「俺が今後、きみを愛することはない」 初夜の寝室で、私の夫となったルクス・ミレトス公爵は言った。 明かりの少ない室内で、彼の綺麗な金の髪と深緑の瞳が鈍く光っている。「この結婚は、政治バランスを重んじただけの政略結婚。必要なのは利害と縁故。愛や情ではない」 本来であればとても冷酷な宣言だと思う。 けれど私は答える。微笑みさえ浮かべて。「ええ、分かっております。どうぞ、貴方のお心のままに」 どうしてこんなことになったのか。 夫が去った寝室で一人、私は数ヶ月前、まだ冬だった頃の出来事を思い出していた―― ミレトス公爵との婚約が決まった。 そう告げられたときの私の気持ちは「冗談じゃない!」だった。 私は伯爵家の次女クレア。十七歳。両親から冷遇されている……というほどではないが、あまり手もお金もかけられずに育った。 だから私はどこの家に嫁いでも生きていけるように、領地経営の勉強をがんばってきた。華やかな社交の場は誰もがやりたがるが、地味で苦労の多い領地の運営は嫌う奥様や令嬢が多い。 その点に目をつけて、自分の価値を高めるために努力してきたつもりだ。「ミレトス公爵のどこが不満なんだい。王家との血縁も濃い高貴なお方で、公爵位にふさわしい財産の持ち主でもある。年齢も十九歳と、お前と近い。伯爵家の我が家にとってこの上ない良縁だろう」 私の表情を見て父が言う。私は言い返した。「不満ですとも。公爵といえば、女たらしで有名な人ではないですか。いつも違うご婦人を侍らせて、泣かせた人数は山ほどです。そりゃあ私は、どこに嫁いでもやっていけるように覚悟していました。でもそれは、夫となる人と信頼を築けての話です! 誠実さのかけらもない人とパートナーになるなんて、考えられない!」 私はいとこのレナの話を思い出した。彼女も公爵に遊ばれて捨てられた女性の一人。『甘い言葉をささやくばかりで、何も責任は取ってくださらないのよ!』と泣いていたっけ。 レナと私はそんなに仲がいいわけじゃないが、その話を聞いたときは心から同情したものだ。 まだある。 私が夜会に出たとき、ミレトス公爵の姿を何度か見かけた。するとそのたびに違う女性を連れていたのだ。 表面上は丁重に扱っているように見えたが、実際はどうだ。アクセサリーのように女性を取っ替え引っ替えなんて、とんでもない。 その
Terakhir Diperbarui : 2025-06-10 Baca selengkapnya