宇宙事業に身を投じた娘に、家族全員が慌て始めた のすべてのチャプター: チャプター 1 - チャプター 8

母はちらりと私を見ると、どこかぎこちなく言い訳した。 「このネックレスは智子がどうしても欲しがって騒ぐから、あげたんだ。君は姉だから、妹に譲ってやれよ。細かいことにこだわるな」 私は平然と言った。「別にいいよ。好きな人にあげれば」 こんな類いの言葉は何度も聞かされてきた。智子が気に入ったものは全て譲るのが当然で、とっくに慣れきっていた。 私がこんなに大人しく従順になったのに驚いたらしく、二人は意外そうな顔をしていた。 すると智子が口を挟んだ。「姉ちゃんのものを奪うべきじゃなかったけど、どうしても好きで我慢できなかったの。この家のものは全部姉ちゃんのものだもの。ただこの小さなネックレスだけが欲しかったの。許してくれるよね？」 父は深いため息をつくと、彼女の頭を撫でながら言った。「本当に心が痛むほどお利口だな。何度も言ってるだろう？本当の娘はお前だけだって」智子は悔し涙を拭い、それが余計に両親の憐れみを誘った。 三人は睦まじく寄り添い、私の存在など一時的に忘れ去られたようだった。 誰も覚えていないらしいが、智子はただの養女で、私の代わりに施設から連れて来られたに過ぎない。 家を離れて18年、両親は私を失った罪悪感を紛らわすため、私に向けるはずだった愛情をすべて彼女に注いだ。 智子が鼻を鳴らせば、両親は神経を尖らせ、智子が泣き出せば、両親は天地がひっくり返るほど慌てるのだった。 私が帰宅した夜、智子は現実を受け入れられず、泣き叫んで屋上の縁に立った。 「捨てられたの。誰も要らない孤児よ。死んだ方がましだ！そうすればパパもママも姉ちゃんも、ずっと幸せでいられる！」と声を震わせた。 たちまち二人は大慌てで彼女を説得し、その後もぴったりと張り付いて守った。 両親は果物やお菓子で彼女を宥めながら食事をさせたが、私は空腹でふらついても誰も気に留めなかった。 後日、何事もなかったように「家族でキャンプに行こう」と智子が言い、私も同行させた。 嬉しさに胸を躍らせて着いて行くと、三人は無言のまま私を山奥に置き去りにした。 通信不能の山中で丸一週間を生き延び、ぼろぼろになりながらようやく帰宅した。彼らは智子と一緒にテレビを見ていて、私の方には目もくれなかった。「お前にはもっと従順に

彼女はすぐに動画を送ってきた。開けてみると、智子がスマホで撮影した映像だった。 父はソファで母とテレビを見ながら、二人で智子の飼い犬を抱きかかえていた。 背景から智子の声が聞こえてきた。「お父さん、お母さん、姉ちゃんがこの家から永遠に出て行くって言ってるんだけど、どう思う？」 父は鼻で笑った。「そりゃいいことだ。これで邪魔者がいなくなる。いつもあいつの顔を見るだけで嫌気がさしてた」 母はちょっとたしなめるように父を見たが、特に反対はしなかった。 「外で苦労させた方がいい。そうすれば家のありがたみが分かるだろうに。どれだけ身の程知らずだったか思い知らせてやれ」 義彦が台所から果物を持って出てきて、智子がスマホを向けているのに気づくと、にこやかにカメラに近づいた。 私には一度も見せたことのない明るい笑顔で、「何撮ってるの？今日の俺、イケてる？」 動画はここで終わり、すぐに智子から二通目のメッセージが届いた。 【ほら見ろ、この家で君のことを気にかけてる人なんて誰もいないのよ。さっさと出て行け。私の立場を狙うなんて虫が良すぎるわ】 言葉の毒々しさが画面から滲み出ていた。 読み終わっても返事はせず、スマホのSIMカードを抜き取ると、ゴミ箱に捨てちゃった。 …… 飛行機で研究基地に着くと、他の同僚たちと一緒に、外の騒ぎなど一切気にせず仕事に打ち込んだ。私たちの通信手段は全て取り上げられ、普段の外出も禁じられていた。 だが私はかえって気が楽だった。いつも私に因縁をつけてくる連中がいなくなったので、生活がとても楽になった。 夜、退屈していると、同僚たちが家族を恋しがって愚痴をこぼすことがあった。 私は彼らの気持ちには共感できず、ただ研究終了後の生活計画を黙々と練っていた。 私の未来には、両親も智子も存在しない。 私がいなくなって最初の一週間、楚山家からは何の連絡もなかった。 両親は養女と一緒に、幸せな家族生活に忙殺されていた。 彼らは義彦を連れて新しい家族写真を撮り、母は訪問着に帯締め、父は紋付羽織袴を着ていた。智子と義彦は後ろに立ち、あたかも仲睦まじい家族のように見えた。 智子の飼い犬まで写真に収まっているのに、私だけが写っていなかった。 滅多にS

指導教授は首を振り、即座に否定した。「楚山さんの成績と研究能力は常に抜きん出ていた。彼女が卒業できないなら、誰も卒業できないだろう」父は首を傾げながら聞き返した。「じゃあ、どうしてあの子は突然いなくなったのですか？まだ学生でしょう？」指導教授は呆れ顔で父を見た。「楚山さんはとっくに博士号を取得していた。ご家族のくせに、そんなことも知らないのか？卒業後の進路は本人の自由だ。ご家族にも話していないなら、私が知る由もない」両親は返す言葉もなく黙り込んだ。智子は袖のボタンをギュッと握りしめ、複雑な表情を浮かべていた。帰宅後、両親は全国の知り合いに頼んで私を探し始めた。祖先の墓参りをさせたいと言い訳しながら。引き取ってからまだ正式に先祖参りをさせていなかったからだ。智子は不機嫌そうに、両親の後をくっついて回った。「私だってあなたたちの娘よ。姉ちゃんの代わりに墓参りに行けるよ。そうすれば正式に楚山家の一員になって、家業を継げるでしょ？」今日まで、智子が持っている資産は父が立ち上げたハイテク企業ただ一つだった。 楚山家の大半の財産はまだ彼女の名義に移っておらず、それを聞いて彼女は焦りを隠せなかった。 父は彼女をじっと見つめ、しばらく観察してから突然言った。 「俺はまだ現役だというのに、もう遺産のことを考えているのか？」 智子が慌てて否定したものの、この一件で父の心に疑念が芽生えてしまった。 この時になってようやく、両親は私の良いところに気づいた。 少なくとも楚山家に引き取られてから、私は彼らの金や資産に目を付けたことは一度もなかったし、何かを要求したこともなかった。 智子は冷遇されて賢くなり、二度と傍観などせず、今度は進んで私を探す手伝いを申し出た。 彼女は毎日朝早く家を出て、夜遅くまで帰ってこなかった。 母はその姿に心を打たれ、もしかしたら以前の計算高い様子は錯覚で、智子はやはり良い子なのかもしれないと思い始めた。 しかし、母が智子に弁当を届けに行った時、偶然にも真実を知ってしまった。ドアを開けっ放しにしたオフィスで、智子は親友と平然と話していた。 「うちの親は今でも蛍がわざと帰ってこないと思い込んでるの。マジで笑えるよ、私が言うことなんでも信じちゃって、娘が事故に遭

父と母は諦めず、車で私の後を追ってきた。 私が大学に入って先輩や後輩と再会するのを見ると、慌ててついて来ようとしたが、入り口の警備員に阻まれてしまった。 私が呼びかけを無視するのを目の当たりにし、二人はただ外で待つしかなかった。 今年の冬は格別に寒く、身を切るような風だったが、私は心を揺るがさなかった。 家を追い出されたあの冬ほど冷たい季節はないからだ。 指導教授と先輩後輩たちと飲みに行き、店を出たのはもう明け方近くだった。 タクシーでホテルに向かおうとした時、今日ずっと尾行してきたあの車が視界に入った。 父は私の姿を見ると、タバコを消しながら笑顔で言った。「終わったか？今夜は実家に泊まれ。別荘の一番良い部屋を用意してある」 母は手編みのマフラーを持ち、心配そうに私の首に巻きつけた。「こんな薄着で風邪を引くわよ。母さんが編んだの。着けなさい」 私はその優しさを拒み、きっぱりと言った。 「これ以上ついて来るな。戻る気はない。智子を娘にすればいい」それを聞いた両親は顔色が真っ青になり、その場から一歩も動けなかった。翌日、私は自分の街に戻ったが、彼らの執拗な付きまといは終わらなかった。どこへ行っても彼らはついてきて、金で釣ろうとしてきた。母はこの街のど真ん中に別荘を買い、私の意思に関係なく不動産登記簿を押し付けた。「いい子にして、受け取りなさい。母さんの気持ちよ」父は高級車を5台買い、私の職場の前にずらりと並べた。「蛍、すまなかった。これらの車で毎日気分転換で乗りなさい」一方、智子はあまりにもしつこかったため、精神病院に任意入院されて、いつまで入れられるか分からなかった。入院後は認知行動療法のプログラムに参加し、悲惨な状況だと聞いた。彼らから逃れられないと悟り、私は抵抗を諦めた。日が経つにつれ、良い男性と知り合い、家庭を築くことに決めた。結婚式当日、私は両親を招待しなかった。彼らは来たかったが、来られず、式場の片隅でひそかに見守るしかなかった。 式が終わると、母は突然新郎を引き寄せ、桐箱入りの家紋付き帯留めを差し出した涙を浮かべながら言った。「これは私からの祝儀よ。結婚生活に使って、蛍と仲良く暮らしなさい」夫はとても困惑していた。私は孤児で両親がいないと言