All Chapters of 月島くんは日高さんのことがお好き。: Chapter 11 - Chapter 20

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【3】月島くんは一歩進んだ ー 僕と彼女の可愛い逢瀬②

「志望校、決まったら私に教えてね」「もちろん。一番に伝えるよ」その話の流れに乗っかって、僕も尋ねてみる。「日高さんは卒業したらどうするの?」「私?」「うん。日高さん、すっごい勉強頑張ってるから行きたい大学があるのかなって」「・・・えっとね、」「うん」「・・・N大」その答えは少し意外なものだった。N大といえば県内でも大きいマンモス校。僕自身も受験を視野に入れている大学だった。偏差値もそう高くはなく、学部や学科も沢山あるためうちの卒業生も毎年何人も合格している。もっと上を目指して県外に行くのかと思っていたが、高校の最寄駅から一本で行ける距離の場所とは。そう思っていたことが顔に出ていたのか、すずちゃんは補足をするように「学校の先生になりたくて」と言った。それを聞いてあぁなるほど、と納得する。「そっか、確かN大って教育学部があるんだったっけ」「!・・・うん、そうなの!」確かにこの前も友達の勉強を見ていたのを思い出す。どうやら先生からオススメされている謂わば難関大でも教員免許は取得できるらしいが、そこは教育学部では無いらしい。仮に将来、すずちゃんが教師になったところ想像しよう。僕はその学校の生徒に嫉妬するに違いない。青少年たちが「日高先生」と呼ぶのだろうか。それとも「すずちゃん先生」だろうか。どちらにしろ羨ましすぎる。「ちなみに小学校の先生?中学校?それとも、高校の?」「1番は高校の先生かな」「・・・良いなぁ」「じゃあ月島くんも先生目指したら?」とすずちゃんは笑う。そうじゃないけど、確かにそれもいいかもしれない。「日高先生」「月島先生」って呼び合うのもアリだ。「いいじゃん。日高さん、先生似合いそう」「へへっそうかな?お世辞でも嬉しい」「・・・・」「月島くん?」照れたように笑うすずちゃんに胸が打たれる。こりゃとんでもない破壊力だ。「僕もN大、目指してみようかな」「本当?知っている人がいたら私も嬉しい」「ちゃんと勉強に本腰入れないと間に合わないかも」「じゃあ今度の定期テストの勉強、一緒にやろうよ」すずちゃんは「月島くんも成績上位の方だったよね?」と、僕のそんなところまで覚えていてくれたらしい。一緒にしようって、まさか彼女からデートのお誘いが来るなんて。まさかまさかの展開に驚いて口から変な日本語が飛び出る。
last updateLast Updated : 2025-07-09
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【3】月島くんは一歩進んだ ー 僕と彼女の可愛い逢瀬③

「ングッ」「月島くん?」「やろう!一緒に!勉強!」「ふふっ・・・うん!」その後調子に乗った僕は「テストが終わったらお疲れ様会しない?」とすずちゃんを遊びに誘ってみた。大博打をうっているような、そんな気分である。自分でも思い切った行動だ。少し前の話し掛けるだけで緊張していた僕とは大違い。でも大丈夫、今朝の星座占いは1位だったから。ラッキーアイテムのハンカチだって、ポケットに忍ばせてある。 「いいね。やろうよ、お疲れ様会」「いいの?!」「いいの?って、誘ってきたの月島くんじゃん」心の中でガッツポーズをする。「テスト明けの最初の日曜日とかどう?」とまさか放課後ではなくて休日に会ってくれるらしい。本当にコレは現実だろうか。僕は今、息してる?していない。息をすること忘れていた僕は、思い出したように深呼吸をした。呼吸がうるさい僕に優しいすずちゃんは「大丈夫?」と心配してくれる。はい好き。僕は平静を装って「ごめん、ちょっと呼吸を忘れてた」と返す。心配してくれてありがとう。「呼吸を忘れてた・・・?」「あ、いや、違う。大丈夫、うん、大丈夫」全然平静を装えていなかった。何が呼吸を忘れていただ。「心配してくれてありがとう」と首を傾げたままの彼女に伝えた。「日曜日、空いているから僕も大丈夫だよ」「了解。どこに行くかは追々考えようね」「うん。もう楽しみになってきちゃった」「私も」これはもう付き合っているも同然じゃないだろうか。休みの日に男女2人で遊び行くってもうこれは確定演出?告白待ちなのか?そこまで考えて、僕はふるふると首を横に振る。(いやいや、流石に都合良く解釈しすぎか)すずちゃんが、ただ優しすぎるだけなのだ。誰にでも平等に優しくて、誰にでも気を遣えて、誰にでも笑顔を見せる。かといってお人好しでもなく程よい距離感で接することが出来る彼女。だから、ここまでの信頼を持たれていつ何時も頼られる存在となった。 「きっと定期テストまであっという間だよ」「ちゃんと僕も勉強しなきゃ。日高さんは勉強好き?」「・・・うーん。そんなに好きじゃないかなぁ」「そっか。僕もそんなに好きじゃないかな」でも、そこまでして、すずちゃんは疲れてしまわないだろうか。彼女だって本物の神様ではない。何人もの声が聞き取れる聖徳太子でもない。周囲の人に優しくしすぎて、自分のことを厳かにしていな
last updateLast Updated : 2025-07-09
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【3】月島くんは一歩進んだ ー 彼女の築き上げた日高すずという人物①

「りっちゃん、テストの結果はどうだった?」「見たいなら見ても良いよ」「うっわ。お前、そんな頭良かったっけ?」地獄だったテスト週間を終えた。月曜日から3日間を通して行われたテストは、その週の金曜日にはほとんどの結果が分かる。今日は既にに採点を終えた3教科の解答用紙が戻ってきていた。戻ってきた結果にげんなりと顔を歪ませた桔平。どうやら思っていた以上に点が良くなかったらしい。そんな彼に僕はドヤ顔をしてテスト結果を突きつけた。「すずちゃんとの密会を重ねた賜物です」「ただの勉強会だろ」「僕にとってはデートだったの」「あーはいはい」結果は最高得点。なんと全教科80点越え。すずちゃんと一緒に力を入れて勉強した日本史は98点を叩き出した。先生のあの驚いていた顔は見事だった。どれもこれも彼女のお陰だ。テストが終わった後に「日高さんのお陰で良い線いったと思う」と連絡したら、「月島くんが頑張ったからだよ」と返ってきた。うーん、優しい。好き。大好き。すると桔平はお手本のような呆れた表情をする。「そんで、お前から見て日高さんは脈ありなの?」「脈あり?」「りっちゃん、絶対に告白が成功するとか思ってるの?」まぁりっちゃんなら断る女なんていないと思うけどさ。そう言って口をへの字に曲げる桔平に僕は告げた。「いや、まだ告白するのも烏滸がましいと思ってる」「まだそこかよ。2人で勉強会したんだろ?それだけじゃ告白する理由になんねぇの?」「うーん」「まさか仲良くなって満足してるわけじゃないよな」「そんなわけじゃ、ないけどさ」なぁんか。今じゃないような、そんな気がするのだ。付き合って恋人になれたらって思うけれど、告白するにはまだすずちゃんを知っていないような気がしてならない。友達になれたその時はただただ舞い上がって後は告白するだけだ、そう思っていた。けれど、お昼休みに一緒にご飯を食べたり勉強会を重ねているうちに“何か足りない”思うようになったのだ。「そもそも日高さんが彼氏作る気が無かったら終わりだけどな」「本当にそれはそう。僕次の日から不登校になる」「それはやめとけ。日高さんが責任感じるから」「ってか桔平。さっきから日高日高って。僕よりすずちゃんの名前呼ばないでよ」確かに桔平の言う通り、告白するには十分過ぎるほど一緒に過ごしたんだけどなぁ。本命童貞である弊害がここで来ている。こんな
last updateLast Updated : 2025-07-09
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【3】月島くんは一歩進んだ ー 彼女の築き上げた日高すずという人物②

「恋愛って難しいね」「万年モテ期到来のお前がそれを言うか」「だって僕、人を好きになるのって初めてだから」「りっちゃんの元カノ、今頃全員泣いてるぞ」元カノ?そう言われて思い浮かべてみるが全員顔も名前も出てこない。恋愛が難しいと言う僕に「お前が拗らせてんだよ」と目の前の男にため息をつかれた。彼女持ちなくせに全然相談乗ってくれないじゃん。不貞腐れた僕はテストの解答用紙を鞄に入れて帰り支度をした。「もう帰るのか?」「ふふん。今からすずちゃんとデートの計画立てるんだよね」「・・・ちゃんと仲良くなってんだな」「そりゃ僕も男だからねぇ。行くときは行くに決まってるでしょ」デートの計画を立てたいのはもちろんだが、早くテスト結果をすずちゃんに伝えたかった。きっと彼女は「頑張ったね」って褒めてくれるに違いない。そしてすずちゃんに教えてくれてありがとうと、ちゃんと早く言葉で伝えたかった。「じゃあまた明日」「おー、また明日。頑張ってこいよりっちゃん」「誰に言ってんの。僕だよ?」「もちろん初恋童貞のお前に言ってんだよ」桔平と教室で別れて、早速僕は屋上を目指した。るんるんと弾む気分で階段を駆け上がっていく。一緒に飲もうと思って自販機で買ってきたミルクティー、喜んでくれるだろうか。すずちゃん、もう来ているかな。ドキドキしながら屋上へと続くドアノブに手を掛ける。ガチャリを音を立てて開けると、その隙間から彼女の姿が見えた。自然と口角が上がっていく。「お待たせ、日高さ───」好きな人の名前を言い掛けて、僕の足はその場に留まった。「月島くん、」「大丈夫?何かあった?」 振り返ったすずちゃんは、大粒の涙を零していた。「あははっごめんね!」戸惑っている様子の彼女は困ったように笑みを作る。そんな顔も文句無しに可愛いけれど、僕は首を横に振る。可愛くても、僕が見たいのはその笑顔じゃないのだ。「日高さん、無理しなくていいよ」そう言うと、笑顔を作っていたすずちゃんの口角は下がっていく。頬を伝う涙を目で辿っていくと、その雫はぽたぽたと手に持っていたテストの解答用紙にシミを作っていった。 その後、僕はすずちゃんが落ち着くまで背中をさすることしか出来なかった。暫くの間、彼女の涙は止まることはなく、鼻をすする声だけが耳に届く。こんな時に限ってハンカチを持っていなかった僕は、どうして今日の
last updateLast Updated : 2025-07-09
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【3】月島くんは一歩進んだ ー 彼女の築き上げた日高すずという人物③

「・・・ごめんね、月島くん」「ううん。僕は全然気にしてないから大丈夫だよ」いつもより濁って掠れた声。涙は止まっても曇り顔のすずちゃんに、僕は声を掛けるべきかそうでないか迷っていた。少し気分に余裕が出てきたところで、背中に回していた腕をそっと話して、彼女の隣に腰を下ろす。「ふふ、恥ずかしいところ見られちゃった」「そんなことないよ。それに、僕誰にも言わないし聞かないから」「月島くんは優しいね」うっすら笑みを浮かべたすずちゃんの前に散らばったテストの解答用紙。見事にそのほとんどが90点台だった。しかし,握りしめていたからか、紙はぐちゃりと歪んでいる。その中でも1番ぐちゃぐちゃになっている用紙があった。それを手に取ったすずちゃん。そして「あはは、」と乾いた笑いをこぼした。「すずちゃん?」「・・・今日、数学の結果が返ってきたんだけどね」そして彼女は、ぽつりと話し始めた。「75点」「凄いじゃん。今回の数学、結構難しかったよね」「うん」「僕すっごく勉強して自信あったのに83点。絶対90いったと思ってたんだけどね」心の中に積み上げてきたものを吐き出すように、すずちゃんは口を開く。「私だってさ、勉強したくない時だってあるんだよ」「? そりゃあ誰だってそうでしょ」「勉強してなくても点数取れるほど、私頭良くないんだよ」「・・・」「それなのに、」すると彼女はまた悲しい顔をして唇を噛む。「クラスの子も先生も『どうしたの?』『私らしくないね』って言うの」「私らしいって何?」と、彼女の悲痛な叫びに、僕の心臓もぎゅっと締め付けられる。「最初はね、良い点とったら両親も先生も喜んでくれて友達も凄いねって褒めてくれて、だからもっと勉強頑張ろうって思ってたんだ。それに勉強したら絶対に結果はついてきてくれるし、将来への幅も広がるから、頑張っても損はないって」「うん」「・・・でも、今は少ししんどくなってきちゃった」「そっか」「少しでも点数落としたら“私らしくない”って言われて、先生にも“何でもっとレベルの高い大学を目指さないんだ”って呼び出されてさ」「勉強してないから点数取れないの当たり前じゃん」と胸の内を吐露し続けるすずちゃん。きっと両親も友だちも先生も、彼女に期待しているのだ。だからこそ、そういった言葉をすずちゃんに掛けるのだろう。それぞれが日高すずの理想の姿を追い
last updateLast Updated : 2025-07-09
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【3】月島くんは一歩進んだ ー 彼女の築き上げた日高すずという人物④

「何度も書かないと覚えられないくらい要領悪いし、何回も繰り返して問題を解かなきゃ理解出来ないもん。寝たいからみんなみたいに徹夜なんて出来ないし」「うん。僕もあのノートみて、凄い努力してるんだなって思ったよ」「クラスの子が頭良かったらなってけらけら笑ってるけれど、じゃあ解けるまで勉強したらいいじゃんって思うの」思い出すのはあの放課後、彼女に届けた忘れ物のノート。あの1センチ幅の方眼ノートは、いつもテスト週間の2週間前から使用するらしい。たった2週間で全ページがびっしり埋まるほど書いて繰り返していることを知った時には驚いた。 こんなにも勉強して努力をしていることを、きっと周りは思っている以上に軽んじている。だから「私も日高さんだったら」と軽く言えてしまうのだ。その言葉に彼女が傷ついていることを知らずに。「じゃあ頑張っているところを見せつければいいのかって、そういう話でもないんだけどさ」「うん」「でも何だかすっごい疲れちゃった。全部。勉強も、良い子でいるのも全部。去年はあんなに頼られて嬉しかったのになぁ」そう言って力なく笑う彼女。廊下や教室で見掛けたすずちゃんはいつも笑顔で元気だったけれど、その中は脆くてボロボロだったのだ。ずっと入学当初から見てきたのに、どうして気づけなかったのだろう。もっと早く気づいていたら、すずちゃんは涙を流すことも無かったのだろうか。(いや、違う。気付かせないように、それもすずちゃんが頑張ってきたんだ)心配させないように、と。期待を裏切ることで積み重ねてきたものが崩れ、周囲の人々を残念に思わせないようにと。ずっと彼女は葛藤してきたに違いない。「ごめんね、月島くんにこんな愚痴言っちゃって。迷惑だったよね」「僕はちゃんと知ってるよ」「月島くん?」「頼まれ事を断れないくらいに優しくて責任感があることも、勉強して努力し続けていることも、将来を見据えて進路を決めていることも」この学校の誰よりもすずちゃんのことを理解しているという自負があった。でも、彼女の内側まで理解していなかった。人間なんだから出来ないことや苦手なことがあって当然なのに、僕も日高すずという人物に完璧を求めすぎた生徒にすぎなかったのだ。「それにテストが出来て当たり前じゃなくて、日高さんが頑張っているからだよ」「うん」「周りの人の期待を裏切らないようって頑
last updateLast Updated : 2025-07-09
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【3】月島くんは一歩進んだ ー 彼女の築き上げた日高すずという人物⑤

でも、今の僕なら分かる。日高すずという人間を、今の僕ならばするすると紐解いていくように暴いていける。「すずちゃんのこと全部、知っているから。僕だけじゃダメ?」「・・・ううん、ダメじゃない」「あっごめん、すずちゃんって馴れ馴れしく、」「ふふっ良いよ全然」ありがとう、律くん。そう言って見せてくれた笑顔は、今まで見てきて中で1番輝いていて可愛くて綺麗なものだった。「私はね、律くんが思っているほど良い子じゃないんだよ」「いつも良い子でいなくてもいいんじゃない?」「みんなにがっかりさせちゃわないかな?」「じゃあ僕の前では良い子じゃないすずちゃんで居てよ」告白するには何かが足りない、今ではない。そう思っていたけれど、その“何か”が今はっきりとした。彼女の良いところばかり見ていて、悪いところを全然知ろうとしなかったのだ。結局すずちゃんの作り上げた仮面ばかりを追いかけていて、その裏に隠れた本当の表情を知ろうとしていなかった。でも追いかけたからこそ、新しい一面を見つけたこともある。「私、結構気分屋だし面倒臭がりなんだ」「全部一生懸命にならなくても良いよ」「人付き合いも苦手だし、友達少ないんだよね」「僕はすずちゃんと一緒にいてつまらないなんて思ったことないよ」ただの同級生だった時も、友達になってからも、僕の毎日はきらきらと輝いていた。毎日夢心地だった。新しい一面を知るたびに、好きの気持ちは膨れていって、大好きになっていった。でも彼女の弱みを知った僕は、昨日よりも今日の方がもっと大好きだと胸を張って言える。そして大好きから、それは愛しいに変わっていく。何もかも全部ひっくるめて日高すずという人物を愛しいと思った。「どんなすずちゃんでも、僕はすずちゃんの味方だからね」どんな楽しい声でも、どんな悲しい声でも、全部拾い上げていく。この日から僕は、日高すず肯定マシーンになろうと自分自身に誓った。その役目を神様が認めてくれるのならば、持てる限りの全てを懸けてすずちゃんを幸せにしたいと、そう思う。
last updateLast Updated : 2025-07-09
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【4】日高さんがやっぱり大好き ー 僕の長い初恋の終わりと始まり①

「律くん!見てみて!」からっとした秋晴れの空の下。一足先に屋上に向かった僕は雲ひとつない青を見つめていた。少し肌寒い季節になったが、降ってくる日の光はぽかぽかと暖かい。目を閉じて眠ってしまいそうになった時、可愛い声で名前を呼ばれた。ちらりと目を配ると傍には僕の好きな人の姿。そして彼女はドヤ顔をするなり、一枚の紙を目の前に広げる。それを見て、僕は大きく声をあげた。「93点?!凄いじゃん」「えへへっ律くんに1番に報告しなきゃと思って」「勉強すっごく頑張ってたもんね」それは先日行われた校内模試の結果。それも彼女が苦手としている数学のテスト結果だった。目の下にうっすら出来ている隈を見つけて「少し寝不足なんじゃない?」と言うと、すずちゃんは「ちょっとだけね」と苦笑いしていた。「律くんが教えてくれたお陰だよ」「すずちゃんが頑張ったからだって」「でも律くんの分かりやすい解説がなかったら無理だったよ」だから、ありがとう。そう言って浮かべる最近の彼女の笑顔は以前よりもすっきりと清々しくなったと思う。心の底から湧き出てくるような笑顔に僕は動悸が治まらなくて、毎日大変なのだが。「律くんはどうだった?」「何とか全部85点以上はいったよ。多分この前の全国模試の結果も大丈夫だと思う」「その顔は随分自信がありそう。きっとN大もA判定だね」クスクスと笑うすずちゃん。好きだなぁ。心の中で呟いたその言葉は、今日も彼女に届くことはない。「先生に驚かれたよ。お前もN大かって」「もっと上の大学目指せって?」「うん。断ったけどね」つまり、まだ僕は彼女に気持ちを伝えきれずにいた。タイミングを見計らって告白しよう。そう思いながら過ごしていた僕はここまでズルズルと引っ張ってきている。流石に嫌われてはいないと思うが、果たして彼女が僕のことを男として意識してくれているのだろうか。そう思わざるを得ないシチュエーションが頭を霞む。間接キスに恥じらいひとつなかったり、暑いからとカーディガンを脱いでワイシャツになったり、一緒の大学に行けたら嬉しいなって喜んだり。無自覚の行動なのか逆に僕に脈ありだと伝えてくれようとしているのか。つまり、思わせぶりな行動に僕は1人でてんやわんやしていた。
last updateLast Updated : 2025-07-09
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【4】日高さんがやっぱり大好き ー 僕の長い初恋の終わりと始まり②

「律くんも来年の文理選択、文系にしたんだよね?」「うん。その方が学部の幅は広がるからね」「嬉しい。同じクラスになれたらいいな」わざとか?わざと僕が嬉しいことを彼女は言っているのか?1人悶々とする僕を置いて、すずちゃんは購買で買ったパンに齧り付く。昨日僕が食べていたのを見ていたら食べたくなったらしい。だったら代わりに僕が日高家母のお弁当を食べたかった。「3年生になったらすぐ修学旅行だよ」「その後文化祭と体育祭とあるから、きっとすぐ卒業だね」「ちょっと律くん、まだ私たち半分しか高校生してないんだよ」「・・・そうだった。でももう僕は十分すぎるほど高校生活充実してるかも」高校に入学して約1年と半年。確かにまだ半分しか過ごしていない高校生活だけど、僕にとってはそれはもう目紛しい1年と半年だったように思う。入学式の日に一目惚れしたすずちゃんと、まさか今こうして一緒にお昼ご飯を食べているだなんてあの時の僕は想像も出来なかっただろう。「私も律くんと友達になってから、嘘みたいに毎日が凄く楽しいよ」「それは良かった」「心の拠り所っていうのかな?私のとって律くんはそんな感じ」仲良くなってからも、この恋心は進化している。きっと明日の僕は今日の僕より、すずちゃんを好きになっているだろう。もうこの気持ちは好きや愛だけじゃ足りない。腹の奥底に溜まっていくこの熱量が目を通して、彼女に伝わってしまわないだろうか。そう思いながら日々を過ごしている間、何度も桔平に「はよ言えよ」と突っ込まれる毎日である。でもこうして毎日のように隣に居ることで、分かったこともある。「だから、ありがとう。私を助けてくれて」告白出来ないのは、振られることを怖がっているんじゃない。この自分でも抑えきれなくなっているほどに高ぶる気持ちを、彼女が全部受け止められるのかが怖かったのだ。「あの日、ノートを教室に忘れて良かった」「うん」「ノートを見つけたのが律くんで、届けてくれたのが律くんで良かった」「うん」こんなに自分が臆病だったなんて、桔平に知られたら笑われるだろう。また「臆病を通り越してムッツリ」って罵られるかな。想像すると少し面白くなって笑ってしまう。でも僕は知っている。何でも受け入れてくれるほどにずずちゃんは懐も寛大だということを。きっとこの想いを伝えたら、ちゃんと彼女は真剣に受け止めて考えて
last updateLast Updated : 2025-07-09
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【4】日高さんがやっぱり大好き ー 僕の長い初恋の終わりと始まり③

「え?」「え?・・・今、僕の口から何か聞こえた?」僕の問いに彼女は頷いて、ゆっくりと口を開く。「・・・好きって、そう言ってたよ。律くん」誤爆。無意識に口から「好き」が溢れていたらしい。それも当の本人の目の前で。ピシャリと氷のように固まった僕に、すずちゃんは頬を赤く染めながら視線をそらす。一応僕だって告白のシチュエーションを考えたり、どう伝えるか言葉を選んだりしていた。一世一代の告白だから気合い入れて練習してきたのに。それなのに、変わりばえもしない屋上で口走るだなんて。「えっと、今のは」適当に誤魔化してその場の凌ごうとした僕。「もう一回、言って?」それを止めたのは、すずちゃんだった。「お願い律くん。もう一回、言って欲しい」僕はごくりと唾を飲み込む。これは、期待をしてもいいのだろうか。そろりと顔を上げると、すずちゃんの瞳の中に自身の姿が映り込む。望んでいたものが、手を伸ばしたらすぐにでも捕まえられる。差し迫ってきた緊張感に僕は、深く、腹の奥底から、深呼吸をした。そして、僕は口を開く。「すずちゃんのことが好き」「・・・うん」「入学式の日からずっと。一目惚れだった」入学式のあの日、君を初めて見た時からずっと。まだ17年しか生きていないけれど、こんなにも好きになれるのは後にも先にもすずちゃんだけ。そう神様にだって誓えるほど、すずちゃんだけを想ってきた。強いところも、弱いところも、知れば知るほど好きになった。わがままな僕はそれだけじゃ足りなくなって、今はずずちゃん“の”特別になりたいのだ。「だから、僕の恋人になってくれませんか?」どうやったら想いは伝わるのだろう。そう考えながら言葉を並べている間、すずちゃんはずっと何も言わずに聞いてくれていた。全部を伝え終わった時、彼女はその大きな目で僕を真っ直ぐに柔らかく見つめる。その目の奥におひさまのような温もりを揺らがせたまま、すずちゃんは口を開いた。「私の方こそ、よろしくお願いします」「・・・えっうそ、ほ、本当に?」「本当。いつ言ってくれるんだろうって、ずっと待ってたのに」ふふ、と笑うすずちゃんに僕はあんぐりと口を開ける。「やっぱり女の子は、告白されたいんだよ」と女の子のロマンを語る彼女の目の前で、僕はただ“日高すずは僕の彼女”と成った現実にもういろいろと爆発しそうだった。
last updateLast Updated : 2025-07-09
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