始まりの物語─青き瞳の巫女─

始まりの物語─青き瞳の巫女─

last updateLast Updated : 2025-06-06
By:  内藤晴人Updated just now
Language: Japanese
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遥か昔。 まだヒトと神と呼ばれる存在が同じ世界に暮らしていた頃の物語。 闇をつかさどる神リグ・べヌスの元に供物として一人の女性アウロラが贈られてきた。 初めて見る神を前に怯える彼女の瞳は、ほとんどの住人が暗色の瞳を持つ闇の領域では稀な美しい青色をしていた。 自らの顔を異形と卑下するアウロラに、べヌスは今までにない感情の動きを覚えるのだが……。

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Chapter 1

序章

 もうどれくらいかわからなくなるほど、気が遠くなるくらい長い時を渡ってきた。

 吾(われ)は闇を統べる者、リグ・ベヌス。

 吾とその悠久の時の流れを共にするのは、光のの象徴たるエルト・ディーワ、その弟カイ・ベルグ、そして光と闇の調和者であるアルタミラ。

 この世界には、吾等のように長き時を渡りかつ不思議な力を持つ『神』と呼ばれる長命種と、百年に満たぬ時を生きる短命種が共に住んでいた。

 我々の目前には、たくさんの存在が現れ、そして消えていった。

 仲睦まじくなった人々は、吾よりも先に年を取り、吾よりも先に逝ってしまう。それが普通のことであり、世の定めだった。

 あまりにも多くの『友』を失った吾は、すでにもう流す涙も枯れ、失うことは当然のことと思っていた。

 そんな中、この世界を支える神と呼ばれる存在の一翼たる吾と、先の三人の友は、この世界の終末を見届ける時まで共に在るのだ。

 吾はそう信じて疑わなかった。

 折あらば酒食を共にし、語り合う、大切な存在。

 だが、ある時異変が訪れた。

 調和者アルタミラが、前触れもなく何処かへ姿を消したのである。

 吾とディーワ、そしてカイは八方手を尽くし彼女を探したが、使いの者が戻ってくることはなかった。

 今思えば、あれがすべての始まりだったの気もしれない。

 けれど、吾に何ができたのだろう。

 今語ろう、始まりの物語を。

     ※

 闇の領域は、人々の歓喜に満ち溢れていた。    

 人々は『闇の王』の誕生を心から祝っていた。

 元々、闇の領域には闇を統べる『闇神』が存在していたが、『王』と呼ばれるものは存在しなかった。

 けれど、人々は自らを統治し導く存在を欲した。

 そこで彼らは、闇神リグ・ベヌスに王への即位を請うた。

 『生き神』として神殿に押し込められることを是としないベヌスは、快くその願いを聞き入れた。

 何より、人々とともに有り、寄り添いたいと思ったがためである。

 そして、晴れて即位の儀が執り行われる事が決まったのだった。

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序章
 もうどれくらいかわからなくなるほど、気が遠くなるくらい長い時を渡ってきた。 吾(われ)は闇を統べる者、リグ・ベヌス。 吾とその悠久の時の流れを共にするのは、光のの象徴たるエルト・ディーワ、その弟カイ・ベルグ、そして光と闇の調和者であるアルタミラ。 この世界には、吾等のように長き時を渡りかつ不思議な力を持つ『神』と呼ばれる長命種と、百年に満たぬ時を生きる短命種が共に住んでいた。 我々の目前には、たくさんの存在が現れ、そして消えていった。 仲睦まじくなった人々は、吾よりも先に年を取り、吾よりも先に逝ってしまう。それが普通のことであり、世の定めだった。 あまりにも多くの『友』を失った吾は、すでにもう流す涙も枯れ、失うことは当然のことと思っていた。 そんな中、この世界を支える神と呼ばれる存在の一翼たる吾と、先の三人の友は、この世界の終末を見届ける時まで共に在るのだ。 吾はそう信じて疑わなかった。 折あらば酒食を共にし、語り合う、大切な存在。 だが、ある時異変が訪れた。 調和者アルタミラが、前触れもなく何処かへ姿を消したのである。 吾とディーワ、そしてカイは八方手を尽くし彼女を探したが、使いの者が戻ってくることはなかった。 今思えば、あれがすべての始まりだったの気もしれない。 けれど、吾に何ができたのだろう。 今語ろう、始まりの物語を。     ※ 闇の領域は、人々の歓喜に満ち溢れていた。     人々は『闇の王』の誕生を心から祝っていた。 元々、闇の領域には闇を統べる『闇神』が存在していたが、『王』と呼ばれるものは存在しなかった。 けれど、人々は自らを統治し導く存在を欲した。 そこで彼らは、闇神リグ・ベヌスに王への即位を請うた。 『生き神』として神殿に押し込められることを是としないベヌスは、快くその願いを聞き入れた。 何より、人々とともに有り、寄り添いたいと思ったがためである。 そして、晴れて即位の儀が執り行われる事が決まったのだった。
last updateLast Updated : 2025-05-30
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1 出会い
 闇の神殿は、常闇を生み出すため地下にあった。 その常闇の中に、まるでひと目を避けるようにしてその女性はいた。 彼女は、闇の巫女としてこの神殿に送らてきた。 深淵の闇に仕える存在、そう言えば聞こえは良いが、いわば闇に捧げられた『供物』だった。  何故彼女が選ばれたのか。 その理由は簡単である。 彼女は明らかに、他の人々と異なっていたからである。 聞こえてきた背後からの足音に、彼女は身を硬直させる。 それに呼応するように、回廊から明かりが漏れてきた。 彼女は身を強張らせたまま、冷たい石の床に膝をつき深々と頭を下げる。 身につけた装飾品の立てる音も聞こえぬくらい、彼女は緊張していた。 足音が、不意に止まる。 未だ頭を垂れたままの彼女は、固く目を閉じていた。けれど……。「どうした? そのように震えて? 」 突然声をかけられて、驚きのあまり彼女は思わず顔を上げた。そして、小さく悲鳴を上げて後ずさる。 そう、そこには片膝をつき彼女と目線を合わせようとしていた闇の神ベヌスの姿があったからだ。「も……申し訳ございません……わたくしは……」 消え入りそうな小さな声で言いながら、彼女は先程よりもより深々と頭を垂れる。 その様子を見ていたベヌスは小さく吐息をつくと、 苦笑を浮かべながら言った。「謝ることはない。それよりも、そんな調子では話もできぬ」「恐れながら、わたくしは卑しい巫女……神に捧げられた供物でございます。偉大なる闇の神と言葉をかわすなど……」 彼女のその言葉に、ベヌスはさも面白くて仕方がないというように笑みを浮かべる。 そして石畳にどっかりと腰を下ろした。「現にこうしてかわしているではないか。吾が許す。顔を上げろ」
last updateLast Updated : 2025-05-31
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2 闇の神
 目が覚めたのは、見覚えのない部屋だった。横たえられていたのは、質素だが清潔な寝台である。 壁の数カ所に据え付けられた燭台(しょくだい)の蝋燭(ろうそく)には、柔らかな炎が揺らめいている。──自分は一体、どうしてしまったのだろう。 疑問に思いながら彼女は身体を起こす。「気がついたかい? 急に倒れるから、主様驚いてたんだよ」 声が聞こえた方に視線を向けると、そこには人好きのする笑顔を浮かべた、ややふくよかな女性が座っている。 先程やって来たベヌスの巫女という人だった。「ここは、どこですか?」 恐る恐る尋ねる彼女に、女性はころころと笑った。「神殿の奥の間だよ。私達、みんなここに住んでるんだ」 そうですか、とつぶやいて、彼女は部屋を見回した。 無駄な装飾のない、簡素な部屋だったが、粗末に扱われていると言う訳ではなさそうだった。「あんたは巫女さんとしてここに来たんだね?」 そう問われて、彼女はうなずく。「その様子だと、あんたも故郷から脅されて来たんだね? べヌス様は恐ろしい方だって」 再び、彼女はうなずく。 と、女性は納得したようだった。「そりゃあ、そうさ。この世界を支える偉大な神様のお一人だもの。知らない人から見たら、ねえ」 その言葉につられて、彼女はうなずく。 さもおかしくて仕方がない、とでも言うように笑いながら、女性は室外に声をかけた。「だそうですよ、主様。やっぱり主様は少々誤解されているみたいですよ」 驚いたように彼女はその方向を見める。 果たして、いつの間にか部屋の戸口にはべヌスが佇んでいた。「……マルモ、手間をかけた。下がっていいぞ」 はいはい、と言いながら笑いを噛み殺して女性……マルモは立ち上
last updateLast Updated : 2025-06-01
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3 闇の神殿
 育った村では周囲から奇異の目で見られ忌み嫌われていたアウロラを、先住人たちは暖かく迎え入れた。 中でも教育係を買って出た古株の巫女マルモは、気さくに語り屈託なく笑う、今までアウロラが接したことのないような人物だった。「本当にくだらないね。別に尻尾や角が生えてるわけじゃあるまいし……と」 あわててマルモは口を閉じる。 今は行方知れずとなっている調和者と呼ばれる神アルタミラは、翼と角を持つという伝承を思い出したからだろう。 その後マルモは、アウロラを腫れ物のように扱った彼女の故郷の人々のことを、まるで自分事のように怒り散々にこき下ろす。 そして、申し訳なさそうに顔を伏せるアウロラの頭を優しくなでながらこう言った。「安心しな。ここにいる連中には、そんなことでとやかく言うような馬鹿はいないよ。一緒に主様をお支えしよう」 マルモの言葉の通り、この神殿に住む人々はベヌスを心より信奉していた。 闇を統べる神、そしていずれこの闇の領域を統治する偉大な王になるその存在に仕えていることを、心の底から誇りに思っていた。「まあ、城下に住んでる人間なら主様を間近に見てるからそんなことはないけれど、あたしらみたいに田舎育ちだと伝え聞く主様しかしらないからねえ」 そりゃあ、あたしも実際にお会いするまでは恐ろしい方だと思っていたさ。 そう言ってマルモはけたけたと笑った。「でも、あんたが来てくれて良かったよ。さすがに神事で舞を捧げるのがあたしみたいな年増じゃサマにならないからね」「……神事、ですか? 」 それは一体、とでも言うように首をかしげるアウロラに向かい、マルモはそう言われてもわからないよねえ、と一人納得したようにうんうんとうなずく。「主様が闇に感謝を捧げる儀式の時、巫女がその御前で舞を捧げるんだよ。大丈夫、次の儀式まではまだまだ時間があるし、そんなに難しいものじゃないし、あんたならすぐに覚えられるよ」
last updateLast Updated : 2025-06-04
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4 生い立ちと葛藤
 新しく送られてきたあの巫女は、あれからどうしたのだろうか。 やはりまだ体調がすぐれず、寝所で伏せっているのだろうか。 一抹の不安を感じながら神殿にやって来たベヌスの耳に飛び込んできたのは、手拍子の音と調子を取るマルモの声である。 一体何事かと歩を早めると、目に入ってきたのは神事での舞を舞うアウロラと、指導するマルモの姿だった。 まだややぎこちないものの、細くしなやかなアウロラの肢体は薄闇の中で闇に捧げる舞踊を華麗に舞っている。 が、その視線がベヌスのそれとぶつかった時、彼女は唐突に舞うのを止めた。 そして、慌てて膝を付き頭を下げる。 それに気がついたマルモが腰に手を当ててあきれたように言う。「あらあら、主様。いつからそこにいらっしゃったんです? 」 嫌ですよ、のぞき見するなんて。 そういつものように笑うマルモに、ベヌスはどこか決まり悪そうに言う。「今さっき来たばかりだ。そなたの様子を見に来たのだが、もうすっかり良いようだな」 声をかけられたアウロラはその身を固くし、顔を上げることなく返答する。「お気遣いいただき嬉しゅうございます。……お見苦しいものをお見せして、大変失礼いたしました」 相変わらずのアウロラの様子に、ベヌスは苦笑を浮かべることしかできない。 そんな両者を見比べていたマルモは、突然ぽん、と手をたたいた。「そうだ、主様。どうせならアウロラに城の中や城下を案内したらいかがです?」 そのうちこっちの生活に慣れてきたら城下へお使いに出ることもあるでしょうし、アウロラは箱入り娘だったらしいから、下手したら迷子になっちゃいますよ。 突然のそんなマルモの発案に、アウロラは思わず顔を上げる。 青い瞳は、驚きのあまりこれ以上ないくらい大きく見開かれていた。 そんな彼女の様子など意に介さず、マルモはその腕を取り立ち上がらせる。 一方のベヌスはどこか気まずそうに問う。
last updateLast Updated : 2025-06-05
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5 闇の城
 長い階段を昇り切ると、唐突に視界が開けた。  薄暗がりに慣れた目には、昼下がりの日差しはあまりにも眩しく、アウロラは思わず目を細める。 「これが吾の居城……闇の城だ。さして面白いものがあるという訳ではないが」  ベヌスが指差す方に視線を向けると、そこにはその言葉通り灰色の城があった。  神殿に来る途中に遠目には見たが、間近に見るそれはアウロラにとって今まで見たことのないほど大きく立派な建造物だった。  言葉もなく城の尖塔を見上げるアウロラに、ベヌスは柔らかく微笑む。 「吾には過ぎた代物だ。さりとて王たるもの示しがつかぬと皆が言うのでな」  正直、持て余している状態だ。  そう言うべヌスに、アウロラは驚いたように数度瞬いた。 「城内へ参るぞ。吾から離れるな」 「かしこまりました」  僅かに会釈すると、アウロラはべヌスに従って歩き出す。  そして、城内に招き入れられたアウロラは、初めて見る光景に言葉もなかった。  余計な装飾が一切ない、質実剛健そのままの城の内部、それはまるでべヌスの性格を表しているようでもあった。 「右手にあるのが謁見の間、その脇に控えの間。そして奥にあるのが晩餐のための広間……もっとも客人など滅多に訪れぬから、使うことも稀だが」  さして面白く無さそうに説明するべヌス。  対してアウロラは逐一足を止め、興味深げに眺めやる。 「上の階には吾の居室と執務の間、他客間がある。向こうの離れには、城を守る近衛兵が詰めておる。其方も見るか?」 「……いいえ。身分卑しきわたくしが城内に入れるだけでも破格のことですのに……」  顔を伏せ、遠慮がちに言うアウロラに、べヌスが何か言おうとした、その時だった。 「兄上、探しましたぞ! 政務が溜まっているというのに、何をしておられるのです?」  背後からの声に、べヌスはわずかに肩をすくめる。  そして、緩く波打つ黒髪をかき上げながら溜息をつく。 「吾がするより、其方に任せ
last updateLast Updated : 2025-06-06
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