彼女はアウロラに優しく笑いかけると、再びカイに向き直る。「皆様も、弟君も、この度のことには思うところがあったはず。私の胸のうちは、今巫女殿が代弁してくれました。ですから……」 そのままアウロラの手を取り立ち上がらんとするその人を、カイはあわてて止めた。「婀霧《アム》、駄目だ! そんなことをすれば、お前も巫女殿も生きて帰れる保障はない」 使者を殺したとなれば、この戦が収まったとしても光と闇の対立は決定的なものになる。 そう言うカイに対し、アウロラは静かに口を開いた。「もとよりわたくしは、この命を賭してここに参りました。戦を回避できるのなら、この身がどうなっても……」「違う! 今更兄者の元に赴いても犬死するだけだ!」 血を吐くようなカイの叫びに、アウロラはハッとしたように息を飲む。 この時初めて両者の視線が真正面から交錯した。 カイのそれには、言いしれない苦悩の光が宿っていた。「俺だって、陛下とは戦いたくはない。けれど……」「でしたら、尚更……」「その通りです。まだ作戦決行までには時間が……」 そう言ってしまってから、婀霧と呼ばれた武人はあわてて両の手で口をふさぐ。 その言葉の意味に気づいたアウロラは、婀霧とカイを交互に見やる。 そして、かすれた声でつぶやいた。「どういう、ことですか?」 重い沈黙が流れる。 平身低頭する婀霧。 眉根を寄せ頭をかき回すカイ。 ややあって、カイはこれ以上はぐらかすのは無理と判断したのだろう、ようやく口を開いた。「……ここにいるのは、全軍じゃない。すでに先鋒と中堅の部隊は、闇の領域を攻撃すべく、配置を完了している」 作戦決
Terakhir Diperbarui : 2025-06-28 Baca selengkapnya