飛行機に乗った瞬間、まだどこか現実味がなかった。海外に出てからの六年間、一度も帰国できるなんて思っていなかった。だって、あの時聖哉が言ったのよ。「もう二度とお前には会いたくない」って。でも、今回の帰国は彼の方からの申し出だった。すべてを手配してくれて、清水夏子(しみず なつこ)がジュエリーデザインコンテストで優勝した祝賀パーティーに出席するために、私を呼び戻したのだ。あの時は遠くへ行きすぎて、飛行機も乗り継ぎ二回。着陸してから、腕の中の篠原陽翔(しのはら はると)が少しずつ目を覚ました。見知らぬ場所に来たせいか、不安そうな顔で私に手を伸ばしてきた。「ママ!」そのか細い声に胸が締め付けられて、私は急いで彼を抱き上げた。到着ロビーを出たところで、タクシーを呼ぼうと手を挙げた瞬間、ポケットの中の携帯が鳴った。その番号はもうとっくに削除したはずなのに、どうしても忘れられない番号だった。電話が自動的に切れるまで、ただ立ち尽くしていた。そしてすぐに、二度目の着信。私は深呼吸して、通話ボタンを押した。江原聖哉(えはら せいや)の声が、すぐに耳に届いた。「空港出た?助手を向かわせてある」その声は昔と変わらず、冷たくて、よそよそしいほどに事務的だった。私は苦笑して答えた。「いいよ、自分でタクシー呼べるから」聖哉は少し驚いたように黙った。無理もない。あの頃の私は、彼にすべてを世話されていた。一緒に暮らしていた数年間、食事も服も生活のすべてに手が行き届いていた。専属の運転手までいたのだから、自分でタクシーなんて呼ぶ必要もなかった。沈黙ののち、聖哉が口を開いた。「助手に迎えに行かせた。車のトランクに、俺が夏子に買ったプレゼントが入ってる。忘れずに渡してくれ」聖哉は、夏子のことを本当に大切にしている。あの頃、彼は夏子に豪華な結婚式を用意し、希少なダイヤを使って婚約指輪を特注で作らせた。それが全て、彼の愛の証だった。「分かった」私は淡々と返事をして、早くこのやり取りが終わることを願った。だけど聖哉は、電話を切らずに続けた。今度は、警告のような口調だった。「六年も海外にいたんだ。もう分かってると思うが、邪魔はするな。夏子を傷つけるようなことも、絶対にするな」私は一瞬、言葉を失った。
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