月島くんは日高さんのことがお好き。

月島くんは日高さんのことがお好き。

last updateLast Updated : 2025-07-09
By:  岩瀬れんUpdated just now
Language: Japanese
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Synopsis

甘々

ラブコメ

溺愛

高校生

天使

片思い

僕は辞世の句を齢17にして既に用意している。 特別に詠んであげよう。僕の最高傑作を。 『日高さん 来世もきっと 君が好き』 僕の人生のハイライトは全て日高さんで埋め尽くされている。 日高さんが目に映る1分1秒を胸に刻むことが僕の生き甲斐で、人生で、勉強よりも大事な日課なのだ。 「今必死に心のメモリーに録画してるんだから」 好きな子を見守る(?)男 月島律(つきしまりつ) × 見守られている優等生 日高すず(ひだかすず) 「私はね、君が思っているほど良い子じゃないよ」 ※物語の中で若干R18を含む表現がございます。ご了承の上、お読み頂くことを推奨致します。

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Chapter 1

【1】月島くんは恋する乙女 ー 僕には好きな人がいる

僕の名前は月島律。突然だが僕には好きな人がいる。

名前は日高すずちゃん。僕の同級生で、隣のクラスの女の子。

艶のあるストレートな黒髪に、陶器のような白い肌。長い睫毛に縁取られた目はくりくりで、女の子らしい華奢な身体。程よく筋肉のついたすらっとした長い手足。きっとその制服に隠れたくびれは簡単に掴めるほど細いに違いない。

さらに彼女は成績も良くて、もちろん性格に難もない。そして運動神経も良い。

誰から見ても善人だと思うであろうすずちゃんは、学級委員長に選ばれるくらいに人望もある子だった。

聡明で友人や先生にも頼られている場面もよく目撃するし、困っている人を見たら助けずにはいられない性分。

そんな日高すずちゃんを産んだご両親を、僕は人生で最も尊敬している。

(あ、すずちゃんの声がする)

今も少し遠くで、すずちゃんが友達と廊下で談笑している声が耳に入ってきた。

小柄の割には凛として大人びた顔をしている彼女だが、笑う時は鈴を転がしたかのように笑う。

このギャップに何度心臓を撃ち抜かれては生還しただろうか。

相変わらず今日も天使。女神。どんな言葉でも言い表せないほどに尊い存在。常時スポットライトを浴びているかのように、すずちゃんはいつ見掛けても神々しく見えるのだ。

(仰げば尊死・・・)

あぁ、昨日よりも今日の方が好き。

日々、この恋心は進化中である。

恍惚とした表情で今日も今日とて彼女を観察していると、後ろから勢いよく頭を叩かれた。「暴力反対!」と文句を告げると、さらに追い討ちをかけるように一発。

容赦なく攻撃を繰り出す奴は、目を半開きにさせて僕を見ていた。

「りっちゃん、流石にガン見しすぎだって」

「止めないで桔平。今必死に心のメモリーに録画してるんだから」

「怖いわ。仲良くなる以前に怖がられても知らないからな」

突然友人に対して暴力を振るようなこの男の名前は佐野桔平。

僕の好きな人を知っている唯一の人間だ。

せっかく人が至福の時間を過ごしていたと言うのに、桔平は「ストーカーかよ」と邪魔をしてくる。

「僕をその辺のストーカーと一緒にしないでくれる?そんな生ぬるい気持ちじゃないんだけど」

「犯罪者を超える気持ちも中々ヤバいと思うけどな」

言っておくが、もちろんストーカーではない。常にどこにいるか目を光らせているけれども、ストーカーでは断じてない。

まだ家の場所だって知らないし、文房具とか私物を盗んだ事はない。

つまり僕は恋する健気な男子高校生だ。

今のところ彼女に対して卑しい目で見たことなんて、一回たりともない、はず。

「あのさぁ、りっちゃん」

こんなに純粋にすずちゃんを想っている僕に対して、呆れた表情で桔平はため息を吐く。

全国の恋する青少年に失礼な顔をしている奴は、けろっと思うがままに口を開くのだ。

「いい加減、好きならアタックしろよ」

ハイ出た。彼女がいる奴は簡単にそんなことが言えるんだよ。

「むむむむむ無理!!!!いきなりそんなこと出来るわけないじゃん!!!!」

僕は勢いよく首を横に振った。

「もう片思いして1年半?くらいだろ」

「1年と98日!」

「分かった分かった。でもさ、そんだけ長い間片思いしてんだからさ」

───せめて友達くらいになったら?

言葉は時に鋭利な刃物になる。

僕はぐさりと音を立てるように突かれた。

「桔平、君は僕の味方?それとも敵?」

「強いて言うなら傍観者」

「辛辣だ。無慈悲だ。悪魔だ」

「お前は俺と敵になりたいの?」

片思い歴1年と98日。未だに僕は心の中では“すずちゃん”と呼んでいるが、実際に声に出したことはない。いつも「日高さん」と声に出す時は苗字呼びだ。

そう、僕はこんなにも恋い焦がれた毎日を送っているのに、実はすずちゃんとは話したことも顔も合わせたこともないのだ。

友人どころか知り合いでもない。シンプルに言えば“隣のクラスの同級生”である。

「流石に付き合いたいとは思ってるんだろ?」

「つっ付き合う、そっ、僕なんかが、烏滸がましいっ・・・!」

「お前は純情な男子高校生かよ。純情通り越してムッツリじゃんお前」

だって、いざすずちゃんに話し掛けようと思っても緊張して言葉が出てこないのだ。すれ違う時なんて動悸がするし、彼女の教室の前を通るだけでも心臓が高鳴る。

他の女子には難なく話し掛けらるのに、どうして好きな子の前じゃ上手く行かないのだろうか。上手くいくコツを何度もネットやSNSで検索したのにも関わらず、実行する段階にすら至っていない。

付き合うなんて以前の問題。そもそも彼女にとって僕は知り合いの枠にも入っていない。ただの同級生。それ以上でも以下でもない。

あんなに初詣にも2年生になる前にも神社で神様に「同じクラスになれますように!」って頼み込んだのに。

同じクラスメイトの称号を持つ男達にですら嫉妬してしまうのだ。

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【1】月島くんは恋する乙女 ー 僕には好きな人がいる
僕の名前は月島律。突然だが僕には好きな人がいる。名前は日高すずちゃん。僕の同級生で、隣のクラスの女の子。艶のあるストレートな黒髪に、陶器のような白い肌。長い睫毛に縁取られた目はくりくりで、女の子らしい華奢な身体。程よく筋肉のついたすらっとした長い手足。きっとその制服に隠れたくびれは簡単に掴めるほど細いに違いない。さらに彼女は成績も良くて、もちろん性格に難もない。そして運動神経も良い。誰から見ても善人だと思うであろうすずちゃんは、学級委員長に選ばれるくらいに人望もある子だった。聡明で友人や先生にも頼られている場面もよく目撃するし、困っている人を見たら助けずにはいられない性分。そんな日高すずちゃんを産んだご両親を、僕は人生で最も尊敬している。(あ、すずちゃんの声がする)今も少し遠くで、すずちゃんが友達と廊下で談笑している声が耳に入ってきた。小柄の割には凛として大人びた顔をしている彼女だが、笑う時は鈴を転がしたかのように笑う。このギャップに何度心臓を撃ち抜かれては生還しただろうか。相変わらず今日も天使。女神。どんな言葉でも言い表せないほどに尊い存在。常時スポットライトを浴びているかのように、すずちゃんはいつ見掛けても神々しく見えるのだ。(仰げば尊死・・・)あぁ、昨日よりも今日の方が好き。日々、この恋心は進化中である。恍惚とした表情で今日も今日とて彼女を観察していると、後ろから勢いよく頭を叩かれた。「暴力反対!」と文句を告げると、さらに追い討ちをかけるように一発。容赦なく攻撃を繰り出す奴は、目を半開きにさせて僕を見ていた。「りっちゃん、流石にガン見しすぎだって」「止めないで桔平。今必死に心のメモリーに録画してるんだから」「怖いわ。仲良くなる以前に怖がられても知らないからな」突然友人に対して暴力を振るようなこの男の名前は佐野桔平。僕の好きな人を知っている唯一の人間だ。せっかく人が至福の時間を過ごしていたと言うのに、桔平は「ストーカーかよ」と邪魔をしてくる。「僕をその辺のストーカーと一緒にしないでくれる?そんな生ぬるい気持ちじゃないんだけど」「犯罪者を超える気持ちも中々ヤバいと思うけどな」言っておくが、もちろんストーカーではない。常にどこにいるか目を光らせているけれども、ストーカーでは断じてない。まだ家の場所だって知らないし、文房具
last updateLast Updated : 2025-07-03
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【1】月島くんは恋する乙女 ー 彼女以外からの告白は無論お断り①
某日。"すずちゃんが好きだなぁ"なんて誰にも聞こえない告白を、心の中で呟いていた放課後。「月島くんのこと、」帰ろうとして下駄箱を開けたら「体育館裏で待ってます」とラブレターが入っていた。それも差出人不明のラブレター。その字が彼女が書いたものではないと分かってはいたが、ずっと待っていられるのも何だか嫌な話。気が乗らないまま体育館裏に足を向けると、そこで待っていたのは確か同じクラスの女子生徒だった。名前は覚えていないけれど、多分フランスかどこかのハーフで男にも女にもチヤホヤされて嬉しそうにしていた人。「ずっと前から好きでした!」案の定呼び出された理由は「告白」だった。彼女は顔を真っ赤にさせながら「付き合って下さい!」と愛の告白を述べる。対して僕は自分でも分かるくらいに冷めた目をしていた。(すずちゃん以外に「好き」って言われてもなぁ) もし、目の前にいるのがすずちゃんだったらな。想像出来ないほど程遠い未来に目眩すら覚える。「・・・」「あの、えっと、月島くん?」自分で言うのもなんだが、僕は世間一般で言う“イケメン”に属するらしい。イケメンの自覚はないが、モテている自覚はあった。こうして呼び出されて告白、が日常茶飯事になったのは小学生から。中学生、高校生と年齢を増していくうちに、告白された回数は2の倍数で増えていっている。その所為か、男にやっかみを買うこともしばしば。故に僕にはあまり友達がいない。「ねぇ、僕のどこかそんなに良いの?」「えっ?」正直、自分のどこにモテる要素があるのか分からない。人付き合いも愛想も決して良い方ではなくて、基本すずちゃんを見ている時以外が感情が欠落している顔をしていると思う。同じ質問を桔平にもしたことがある。「何で僕ってモテるんだろうね」って。彼は「顔だろ」と即答していた。その後なぜか「何かムカつく」とチョップをお見舞いされたけれど。全く、血も涙もない男である。でもただ顔が良くてもダメなのだ。すずちゃんの好みの顔じゃないと僕は胸を張ってイケメンですとは言えない。「月島くんって、格好良いし!優しくて!ひ、一目惚れだったの・・・!」「?」その言葉に疑問を持った僕は首を傾げる。予想外の反応に動揺したのか、彼女も戸惑っている様子だった。「つ、月島くん?」「僕さ、君に優しくしたことなんてあったっけ?」そう
last updateLast Updated : 2025-07-03
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【1】月島くんは恋する乙女 ー 彼女以外からの告白は無論お断り②
「それに私、みんなから可愛いってよく言われるし、料理も出来るし、絶対に良い彼女になれると思うの!」 「え?」いや、ずずちゃんの方が可愛いわ。それに料理も上手で献身的だと思うし、彼女こそが"良い彼女"のお手本になる人だろう。「友達も私と月島くん、お似合いって言ってくれてるし」「・・・ヴッ」思わず咽せた。「どうかな?」と上目遣いをするこの子は、きっと世間の男から見たら可愛い部類に入るのだろう。そう思うのと同時に彼女を哀れに思った。だって、僕以外の人だったら告白をOKしてくれるかもしれないのだから。こんなに胸の内に激オモ感情爆弾を抱えている僕を好きになってしまった彼女は可哀想な人である。彼女の汚点を1つ挙げるのならば、僕を好きになってしまったこと。僕に好意を向けるなんて、なんて時間の無駄だと哀れに思った。「月島くん・・・?」「君とは付き合えない、ごめんね」返事なんて考えるまでもない。すずちゃん以外からの告白なんて、無論お断りなのだから。「どうして?!何で私がダメなの?!」振られると思っていなかったのか、女は本性を表したかのようにヒステリックに叫ぶ。「だって僕、君のこと好きじゃないもん」そう告げると「そんな」と信じられないような顔をしている。何故そんな自信があったのか僕の方が信じられない。それに「どうして」と言われても答えは1つだ。君が日高すずじゃないから。ただそれだけ。すずちゃん以外の彼女なんて好意なんて嬉しくも何でもない。「付き合ってから好きになることだってあるよ、だからっ」「えっ君のことを何で僕が好きになるの?」僕の一言一句にどんどん女の雲行きは怪しくなっていく。「それはっ・・・私って可愛いし!キスだってそれ以上のことだって自信があるもんっ!」そして色々暴き始めた彼女は「じゃあ身体の関係だけでもいいからっ!ねっ?」とついに開き直った。確かにシャツのボタンは上3つ空いているし、スカートの丈なんてもう少しで下着が見えてしまいそうなラインだ。どこぞかの友人の家で見たDVDに出ている人とそう変わらない。(でも全く色気すら感じないし。僕は清純な優等生のすずちゃんがタイプだし)だんだんと、この混沌とした状況に僕は疲れてくる。お願いだから告白も誘惑もそう言うコトも他の男とやってくれ。全く実りのない時間の使い方をしている気がしてならな
last updateLast Updated : 2025-07-03
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【1】月島くんは恋する乙女 ー 彼女以外からの告白は無論お断り③
このまま話していても、僕も彼女も幸せには慣れない。早くこの場から立ち去ろうと、僕は「っていうわけだから、ごめんね」と背を向けた。「つ、月島く、」あの女子生徒が言う通り、確かに付き合ってから互いを知っていく方法もあるかもしれない。けれど好きな人がいる僕には代わりの誰かと付き合うなんて、そんな器用な事は出来ないのだ。そもそも知ったって、すずちゃん以上の女では無いと思うが。それにしても勢いがありすぎた告白に、少し体力的にも精神的にも疲れてしまった。今日は早く寝て、明日の小テストに備えよう。そう思いながら、真っ赤に染まった夕焼けを見上げた僕はふと足を止める。そして後ろを振り返った。 「あぁでも、1つ聞いてもいい?」彼女はまだ呆然と立ち尽くしたままで、突然話し掛けられたことに動揺しながら「なに?」と震えた声で返す。 「好きな子に話しかけるには、どうしたらいいのか分かる?」「は?」いつも桔平に相談していてばかりだったから、偶には女性の意見も求めてみよう。そう気まぐれに思った僕は直球に尋ねる。「いやぁだって、話しかけようとしても緊張してどもっちゃうし。横を通るたびに心臓が口から出てきそうって言うか、同じ空気を吸うだけでも烏滸がましくて呼吸止めちゃったりとかするし。同じ学校ってだけで目も耳も幸せっていうか、存在自体に感謝しなくちゃいけないって言うか」「・・・えっと、」「いい加減僕だって前に進みたいんだよ。桔平だってこの前初めてちゅうしたって自慢してきたしさ。羨ましいのなんのって。あぁでも僕、絶対あの子を目の前にしたらひよっちゃって出来ない気がする」「あ、っと、」思い出したのは先週の空き時間。ヤケに機嫌が良かった桔平が何か聞いて欲しそうな顔をしていたから、しょうがなく「何かあったの?」と聞いてあげたのだ。どうやら桔平は彼女とキスをしたらしい。それも大人のやつ。その時の顔が可愛かったのなんのって、デレデレな顔であまりにも自慢してくるものだがら、思わずチョップを喰らわせたのだ。「僕だってちゅうしたいし?でもその前に友達にならなきゃいけないし、いろいろ僕も忙しいんだけどさ」「どうしたらいい?」そう尋ねた僕に彼女はヒクリと口角を震わせる。「・・・えっと、」「笑いかけられるだけで即死しそう。今から盗撮した写真と向き合って耐性つけていった方が良いかな?どうしたら
last updateLast Updated : 2025-07-03
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【2】日高さんの観察日記 ー 僕は彼女の背中を追いかけた①
○月△日(火)天気は晴れ。今日は先月に行われた高校2年生を対象とした全国模試の結果発表があった。職員室前に張り出されたランキング表の一番上には「日高すず」の名前。名前を見た同級生や先生は「やっぱりね」「天才」「T大も夢じゃない」と騒いでいた。僕も結構頑張ったつもりだったが、校内結果は33番目。まだまだ勉強が足りないと思った。○月□日(金)天気は雨。天候が悪く教室内や廊下で生徒が騒いでいる中、すずちゃんは1人でプリントのホチキス留めをしていた。学級委員長である彼女はきっと仕事を任されたんだろう。僕だったら何でわざわざ昼休みにって悪態を吐いていたと思う。嫌な顔1つせずに雑務と向き合っているすずちゃんはお人好しすぎるのではないかと逆に心配になってしまった。△月○日(月)天気は曇り。すずちゃんはクラスの人に数学を教えていたようだった。自分の勉強もあるだろうに。それなのに教えてもらっている生徒は「私馬鹿だから無理」だとか「絶対赤点だよ」だとか、そんなことばっかり。数学なんて公式に当てはめて解けば赤点くらいは回避できるだろう。そもそも勉強する態度ではなく、すずちゃんに失礼だろうと飛び入りそうになった。「はぁ・・・今日も尊い。どうしてそんなに可愛いの。好きが口から溢れる」「・・・りっちゃん。俺もう部活行くからな」「何で同じクラスじゃないんだろう。ねぇどうしたら同じクラスになれると思う?」「知らねぇよ。んじゃ、また明日な」日高すずは今日も可愛い。国宝、いや世界遺産級。彼女が生きている世界線に産み落としてくれた僕の両親に感謝。お陰様で僕の見える景色は入学して以来ずっと、ウユニ塩湖をも超える絶景が広がっている。そんなこんなで僕はすずちゃんを見守ってきたわけだが、一向にお近づきになれていなかった。今朝も昇降口で見かけたから挨拶でもしようと思ったが、何と声を掛けようか迷っているうちに居なくなってしまった。「おはよう」のたった4文字が、なぜあの時出てこなかったんだろうと今日もまた後悔の嵐。「うん。明日は絶対に、話し掛ける。もう決めた」桔平が部活に向かい、1人になった僕も帰ろうかと席を立つ。鞄を肩に引っ掛けて、廊下へ出た。いつもすずちゃんの教室の前を通って帰ることが日課だった僕は、今日も隣のクラスを眺めながら通ろうとした───ところで、僕の足はピタリと止まる。(す、
last updateLast Updated : 2025-07-09
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【2】日高さんの観察日記 ー 僕は彼女の背中を追いかけた②
ひとりでてんやわんやしていると、彼女は急に席を立つ。なぜか僕は反射的に隠れるようにして身を潜めた。どうやらすずちゃんも帰るらしい。鞄を持って教室を出ると僕に背を向けるようにして昇降口へ向かっていった。(・・・ま、またチャンスを逃してしまった)追いかけるかどうか迷った。しかし突然声を掛けるのもどうかと思い、僕はその場でゆっくりと立ち上がる。このままじゃ友達どころか顔見知りにもなれずに卒業するかもしれない。好きな人と仲良くなることへの難しさに打ちひしがれていると、先ほどまで彼女が座っていた席に一冊のノートが置いてあることに気づいた。 周りに他の生徒がいないのを確認して教室に入って、そのノートを手にとってみる。キャンパスノートでもルーズリーフでもなく、1センチほどの厚みがある方眼紙のノート。「見ても、いいかな」あまり良くないことだとは分かっていても、一度手にとってしまえば気になるもので、ぱらぱらと好奇心でそのノートを捲ってみる。僕は大きく目を見開いて驚いた。「うわ、凄い。何コレ」ノートには左上の端から右下の端までそれはもうびっしりと文字が書き連ねられていたのだ。名前の記載が無いコレは、きっとすずちゃんのノートで間違いないだろう。殴り書きで記された英単語や数字、用語の数々。何度も何度も繰り返し解かれた問題。最後のページまでそれは続いていて、ノートを見るだけでも彼女の膨大な勉強量が分かる。「こんなに勉強しているんだ・・・すっごい努力家じゃん」それに、いつもは達筆で綺麗な字なのに、殴り書きっていうところもなんだか可愛い。まじまじと観察しているところで僕はハッと我に帰る。「と、届けなきゃ。今日家に帰ってから使うかもしれない・・・!」今ならまだ間に合う。そう思った僕は急いで階段を駆け下りて昇降口へ向かうことにした。しかしもうそこにはすずちゃんの姿は無かった。下駄箱を確認すると既に上履きが入っていた。つまり、彼女はもう校内には残っていない。急いでローファーに履き替えて、門へと向かう。キョロキョロと見回していると、丁度先生と言葉を交わしているすずちゃんがいた。そして背を向けて歩き出した彼女を追いかける。 (すぐ近くに、すずちゃんがいる・・・!)だんだん近づいていく距離に心臓がどくどくと音を立て始める。緊張して喉も乾いてきたけれど、僕は己を
last updateLast Updated : 2025-07-09
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【2】日高さんの観察日記 ー 彼女が魅せるその笑顔の破壊力①
「日高さん、このノート忘れてない?」声が震えてしまったかもしれない。小さくて聞き取りにくかったかもしれない。「あっ・・・私のノート!」でも、すずちゃんに声が届いた。声に反応して後ろを振り返った彼女。僕の顔を見て一瞬目をパチパチとさせた。その様子に突然話し掛けるのはマズかったかと「これ!」と手に持っているノートを胸の前に掲げる。それを見たすずちゃんは「あはは、机の上に出して鞄に入れるの忘れてたかぁ」と恥ずかしそうに笑った。こんな至近距離で、それも僕だけに向かって笑顔を見せる。「ありがとう。わざわざ届けてくれて助かったよ」「はわわ・・・」「はわ?」「・・・あ、いや、全然・・・大丈夫」その瞳に初めて映る。まるまるっとした澄んだ瞳の中に僕が映っている。片思い歴2年目。初めて本人の前で名前を呼んで、初めて目が合って、初めて言葉を交わした。この嬉しさをどう言葉で表現をしたらいいのか。さっきから「はわわ」の3文字しか頭に浮かんでこない。恋の病というものはおっかないものだ。「・・・もしかして中、見ちゃった?」「あ・・・ごめん、少しだけ」「謝らなくてもいいよ。すっごい字、汚かったでしょ?」「そんなことないよ」「え〜うっそだぁ。自分でも時々読めないことあるのに」すずちゃんと今、話している。ずっと遠くから見てきた彼女と会話をしている。非現実的すぎて逆に夢じゃないかと思った。こっそり両手を後ろに回して手の甲を抓ってみる。痛かったから夢じゃないらしい。じゃあやっぱり現実?!と心の中で自問自答を繰り返す僕は随分余裕がない。もっと気の利いたことを言えばいいのに、情けないことにしどろもどろ状態だった。「でも本当にありがとう。クラスの子に見られてたらちょっと恥ずかしかったかも」「かわ」「かわ?」「いや、えぇっと、」思わず可愛いと言葉が溢れそうになった。危ない。危ない。知り合って間もなくドン引きされるところだった。さすがに初対面で可愛いはアウトだ。僕はナンパをしにきたチャラ男ではない。「日高さん、」しかし知り合いになれたことは喜ばしいことだが、やはり欲は出てくるもの。もっと一緒にいて仲良くなりたいと、そんな思いが募っていく。今まで嫌われないようにと慎重になっていた僕だが、こんな絶好の機会は無いと腹を括った。
last updateLast Updated : 2025-07-09
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【2】日高さんの観察日記 ー 彼女が魅せるその笑顔の破壊力②
神妙な面持ちをしている僕を心配してくれたのか、すずちゃんは「どうかした?」と声を掛けてくれる。ダイレクトに伝わる優しさに一瞬フリーズしてしまいそうになった。そして僕は、腰を深く折って、その思いを告げる。「その、僕と友達になって!・・・くれま、せんか」言った。ついに言ったぞ。緊張して最後は敬語になってしまったが、僕はついに告げた。友達になってくれませんか、と。告白ではないにしろ、やっぱり相当な勇気が必要で、どくどくと心臓の波打つ音が頭に響いてくる。「・・・・」しかし一向に返事がこない。しばらく沈黙が続くこの状況にだんだん僕の体温が下がり始める。「・・・日高さん?」いきなり友達になってはマズかっただろうか。彼女は今、どんな表情をしているのだろう。不安になった僕はそろりと顔を上げた。「ふふっ」「・・・えっと、」すると、すずちゃんは笑っていた。何か可笑しなことを言っただろうかと僕は目を見開いて、彼女をじっと見つめる。すると「あぁごめんね!・・・ふふっ」と謝るも、その小さい口からは笑いが溢れていた。 笑っている意味が分からなくて悶々としていると、すずちゃんは衝撃的な言葉を発する。「あははっやっと話し掛けてくれたと思って!」「・・・へ?」僕は身体を硬直させる。今彼女は何と言った?“やっと”話し掛けてくれたと思ってと言った。まさかまさかと想像にもしてなかった状況を収拾する前に、すずちゃんはまた口を開く。「君が全然話し掛けてくれないから私からいっちゃうところだったよ」「・・・え、」「私でよければ仲良くして下さい。月島律くん」「な、名前、」「そりゃあ名前くらい知ってるよ。月島くん、女の子から大人気だもんね」わざわざ聞かなくてもきっとそうなのだろう。つまり、すずちゃんは全部知っていたのだ。僕がずっと彼女を目で追っていたことも、毎日のように話し掛けようとタイミングを図っていたことも。恥ずかしくて顔から火が吹きそうだが、幸い生まれつき表情筋が乏しいもので見た目は変わらないはず。しかしそんな僕も自分の名前を呼んでくれたことが嬉しくて口角が上がっていくのが分かった。「・・・えっと、その、よろしく、日高さん」「よろしくね、月島くん」僕は長年掲げてきた“すずちゃんと友達になる”夢が、今、この瞬間叶ったのだ。
last updateLast Updated : 2025-07-09
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【2】日高さんの観察日記 ー 彼女が魅せるその笑顔の破壊力③
「ところで月島くんは電車通学?」「うん」「一緒に帰ろう。あ、もしかして何か用事ある?」僕は即座に「ない」と返す。いや、もし何か用事入っててもないって答えるけれど。(デートのお誘い・・・!)まさか彼女の方から誘ってくれるなんて思いもしなくて、僕はこれでもかと舞い上がった。絶対前世の僕が徳を積んでいたに違いない。逆に上手く行き過ぎて今から鉄槌でも降ってくるのではないかと、明日の我が身が心配になる。「じゃあ良かった」「でも日高さんの方こそ何か用事とかあったんじゃないの?」「え?無いから全然大丈夫だよ」そこまで言ってすずちゃんは「あぁ、強いて言うなら」と続ける。その後の言葉を僕はごくりと唾を飲み込んで待った。「月島くんと帰るって言う用事くらいかな」彼女は髪の毛を可愛く揺らして、太陽すら凄むほどの眩しい笑みを浮かべた。「ひょえ」「え、大丈夫?変な日本語が聞こえてきたけど」ふふ、と笑うすずちゃんに「喉の調子が悪いみたい」と変な言い訳を伝える。変なの、と前を向いて歩き始めた彼女の背中を見つめた。(才色兼備で天使で女神で尊い存在なのに、まさか茶目っ気まであるとは・・・流石僕の好きな人)色々誤算はあったものの、やっぱり日高すずという人物は偉大だった。非の打ち所が無いとはまさにこのこと。若干ストーカーのようなことをしていた自覚はあるが、それを知って受け入れて友達にまでなってくれる懐の広さ。すずちゃんの偉大さに乾杯。「・・・好き」「何か言った?ごめん、よく聞こえなかった」「ううん、ひとり言」「そう?あ、それでさ駅前のたい焼きがとても美味しくって!もし月島くんがよければ帰りに寄って行こうよ」「行く!!!!!!!!」「声うるさ、」「ごめん。えっと、甘いもの好きなんだ」「!私も好きなんだよね。一緒だ」「・・・好き」「私も甘いものには目がないんだよねぇ」△月□日(木)天気は快晴。初めてすずちゃんに話し掛けることが出来た。とても緊張したけれど、念願の友達になることが叶った。僕の名前を知っていたことにも驚いたが、すずちゃんがあんなにも茶目っ気のある子なんだって驚いた。好きになってもう長い年月が経つけれど、昨日よりも彼女のことが好きになった。僕は前世で徳を積んでいたのか、連絡先も交換することができた。明日絶対に桔平に自慢したい。あぁ、恋ってすごいな。ただ一緒に帰っただ
last updateLast Updated : 2025-07-09
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【3】月島くんは一歩進んだ ー 僕と彼女の可愛い逢瀬①
拝啓、今頃彼女に浮気を疑われて距離を置かれている桔平へ。僕は今、大変幸せです。羨ましいでしょう?羨ましがれこの野郎。敬具。「屋上でご飯食べるの初めて!」「そう?意外と人来なくて快適なんだよ、ここ」「もっと早く来ていたら良かったな」「凄く居心地が良い!」そう言ってお弁当のおかずを食べるすずちゃん。はむはむと小さい口いっぱいに食べる君が好き。彼女のお母様が作るお弁当は、ハンバーグとかエビフライとかオムライスとか、お子様ランチで出てくるメニューが多い。聞いたところによると、どうやらお父様がそういった子供っぽいメニューがお好きらしい。すずちゃんの可愛さはお父様からも遺伝しているのか、と僕は購買で買ったパンを齧る。視界が幸せすぎて、150円のメロンパンもホテルビュッフェの味がする。「なんだか青春っぽくてドキドキしちゃうね」「本当におっしゃる通りです」「何で急に敬語?」ドキドキするのはこっちの方だよ馬鹿!と今すぐに叫びたいのを抑える。誰もいない屋上で男女2人でランチタイム。まさか日高さんと僕が一緒に居るなんて学校中の誰も思わないだろう。僕ら2人だけの秘密、なんてクサいセリフを大盤振る舞いするほど、僕の脳内はハッピーハッピーだった。(あの時勇気を出して話し掛けて良かったぁ・・・!)すずちゃんの忘れ物を届けて友達になったあの日から数日。一大決心で「お昼一緒に食べませんか」と連絡したら、何とOKの返事を貰えたのだ。思わず帰りの電車の中で人目を憚らず愛を叫びそうになった。何とか踏み留まった僕は屋上であれば誰にも邪魔されないだろうと思い、この如何にも青春っぽい逢瀬現場が出来上がったのだ。「そういえば月島くんはさ、進路ってもう決まってるの?」お弁当を頬張っているすずちゃんが口を開く。いや、やっぱり口小さすぎない?と小顔であるが故に小さいパーツを思わずじっと見つめてしまった。「・・・っえっと、僕はまだ全然。特にやりたいことも今の所ないんだよね」「そっかぁ。みんなそんな感じだよねぇ」「大学に行ってからでもいいかなぁって」そう言うと「きっと月島くんにもやりたいこと、見つけられるよ」と笑う。その後「そうだね」と笑い返しながらも、出来ればすずちゃんと同じ大学に行きたいんだよなぁと来月に定期テストが迫っていることを思い出した。どうにか彼女と同じ志望大にと思ってはいるが、
last updateLast Updated : 2025-07-09
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