月島くんは日高さんのことがお好き。

月島くんは日高さんのことがお好き。

last updateDernière mise à jour : 2025-07-09
Par:  岩瀬れんEn cours
Langue: Japanese
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僕は辞世の句を齢17にして既に用意している。 特別に詠んであげよう。僕の最高傑作を。 『日高さん 来世もきっと 君が好き』 僕の人生のハイライトは全て日高さんで埋め尽くされている。 日高さんが目に映る1分1秒を胸に刻むことが僕の生き甲斐で、人生で、勉強よりも大事な日課なのだ。 「今必死に心のメモリーに録画してるんだから」 好きな子を見守る(?)男 月島律(つきしまりつ) × 見守られている優等生 日高すず(ひだかすず) 「私はね、君が思っているほど良い子じゃないよ」 ※物語の中で若干R18を含む表現がございます。ご了承の上、お読み頂くことを推奨致します。

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Chapitre 1

【1】月島くんは恋する乙女 ー 僕には好きな人がいる

僕の名前は月島律。突然だが僕には好きな人がいる。

名前は日高すずちゃん。僕の同級生で、隣のクラスの女の子。

艶のあるストレートな黒髪に、陶器のような白い肌。長い睫毛に縁取られた目はくりくりで、女の子らしい華奢な身体。程よく筋肉のついたすらっとした長い手足。きっとその制服に隠れたくびれは簡単に掴めるほど細いに違いない。

さらに彼女は成績も良くて、もちろん性格に難もない。そして運動神経も良い。

誰から見ても善人だと思うであろうすずちゃんは、学級委員長に選ばれるくらいに人望もある子だった。

聡明で友人や先生にも頼られている場面もよく目撃するし、困っている人を見たら助けずにはいられない性分。

そんな日高すずちゃんを産んだご両親を、僕は人生で最も尊敬している。

(あ、すずちゃんの声がする)

今も少し遠くで、すずちゃんが友達と廊下で談笑している声が耳に入ってきた。

小柄の割には凛として大人びた顔をしている彼女だが、笑う時は鈴を転がしたかのように笑う。

このギャップに何度心臓を撃ち抜かれては生還しただろうか。

相変わらず今日も天使。女神。どんな言葉でも言い表せないほどに尊い存在。常時スポットライトを浴びているかのように、すずちゃんはいつ見掛けても神々しく見えるのだ。

(仰げば尊死・・・)

あぁ、昨日よりも今日の方が好き。

日々、この恋心は進化中である。

恍惚とした表情で今日も今日とて彼女を観察していると、後ろから勢いよく頭を叩かれた。「暴力反対!」と文句を告げると、さらに追い討ちをかけるように一発。

容赦なく攻撃を繰り出す奴は、目を半開きにさせて僕を見ていた。

「りっちゃん、流石にガン見しすぎだって」

「止めないで桔平。今必死に心のメモリーに録画してるんだから」

「怖いわ。仲良くなる以前に怖がられても知らないからな」

突然友人に対して暴力を振るようなこの男の名前は佐野桔平。

僕の好きな人を知っている唯一の人間だ。

せっかく人が至福の時間を過ごしていたと言うのに、桔平は「ストーカーかよ」と邪魔をしてくる。

「僕をその辺のストーカーと一緒にしないでくれる?そんな生ぬるい気持ちじゃないんだけど」

「犯罪者を超える気持ちも中々ヤバいと思うけどな」

言っておくが、もちろんストーカーではない。常にどこにいるか目を光らせているけれども、ストーカーでは断じてない。

まだ家の場所だって知らないし、文房具とか私物を盗んだ事はない。

つまり僕は恋する健気な男子高校生だ。

今のところ彼女に対して卑しい目で見たことなんて、一回たりともない、はず。

「あのさぁ、りっちゃん」

こんなに純粋にすずちゃんを想っている僕に対して、呆れた表情で桔平はため息を吐く。

全国の恋する青少年に失礼な顔をしている奴は、けろっと思うがままに口を開くのだ。

「いい加減、好きならアタックしろよ」

ハイ出た。彼女がいる奴は簡単にそんなことが言えるんだよ。

「むむむむむ無理!!!!いきなりそんなこと出来るわけないじゃん!!!!」

僕は勢いよく首を横に振った。

「もう片思いして1年半?くらいだろ」

「1年と98日!」

「分かった分かった。でもさ、そんだけ長い間片思いしてんだからさ」

───せめて友達くらいになったら?

言葉は時に鋭利な刃物になる。

僕はぐさりと音を立てるように突かれた。

「桔平、君は僕の味方?それとも敵?」

「強いて言うなら傍観者」

「辛辣だ。無慈悲だ。悪魔だ」

「お前は俺と敵になりたいの?」

片思い歴1年と98日。未だに僕は心の中では“すずちゃん”と呼んでいるが、実際に声に出したことはない。いつも「日高さん」と声に出す時は苗字呼びだ。

そう、僕はこんなにも恋い焦がれた毎日を送っているのに、実はすずちゃんとは話したことも顔も合わせたこともないのだ。

友人どころか知り合いでもない。シンプルに言えば“隣のクラスの同級生”である。

「流石に付き合いたいとは思ってるんだろ?」

「つっ付き合う、そっ、僕なんかが、烏滸がましいっ・・・!」

「お前は純情な男子高校生かよ。純情通り越してムッツリじゃんお前」

だって、いざすずちゃんに話し掛けようと思っても緊張して言葉が出てこないのだ。すれ違う時なんて動悸がするし、彼女の教室の前を通るだけでも心臓が高鳴る。

他の女子には難なく話し掛けらるのに、どうして好きな子の前じゃ上手く行かないのだろうか。上手くいくコツを何度もネットやSNSで検索したのにも関わらず、実行する段階にすら至っていない。

付き合うなんて以前の問題。そもそも彼女にとって僕は知り合いの枠にも入っていない。ただの同級生。それ以上でも以下でもない。

あんなに初詣にも2年生になる前にも神社で神様に「同じクラスになれますように!」って頼み込んだのに。

同じクラスメイトの称号を持つ男達にですら嫉妬してしまうのだ。

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【1】月島くんは恋する乙女 ー 僕には好きな人がいる
僕の名前は月島律。突然だが僕には好きな人がいる。名前は日高すずちゃん。僕の同級生で、隣のクラスの女の子。艶のあるストレートな黒髪に、陶器のような白い肌。長い睫毛に縁取られた目はくりくりで、女の子らしい華奢な身体。程よく筋肉のついたすらっとした長い手足。きっとその制服に隠れたくびれは簡単に掴めるほど細いに違いない。さらに彼女は成績も良くて、もちろん性格に難もない。そして運動神経も良い。誰から見ても善人だと思うであろうすずちゃんは、学級委員長に選ばれるくらいに人望もある子だった。聡明で友人や先生にも頼られている場面もよく目撃するし、困っている人を見たら助けずにはいられない性分。そんな日高すずちゃんを産んだご両親を、僕は人生で最も尊敬している。(あ、すずちゃんの声がする)今も少し遠くで、すずちゃんが友達と廊下で談笑している声が耳に入ってきた。小柄の割には凛として大人びた顔をしている彼女だが、笑う時は鈴を転がしたかのように笑う。このギャップに何度心臓を撃ち抜かれては生還しただろうか。相変わらず今日も天使。女神。どんな言葉でも言い表せないほどに尊い存在。常時スポットライトを浴びているかのように、すずちゃんはいつ見掛けても神々しく見えるのだ。(仰げば尊死・・・)あぁ、昨日よりも今日の方が好き。日々、この恋心は進化中である。恍惚とした表情で今日も今日とて彼女を観察していると、後ろから勢いよく頭を叩かれた。「暴力反対!」と文句を告げると、さらに追い討ちをかけるように一発。容赦なく攻撃を繰り出す奴は、目を半開きにさせて僕を見ていた。「りっちゃん、流石にガン見しすぎだって」「止めないで桔平。今必死に心のメモリーに録画してるんだから」「怖いわ。仲良くなる以前に怖がられても知らないからな」突然友人に対して暴力を振るようなこの男の名前は佐野桔平。僕の好きな人を知っている唯一の人間だ。せっかく人が至福の時間を過ごしていたと言うのに、桔平は「ストーカーかよ」と邪魔をしてくる。「僕をその辺のストーカーと一緒にしないでくれる?そんな生ぬるい気持ちじゃないんだけど」「犯罪者を超える気持ちも中々ヤバいと思うけどな」言っておくが、もちろんストーカーではない。常にどこにいるか目を光らせているけれども、ストーカーでは断じてない。まだ家の場所だって知らないし、文房具
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