いつもであれば何かと理由をつけて城を抜け出そうとするべヌスが、今日はなぜか文句一つ言わず精力的に政務を行っている。 思いもかけないことに、執務室を訪れたノクトは首をひねる。 執務机の前で書類に向かうベヌスの横に立つと、散々悩んだ挙句、ノクトは無言で自らの掌をその額に当てた。 「何事だ。驚くではないか」 不機嫌そうにその手を払いのけるベヌスに向かい、ノクトは 神妙な顔で告げる。 「発熱などではないようですね。一体どういう風の吹き回しですか、兄上? このぶんでは明日は大嵐が来てしまいますぞ?」 普段から生真面目なノクトである。果たして冗談だか本気だかわからない言葉に、べヌスは小さく息をつき苦笑を浮かべる。 「吾が自主的に執務をするのは、そんなに妙か? ……吾もそれなりに思うところがある。それに、お前はいつも吾に政務をしろと口うるさく言っているではないか」 一体吾に政務をしてほしいのかほしくないのか、まったくもってわからぬ。 ノクトは無言のまま、そうぼやくベヌスを見つめていたが、ややあって吐息をつくとやはり訳がわからないと言うような表情を浮かべている。 そんなノクトにべヌスは執務の手を止め向き直った。 「それより、何用だ? まさか吾が働いているのを確認する為だけにここへ来たわけではあるまい?」 そう問われて、ノクトはようやくべヌスを訪ねた本来の用件を思い出したようだ。 手にしていた書状をうやうやしくベヌスに向かい差し出す。 捺されている封印は、紛れもなくベヌスの無二の親友にして光の神、エルト・ディーワの物であった。 しばしベヌスはそれを不安げな表情でまじまじと見つめていたが、受け取るやいなや封を開き中の書状を取り出す。 だが、文章を目で追ううち、その表情は次第に柔和なものとなっていった。 その様子にノクトの表情はようやく和らいだ。 「そのご様子では、火急の用件が起きたというわけではなさそうですね。安堵いたしました」 してディーワ殿は一体何とおっしゃってきているのです、と言
Last Updated : 2025-06-11 Read more