僕は辞世の句を齢17にして既に用意している。 特別に詠んであげよう。僕の最高傑作を。 『日高さん 来世もきっと 君が好き』 僕の人生のハイライトは全て日高さんで埋め尽くされている。 日高さんが目に映る1分1秒を胸に刻むことが僕の生き甲斐で、人生で、勉強よりも大事な日課なのだ。 「今必死に心のメモリーに録画してるんだから」 好きな子を見守る(?)男 月島律(つきしまりつ) × 見守られている優等生 日高すず(ひだかすず) 「私はね、君が思っているほど良い子じゃないよ」 ※物語の中で若干R18を含む表現がございます。ご了承の上、お読み頂くことを推奨致します。
View More(それって、まさか・・・入学式の日ってこと?)「ねぇそれって、」と彼女の背中に声を掛ける。そんな幸せなことがあっていいのだろうか。僕は遠くなっていく姿を追い掛けて、呼びかけても反応してくれないすずちゃんの手を取る。くるりと、顔が見えるようにしてその手を引くと、顔をゆでダコのように真っ赤にさせた彼女。その表情に僕は思わず、その小さな唇に口付けを落とした。突然の行動に驚いたのか、すずちゃんは身体を強張らせる。なりふり構わず僕はそんな彼女の両手を取り、ぎゅっと手を握った。「すずちゃん。僕を好きになってくれて、ありがとう」見つけてくれて、好きになってくれて、夢を持たせてくれて、隣にいてくれてありがとう。何度、ありがとうと伝えても足りない。来年から文系を選択したくせに未だに語彙力の幅が狭くて、受験科目である国語が些か心配になる。だけど、すずちゃんが一緒に頑張ってくれると思ったら、そんな心配も不安も吹き飛んでいくような気がする。「律くん。私を好きになってくれて、ありがとう」彼女の声は少し上ずっていて、「別に泣いてなんか無いよ」と聞いてもいないのに自ら泣いていない宣言を発する。これって泣いている人が言うセリフじゃ無いかな。それもまた可愛くて、僕はおかしそうに笑う。「笑わないでよ、律くん!」「ごめんね。凄く可愛くて思わず、ね?」「可愛いって、もう、そんなこと言われたら」怒れないじゃん。と悔しそうに顔を歪めるすずちゃん。やっぱり優しさの塊で出来た彼女である。大人ぶることが癖になっているこの子を見て、もう少し我儘とか言ってくれた方が僕としては助かるんだけどなと思う。(でも、僕たちはまだまだここから。時間は沢山あるよね)僕は今まで『日高すず』と目を合わせることも、話すことも、隣を歩くことも、付き合うことも、全部全部『奇跡』だと思ってきたけれど。僕らが出会ったことも、恋をしたことも、その恋を叶えたことも、全部全部偶然なんかじゃなく必然だったんじゃないかと、そう思える。これは終わりじゃなくて、ここからが始まりなんだと、そう思えた。「すずちゃん、好きだよ」そして、始まりには終わりがあると言うけれど。「・・・私も好き、です」「あははっ知ってる!」今日も、明日も、何十年後も、きっと僕はすずちゃんのことが好きなのだろう。月島くんは日高さんのことがお好き。【完】
僕は卒業まであと1年はあるけれど、既に思う存分高校生を充実させて楽しんでいる。でも、飽き足らずにまだまだこれからも楽しんで行きたいと思う。それは、これからも楽しくて色褪せることのない思い出をすずちゃんとなら作れるという自信があるからだ。大人になっても、おじいちゃんおばあちゃんになっても、忘れることのない思い出て溢れた日々をみんなにも送ってほしい。「一生に一度の高校生活だから、みんなに思い切り楽しんで欲しい。あぁ高校3年間楽しかったな、ってそう思わせるような事がしたいんだ」そうなるには先生になることが1番早いかなって、そう告げるとすずちゃんは「すっごく良いと思う!」と声を張り上げた。「きっと律くんなら出来るよ!私が律くんに救ってもらったみたいに、絶対に誰かを救えると思う」「ありがとう」僕は「でもね、」と続ける。「そう思えるようになったのはすずちゃんのお陰だよ」「私、何もしていないのに?」「すずちゃん、僕に助けてくれてありがとうって言ってくれたことあったでしょ。こんな僕でも人を助けられるんだって、嬉しくなったんだ」「だから、僕の方こそありがとう」と、そうすずちゃんに告げる。僕はすずちゃんと向き合うようにして立ち止まる。「これからも僕はすずちゃんと楽しい時も辛い時も、全部一緒にいたい。何度だって助けるから、何度だって支えるから、来年も卒業しても、隣にいていい?」それはまるで将来の確約を乞うような言葉。高校生の若者が背伸びをして良いことを言っている、なんてそう思われるかもしれない。確かに未来なことなんて誰にも分からないけれど、その言葉に嘘偽りは全く無い。少し目を見開かせた彼女だったが、その頰は次第に赤みを増していく。「私の方こそ、ずっと隣に居てもらえると嬉しいです」そしてふわりと微笑んだ。何度だって見てきたはずなのに、ゴクリと唾を飲んだ僕はまたその笑顔に打ちのめされてしまう。この子は、何度僕を惚れさせたら気がすむのだろう。「それに、私のうんと長かった片思い歴。舐めないでほしいな」「・・・え?ちょっと待って、本当にいつから僕こと好きだったの?ちなみに僕の存在知ったのはいつ?ねぇすずちゃん」「そうだなぁ・・・私が体育館で代表の挨拶をした日」「え?」「だったりして」すずちゃんはお茶目に笑っては「さ、帰ろう」と前を歩き出してしまった。僕は時が止まった
「はぁ、何であんなに可愛いんだろう」「顔やばいけどさ、日高さん来てるよ」「え?!ど、どこ、いた!!!!」桔平に言われるがまま、顔を上げると、廊下から教室に顔を出すすずちゃんの姿があった。どうやら迎えに来てくれたらしい。ほらみろ、全世界の男子ども。すずちゃんの彼氏は僕なのだ。すずちゃんはふるふると手を振って、僕を呼んでいる。クッソ可愛い。こんな彼女の隣を歩けるなんて、彼氏は幸せ者だろう。あぁ、彼氏って僕のことだった。優越感に浸る僕の傍で桔平は「顔やベぇ」とぼそりと呟く。もちろんその言葉は僕に向けられているのだろう。「早く行ってやれよ。一緒に帰る約束してんだろ」「言われなくても」さっさと行け、と煙たがれるようにして教室を追い出された僕。お待たせ、と彼女に駆け寄ると「全然待ってないから大丈夫だよ」と笑ってくれた。優しすぎて好き。僕の彼女になってくれないかな。あぁ、そういえばもう彼氏だった。桔平に別れを告げて、僕たちは歩き出す。周囲に生徒がいないからといって、校内で手を繋ごうとすると「恥ずかしいからだめ」と怒られるのだ。だから手を繋ぐのはいつも学校を出てからである。しばらく他愛もない話をしていた僕ら。学校の敷地を出たところで、すずちゃんはふと何かを思い出したかのように「あ、そういえば」と声をあげた。「本当に良かったの?進路希望、同じ教育学部にして」そう、僕はすずちゃんと同じ大学の、同じ教育学部を志望することにした。これには担任の先生はもちろん両親も驚いていて、何か悪いものを食べたかと大騒ぎになったくらいである。もちろん桔平にも「お前が先生になんの?なんかうける」と言われた。「無理して私に合わせたりしていない?」「うん、大丈夫。僕が自分で決めたから」彼女は「将来の幅が狭くなっちゃうよ」と眉を下げて心配しているようだった。確かに経済学部や商学部に行ったほうが、将来就活先の幅が広がるだろう。大学生になったらなったで、別のやりたい事が見つかるかもしれない。 でも、教育学部は僕もちゃんと考えた上での希望だった。「僕さ、大人になったら先生になって、生徒が思い切り高校生活を楽しめるようにサポートしてあげたいんだ」将来自分は何をしたいのか。そう考えた結果、自然と出てきたのがその答えだった。これ以上完璧な人なんていない、とそう思っていたすずちゃんも誰にも言え
「まさか、本当に付き合うことになるなんてなぁ」「初恋は実らないって誰が言ったんだろうね」「でもさ、りっちゃん」「何?あ、今度の土曜日なら空いてないよ。すずちゃんとオープンキャンパスに行くから」「聞いてねぇよ。じゃなくて、アレはないと思うぜ」あれ?そう首を傾げる僕は、桔平に頭を叩かれる。心当たりはあるが、別に叩かなくても良いと思う。だって、大好きな彼女が出来たのだ。見せつけて、牽制して、一人占めして、何が悪い。合法なんだからいいじゃないか。そう主張した僕に「やりすぎなんだよ」と釘を刺してくる。例えば、昨日の朝。早起きをしてすずちゃんを迎えに行った僕は、手を繋いで登校した。学校1の人気者のすずちゃんと学校1モテるであろう僕だ。生徒や先生からの注目が凄かったから、僕は「付き合ってるんだからいいじゃん!!」とグラウンドの中心で愛を叫んだ。例えば、昨日の放課後。勉強を教えてと詰め寄られていたすずちゃんを後ろから抱きしめて「今から僕とデートなの!だから今日はだめ!」と教室の中心で愛を叫んだ。例えば、今日の昼休み。進路の件で呼び出されたすずちゃんについていった。「もっとハイレベルの大学を目指さないか」と言う先生に「すずちゃんは教育学部を志願しているんです!ちなみに僕と一緒の大学に行くんです!」と職員室の中心で愛を叫んだ。「別にいいじゃん。嘘は言っていないし、ちゃんとはっきり言わないと」「まぁ、それは、そうだけどさぁ」「それに、やっぱり牽制は必要でしょ」僕とすずちゃんが付き合っていると学校中に知れ渡った時、「俺、日高さん狙ってたのに」「俺らの日高さんが」とかなりの隠れファンが表に出てきたのだ。これはちゃんと牽制しないといけない。そう思った僕は暇さえあればすずちゃんにくっ付いている。「日高さんも、最近何か変わったよな」「うんうん。すずちゃんは毎日可愛さが更新しているからね」「そうじゃなくて」「でも、前に比べたら垢抜けたかのようにきらきらしてる」悩みを全部吐露したせいか、憑き物が取れたかのように前向きになったすずちゃん。加えて恋人フィルターがかかっているせいか、きらきらと輝いて見えるのだ。それに本人も最近はスキンケアとかヘアケアに力を入れているって言っていたから、そのせいかもしれない。可愛くなってくれるのは嬉しいけれど、これ以上ファンが増えたら大変である。
「え、待って、僕のことが好きなの?何で?!僕だよ?!」「好きだよ、律くんのことが」「本当に?僕を?何で?」「どうして信じてくれないの。好きだからしょうがないじゃん」いつから好きだったの、そう尋ねるとすずちゃんは「秘密」と教えてくれなかった。最近小悪魔感がより前面に出てきて僕は華麗に踊らされている気がしてならない。むむ、と口を尖らせた僕に彼女はふわりと笑ってくれる。「嫌だって言っても、もう無理だよ」「うん。律くんの方こそ、やっぱり無しとかダメだからね」そんなこと言うわけないじゃん。天地がひっくり返ってもあり得ない。何なら今ここで一筆書いても良い。そう言うと「信じているから別にしなくて良いよ」と返ってくる。はぁ好き。もう無理。好きすぎて辛い。「ねぇ、すずちゃん」「うん」「・・・キスしてもいい?」恐る恐る、僕は聞いてみた。ストレートに尋ねた質問にすずちゃんは、恥ずかしげに顔を赤らめて僕から目を逸らした。もう、可愛くてしょうがない。今ここで食べていいと言われたら、僕はもう人目を気にせずとも食べに走るだろう。ただ、女の子のロマンを考えるなら、聞かずに多少強引にキスしたら良かったかもしれない。そう考えていると、すずちゃんは顔を赤くしたまま、覚悟を決めたかのようにゆっくりと口を開く。「律くん、私もね──っ」キスしたい。その言葉ごと飲み込ませるように、僕はすずちゃんに口付けた。「すずちゃん。好き、好きだよ」彼女の唇はとろけるように甘くて、柔らかかった。何度かぴとり、ぴとり、と唇同士をくっ付ける。うっすらと目を開けると、頰を赤らめながら頑張って受け入れようとしてくれているすずちゃんがいた。やたらと扇情的に見えるその表情に、僕の身体はこれでもかと疼く。理性よりも本能が優って、もっともっとと強請るようにして勢いのまま、僕はその小さな口の中に舌を差し込んだ。ぬるりと生温かい感触に驚いたのだろう。彼女は身体をビクつかせるが、抵抗することなくそのまま僕に委ねてくれていた。「な、ふっ、ふぁっ・・・ま、まって、りつく、ン」「・・・ごめん。もうちょっとだけ」この時やめていたら良かったのだろうが、調子に乗っていた僕はすずちゃんの息が上がっているのを分かっていながら、逃げていく彼女の舌を捕まえては吸って絡めてを繰り返す。あぁ、このままじゃやばいな。そう思い始めた時
「え?」「え?・・・今、僕の口から何か聞こえた?」僕の問いに彼女は頷いて、ゆっくりと口を開く。「・・・好きって、そう言ってたよ。律くん」誤爆。無意識に口から「好き」が溢れていたらしい。それも当の本人の目の前で。ピシャリと氷のように固まった僕に、すずちゃんは頬を赤く染めながら視線をそらす。一応僕だって告白のシチュエーションを考えたり、どう伝えるか言葉を選んだりしていた。一世一代の告白だから気合い入れて練習してきたのに。それなのに、変わりばえもしない屋上で口走るだなんて。「えっと、今のは」適当に誤魔化してその場の凌ごうとした僕。「もう一回、言って?」それを止めたのは、すずちゃんだった。「お願い律くん。もう一回、言って欲しい」僕はごくりと唾を飲み込む。これは、期待をしてもいいのだろうか。そろりと顔を上げると、すずちゃんの瞳の中に自身の姿が映り込む。望んでいたものが、手を伸ばしたらすぐにでも捕まえられる。差し迫ってきた緊張感に僕は、深く、腹の奥底から、深呼吸をした。そして、僕は口を開く。「すずちゃんのことが好き」「・・・うん」「入学式の日からずっと。一目惚れだった」入学式のあの日、君を初めて見た時からずっと。まだ17年しか生きていないけれど、こんなにも好きになれるのは後にも先にもすずちゃんだけ。そう神様にだって誓えるほど、すずちゃんだけを想ってきた。強いところも、弱いところも、知れば知るほど好きになった。わがままな僕はそれだけじゃ足りなくなって、今はずずちゃん“の”特別になりたいのだ。「だから、僕の恋人になってくれませんか?」どうやったら想いは伝わるのだろう。そう考えながら言葉を並べている間、すずちゃんはずっと何も言わずに聞いてくれていた。全部を伝え終わった時、彼女はその大きな目で僕を真っ直ぐに柔らかく見つめる。その目の奥におひさまのような温もりを揺らがせたまま、すずちゃんは口を開いた。「私の方こそ、よろしくお願いします」「・・・えっうそ、ほ、本当に?」「本当。いつ言ってくれるんだろうって、ずっと待ってたのに」ふふ、と笑うすずちゃんに僕はあんぐりと口を開ける。「やっぱり女の子は、告白されたいんだよ」と女の子のロマンを語る彼女の目の前で、僕はただ“日高すずは僕の彼女”と成った現実にもういろいろと爆発しそうだった。
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