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第6話

Penulis: ジンジャエール
彼が私の手にある薬に手を伸ばそうとした瞬間、私はそれより早く薬をバッグにしまい込んだ。

「ちょっと風邪引いただけ、大したことないですよ」

夏子が口を挟んだ。

「最近天気悪いし、風邪ひいてる人ほんと多いよね」

聖哉は彼女の言葉を無視して、ずっと私のバッグを見つめ続けていた。

私はとにかくここから早く立ち去りたくて、一歩踏み出したところで聖哉に呼び止められた。

「晴美、お前、何か俺に隠してることあるだろ?もし病気なら言ってくれ。俺が一番いい医者を手配するから」

その言葉を聞いた瞬間、夏子の顔色が目に見えて固くなり、聖哉の腕に絡めていた手がぎゅっと強くなった。

「大丈夫です、江原社長、私……」

「晴美、俺たち、もう何も話せない関係になったわけじゃないよな?」

聖哉の問いかけは、私には理解できなかった。心の中の怒りが抑えきれなくなっていく。

「江原社長、数日前にこれ以上関わりたくないって言ったのはあなたですよね?私たち、もう話すことなんてありません。失礼します」

今度は彼が何か言う前に、私は素早く足を動かして階段を駆け下りた。

まさかここで聖哉に会うなんて、私自身も思っていなかった。

以前の私は、いつでも彼に会いたかった。

会えないとすぐに恋しくなって、胸が締めつけられた。

だけど彼はいつも忙しかった。

海外に行く前も、会える時間なんてほんのわずかで、ほとんどはメッセージか電話だけだった。

そして、私が海外に渡った後、聖哉からの連絡は一切なくなった。

それどころか、彼は私の連絡先をブロックして、私は異国の地で一人きり、もがき苦しんでいた。

帰国してからは、彼に会いたいなんて気持ちは一切なかったのに、こんなふうに出会ってしまうなんて。

私のうつ病は、もう長い。

一番辛かった時、自殺を図ったこともある。

一度だけじゃない。でも、どれも失敗に終わった。

最後の一回は、本当にもうダメかと思ったけど、それでも私は生き延びた。

家に帰ると、陽翔がリビングで私を待っていた。

昨夜、私は一睡もしていなかったし、陽翔もちゃんと眠れていない。

私は彼をお風呂に入れて、食事を作り、お腹いっぱいにさせた後、ベッドに連れて行って寝かしつけた。

ようやく少し眠気がきた頃だった。

焦げたような臭いが鼻を突いた。

最初は、隣の家がご飯でも焦がした
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