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第7話

Auteur: 匿名
隼也が先に手紙を受け取り、顔を険しくした。

「……勝手に出て行くなんて、何様のつもりだ。どの面下げて、こんな真似を……」

怒りが彼の中で爆発し、足元にあった人形を思いきり蹴り飛ばした。乾いた音を立てて砕けた石膏人形は、過去の二人の関係そのものだった。バラバラに砕け、もう二度と元には戻らない。

「隼也さん……」

思わず破片を拾おうとしゃがんだ美優だったが、隼也は彼女を乱暴に突き飛ばした。

「理ちゃん……」

十八歳の年、隼也は初めて「男」としての覚悟を持ち、理央との将来を願ってこの人形を作った。

あの頃の彼は、本気で理央を愛していた。誰もが知っていた、理央には小さい頃から守ってくれる婚約者がいるって。

理央に近づく男を全員遠ざけて、理央の隣はいつも彼だけだった。

だが、美優が戻ってきたその日から、この男は変わってしまった。

「本物の令嬢」に惹かれたのだ。

美優にあんな深い感情を抱くようになった理由が、どうしても分からなかった。

でも、あの日、彼の会社に行ってようやく気づいた。

美優が身元を明かす前から、特別扱いしていた。

智貴もそれを知っていた。ただ理央だけが、
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