智昭は家に戻ると、美紀の遺体をベッドの上にそっと横たえ、優しく布団をかけた。「美紀……少し眠れば、すぐに良くなるから……」彼はカーペットの上に腰を下ろし、ベッドに背を預けた。首元のネクタイを引きちぎるように外して床に投げ捨て、酒瓶の蓋を開けて一気に飲み干す。手には、家族三人が写った写真立てを強く握りしめていた。涙と酒の匂いが混ざり合い、喉の奥へと流れ込んでいく。胃の奥がムカつき、智昭はふらつきながら写真立てを持って洗面所へと向かった。だが――部屋の中はあまりにも空っぽだった。生活の痕跡がまるでない。その瞬間、彼の目に戸惑いの色が浮かび、足が止まる。思考が頭の中で爆発するように散らばった。智昭は狂ったようにクローゼットを漁り始め、服を一枚一枚床に叩きつけては探し続けた。だが、美紀の服は一着も見つからない。「ありえない……そんなはずない……美紀、お前は絶対に俺から逃げられない……!」酒瓶を床に叩きつけると、ガラスの破片が四方に飛び散った。彼の目には冷たい光が宿り、怒りに満ちた声で叫んだ。智昭はベッドに駆け寄り、美紀の肩を両手で掴み、激しく揺さぶった。声はかすれ、嗚咽まじりに問い詰める。「なんで俺を置いていったんだよ!最初から……最初から俺のことなんて捨てるつもりだったのか!?お願いだから……俺を一人にしないでくれ……美紀……行かないでくれ……」目元が真っ赤に染まり、うつむいたまま呟く。「そうだ……プレゼント……プレゼントを……」突然立ち上がった智昭は、書斎へと駆け込んだ。金庫の前にしゃがみ込むが、手が震えて思うように動かない。自分の手を強く握りしめ、無理やり平静を保とうとする。心の底からの期待を胸に、ファイルを開く。だが、そこにあったのは「離婚協議書」と「親子関係の解消届」――そのタイトルが、彼の視界でどんどん大きくなっていく。目の光が一気に消え失せた。「違う……こんなの嘘だ……」智昭は二枚の書類を粉々に破り捨てた。もう元に戻せないほどに。それでも諦めきれず、金庫の前に膝をついたまま、中にあったスマホを見つめる。祈るような眼差しで、それを手に取る。スマホの画面に、通知が浮かび上がった。「美紀からメールが届いています……」
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