Semua Bab 始まりの物語─青き瞳の巫女─: Bab 31 - Bab 40

40 Bab

30 残酷な現実

 彼女はアウロラに優しく笑いかけると、再びカイに向き直る。「皆様も、弟君も、この度のことには思うところがあったはず。私の胸のうちは、今巫女殿が代弁してくれました。ですから……」 そのままアウロラの手を取り立ち上がらんとするその人を、カイはあわてて止めた。「婀霧《アム》、駄目だ! そんなことをすれば、お前も巫女殿も生きて帰れる保障はない」 使者を殺したとなれば、この戦が収まったとしても光と闇の対立は決定的なものになる。 そう言うカイに対し、アウロラは静かに口を開いた。「もとよりわたくしは、この命を賭してここに参りました。戦を回避できるのなら、この身がどうなっても……」「違う! 今更兄者の元に赴いても犬死するだけだ!」 血を吐くようなカイの叫びに、アウロラはハッとしたように息を飲む。 この時初めて両者の視線が真正面から交錯した。 カイのそれには、言いしれない苦悩の光が宿っていた。「俺だって、陛下とは戦いたくはない。けれど……」「でしたら、尚更……」「その通りです。まだ作戦決行までには時間が……」 そう言ってしまってから、婀霧と呼ばれた武人はあわてて両の手で口をふさぐ。 その言葉の意味に気づいたアウロラは、婀霧とカイを交互に見やる。 そして、かすれた声でつぶやいた。「どういう、ことですか?」 重い沈黙が流れる。 平身低頭する婀霧。 眉根を寄せ頭をかき回すカイ。 ややあって、カイはこれ以上はぐらかすのは無理と判断したのだろう、ようやく口を開いた。「……ここにいるのは、全軍じゃない。すでに先鋒と中堅の部隊は、闇の領域を攻撃すべく、配置を完了している」 作戦決
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31 脱出

 檻に押し込められて、もうどれくらい時間が経っただろう。 馬車を御していた男はアウロラを降ろして闇の領域へと戻って行ったが、争いに巻き込まれてはいないだろうか。 サッシュベルトに隠していた短剣は、ここに入れられる前に取り上げられてしまった。 泣き声を上げる気力もなく、力なく膝を抱え座り込むアウロラだったが、ふと足音が近付いてくるのに気付きその身を硬くする。「巫女殿……申し訳ありません」 聞こえてきたのは、女性の声だった。 そう、この人は確か……。「正式に名乗っていませんでしたね。私は婀霧。一応弟君の補佐役を勤めています」 言いながら婀霧は格子の前にひざまずく。 僅かにそちらに視線を向けるも、アウロラはすぐにそっぽを向く。「私達が声を上げていれば、こんなことにはならなかったかもしれない。何てお詫びをしたら良いか……」 けれど、その言葉を受けてアウロラは力なく頭を揺らした。「お立場が、あるのでしょう。逆の状況に置かれていたら、わたくしも果たして主に異議を唱えることができたかどうか……」「けれど、巫女殿は使者として来てくださった。武人である私よりも遥かにお強い。そう思います。お恥ずかしい限りです」 その言葉に、アウロラははっとしたように顔を上げた。 と、婀霧は格子の隙間から何かをこちらに差し入れようとしている。「……お返しします。どうぞお取りください」 それは、紛れもなくべヌスから賜った短剣だった。 思わず目を丸くするアウロラに、婀霧ははにかんだような笑みを浮かべて見せる。「光神の元にお連れするのは無理ですが、あなたを闇神の元にお返ししたいんです。お力添えさせていただけますか?」「ですが……そんな事をしたら、あな
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-06-29
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32 戦場

 激しく揺れる馬の背で、アウロラは固く目と口を閉じ、必死に婀霧の腰にしがみつき振り落とされまいとする。 それからどれくらい走っただろう、おもむろに婀霧は手綱を引いた。「どうされました?」 遠慮がちにたずねるアウロラに、婀霧はため息混じりに答える。 振り返る顔には落胆の色が見えた。「戦の広がり方が、私の予想を超えていました。これでは……」 両軍がせめぎ合っているまさにその中を突っ切らねば、闇の領域に入れない。 そう言うと、婀霧は悔しそうに唇を噛む。 と、不意に風向きが変わった。 戦場からの風に乗って、断末魔の叫びや血の匂いが二人のいる場所にまで運ばれてくる。 理性を失った殺し合いの場所を二人乗りの馬で駆け抜けるのは、どう考えても不可能だ。「少し、時間をください。何としても私は……」 そう言う婀霧に、アウロラは目を伏せ首を左右に振った。 そして悲しげな微笑を浮かべる。「巫女殿……」「そのお気持ちだけで充分です。どうかもうお戻りください」「こんな戦場の近くに、巫女殿をお一人で置いておく訳にはいきません!」 交錯する両者の視線。 哀しい沈黙が流れる。 それを破ったのは、アウロラの方だった。 「弟君はあのようにおっしゃっておられましたが、あの様子では手加減はできないでしょう」 地の利があるとはいえ、この戦は不意討ちに近い。 ほとんど準備ができなかった闇の領域が完膚なきまでに叩かれ敗北するのは、火を見るよりも明らかだ。「……わたくしは、争いを止めるべく遣わされましたが、結局かないませんでした」 そう言ってアウロラは目を伏せた。 言葉無くその顔を見つめる婀霧。 アウロラの独白は、更に続く。
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-06-29
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33 悲しい結末

 陥落したブイオ。 建物のそこかしこには、何本も矢が刺さっている。 火矢を射掛けられたのか、焦げたような臭いがかすかに漂っていた。「着きましたが……。一体何をされるおつもりですか?」 未だ真意をはかりかねている婀霧の手を借りて、アウロラは馬から降りる。 そして地面に降り立つなり、婀霧に向かい深々と頭を垂れた。「ありがとうございました。この御恩は決して忘れはいたしません」 しかし対する婀霧は、まだ何が何だかわからないとでも言うように首をかしげる。「御恩も何も……。こんなところへ来て、これからどうするおつもりなのですか?」「わたくしは、わたくしにかせられた役目を果たすだけです。婀霧様はどうか、自陣へお戻りください」 弟君には、わたくしから脅されてこのようなことになったと言っていただいて構いません。 そう言ってアウロラは寂しげに微笑んだ。 呆気に取られて立ちすくす婀霧に会釈をすると、すっかり荒れ果てた砦の奥へ向かって歩き出す。 しばし婀霧はその後ろ姿を見送っていたが、武人の勘とでも言うべき何かだろうか、妙な胸騒ぎを覚えた。 次第に小さくなっていくアウロラに向かい、あわてて声をかける。「巫女殿? どちらへ?」 無論、返事が返って来ようはずがない。 言いしれない不安を感じ、遂に婀霧もアウロラを追って砦の中へと足を踏み入れた。     ※ 陥落した砦である。 当然そこかしこには、打ち捨てられた兵の遺骸が転がっている。 上空では猛禽達が旋回し、嫌な鳴き声を上げている。 こんな不気味なところに、あの巫女は一体どんな用件があるのだろう。 薄気味悪さに僅かに身震いしながら、婀霧はアウロラの姿を探す。 そして、その視線を上方に向けた時だった。 視界の端に、薄藍の布が飛び込んでくる
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-06-29
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34 後悔

 胸騒ぎを感じて、カイは手綱を引いた。 一瞬闇の軍勢が迫っているのかと思ったが、これは敵意ではない。 儚げで悲しげで強い意志がその原因であることに気が付いて、カイは思わず周囲を見回す。 そのような存在は彼が知る限りただ一人、闇の巫女アウロラである。 だが、本陣に拘束したその人がこの戦場にいようはずがない。 その時だった。 かたわらを固める兵達が、上空を見上げている。 中にはある一点を指差している者もいた。 何事かとカイはそちらに視線を移す。と、遥か上空には使者の証である薄藍の布が、糸の切れた凧のように漂っている。 なぜこのような所に。 疑問に思いながらも、カイは風上に視線を巡らせる。 その方向にあるのは他でもない、陥落したブイオの砦だった。 胸騒ぎが、嫌な予感に変わる。 そこからとって返したい衝動に駆られたが、今は戦の真っ最中である。 総大将がそのようなこと、できようはずがない。 そのカイの苛立ちにも似た内心を悟ったのだろうか、脇を固める重臣達が口々に言った。「弟君、いかがでしょう。そろそろ退かれては……」「我々の力を知らしめるのには、もう充分なのではありませんか?」 一瞬ためらった後、だがカイは首を左右に振る。 相手が防御に徹しているのは、必ずしもこちらが圧しているからではない。 べヌスがあえて防戦に全兵力を傾けていることに、カイは気が付いていた。 その証拠に、派手に戦闘が行われている割には、双方の犠牲はさほど出ていない。 ここで退いてしまっては、自分にとっては最良の結果ではあるが、兄である光神は納得してくれないだろう。 さてどうするか。 カイが決断を下しかねていた、その時だった。彼方から、甲高い音が聞こえた気がして、カイは長い耳をぴくりと動かす。 神経を聴覚に集中し、研ぎ澄ませる。 途切れ途切れに聞こえてくるのは、伝
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35 再会

 昼間幾多の生命が散っていった平原を、月明かりが照らしている。 その中を、漆黒の駿馬が駆け抜ける。 乗り手は言うまでもなく闇の神にして王たるべヌスである。 彼が目指しているのは、ブイオの砦。 敵の手に落ちたその場所へ一人で行こうとする彼を、ノクトを始めとする重臣達は止めた。 確かに使者からもたらされた書状にも、一人で来いとは書いていない。 けれど、べヌスは頑として首を縦に振らなかった。 その理由は、アウロラにある。 彼女はただ一人光神の本陣で、諸将と対峙したのだ。 神であり王である自分が、一介の巫女である彼女にさせてしまったことをしない訳には行かない。 そんな矜持と後悔の念が、べヌスをとらえていたのである。 こういった理由で、彼は一人ブイオへ向かっていたのである。 やがて視線の先に、陥落した砦が浮かび上がって見えた。 かつては夜通し明かりが焚かれていたその砦も、今は黒い塊にしか見えない。 飛び降りると、べヌスは手近な杭に馬を繋ぐ。 そして、静まり返るかつての砦に向かい呼びかけた。「弟御、来たぞ。どこにいる?」 と、暗がりの中からぼんやりと明かりが近づいてくる。 思わず腰の剣に手をかけ身構えるべヌスの前に現れたのは、甲冑姿の女性だった。 あの人は、確か……。「わざわざのお出まし、感謝いたします。私は弟君の補佐役……」「……婀霧、だったか?」 その一言で、婀霧は凍りついたように立ち尽くす。 それほどまでに自分は恐ろしい顔と声をしていたのだろうか。 べヌスは取り繕うべく何か声をかけようとしたが、うまく言葉が出てこない。 小さく吐息をもらすべヌスを前に我に返ったのだろうか、婀霧はあわてて一礼する。「失礼いたしました。弟君がお待ちです。どうぞこちらにお越しください」
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36 対峙

 水の結晶は、カイの力に呼応するようにちかちかと瞬き始める。 そしてまばゆい光を放つと、それは光神エルト・ディーワの像を結んだ。 その姿を一瞥すると、カイは冷たくこう言い放った。「さっきも言ったとおりだ。俺はもうあんたの道具にはならない。自分でカタをつけてくれ」 言い終えると、カイは腰に履いていた剣を投げ捨てる。 唖然とする一同の視線を背に受けて、カイは振り返ることなく大広間を出ていった。 ディーワとべヌス、そしてやや離れた所に控える婀霧、三者の間にはしばし嫌な沈黙が流れる。 べヌスは現れたディーワの虚像とは目を合わせようとせず、冷たくなったアウロラを見つめるばかりである。 その様子に、婀霧は意を決したように息を飲むと、かすれる声で切り出した。「……最期の時、巫女殿はこうおっしゃいました。陛下にお仕えできて幸せだったと」 瞬間、べヌスの身体がぴくりと動いた。 ゆっくりと顔を上げると、漆黒の瞳を婀霧の方に巡らせる。「……まことか?」 無表情なべヌスの声に、婀霧はうなずく。「こうもおっしゃっていました。いつか必ず、あなたの元へ、と」 言い終えるやいなや、婀霧はうなだれ声を上げて泣き始める。「本当に、申しわけありません。私が……私がもう少し早く巫女殿の元に駆けつけていれば、こんなことには……」 けれど、べヌスは目を伏せゆっくりと頭を左右に振った。「そなたのせいではない。気に病むな。すべては……」 ひとたびべヌスは言葉を切った。 アウロラに視線を落とすと、べヌスは静かな声で告げた。「吾の咎だ。吾が……」 言うと同時に、一筋の涙がべヌスの頬を伝い落ちる。 武神べヌスの涙
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37 懺悔

 べヌスの視線を受けてもなお、ディーワは何も語ろうとしない。 そんな『友人』に向かい、べヌスは絞り出すように言った。「そう、なのか? そなたは吾を亡きものにしたいほど、忌み嫌っていたのか?」──それは違う! ── ようやくディーワは声を上げる。 その目は珍しく鋭く輝き、アルタミラを名乗る少女を見据えている。──私をそそのかし戦を起こさせて、何が楽しい? ──「そそのかすですって? 私は一つの可能性を示しただけ。行動を起こしたのはあなたじゃない」 ばさり、という羽音と共に、アルタミラは翼を羽ばたかせる。 同時に身体は中空に浮かぶと、夕闇色の光を放つ。「待て! 話はまだ……」 咄嗟にべヌスは立ち上がり、アルタミラを捉えようとする。 だが、彼の手が少女に触れる前にその姿は混沌の中へと溶けていった。 唖然として何もない空間を見つめるべヌス。 その背に向かい、ディーワは静かに語りかけた。──……あの少女の口車に乗せられ、行動を起こしてしまったのは私の咎だ。どんなに謝罪しても足りぬことはわかっている。しかし……──「……そうだ。もう遅い」 けれど、その言葉に対しべヌスは振り返らなかった。 そのまま倒れ伏す婀霧に歩み寄ると、息があることを確認する。 そして、その身体を横たえながら静かな口調で告げた。「そなたの忠臣は無事。気を失っているだけだ」 ようやくべヌスはかつての友をかえりみた。 漆黒の瞳からは、いかなる感情も読み取ることはできなかった。──ベヌスよ、私は……──「言い訳ならば、聞きたくはない。吾の目の前にあるのは、現実だけだ」 その時、ベヌスの目か
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38 呪い

 婀霧とディーワ、両者の叫びがベヌスの耳に届いたかどうかはわからない。  けれど、真紅の沼に膝を付くべヌスは嗤っていた。  光を失いつつある漆黒の瞳をディーワに向け、呪いの言葉をつぶやく。 「以後、闇は安息をもたらすものにあらず。人々に恐怖をもたらすものとなろう。恨むなら自身を恨め、光神よ……」  言い終えると同時に、ベヌスの身体は崩れ落ちる。  赤い沼に倒れた身体は、程なくして黒い霧となり四方へと散っていった。 「……これは一体?」  驚きの声を上げる婀霧。  一方ディーワは、一部始終を見届けると重いため息をついた。 ──その身は滅びても、精神はこの世に遺すか。それほどまでに……──  私を恨んでも恨みきれぬ、という訳か。  そう吐き出すように言うと、ディーワは目を閉じ頭を揺らす。  ほぼ同時に、その輪郭は揺らめき消えていく。  水の結晶の効力が切れかけているのだ。 「待ってください、大主! 私達はどうすれば……?」  光神の全権代理人たるカイは、その任を放棄して去った。  その言葉が本心であるならば、戻ってくることはないだろう。 ──これ以上……流血は、無用。婀霧、そなたが……に代わって……──  途切れ途切れに聞こえてくる言葉を耳にした婀霧は、思わず大きな声を上げる。 「私が? 私に和議を結べと? それは……」  あまりにも荷が重い。  自分より相応しい者がいるのではないか。  そう固辞しようとした婀霧だったが、伝える前に光神の姿は光の粒となって霧散する。  同時に水の結晶は内包していた力を使い果たし、ひび割れれ粉々に砕け散った。  残された婀霧はしばし呆然と立ち尽くしていたが、すぐに我にかえり周囲に視線を巡らせた。  ブイオ攻略戦の折の犠牲者が納められた無数の棺。  和議を結ぶのであれば、彼らを家族の元へ返さなければ。  そして。  婀霧は、アウロラとベヌス、二人分の血を吸った短剣を拾い上げる。  未だベヌスの血で赤く染まっている刃をマントで拭うと、アウロラの棺のかたわらに膝を付く。  そして、改めて短剣をアウロラの手に握らせてやった。 「巫女殿、あなたの思いは、私が引き継ぎます。闇の領域と和議を結んで、この争いを終わらせます」  
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-06-30
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39 独白

 陛下から賜った短剣を首筋にあて一気に引こうとした瞬間、わたくしはまたしても恐ろしいものを見てしまいました。 そこは、まがいもなく闇の神殿で、石畳の上には二人の武人が倒れていました。 お一方は見事な金色の髪をしておられるところからみると、光の領域の方でしょう。 もうお一方は漆黒の髪に黒い甲冑をまとっておられるので、闇の領域にかかわる方なのだと思います。 そんなお二人に剣を向けていたのは、一人の少年でした。 長い黒髪に漆黒の瞳を持つその少年は、端正な顔に薄笑いを浮かべておりましたが、感情はまったく読み取ることはできません。 ですが、わたくしにはあることがわかりました。 無慈悲に剣を振り下ろそうとしている少年の『中』には、陛下がおられると。 けれど、少年は陛下でありながら陛下ではないのです。 疑問に思って目を凝らしてみると、陛下に隠れるようにして、少年の自我はこちらに背を向けて泣いているのです。 ……そう、陛下がどういう訳だがわかりませんが、この少年を取り込もうとしているのです。 なぜそんなことになってしまったのか。 どうして陛下はこの少年と一体化しようとしているのか。 わたくしには、その理由はまったくわかりません。 けれど、これだけはわかります。 石畳で倒れている二人の武人は、陛下に取り込まれようとしているこの少年に殺されてしまう、と。 このままではいけない。 陛下に、この少年に、罪を犯させてはならない。 なんとしても止めなければ。 けれど、わたくしの声は届きません。 当然です。わたくしはその場にいないのですから。 これは、闇が巫女であるわたくしに見せている光景なのです。 このまま時が流れたら起きるであろう未来の光景なのでしょう。「巫女殿! いけません!」 背後から、不意に声が聞こえると同時に、恐ろしい光景は消え失せました。 婀霧様がわたくしを気遣って、こちらに向かい駆けつけてくださったのです。 刹那、首筋が熱くなりました。 目の前が次第に暗くなっていき、足許がおぼつかなくなっていきました。「巫女殿、なんてことを!」 婀霧様は赤く濡れた床に膝をつき、わたくしを抱き起こしました。 自らのマントを引き裂くと、それをわたくしの首筋にあてて必死に止血しようとしてくださっているのがわかりました。 けれど、とめどもな
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