美紀は不安げな表情で俊彦のオフィスへと向かっていた。胸の奥に、どうしても拭いきれない予感が渦巻いていた。ドアを開けると、彼女は一転して優しげな笑顔を浮かべ、甘えるような声で話しかけた。「お兄ちゃん、この前は私が悪かったよ!胃の調子はどう?最近は前みたいに痛んでない?」俊彦は冷たい目で彼の腕に絡みついてくる彩子を見下ろした。彼女がこうして媚びてくる時は、決まって何か企んでいる時だと、誰よりもよく分かっていた。彼は無言でデスクの椅子に腰掛け、美紀が今日持ってきてくれたお粥を手に取り、無造作に飲み始めた。目の前の光景に彩子は目を見開き、驚きの声を上げた。「お兄ちゃん!ご飯食べてくれるようになったの!?」「まさか、この前あなたの部屋で会ったあの女の人が彼女だったりして……。なるほど、特効薬を見つけたってわけね?」彩子はニヤニヤとからかうように言いながらも、頭の中では別の計算が動いていた。今日こそ、俊彦の口から真実を引き出してやるつもりだった。俊彦はちらりと彩子を一瞥し、冷たく言い放った。「彼女はただの食事療法士だ」その言葉を彩子は信用していなかった。彼女は俊彦の手からお粥の器を奪い取り、からかうように笑った。「へぇ、あなたがここまで気に入るお粥なんて、ちょっと味見させてもらおうかしら……」俊彦が止めようとしたが、間に合わなかった。お粥の味が口の中に広がった瞬間、彩子の体に電流が走った。これは……かつて智昭が彼女に飲ませてくれたお粥と全く同じ味だった。瞳孔が一気に収縮し、手から力が抜ける。器は床に落ち、粥があたりに飛び散った。俊彦は目の前の彩子に眉をひそめ、不快そうに言った。「お前、一体何がしたいんだ?」我に返った彩子は慌てて俊彦の腕を掴み、取り繕うように叫んだ。「ご、ごめんねお兄ちゃん!また今度来るわ!」そう言って、彼女はオフィスを飛び出した。息を荒げながら、廊下を駆け抜ける。美紀がずっと自分たちの近くにいた――その事実が信じられなかった。唇を押さえ、心の中で震えるように呟く。「もし智昭があの女が美紀だって気づいたら……」彩子は自分に言い聞かせた。これはきっと偶然だ。もしかしたら、あのお粥はただのテイクアウトだったのかもしれない……。病院に戻ると、美紀が受付で看護師たちと楽し
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