忠弘は震えながら言った。「親を家から追い出すなんて、どんな育ちをしたんだ……天罰が当たるぞ」晴佳は眉を寄せた。「呪いをかけるつもり?」忠弘は怖くて何も言えなかった。晴佳は嘲った。「妻と娘を平気で裏切ったあなたみたいなクズにすら天罰が下ってないんだから、私に来るのはずっと後の話でしょ」そう言い残して振り返った。ボディガードの前で足を止め、冷たい声で指示した。「三分以内に出ていかないなら、放り出せるのよ。門の前にゴミは置きたくないから、遠くまで投げ捨ててね」晴佳は部屋に戻った。ふと思い出したのは悠貴のことだった。今夜のパーティーで、あの女が差し出した酒を彼が奪い、一気に飲み干した。今夜はきっと散々な目に遭っているだろう。晴佳が立ち上がり、入浴しようとしたその時、スマホが鳴った。画面を見ると、相手は悠貴だった。晴佳の認識では、悠貴は今ごろ甘い場所にいるはずなのに、まさか電話をかけてくるとは。胸がざわついた。まさか、あの酒の件で詰問されるのか?晴佳は電話に出た。「長瀬さん」彼の声はかすれていた。「神谷さん」「……はい」「話したいことがあります」「どうぞ」「ご存じですか?昔、私が法学部から商学部に転部した理由」晴佳は唐突な昔話に戸惑った。「知りませんが」「村川和真(むらかわ かずま)のこと、覚えてますか?」晴佳の手がピタリと止まった。和真は彼女がよく知る男だった。彼は悠貴の同期で、晴佳は彼を先輩と呼んでいた。その話の大筋は、晴佳が彼を先輩と呼びつつも、和真が晴佳を狙っていたこと。大学生活の間、和真はずっと晴佳を追いかけ、皆に知られていた。晴佳は彼を見るだけで逃げ出したくなっていた。なぜ悠貴が突然、和真の話を持ち出したのか理解できなかった。「覚えますけど、どうしたのですか?」「ある日、和真が階段教室の入り口で、あなたに告白したことを覚えていますか?」「……」あの死にたくなるほど恥ずかしい瞬間を、晴佳は今でも忘れられない。「あなたは和真に『好きではない』と断りましたね」「うん」「そのとき、和真が理由を尋ねたのを覚えていますか。あなたは、なんと答えましたか??」「覚えていませんが」「あなたは、法学部の男とは付
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