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第12話

Penulis: 団子ちゃん
この瞬間、大輔は確かに和沙に会いたくてたまらなかった。しかし、孝明のその冷徹な顔を見ると、口にしかけた「和沙に会わせてほしい」という言葉を、ぐっと飲み込んだ。

正直言って、大輔はこの義兄のことが少し怖かった。

なんというか、きっと自衛官だからだろう。孝明には、誰もが自然と逆らえなくなるような威厳がある。幾多の修羅場をくぐってきた大輔でさえ、この男の放つ圧にすくんでしまうほどだった。

「では、準備のために一度戻る。和沙が目を覚ましたら、どうか、彼女に伝えて。俺は彼女を深く愛してるし、すぐにでも会いたいと思ってる。家でずっと彼女を待ってる、と」去り際、大輔はまた誠実な男を装って見せた。

孝明からすれば、それを見ているだけで吐き気がした。

やっぱり、浮気男ほど「誠意ある男」を演じたがる。

本当に真面目な男というのは、恋愛経験も少なく、異性との関わりにも不器用なものだ。たとえ心から想っていたとしても、口下手で、甘い言葉なんて簡単には言えない。こんなふうに、情熱的で自然に愛を語れる男こそ、女慣れしてる証拠だ。

愛の言葉なんて、愛人相手に何度も練習してきた結果にすぎない。

孝明の目が、次第に鋭く冷たくなっていく。

彼の手には、さっきまで何もなかったはずなのに、大輔が去った後、なぜかスマホが握られていた。

それはもちろん、孝明のものではない。

「技術部に渡せ。パスコードを解除して中身を見ろ」孝明はそう命じて、部下にスマホを放り投げた。「中にある大輔の浮気に関する証拠、全部抜き出してメモリに保存しろ。明日、使う」

それは、大輔のスマートフォンだった。

さっきの会話中、孝明がこっそり抜き取ったのだ。

妹は、心が優しすぎて、こんなクズを真正面から糾弾できない。だが、兄の自分は違う。

ただ殴りつけるだけなんて、甘い。

こいつを、地の底まで引きずり下ろす。

時間が惜しい中、大輔は帰宅してすぐ、屋敷の使用人たちに指示を出した。明日は孝明が和沙と赤ん坊を連れてくる。今日、病院の外で待たなかったことで、すでに非難対象になっている。明日の出迎えの宴が失敗でもしたら、義兄の前で完全に顔を潰すことになる。

そのため、大輔は今が何時だろうとお構いなしに、家中の使用人を叩き起こした。買い出しに行かせ、掃除させ、飾りつけを指示し、明日の午後、和沙と赤ん坊を迎えるまでに、完
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