていくのも悪くないかもしれないと思った。「よく眠れたわ。」「それは良かったです。」 向かいに寝ていたエイダは、もうすっかり身支度を整えて、私が目を覚ますのを待っていたようである。「エイダは寝れたの?」「もちろんですよ。  私はこんなの慣れっ子です。」「そうなの?  だったら良かったわ。」「朝食にしませんか? お邸より朝食が届いております。」「えっ?  わざわざここに?」「はい、ヨルダン様が気を利かせてくれたのでしょう。  先ほど使いの者が届けに来ました。」「何だか申し訳ないわ。  私達の都合で勝手にこっちに泊まったのに。」「アレシア様はどうか心配なさらずに。  皆、アレシア様のことを大変慕っており、心から気にかけているんですよ。」「そんな、私は勝手に邸を出てしまった身なのに。  でも、そんなふうに思っていただけるのはありがたいわ。」「さあ、起きて朝食をいただきましょう。」 二人がバスケットに入っていたパンやハム、果実水を飲んでいると、出勤して来たレオニーも加わり、今日の予定を立てる。「アレシア様、今日は完成したドレスを王宮に持って行くので、話し合いはその後でもいいですか?」 レオニーは申し訳なさそうに目を伏せながら話す。「私には時間がたっぷりあるのだから、そんなに気を使わなくてもいいのよ。  でも、せっかくだから私も行っていいかしら?」「えっ、アレシア様もですか?  もちろん構いませんが、長い距離を歩くことになりますが、大丈夫ですか?」「ええ、頑張るわ。」 私はここにいてもできることは限られているし、気分転換に王宮について行くことにした。 少しでも動くことで、何かモナンジュの立て直し案が浮かぶかもしれない。「
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4.モナンジュの新しい仲間
「このドレス素敵ですね。  いつもありがとう。」「こちらこそありがとうございます。」 王宮で案内された先には、侍女達が数人待機していて、出来上がったドレスを受け取った。 貴族令嬢に「破局するドレス。」と呼ばれたモナンジュのドレスも、職業婦人である王宮の侍女達にとっては問題なく、注文をいただいているそうだ。 しかし、令嬢達のドレスを一着作るよりも利益が少ない。 そして、求められる色は灰色や黒、茶色など地味で機能的なドレスばかりなので、レオニーはあまりやる気が出ず、内心は渋々作っているらしい。「あなたのところ大変だって、噂を聞いたわよ。」「はい、こちらまで噂が届いていましたか?」「ええ、ここは噂などあっという間に広がるところだから。」「とりあえず、資金繰りの目処はつきましたので、店を閉めることはありません。  これからもよろしくお願いします。」「そう?  なら頼んでもいいかしら?」「はい。」 それから、いくつかの注文をもらい、レオニーとアレシアは帰路についた。「彼女達のドレスを作るために、生地屋に寄って帰ってもいいでしょうか?」「もちろんよ。」「そちらは、エイダにも紹介したんですよ。  お邸のカーテンなどを新調するとかで。」「トラヴィス様の青色のカーテンを買ったお店ね。」「そうです。」 二人は更に生地屋へと向かう。  レオニーと歩きながら、いつもはこんなに出歩くことがない私は、どんな瞬間も新たな発見で、この時間も貴重だと感じた。ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー「いらっしゃいませ。」 王都で一番大きな生地屋に足を運び、侍女達のドレス用の生地を探していると、突然後ろから声をかけられた。「今日はお忍びで、ドレスの生地選びですか?」「カーライル、珍しいわね。  店頭にいるなんて。」 振り向いたその先で、レオニーと男性が話している。 カーライルと呼ばれるその男性は、繊細そうな緑色の瞳とほっそりとした体つきで、女性に好まれ易い爽やかな青年だった。 そして、私をじっと興味深そうに見つめて、視線を外さない。「この女性は?」「あら、本当にカーライルの目利きは素晴らしいわね。  もうバレてしまったけれど、この方は貴族でいらっしゃるの。」「やっぱりそうだよね。  普通の民とは纏う雰囲気
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5.オフリー邸
「失礼いたします。  トラヴィス様、キャメロン様がみえています。」 僕が邸で執務をしていると、ヨルダンが姉の訪問を知らせに来た。「何の用だ?」「おそらく、アレシア様に話を聞いて欲しくて来たのではないかと思います。」「頻繁に来ているのか?」「はい、いつもアレシア様がお相手になられますので。」 アレシアが家出してから数日が経っていた。  しかし、一向に帰って来るようすはなかった。「仕方がない、今日はここに通すように。」「承知しました。」 ヨルダンが去った執務室を、溜息と共に見つめる。  ここ数日、アレシアがもしかしたら邸に戻るのではないかと期待し、王宮に出仕してもすぐ邸に戻る生活を続けていた。 何としてでも、彼女と話をしなければならない。  家出したままのアレシアを許せるはずがない。 しばらくした後、ヨルダンに案内されてキャメロンがやって来た。「トラヴィス、久しぶりね。  邸にいるなんて、ここ一年で初めてじゃない?」 姉のキャメロンは、執務室に入るなり、腕を組み、ソファにどっかりと座る。 我が姉ながら、まるで我が物顔でソファに座るキャメロンに、本当に貴族なのかと問いたくなる。 無作法甚だしい。「それで、何の用だ?  アレシアならいないぞ?」「聞いたわ。  アレシアは、あなたに夢中だったのに、どうしてこうなったの?」「そうなのか?  僕をいつまでも受け入れないのは、彼女の方だが?」「ちょっと、何それ?  トラヴィスはそう思っているの?  ちゃんとしてよ。  アレシアがいないと困るじゃない。  私の話を誰が聞いてくれるの?」「僕ではダメか?」「話にならないわ。  アレシアはトラヴィスに必要とされていないって言っていたわ。 君が必要だと言って、たまには二人で出かけてあげればいいだけじゃない。  大切にしてあげて。」「そんなことアレシアは言っていたのか?」「そうよ。」 キャメロンは怪訝な顔で、責めるように僕をじろじろと見る。「わかった、なんとかする。」「頼むわよ、私はアレシアがいないと困るの。  トラヴィスに会っても仕方ないから、帰るわ。 アレシアの居場所をヨルダンに聞かなくちゃ。  どうせ、あなたに聞いても、無駄だろうから。 でも、私達の家が貧乏だった頃から、あなたには頑張ってもらって
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6.夜会
「お久しぶりです、トラヴィス様。」 夜会のためにアレシアが邸へ戻ると、彼はすでにタキシードに着替えており、居室のソファに座り、私を待っていた。 わかりやすくしかめ面で、怒りが伝わって来る。  そして、青色の瞳が鋭く輝いている。「遅い。  後少しで出発の時間のはずだ。」「はい、私はすぐに行けますよ。  トラヴィス様こそ、夜会の始まりの時間を気にされるなんて。」 彼はいつも遅れて夜会に行き、着いたらリベルト王子の元へすぐに行ってしまう。 私を立場上、エスコートせねばならないから、遅れても一旦邸に戻るのだ。  彼にとっては、私の扱いなどその程度なはず。「これでも一応、夫婦だからね。」 そう言ってトラヴィス様は私に手を差し出して、エスコートしてくれる。 二人が離縁するまで、後何回こうして彼にエスコートしてもらえるのかしら。  やはりこれが最後かもしれない。 彼と会えるこの瞬間は、夫婦でいて良かったと思うのだ。 さもなければ、私を嫌うトラヴィス様にエスコートなどしてもらえないだろう。  ならば、離縁されるまでこの瞬間を楽しもう。 私はトラヴィス様の青色の瞳を見つめ、彼の腕に指を絡ませる。 そうすると彼は私を引き寄せ、もうこれ以上近づけないほどぴったりと並んで自然と歩き始める。 こうしていると、やはり三年の月日を感じるわ。  彼にエスコートされて歩くことに、身体が慣れている。  彼から伝わる温もり、ほのかに香る爽やかな香り、すべてが好き。 本当は彼は私のものだと、抱きつきたいほどに。  でも、そんなことをしたら、ついに頭がおかしくなったと思われるわね。 でも、もう気にすることはない。  もし二人が離縁するのなら、今更おかしいと思われても、心配する必要なんてないんだもの。 私は彼の腕を引きながら、背伸びして、素早く彼の顎にキスをした。 ああ、こんなことを自分でしておいて、恥ずかしい。  顔が熱く赤らんで、彼に動揺していることを隠すために下を向く。 本当は、口にキスしたかったけれど、背の高い彼に口にキスをしたいから屈んでと、ねだる勇気が私にはないわ。「何を?」「今のはただの挨拶よ。」 驚いた表情を浮かべるトラヴィス様に、思いとは別の言い訳をした。 本当は最後にキスがしたかったって言ったら、あなたは嫌がるでしょ?
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7.話し合い
 夜会では次々と女性達に話しかけられ、アレシアは帰りの馬車の中で心地よい疲れを感じていた。 ドレスをうまくアピールできたから、きっと明日からモナンジュは良い方向に進むはずだわ。「アレシア、この後のことだけど、今夜は邸に戻るだろう?  久しぶりにゆっくり話したい。」「えっ、このままモナンジュに戻ろうかと思っていたわ。」「モナンジュ?  さっきその話をしていたね。」「ええ、モナンジュは、私の経営しているお店よ。  経営していることは秘密にしているから、あなたに迷惑をかけることはないと思うの。  だから、安心して。」 モナンジュに戻り、明日朝一でドレスをアピールできたことを、レオニー達に報告するつもりだった。「いや、今夜はちゃんと話をしよう。  モナンジュへ行くのはダメだ。」 トラヴィス様が真剣な眼差しで私を見ている。「そうね。  話は必要ね。」 今後の離縁について、話し合わずはっきりさせないのは、いつまでも中途半端で嫌なのだろう。「それなら、居室で話そう。」「わかったわ。」 ついに避けていたこの瞬間が訪れてしまったのね。  二人の終わりの時。「君の支度が整うまでゆっくり待っているよ。」「ふふ、夜会に行く時もそうであったけれど、あなたが私を待つなんて、邸を出る前にはあり得なかったわね。」「そうかもしれないな。  僕はいつも忙しすぎた。  とにかく急がなくていいから、僕に時間をくれ。」 私は驚きながら頷いた。  普段は忙しくしているトラヴィス様が、私と向き合うために待つと言ってくれている。 きっと私達の結婚はこれが最後ね。  もし私が邸を出なければ、彼からこんな言葉は引き出せなかったはずだわ。 私は静かに頷いた。「お待ちどうさま。」 たっぷりの湯に浸かり、久しぶりに侍女達に手伝ってもらいながらの湯あみを終え、浴室から出ると二人の居室に向かう。 トラヴィス様はワインを飲みながら、ソファで寛ぎ、私を待っていた。「やあ、君も一杯どうだい?」「えっ、お話をするのにワインですか?  大丈夫かしら。」「リラックスして話すのにいいと思うよ。  嫌なら、果実水でもいいけれど。  侍女に用意させるよ。」「いいわ。  もうこんな夜更けだもの。  みんな休みたいはずだから、ワインをいただくわ。」 そう答えると
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8.新しい関係
 翌日、モナンジュに戻った私は、エイダと共に、そおっと二回の休憩室に向かい、レオニーに会った。 それと言うのも、店には多くのドレスを求める女性達がいて、賑わっていたからである。「アレシア様、朝からひっきりなしに、ドレスの注文をいただいております。 次々と貴族の方達がいらして、大忙しです。  それもこれもアレシア様のおかげです。」「そう?  それなら良かったわ。」 レースを多くあしらうことで露出を控えたい方は割とたくさんいる。  そう思って、新しいドレスを作った。 露出を抑える分、女らしい曲線を丁寧に引き立てることに重点を置いている。 想像以上に、そうした控えめなスタイルを求める女性が多いということだ。 そして、あえて地味な色味のドレスを選ぶお客様には、はっきりとそちらは縁を切りたい、距離を置きたい時に選ぶドレスだと伝えることで、このドレスを選んだらどうなるかを本人達に認識してもらうことが狙いだ。 自らくすんだドレスを選び、それを着て男性に好かれず、関係がうまくいかなかったのは、あくまで自分の責任だと。 それを意識してもらうために、あえて名前をつけて、明確に方向性を分けることにしたのだ。 もちろん、そういった控えめな女性を好む男性もいるだろうし、くすんだドレスを着た雰囲気に惹かれて選ばれる場合もあるだろう。 けれどそれは、あくまで少数派であるというだけで、そのドレスを着たい人や気分を否定するつもりはない。 ただ、出会いの場において、好まれにくい現実を伝えることも、大切だと思うのだ。「ところで昨日は、邸の方に泊まられたんですね?」「ええ、トラヴィス様にこちらに泊まることを反対されたわ。  どうしても、私がここに住みたいのなら、自分も一緒に住むと言い出したの。」「えっ、それはさすがに勘弁してください。  そんなことになったら、緊張して私達の身がもちません。」「大丈夫よ。  夜は邸に戻るということで、話はまとまったから。  さすがにこの大きさのお部屋でトラヴィス様と暮らすのは、無理があるわ。」「それならいいのですが、アレシア様が思っている以上に、オフリー公爵に愛されているのですね。」「これは愛されていると思っていいのかしら?」「もちろんです。  だって、アレシア様はご自分の意志で邸を飛び出して来たんですよ。 普通な
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9.お義兄様
「お兄様、いらしてくれたんですね、ありがとうございます。」「やあ、その言い方は相変わらず堅いな、ホリックって呼んでくれよ。」 昨夜、お兄様から先触れが届き、今日来られるとのことで、モナンジュに行かずに、アレシアは邸で待っていた。 応接室に入ると、ソファに座っていたお兄様はすぐに立ち上がり、私をしっかりと抱きしめてくれた。 黒い瞳のお兄様は、背が高く、神秘的な男性である。  そして、端正な顔立ちで、女性の目を引く。 けれど、自ら進んで話しかけることもしないため、一人で過ごすことが多い。 私は、お父様が義母と再婚する際に連れ子として出会った時から、無視されても粘り強く話しかけ、少しずつ心を開いてくれ、仲の良い兄妹になっている。 子供の頃と変わらず、私を大切に思ってくれているお兄様が大好きだ。「ふふ、挨拶ぐらいはちゃんとさせて。」 私は彼に抱かれた腕の中から顔を上げ、彼の黒い瞳を見つめて笑う。「可愛いね、僕のお姫様。」「もう、お兄様ったら、私はもう公爵夫人なのよ。」「いいじゃないか、僕にとってはいつだってたった一人の宝物なんだから。」「ありがとう、お兄様。」 幼い頃に母を亡くし、父は義母と再婚してからというもの、私に対してほとんど関心を持たなくなっしまった。 だからこそ、幼い頃からお兄様だけには変わらずに、私への興味を持ち続けて欲しいと思っている。 そんな私の気持ちに気づいているお兄様はいつも甘やかし、何かあれば誰よりも私を心配して、守ってくれる。 成人して、結婚もして、公爵夫人という立場になっても、その優しさは変わらない。 そして今でも、実家で私を気にかけてくれているのは、お兄様だけなのである。 二人は肩を並べ、ソファに腰を下ろす。「そうだ、今日も美しい肌を保つ薬を持って来たよ。」 侍女達がお茶の支度を終え、部屋に二人きりになると、お兄様は小さな箱をそっと差し出す。 その中には、私が結婚してから、ずっとお兄様が用意してくれている美肌を保つお薬が入っている。「いつもありがとう、でも、この前、邸を出た時には泊まりになるとは思ってなくて、お薬を持って行かなかったの。 だから、しばらく飲めない時期があって、前の分がまだ少し残っているわ。」「何だって?  あれほど毎日欠かさず飲むように言ったじゃないか。  その後、体調は?
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10.モナンジュのお客様
 ある日、アレシアがモナンジュに足を運ぶと、店内には女性の怒声と、それをなだめようとするレオニーの声が響き渡っていた。「どうして最初にあのドレスを着ていたら破局するって教えてくれなかったの?  知っていたら、あんなドレス作らなかったわ。」 涙をこぼしながら、女性は震える手で顔を覆う。「申し訳ありません、ただ私はご希望通りのドレスを仕立てたつもりです。  そもそも、それをどのような場面でお召しになるかはお聞きしておりませんでしたし。」 レオニーは戸惑った表情で、どう言葉をかければよいか思案しているようだった。「そんなの新しいドレスを作ると言ったら、出会いの場に決まっているじゃない。」「そう言われましても。」 店の中では、やり取りを聞いていた他の女性客たちが、少し離れた場所でヒソヒソと囁き合っている。 モナンジュの店内には、険悪な空気が漂っていた。「レオニー、ここでは目立ちすぎるわ。私が奥でお話を伺うわ。」「アレシア様…。」「大丈夫よ。」 私はシクシク泣いている女性をそっと導き、貴族専用の個室へと案内する。 今では、ドレスを色や用途ごとに分類し、どんな色味が男性にどう受け取られるか、分かりやすくなってきた。 けれども、この体制が整う前に地味な色のドレスを仕立て、結果的に破局してしまった人がいたのもまた事実。 その分類があるということは、モナンジュでは破局の可能性を予測できていたということになり、傷ついた女性たちの中には「知っていたなら、なぜ教えてくれなかったのか」と思う人も出てくる。 レオニーには「大丈夫」と声をかけたものの、どう説明すればいいのか、私自身にも明確な答えはまだ見えていなかった。 とりあえずは、彼女の話を聞くしかないだろう。「どうぞ、おかけになって。  詳しくお話を伺ってもいいかしら?」 女性をソファに案内し、お茶と甘味を勧める。 彼女の装いは、グレーのワンピースに黒の髪飾り、靴も黒で統一されている。普段からこのようなシックなスタイルが好きな方なのだろう。「ええ、あなたは?  ここの店の人ですよね?」 レオニーと違って、私があまりにも落ち着いた対応をしているから、不審に思ったのだろう。  泣き腫らした目でこちらをじっと見つめながら、彼女が問いかけてくる。「私はオフリー公爵の妻で、アリシアよ
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