病院の入り口。夏目末依(なつめ まい)は足元はふらついていた。腎臓を売って得た一千万円を握りしめ、青白い顔に満足げな笑みを浮かべていた。「これで……昭安の病気はきっと治せる」自分の腎臓一つで昭安の命が救えるのなら、それで十分だ。術後の弱りきった体に鞭打つように、よろよろとしながらも小走りで病室の前までたどり着いた。ベッドに横たわる弱々しい男の姿を見て、末依の目にさらに痛々しい色が浮かんだ。「昭安さん、その貧乏彼女はいないんだから、誰に見せるつもりで演技してんの?」「うるせえな!これは演技の練習だ。こうでもしなきゃ、あの女を騙せねえだろ?」病室から聞き慣れた声が聞こえてきた。末依はドアを開けようとした手を止めた。……騙す?どういうこと?部屋の中から、さらに騒ぎ声が聞こえてきた。「さすが昭安さん!偽の診断書で、あの女はまんまと騙されるなんて。マジでガンになったと思い込んでるみたいだよ!」「聞いたけどさ、あの女、全財産を差し出したって。いくらだっけ?あー!たったの120万円だってよ!?」「ははっ!120万円なんて、昭安さんがバーでちょっと酒を買うだけで消えちまう金じゃねえか。よくもそんなはした金持ってきやがったよ!」その一言一句が末依の耳に突き刺さった。手足が痺れるほどの衝撃が全身を駆け巡った。……一条昭安(いちじょう あきやす)のガンは……全部嘘だったのか?病室の中では、さっきまで弱々しいふりをしていた昭安が、すっと布団を蹴り飛ばし、ベッドから軽やかに跳び降りた。側にいた男が慣れた手つきでタバコを差し出した。タバコをくわえた昭安の顔は、記憶の中の優しい笑顔とはまるで別人のように、煙に包まれて霞んで見えた。「まあ、あいつも金ないんだから、120万全部出せただけでも予想外だったよ」部屋の中から嘲笑の声が上がった。「おいおい、昭安さんまさかあの女を本気で気にしてるんじゃないだろうな?嘉鈴さんに知れたら大変だぞ」「馬鹿言うなよ。昭安さんの本命は嘉鈴さんだけだ。気にしてるって、せいぜい同情に過ぎないさ。もともと一条家の御曹司ってのを隠してあの貧乏女と付き合ったのも、嘉鈴さんの気を晴らさせたいだけだ。嘉鈴さんのためなら2年間もスラムみたいなとこで我慢したんだぜ」「あの女、嘉鈴さんに感謝し
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