Все главы 遠ざかる月と星、遠く過ぎた恋: Глава 11 - Глава 20

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第11話

警備員に腕をつかまれたまま、美月は必死で叫んだ。「早くこの人を止めて!手を離して!」晴佳はため息混じりに首を振った。「ねえ、あなた耳悪いの?止められないって言ったよね」「……あんた!」「ほら、どう?まだ言いたいことある?」「……ない……」「え?聞こえないな、もっと大きな声で」「言わないってば!もう言わない!だから早く離させてよ!」晴佳は、満足そうに笑った。「最初からそうすればよかったのに」そう言って警備員に顎で合図する。警備員はすぐさま手を離し、背筋を正して後ろへ下がった。美月は痛みと怒りで涙をぽろぽろ流しながら、父の胸に飛び込んだ。「お父さん……姉さんが私たちを殺す気よ!あれ絶対わざとよ、私たちに恥かかせようとしてるの!」忠弘は成す術もなく、美月をなだめるしかなかった。「美月……まあ、お前もお姉さんの鼻先を指さして怒鳴ったのは、たしかにちょっと失礼だったよな。お姉さんだってお姉さんなんだから、人として大事なことを教えてくれるのも、結局はお前のためだよ」いけしゃあしゃあと、よくもまあ嘘が出るもんだ。美月はさすがに耐えられなくなった。「お父さんっ!!」忠弘は咳払いしてごまかすように顔をそらし、今度は媚びるような顔で晴佳を見た。「ねえ、晴佳……さっきはどこまで話したっけ?」晴佳は一瞬も笑わず、冷たく返した。「お父さんと話してたっけ?」忠弘はご機嫌取りの笑みを浮かべる。「いやいや、そうだよね、全部俺が一人でしゃべってただけだよな。……で、俺が言いたかったのはさ、お前の母さんが残した金額、あんなに多いのに、お前一人で使い切れるわけないだろ?それに、こんな広い家に一人じゃ寂しいだろうし、俺たち家族が一緒にいてやった方が……」晴佳はあまりの図々しさに思わず笑ってしまった。「心配性にもほどがあるでしょ。余計な心配なんかしなくていいの。金が自分で支配するから、余るなら寄付するだけ。私の自由でしょ?それと、来月から……あ、違う、今月からだよ、お父さんの口座には一円も振り込まれないから」その一言で、忠弘は完全に固まった。彼はちょうど先月、六千万円のギャンブル借金を作り、今月の振込をあてにしていた。それなのに、振り込まれないって。これから一切、金
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第12話

その夜、誠司が帰宅し、リビングに足を踏み入れた瞬間――美月が泣きながら彼に飛びついてきた。「誠司さんっ、助けてよ……お姉さん、おかしくなったの!私たちを追い出そうとしてるの!お父さんのお金まで取ろうとして――」けれど誠司は、彼女の言葉を最後まで聞くことなく、その身体をそっと押しのけた。「……その話は後だ。今はお姉さんと話がある」美月は濡れた睫毛のまま、信じられないような顔で彼を見つめた。その冷たい態度が、胸に突き刺さる。誠司はそのまま大股で階段を上っていく。すると、二階から晴佳の冷めた声が降ってきた。「話があるなら、ここで言って」誠司は立ち止まり、声の方を見上げた。晴佳が二階の手すりにもたれて、のんびりと身を乗り出しているのが見えた。シャワーを浴びたばかりなのか、髪はまだ濡れたままで、まるで他人事のように、リビングで起きている騒ぎを面白そうに見下ろしていた。誠司は足を止めた。「俺、会社のアクセス権限が全部無効になってるんだ。何かあったのか?何が起きてる?」彼女の表情は一切変わらなかった。「会社は正常。問題なのはあなた。あなたは常磐商事から解雇された」誠司はまるで聞き間違えたかのように眉をひそめた。「俺は常磐商事の社長だぞ?誰がそんな権限を?」晴佳は、鼻で笑った。「私よ。最大株主だから、会社の経営決議に拒否権を行使できるのよ、一・言・で」誠司の声には怒りと戸惑いが混ざっていた。「……なんで……俺をクビにする?」晴佳は淡々と、事務的に答える。「この五年間、会社に何の貢献もしていない。役員会はずっとあなたに不満を持っていた。今まで庇ってきたけど、もう限界」常磐商事、それは祖父・正幸が築き上げた数兆円規模の大企業。誠司は大学卒業後、その役員の一人として迎えられた。「貢献がない?馬鹿言うな。俺の在任中、会社は堅実に成長してきた。過失なんてしてないだろ!」晴佳は階段をゆっくりと下りながら、言葉を重ねた。「堅実って聞こえはいいけど、つまりは常盤商事が五年間一ミリも成長してないってことよ。同業他社を見てみなさい。五年間、長瀬グループは業績倍増よ。それどころか、以前常盤商事より格下だと思われていた会社にまで、今では追い抜かれてるのよ」彼女は階段の中段で立ち止まり、下
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第13話

誠司は完全に混乱していた。「晴佳、お前さ……怒るのはいいけど、離婚って……本気か?」晴佳は肩をすくめ、面倒くさそうに言い放った。「雨が降るのに理由なんていらないでしょ?人が結婚するのも、私が離婚するのも、ただそうなっただけ。それのどこが悪いの?」誠司は言葉を失った。晴佳は、感情のままに行動する人間ではない。喧嘩のたびに「離婚」と口にするような、子供じみた女でもない。だからこそ、彼女の口からその言葉が出た時、誠司は言いようのない不安に襲われた。晴佳は彼を一瞥し、そのまま踵を返して歩き出す。誠司は慌てて彼女の前に立ちふさがった。「晴佳!俺に何か不満があるなら、言ってくれ。俺、ちゃんと直すから、だから──」だがその声を遮るように、美月が駆け寄ってきた。「誠司さん!あの女、自分から離婚したいって言ってるのに、なんでそんなに下手に出てんのよ!」晴佳の視線が、自然と二人が絡ませた手元に落ちた。誠司はすぐに美月の手を振り払った。「触るな」美月の動きが止まった。「……誠司さん?」誠司の口調は明らかに険しい。「俺と晴佳のこと、お前には関係ない」美月は顔を引きつらせて反発した。「どうして関係ないのよ!昨日の夜、私に言ったじゃない。『そのうちあの人と離婚する』って!向こうから切り出してくれてるんだから、さっさと応じればいいじゃない!」その言葉で誠司の怒りが爆発した。「美月!いつからお前が、俺と晴佳の間の問題に口を出せる立場になったんだ!」美月は信じられないという顔で彼を見つめた。昨夜はあんなに甘いことを散々囁いておいて、今になって手のひら返したように関係を切ろうとするなんて。美月は怒りで涙をにじませた。「あんたは済んだらもう他人扱い?最低よ!!」誠司は顔色を変えて飛び上がり、美月の口を慌てて塞いだ。二人はもみ合いになった。その混乱のさなか、ふと振り返った誠司は、晴佳の姿がすでに消えていることに気づいた。彼はすぐさま手を放し、晴佳の部屋のドアの前まで駆け寄り、ドンドンとノックした。どれだけノックしても、晴佳からの返事は一切なかった。やがて、ノックする手を止めた誠司は、静かに振り返り、美月の方を見やった。その視線に、美月は思わず身をすくませる。誠司が
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第14話

朝、階段を下りた晴佳は、キッチンから出てくる誠司の姿を見た。彼はリネンのエプロンを腰に巻き、手には出来たばかりの朝食の皿を持っている。皿をテーブルに並べ、顔を上げてにっこりと笑った。「晴佳、おはよう。朝ごはん、できてるよ」テーブルには、和洋取り混ぜたごちそうが並んでいた。すべて、彼女の好物だった。誠司はにこにこ笑っていた。「覚えてる?大学時代、毎日朝食買って行ったろ?」もちろん、晴佳は覚えている。あの頃、誠司は貧乏学生だった。一日の食費はたった千円。その半分を、彼女の朝食に使っていた。それを、二年間、毎日続けてくれた。だからこそ、彼のその真心に打たれ、卒業と同時に結婚を決意した。晴佳の顔に皮肉な笑みが浮かんでいた。もうあの頃の晴佳じゃない。こんな茶番に、もう騙されたりしない。「無駄よ。今日、弁護士が離婚協議書と離婚届の用紙を届けるわ。さっさとサインして」「せめて朝食を食べてから、話を続けないか?」「これ以上話すことなんてないの。あなたの朝食もいらない」きっぱりと言い放ち、ドアに向かう彼女の足がふと止まった。「そうそう、出て行くまで一週間って言ったわよね。残り、六日よ」パンプスのヒール音が遠ざかる。誠司は無言でエプロンを外し、それを床に叩きつけた。昔を思い出してもらい、離婚の気持ちを思いとどまってほしくて、彼は頭を下げて朝食まで作った。なのに返ってきたのは、侮辱の言葉だった。……車は常盤商事のビル正面に停まった。ドアマンがドアを開け、晴佳が後部座席から降りる。28階の社長室では、作業員たちが出入りしながら家具を運び出していた。昨日、誠司は会社をクビになった。今日は、彼の痕跡すらないほどオフィスが改装されている。午前中、晴佳は会議続きだった。会議室を出た瞬間、秘書が駆け寄ってくる。「社長、長瀬様が応接室にいらっしゃいます」晴佳の足が止まった。「長瀬?どの長瀬さん?」秘書が小声で答えた。「長瀬悠貴様です」秘書も意外に思っていた。常盤商事と長瀬グループの間には、今のところ連携案件は存在しない。沈黙を好む男が、事前連絡もなく突然やってくるなど、前代未聞だった。晴佳は淡々と語った。「……わかったわ」オフィスに戻ると、ソフ
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第15話

悠貴のことが、少しだけわからなくなった。そんなに大切なハンカチなら、どうしてあの夜に出してきたのか。それをなくした今になって、返してほしいと主張するのはなぜ?晴佳は唇をきゅっと結んだ。「大切なものを失くしてしまったのは、私の責任です。補償として、私にできることがあれば、なるべく応じます」悠貴はちらりと腕時計に目を落とし、すっと立ち上がった。「その言葉、覚えておきますよ。思いついたら伝えますね」そのまま、彼女に送られながらエレベーターホールへと向かう。エレベーターを待つ間、ふいにこんなことを言い出した。「葵ヶ原プラザの案件……神谷さんはどう思いますか?」質問の意図がわからず、一瞬だけ言葉に詰まる。だが、すぐに素直な本音が口をついて出た。「……そんな良い案件、簡単に巡り合えるものじゃないと思います」葵ヶ原プラザの案件、それは、まさに今、長瀬グループが手がけようとしている大型開発案件だった。そんな大型開発案件のパートナーを選定していると噂では聞いていた。けれど、晴佳にはわかっていた。今の常盤商事に、それだけの条件はそろっていない。エレベーターの扉が開く。悠貴は中へ足を踏み入れ、が、ふいに立ち止まった。「うちの秘書から、契約の詳細を送るように指示しておきます」扉が閉まる直前、彼女の視界から悠貴の姿が消えた。晴佳は、エレベーターの扉に映る自分の顔をじっと見つめた。――その意味は、常盤と組むつもり?……たった二日で、常盤商事と長瀬グループの業務提携が正式に決定。そのニュースはあっという間に経済紙のトップに躍り出た。誰の目にも明らかだった。この契約で、一番得をしたのは、他でもない常盤商事だと。ここ数年、商業不動産への進出を狙っては失敗ばかりしていた常盤商事。かつて社長を務めた誠司の投資判断ミスが続き、業績は右肩下がりだった。だが、今回の提携により、その業界にしっかりと足場を築くことができたのだ。宇佐見家のリビング。テレビに映る報道を見終え、誠司は無言でリモコンを押し、電源を切った。忠弘は、皮肉たっぷりに言う。「……見たか?あの子が会社を任されて、まだ日も浅いってのに……もうこんな大きな案件を決めてきた。この五年間、誰かさんは一体何してたんだろうな?目の前
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第16話

寝る前、晴佳はベッドに腰掛けて書類を読んでいた。突然、ノックが聞こえる。「入って」使用人かと思ったら、入ってきたのは誠司だった。彼は手に牛乳を一杯持ち、ベッドサイドのテーブルに置き、自分もそっと隣に腰を下ろした。晴佳は眉をひそめる。「なんであなたが……?」誠司は言いよどんだ。「晴佳……」晴佳は即座に布団をはねのけ、ベッドから降りてドアを指さした。「出ていって」彼の唇は固く結ばれ、しばらくしてようやく言葉を絞り出す。「ここは俺の部屋でもあるんだ」晴佳は一言たりとも無駄にしたくなかった。「この家まるごと私の名義よ。さっさと出て行かないなら、警察呼ぶわよ」誠司は立ち上がり、重い足取りでドアへと向かった。照明が長く影を落とし、彼の大きな背中が少しだけ丸まって見える。それでも、晴佳の心は微動だにしなかった。ドアのところで彼は振り返り、熱を帯びた視線を向ける。「離婚協議書……」晴佳は心の中で冷たく笑った。やはりそれが狙いだったのか。婚前に財産分与をきっちり決めてある。離婚協議書には、彼に一銭も渡らないことも明記されている。晴佳は冷ややかに返す。「さっさとサインして。さもなければ裁判所で会いましょう」誠司は必死に言い訳を探す。「長年一緒にいて、これまでずっと支えてきたし、それなりに苦労もしてきたんだ……」晴佳はさっとスマホを手に取る。「行かない?なら今すぐ警察に通報するわよ」彼女はそのまま3桁の番号を押した。誠司は深くため息をついて、渋々部屋を出た。……翌朝、晴佳がオフィスに着くと、秘書が慌てて駆け寄ってきた。「一階の受付で男の人が社長に会いたいって騒いでいて……大声出してるから、記者でも集まったら大変ですが」晴佳は眉をひそめる。「何の用件か聞いてくれた?」秘書は言いにくそうに答えた。「娘をあなたに殺されたって……賠償を求めてます……」晴佳には、誰が来たのかすぐに察しがついた。「水月ノ庭事件」で亡くなった被害者の父親。一度だけ、法廷で顔を合わせたことがある。まさか、常盤商事にまで押しかけてくるとは思わなかった。晴佳が常盤商事の社長代理を務めていることは、ごく限られた人間しか知らないはずだ。秘書は彼女の眉間のしわに気
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第17話

晴佳は数秒間黙って彼を見つめる。「誰に言われて来たの?」「何言ってるかわからねぇ」「今日は誰かの指示で来ている。正直に話して」「ふざけんな」「嘘つかれたら、金は出せないわ」「認めるのか?」「あなたの協力次第ね」男は目をぐるぐる回しながら言った。「話したら、金を出さなかったらどうするんだ?」晴佳は鼻で笑う。「別の選択肢あるのか?言わなきゃ出てけ。面倒は見ない」男は焦って彼女の前に立ちはだかる。「警告するぞ、金を出さなければ記者を呼ぶからな!」晴佳は即答した。「誰に脅されて脅迫させてるの?言え」男は全てを白状した。晴佳は驚きもせずに聞き終え、立ち去ろうとした。男は叫んだ。「二億は?」晴佳は歩みを止めず言った。「心配するな、今日中に振り込む」金は払う。さもなければ、男と黒幕の脅迫罪を証明できない。場所をこの応接室に選んだのも理由があった。ここは監視カメラで隅々まで記録されている。先ほどの会話は一言残らず録音されている。これが決定的な証拠になる。……その夜、晴佳は長瀬グループのパーティに参加した。長瀬グループと提携して以来、常盤商事の地位は急上昇していた。晴佳が現れると、多くの人が自発的に声をかけてきた。見知らぬ中年の貴婦人がシャンパンを持って彼女の前に立つ。「あなたが神谷晴佳さん?」晴佳は頷く。「あなたは……」貴婦人は彼女をじっと見つめ、優しく笑った。「長瀬冴子(ながせ さえこ)です」晴佳は反応が少々遅れていた。「長瀬さんのお母様ですか……?」冴子の笑みはより柔らかくなる。「はい、母親よ」晴佳は手が震え、グラスの中の酒をこぼしそうになった。「お気づかず失礼しました」冴子は気さくに微笑む。「以前、弘明大学の法学部で一度お会いしたことがあるわ。覚えてる?」晴佳は首を横に振った。冴子は再び笑う。「あなたのことをよく覚えている。賢くて美しいから、忘れられないのよ」晴佳は照れくさそうに答えた。「お褒めいただいて、恐縮です」冴子は続ける。「昔、悠貴はよくあなたのことを話していたわ」晴佳は驚く。彼女の記憶では、悠貴とはあまり親しくなかった。二人はほとんど私的な交流もなかった
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第18話

晴佳が振り返り、悠貴と挨拶を交わそうとしたそのとき、見知らぬ女性が近づいてきて、にこやかに声をかけた。「神谷さん、お噂はかねがね伺っております」女性は積極的に話しかけ、やたらと親しげに振る舞い、最後にグラスを差し出しながら言った。「神谷さんに敬意を込めて、一杯ご一緒させてください」そう言って女性はグイっと一気に飲み干した。晴佳は仕方なくグラスを唇に運ぶが、中のワインの香りに軽く眉をひそめる。さっき飲んだものと、匂いが微妙に違ったのだ。女性が尋ねる。「どうかしました?」晴佳は淡々と答えた。「別に」彼女はごく少量を口に含んだその瞬間、悠貴が突然、晴佳の手からグラスを奪い取った。少し間があってから振り返ると、彼はグラスの中身を豪快に飲み干し、グラスを逆さにして女性に向けた。「私が代わりに飲みましょう」女性の表情は読み取りにくいものだった。晴佳は心配そうに悠貴を見つめる。「長瀬さん……」彼は笑みを浮かべて言った。「たいしたことではありません。ご心配なく、これくらいで酔うほどではありませんので」晴佳は唇を引き結ぶ。その女性の前で、何も言わなかった。……パーティーの半ば。晴佳は通りかかったウェイターをつかまえて言った。「なんだか酔ったみたいで、頭がクラクラするの。休憩室に案内してもらえる?」ウェイターはすぐに案内役に回る。「もちろんです。こちらへどうぞ」二人は会場を後にし、ゆっくりと歩いていった。遠く離れた場所で、先ほど乾杯した女性が振り返ると、若い男性と目が合った。その男は無言でうなずき、晴佳が離れていく方向へ静かに歩み寄った。男は廊下の曲がり角に身を隠し、遠くから晴佳が二号休憩室に入るのを確認した。ウェイターが去ったのを見計らい、彼は素早く二号休憩室の扉まで止まった。ポケットから万能カードキーを取り出した。かざすと、休憩室のドアが開いた。室内は真っ暗だった。冷たい月光だけがガラス窓から差し込み、床に淡い光を散らしている。遠くのベッドに、かすかな影が見えた。薄い布団に覆われ、露出した肩は裸で、背を向けて深く眠っている。先ほどのパーティーでの晴佳の曲線の美しい身体を思い出し、男は喉を鳴らした。そっと服を脱ぎながら中へ入る。
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第19話

晴佳が一時間後に帰宅すると、大勢の男たちを従えていた。リビングのソファには三人が呆然と座っている。美月は父親の後ろに隠れ、半分顔をのぞかせて叫んだ。「何やってんのよ!ヤクザにでもなったの?」晴佳は美月を一瞥もせず、執事に命じた。「彼らを二階に案内して、この三人の部屋の荷物は全部外に出しなさい」美月は飛び上がって抗議した。「約束が違う!明日でまだ一週間も経ってないのよ!」晴佳は冷たい目で返した。「ここは私の家。ルールは私が決める。変えたければ変えるだけ」執事はテキパキと男たちを二階へ連れていく。美月が泣き叫びながら止めに入っても、誰も相手にしなかった。晴佳はソファに座り、足を組み、テーブルの陶器の茶器を弄んだ。やがて彼女はその茶器を思い切り投げつけた。陶器は粉々に砕け散り、その破片が忠弘の足にかかり、彼は痛みに叫び声を上げた。「お前っ、何怒ってんだよ……何様のつもりだ?意味わかんねぇよ!」晴佳は身を起こして立ち上がった。「宇佐見さん、借金のことは?」忠弘は呆気にとられた。「晴佳、いい加減にしろ。俺はお前の父親だぞ!名前で呼ぶな!」晴佳は無視して続ける。「宇佐見さん、先月ギャンブルで六千万円の借金を作ったのに、ヤミ金に指切られなかったのか?」忠弘の顔が険しくなった。「恩知らずにもほどがあるぞ!俺が指切られるとこ見たいのか?」晴佳は冷笑した。「そうよ、宇佐見さん。それがあなたの報いだわ」そして、表情を引き締める。「借金はどうやって返したの?」忠弘は目を泳がせた。「関係ない!俺は誰かから借りてたんだ」晴佳は鼻で笑った。「周りに金を貸す人がいるなら、ヤミ金に頼むか?」忠弘は顎を上げる。「うるさい!言いたいことは何だ!」「言いたいことはね、今教えてあげるわ」晴佳は無表情で手を叩いた。すぐに秘書がノートパソコンを持って現れた。画面には動画が映っている。「……金を出さなければ記者を呼ぶからな!」「誰に脅されて脅迫させてるの?言え」「知らねぇよ!じいさんで、背が高くてイケメンで、あんたに似てる奴だ」「この写真の人?」「そうだ、それだ。知り合いか?」「二億円、いくらもらった?」「一億だ。急ぎの用事があるって言って
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第20話

誠司が即座に立ち上がった。「晴佳、お父さんの言うことに真実はない。あんな嘘に耳を貸すな!」忠弘は指を彼に向けて怒鳴った。「誠司、恩知らずにもほどがある!全部、お前が教えたことじゃない!」誠司は冷淡な表情で返す。「俺だって?お前がそう言えば、そうなるのか?脅迫まがいの真似してるくせに、誰がそんな言葉を信じるかよ」忠弘は胸を押さえ、息を詰めるようにうずくまった。そのドロドロしたやりとりを見て、晴佳は笑みを浮かべた。「誠司、そんなに慌ててどうしたの?」誠司は慎重に言葉を選ぶように答えた。「お父さんのありもしない話を信じるわけないだろ?」晴佳は意味ありげに笑い出した。「宇佐見さんの口から嘘しか出てこないのは確かね」誠司はほっと息をついた。だが晴佳は話題を切り替えた。「でもひとつわからないわ。あんなノロマなお父さんが、一晩で急に賢くなったって?いつだって使う金のことしか考えてなかったのに、どうして突然騙すことを覚えたの?」忠弘の顔は青ざめ、紅潮を繰り返した。「そ、そんな……」愚かだとは認められず、反論しようにもできず、結局自分が黒幕であることを認めたようなものだ。誠司も浮かない表情で言った。「追い詰められたら、人は何をしでかすかわからない」晴佳は鼻で笑った。「じゃあ、誠司は?あなたも離婚で全財産没収されるって追い詰められてるんじゃないの?」誠司の体がピクリと硬直した。「俺がお前にそんなことできるわけないだろ……」晴佳は手を振った。そのとき、入り口から上半身裸の男が二人のボディガードに押さえられて連れてこられた。男が顔を上げた瞬間。誠司の視線と合った。二人の表情が一変する。男は誠司を指さした。「あいつだ!あいつが俺に姉貴を使ってお前に薬を盛らせて、そして部屋で動画を撮らせたんだ!」誠司は激しく言い返した。「何を言ってるんだ!これ以上嘘を吐くなら、二度と口を利けなくしてやる!」その表情も声も、凄まじい迫力だった。男は怯え、しばらく口をつぐんだ。晴佳は眉をひそめた。「人に言葉で脅迫するのは犯罪よ」誠司の瞳が一瞬揺れた。「あいつの言うことは違うんだ。聞いてくれ……」晴佳は冷たい目で言った。「説明しなさい、誠司」どん
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