病院へ向かう途中、昭安はアクセルをほぼ限界まで踏み込んでいた。もし帰宅前にたまたま地元ニュースを見ていなければ、末依が卒業パーティーで負傷したことなど知る由もなかっただろう。彼女は割れたガラスの破片の中に倒れ、シャンパンと血が混ざり合った光景は特に痛々しく映った。昭安の胸に後悔と自責の念が湧き上がってきた。あの夜、彼は反射的に嘉鈴を守り、末依が倒れていることなど気にも留めなかった。さらに婚約準備で忙しい中、たった一通のメッセージを送っただけ、その後は何の連絡もしなかった。末依は病院で一人、どれほど孤独だっただろうかと思うと胸が締め付けられた。花屋の前で急ブレーキをかけ、昭安は車を止めた。店内に駆け込んで、15本のカモミールを注文した。15本のカモミールの花言葉は「謝罪」と「許しを請う」だ。パーティーでの無視に対する謝罪だけでなく、2年間の欺きに対する詫びの気持ちも込めている。道中ですでに決心していた。末依の真心を裏切るわけにはいかない。自分の正体と接近した動機をすべて打ち明け、許しを乞うつもりだった。急いで病院に着いたが、彼女がどの病室か分からず、ナースステーションで尋ねた。看護師は看護記録をめくりながら怪訝そうに言った。「夏目さんは昨日退院されましたよ。あなたは彼女とどんな関係ですか?」昭安は呆然とした。もう退院?なぜ連絡がなかったのだろう?「彼女の彼氏です。いつ退院したのですか?」看護師は昭安の高級スーツと、世界に10本しかないパテックフィリップの時計をちらりと見て、目に軽蔑の色を浮かべた。そんな金持ちが彼女の手術費を払わないとは。看護師は不満げに言った。「昨日ですよ。彼氏なのに知らないんですか?」昭安は眉をひそめ、看護師の態度の変化が理解できなかった。だが彼女が病院にいないなら、ここにいる意味はなかった。末依はもうアパートに戻っているかもしれない。急いで戻らなければと思った。 病院を出ようとした時、後ろで看護師たちの囁きが聞こえた。「あの男、お金持ちそうなのに、彼女の手術費すら払えないなんて、あの子は仕方なく退院したよ、可哀そうね」「偽物ブランドかもよ?本物かどうかなんて誰にもわからない」「真偽はともかく、彼女を気にかけてない
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