四人掛けの席にメディチ侯爵ともう一人―――青年が、向かい合う形で座っている。困惑を滲ませながらジラソーレはメディチ侯爵の隣に腰掛けた。 「呼び出してすまないな―――どうしてもこの方がお前と話したいと仰ってな」 ふるる、と首を横に振る。改めて向かい合った青年に目をやる。メディチ侯爵と同じようなスーツに杖を持っており、それだけで高い身分ということが伺えた。青い月夜の光に照らされた金髪は癖毛で長毛の猫のようだ。 「なんだか見つめあうと照れちゃうね―――僕はこのマノで繊維業を主に請け負っている、マノイ・リンチェという者です。よろしくね」 「この者は言葉を発せない―――ので、私が紹介する。彼はサーカス団『フィエスタ』のメインメンバーの踊り子・ジラソーレだ」 彼―――リンチェの自己紹介によろしくの意味を込めて頭を下げると、助け舟を出すようにメディチ侯爵がジラソーレの紹介をする。 リンチェは「感謝します」と柔和で人好きのする笑みを浮かべた。 「今日は彼もお疲れのことでしょう。手短にお話しさせていただきます―――君のことを家に招いて、僕の秘書として勤めてくれないだろうかと思っているんだ」 身体が跳ねて、隣に座っているメディチ侯爵の肩に触れる。ひどく婉曲的な表現だ―――つまり性玩具として彼に買われないか、というお誘いだ。女性ならば”結婚”のお誘いとも取れるが、残念ながらジラソーレは男だ―――それに加えて、ジラソーレには絶対に揺らがない”旅の目的”があった。断るしかない。 公演を終えて熱された体温が静かに冷めていく。ふるふる、とジラソーレは首を横に振った。 「とのことだ―――言っただろう、彼はそういうのに耐性がない。おまけに声を発せないから嬌声だってつまらないものだ。お引き取り願うよ」 「あはは、残念だ―――流石、メディチ侯爵の寵児だね。鎖を外すのは手強そうだ。今まで幾度となく持ち掛けられてすべて門前払いだったそうじゃないか。今回の僕は幸運だね」 「人聞きの悪い。君は私にとって利用価値があるから会わせてあげただけだ―――賭けには勝った、例の件、よろしく頼むよ」 「ずるいよ、全く。勝てる勝負にしか挑んでないんだね」 軽快に交わされ
Terakhir Diperbarui : 2025-06-04 Baca selengkapnya