斎藤梨央(さいとう りお)が七歳のとき、三条一平(さんじょう いっぺい)の母・三条楓(さんじょう かえで)は親戚や友人によく話していた。「一平ったら、梨央ちゃんの言うことしか耳に入らないんですのよ。指示されたら、迷うことなく動いてしまうんですから。梨央ちゃんが絵を描いてる時に、周りの子たちが少し騒がしくて眉をひそめたんですけれど、それだけで、あの子ったらすぐに封筒でお口を塞いでしまったんですの」十四歳のとき、梨央が欲しがっていた絵を誰かが買ってしまった。するとプライドの高い一平が、何ヶ月もその買い手の家の前に通い詰め、譲ってほしいと頼み込んでいた。友人に「女のことでそこまで?」とからかわれれば、顔を真っ赤にして殴りかかっていた。「うるせえ!梨央を他の女と一緒にすんなよ!」十七歳、梨央が留学で国外に行った。すると、他の家がこぞって自分の娘を一平に紹介し始めた。だが、一平の父・三条匡邦(さんじょう ただくに)はきっぱりと断った。「一平は俺に似て、一途な性格だ。あいつの心には斎藤家の梨央しかいない。勝手に決めたら、大ごとになるぞ」二十歳で帰国した梨央を、一平はまた三年かけて求め続けた。甘えたり、すがったり、時には脅したり――とにかく何でもした。梨央がいる場所には、必ず彼がそばにいた。ある日、会社の男性同僚から飴をもらったと聞いた彼は、会社の前で待ち伏せしていた。そして、不機嫌そうに唇をとがらせながら言った。「もしかして、あいつの気持ちに応えたのか?」思わず吹き出してしまった。「しないよ。ずっと、一平だけ」そんなふざけたやり取りのあと、二人は付き合い始めた。それからの一平は、まるでスイッチが入ったかのように、彼女に尽くし続けた。梨央が少しでも興味を示したものは、なんとしてでも手に入れようとした。プロポーズの日、A市中のバラを買い占め、彼は堂々と宣言した。「世界で一番大切な宝物を見つけたんだ!」彼女の薬指に指輪をはめながら、感激のあまり涙をこぼしていた。梨央も目を潤ませながら、そっと誓った。「お金があってもなくても、健康でも病気でも、私はあなたのそばにいる。一途な心で、ずっと一緒にいようね」――けれど。彼に他の女がいると知った瞬間、その誓いの言葉は、刃となって胸に突
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