裕司の最初の反応は、「あり得ない」だった。まだ自分から離婚の話なんてしていないのに、紗綾が勝手に?そんな馬鹿な!頭の中に、ある一束の書類がふっと浮かんだ。裕司は焦るように車椅子の向きを変え、書斎へと向かった。書斎の書類の束の中、一番下にあった一枚の紙。離婚届だった。そこにははっきりと、「感情の破綻により、双方合意の上で離婚する」と記されており、その下には紗綾と裕司の署名があった。裕司は信じられないという顔でその紙を見つめ、目の奥からじわじわと怒りの紅が滲み出していく。紗綾……最初から離婚を決めてたんだ。自分を騙して、離婚届にサインさせて、手続期間が終わるのを待ってとは……。裕司の顔色はみるみるうちに暗くなり、今にも雷が落ちそうな気配を漂わせながら、運転手に怒鳴りつけた。「探せ!全員使ってでも紗綾を見つけ出せ!今度はどんな芝居を見せてくれるのか、見ものだな!」その後の三日間、裕司は怪我した足を引きずりながら、紗綾が現れそうな場所を片っ端から回った。彼女が以前勤めていた病院、二人で行った思い出の場所、そして紗綾の実家――隅々まで探し尽くした。だが、誰もが首を横に振った。「紗綾さんがどこに行ったかは分からない」と。怒りを全身にまといながら帰宅した裕司を、裕司の母と優芽が出迎えた。「裕司、何してるのよ?こんなに騒ぎ立てて……森田グループの株が大暴落したの知ってるの?」「そうだよお兄ちゃん、紗綾なんて探してどうするの?離婚できてラッキーじゃん?どうせ好きでもなかったでしょ」裕司は怒りを抑えきれず、車椅子の肘掛けを拳で叩きつけた。「俺は聞きたいんだよ!紗綾が何様のつもりで俺と離婚したのかってな!」裕司の母は口を開こうとしたが、ちょうどその時、詩音が部屋に入ってきた。涙ぐみながら裕司に駆け寄り、まるで拗ねた恋人のようにしがみつく。「裕司……ずっと家で待ってたのに。どうして会いに来てくれなかったの?」その様子を見た裕司の母は、言いかけた言葉を飲み込んだ。詩音がそばにいれば、裕司も紗綾の離婚理由なんて気にしないはず。彼女は裕司の肩を軽く叩いて、静かに部屋を後にした。部屋には裕司と詩音の二人きり。詩音は嬉しそうに持ってきた荷物を広げる。「裕司、元気ないって聞いてたから、私が料理作ってきた
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