「西園寺くん、もう決めたのか?今回のプロジェクトは完全隔離になる。行ったら、もう家族には会えないぞ」研究所の所長の声に、ぼんやりとしていた意識が現実に引き戻された。目元にはまだ涙の痕が残っていた。この数日間、西園寺家ではいろんなことが起こった。研究所の誰もが知っている。私、西園寺理央(さいおんじ りお)はただの偽物だ。「今回のことはお前にとって大きな衝撃だったと思う。でも、感情に流されてはいけない。これは、お前自身の人生だ」所長は私の目に浮かぶ悲しみを見て、手を後ろに組み、同情的な表情を浮かべた。「ご心配ありがとうございます、所長。でも感情的になって決めたわけじゃありません。最初すぐに答えなかったのは、ただ家族と離れたくなかったからです。今は……ここまでこじれてしまって、私が離れるほうが一番いいんです」そう答えながら、所長の視線の届かないところで、そっと涙を拭った。悲しかった。でも、どこかでほっとしている自分もいた。たぶん、ずっと心の中でこうなると分かっていたんだ。みんなが傷つくくらいなら、早めに私の代わりができた方がいい。「……わかった。お前を信じる。体には気をつけろ。出発は半月後だ」所長はそれ以上引き止めず、静かに肩を叩いてくれた。それが、今の私に必要な慰めだということを分かってくれていたのだ。何も言わずとも、彼はずっと私の味方でいてくれる。「ありがとうございます」一礼して研究所の建物を出ると、中の仲間たちが一斉にこちらを見た。身分がバレてから、彼らはずっと私のことを心配してくれていた。彼らの目には、私がここまで来られたのはすべて努力の賜物だった。でも兄・西園寺智貴(さいおんじ ともき)は、会社の公式サイトに「理央が今の地位を得たのはすべて西園寺家のおかげだ」と書き込み、私は彼らを責める資格も、何かを言う立場すらないと思わされた。「理央ちゃん、家にはもう帰らない方がいいんじゃない?」「そうよ、うち空いてる部屋あるよ。どうせもうすぐ出発するんだし、わざわざ戻って辛い思いすることないでしょ?」みんなが口々に優しい言葉をかけてくれた。けれど私は静かに首を振った。「だからこそ、帰らなきゃいけないの」私が背負ったものを返しに行かないといけない。智貴の言葉は酷かっ
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