久遠和人(くおん かずと)と篠原佳凜(しのはら かりん)は、幼い頃から犬猿の仲だった。なのに運命のいたずらか、あの年、名家同士の政略結婚の適齢者は、この二人しか残っていなかった。「俺は死んでも、お前なんかと結婚しない」和人は堂々とそう宣言した。すると佳凜は、にやりと笑って言い放った。「へぇ、じゃあ私、絶対にあなたと結婚するわ。さっさと死んでちょうだい」そして迎えた結婚式当日。和人は、なんと式場に数十羽のニワトリを放ち、佳凜に恥をかかせようとした。けれど佳凜は無表情のまま、その中の一羽をつかみ上げて、さらりと「ねぇ、あなた」と呼びかける。その瞬間、和人は、いたずら心がすっと引いていった。彼女がどうしても自分と結婚しようとする姿を見て、和人は嘲るように言った。「お前、後悔するぞ」結婚して三年。佳凜はだんだん分かってきた。和人の言う「後悔」とは、いったい何だったのかを——これで99回目、和人の不倫現場を押さえた。佳凜は顔色も悪く、部屋中に散らばった衣類を呆然と見つめていた。鼻を突くような生臭い空気が漂い、胃がきりきりと痛みだす。ベッドでは、上半身裸の和人がくつろいでいた。その腕の中の女は、なんと佳凜のシルクのパジャマを着ている。男の大きな手が、女の体を好き放題に撫でまわしていた。和人の目尻には、ますます濃い笑みが浮かぶ。彼は眉をひそめ、わざとらしくいたずらっぽく佳凜を見やった。「どうだ?お前より、彼女の方がそのパジャマ似合うだろ?もう99回目だっけ?ここまでされて、まだ離婚する気はないのか?」佳凜は無感動な仕草で自分の胃を押さえた。初めてだった。彼女が和人の酷さに言い返さなかったのは。「服を着て。話があるから、外で待ってる」和人は彼女の背中を見て、鼻で笑った。「話?俺と何を話すつもりだ?」佳凜は足を止めたが、振り返らなかった。「離婚の話よ」和人は一瞬、唖然とした。「やっとその気になったのかよ。おいおい、これは夢じゃないだろうな?」佳凜が書斎に座って待つこと五分。和人はすっかり着替えを済ませて、そそくさとドアを開けた。待ちきれない様子で、彼女と離婚したがっているのが見て取れる。「お前、まさか冗談じゃないだろうな?」彼の瞳に浮かぶ軽蔑を、佳凜はは
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