正直に言って、大輔のこの言い訳は、嘘としても稚拙すぎた。ツッコミどころが満載で、聞いていて呆れるほどだった。確かに、病院の廊下の電波状況は悪い。だが、VIPの特別病棟にはWi-Fiが完備されている。本当にネットが必要だったのなら、わざわざ下の階に降りる必要などなく、手術室のすぐ近くにある病室に行けば、それで済んだ話だ。それに、外国人だって同じ人間だ。怪物じゃあるまいし、妻が出産間近のときに、夫に会議のために病院を離れさせるなんて、どこの国でもあり得ない話だ。K国は先進国であり、何より家庭をとても大切にする国民性がある。そんな国が、わざわざ夫に「今すぐ会議をしろ」と強要するなんて、もっとあり得ない。孝明は、黙って大輔の嘘を聞いていた。正直なところ、一瞬だけ本気でこの男を殴ってやろうかという衝動に駆られた。だが、彼は堪えた。その拳はいずれ振るうことになる。だが、それは今じゃない。「兄さん、俺が悪かったんだ。本当に反省してる。殴られても、怒鳴られても文句は言わない」大輔は、例の誠意に満ちた男の演技を始めた。低姿勢で懇願する。「でも兄さん、お願い、和沙がどこにいるかだけでも教えて。手術室に入ってから、一度も会えてない。彼女は今、大丈夫?もう目を覚ました?もし目が覚めて俺がそばにいなかったら、きっと悲しむと思う。お願い、兄さん。一目でいい、和沙に会わせて。彼女に会えるなら、どんな罰でも受ける、何でもする」実は、和沙が大輔を家に連れてきて、初めて家族に紹介したとき、孝明はこの義弟があまり好きではなかった。どうにも、嘘っぽいのだ。普通の男なら、あそこまで甘ったるく口説いたりしない。すぐに口をついて出るような愛の言葉に、どこか寒気がした。だが、当時は和沙が恋愛真っ最中で、大輔もその頃は本当に彼女に尽くしていた。家柄の驕りも見せず、デートでは荷物持ちをかって出て、彼女が食べ残したものも嫌な顔一つせず食べた。彼女が欲しいと言えば、どんな物でも探し出して買ってきた。そんな日々を見ているうちに、孝明も少しずつ大輔を見直していた。だが、そう思い始めた矢先だった。あっという間に、化けの皮が剥がれた。やっぱり、人間は直感を信じるべきだ。第一印象というのは、案外正しいものだ。あのとき、妹をこの男に嫁がせるべきじゃなかった。怒りが胸
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