「・・・ごめんね、月島くん」「ううん。僕は全然気にしてないから大丈夫だよ」いつもより濁って掠れた声。涙は止まっても曇り顔のすずちゃんに、僕は声を掛けるべきかそうでないか迷っていた。少し気分に余裕が出てきたところで、背中に回していた腕をそっと話して、彼女の隣に腰を下ろす。「ふふ、恥ずかしいところ見られちゃった」「そんなことないよ。それに、僕誰にも言わないし聞かないから」「月島くんは優しいね」うっすら笑みを浮かべたすずちゃんの前に散らばったテストの解答用紙。見事にそのほとんどが90点台だった。しかし,握りしめていたからか、紙はぐちゃりと歪んでいる。その中でも1番ぐちゃぐちゃになっている用紙があった。それを手に取ったすずちゃん。そして「あはは、」と乾いた笑いをこぼした。「すずちゃん?」「・・・今日、数学の結果が返ってきたんだけどね」そして彼女は、ぽつりと話し始めた。「75点」「凄いじゃん。今回の数学、結構難しかったよね」「うん」「僕すっごく勉強して自信あったのに83点。絶対90いったと思ってたんだけどね」心の中に積み上げてきたものを吐き出すように、すずちゃんは口を開く。「私だってさ、勉強したくない時だってあるんだよ」「? そりゃあ誰だってそうでしょ」「勉強してなくても点数取れるほど、私頭良くないんだよ」「・・・」「それなのに、」すると彼女はまた悲しい顔をして唇を噛む。「クラスの子も先生も『どうしたの?』『私らしくないね』って言うの」「私らしいって何?」と、彼女の悲痛な叫びに、僕の心臓もぎゅっと締め付けられる。「最初はね、良い点とったら両親も先生も喜んでくれて友達も凄いねって褒めてくれて、だからもっと勉強頑張ろうって思ってたんだ。それに勉強したら絶対に結果はついてきてくれるし、将来への幅も広がるから、頑張っても損はないって」「うん」「・・・でも、今は少ししんどくなってきちゃった」「そっか」「少しでも点数落としたら“私らしくない”って言われて、先生にも“何でもっとレベルの高い大学を目指さないんだ”って呼び出されてさ」「勉強してないから点数取れないの当たり前じゃん」と胸の内を吐露し続けるすずちゃん。きっと両親も友だちも先生も、彼女に期待しているのだ。だからこそ、そういった言葉をすずちゃんに掛けるのだろう。それぞれが日高すずの理想の姿を追い
Last Updated : 2025-07-09 Read more