All Chapters of 記憶喪失の私が貴族の彼と付き合えた訳: Chapter 21 - Chapter 30

36 Chapters

21話 家出

「えーと聞いた特徴をまとめると……」 あれから従者に軽く見た目を聞いてわたし達も捜索に向かうべく街に戻っていた。ある程度まで来たところでロンドさんがメモ帳を広げて聞いた内容を復唱してくれる。「年齢は14で背は低め、髪は茶色の短髪。服に関しては諸事情により不明……ですね」「メイドさん達焦っててよく聞けなかったけど、なんかたくさん服があるんだっけ?」「らしいですね。同じものも持っているらしく特定が困難だそうです」(流石お金持ち……それにまぁ従者さんも焦っても仕方ないよね。主人が殺されて、そんな時に一人息子も失踪しちゃったんだし)「とりあえず身なりが良さそうな子供を見つけるってことですね。家を出る時はいつも街に居るって言ってたから……ルートから考えて……」 地図を取り出し屋敷近くの場所を観察する。「何か分かりましたか?」「その子が抜け出した窓がここで、従者達の目を避けて通るなら……」 さっき軽く調べておいた情報と照らし合わせ指で地図をなぞる。「こっち方面に行った確率が高いですね」 流石に日が暮れるまでに街全部を探すなんて到底無理だ。なら限りある情報から絞って探すしかない。「ちょうど僕達がやって来た方向ですね。さっきは……情報に当てはまる人は居なかった気がしますけど……」「見れてないところや時間経過でこっちに来てる可能性もありますし、地道に探しましょう! 探偵は足ですし!」「ふふっ……そうですね。一歩ずつ……まずは一歩ですね」 前を向き、わたし達は足を動かし聞き込みや辺りの人間を観察したり捜索を進める。「見つからないな……」 昼過ぎになり若干暑くなってきたがそれでも例の一人息子は見つからない。もしかするともう既に屋敷に帰っているかもしれない。 そんな考え事をしていたためかわたしは通行人とぶつかってしまい、勢いもそこそこあったため尻餅をついてしまう。「いたたた……すみま……あっ!!」 痛むお尻を摩りながら立ち上がる際にその相手を認識する。ピンク色の艶やかな髪の、さっき喫茶店でいわれもデリカシーもない発言をしてきた女の子だ。「ったくしっかり前を……ってアンタさっきのケツデカ女!!」「誰がケツデカ女よ!! ほんっとうに失礼な子ね!!」 再び配慮も礼儀もない発言を投げつけられ、悪びれる様子もなく立ち上がり腕を組んで偉ぶる。 その様
last updateLast Updated : 2025-08-07
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22話 違う皮

「えーと次アイツが来やすいのは……」 彼女、ロンギと名乗った少女を仲間に入れわたし達は三人パーティーとなり捜索を続ける。いつもよく遊ぶ場所を案内され、その場で調査を行うが残念ながら見つかる様子はない。「うーんやっぱりもう戻ってるのかな……?」「いやそれはないと思うよー」「何で分かるの……?」「なんとなく、勘かな?」 衛兵さん達が現場を調べ終わるのにはまだ時間がかかるだろう。もし帰ってきていてもすぐに事情を聞くことは叶わないだろうし、時間を無駄にしたくないのでもしもの可能性を振り払い捜索を続ける。「こっちも探してみましたが居ませんね……」 ロンドさんも持ち前の身長で人混みの先を見てくれたがそれでも見つからない。本当に街に出たのかと疑問にさえ思ってしまう。「ねぇ……二人は例の一人息子のことどう思う? こんな大変な時に家を出た馬鹿息子のことを?」「例の事件は知ってるのね……確かにこんな状況で屋敷を抜け出すなんてあんまり褒められたことではないわね」「そう……」 ロンギはどこかもの悲しげな表情をするが、わたしが察知するのと同時にパッとそれしまい込む。「でもまだその子に何があったのか分からないし、安易には言い切れないよ。人の事情なんて分からないし、その子にはその子にとって大きな事情があったかもしれないし」 探偵として色んな人と接してきてそこら辺は嫌というほど知っている。師匠の元で探偵助手をし二年、事件を起こしたり起こされたりする人には理由や因果があることを熟知している。(家出……考えられるのは、家族と何か確執があったり、それとも自分も殺されると思って逃げ出したとか……かな?)「へぇ……案外アンタ見る目あんじゃん」 ロンギは友人を良く言われたのが余程嬉しいのか、中々見せなかった歳相応の無邪気な笑みをこぼす。「ここも……居なさそうですね」 ロンギが仲間に加わって数時間。彼女の出すヒントの元効率的に探し回るがそれでも探し人は見つからなかった。「ん〜そろそろ戻ってるかもね。よし一旦屋敷に帰ってみよー!」「戻ってるかもって何でそんなこと分かんのよ……まぁそろそろ良い時間だし一旦戻りましょうか」 そろそろ日も暮れてくる頃だ。衛兵さん達も何か新しい事実を掴んでいるかもしれない。わたし達は捜索を一旦中断し屋敷に戻ることにする。「ふぅ……結構歩いた
last updateLast Updated : 2025-08-08
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23話 過去を知る者

「いやでもまさかあんな長時間居て気づかないなんて……ぷぷっ! そのうち気づくと思ってたのになー」 あれから従者の人や衛兵さんに事情を伝え、わたし達は例の衛兵さんと共に彼から何があったのか事情を伺っていた。「はいそういうのいいから……それで発見時の様子を教えてくれるかな?」「ちぇ。こっちの人はつまんねーの。話せばいいんでしょ話せば」 衛兵さんは淡々と仕事を進め何があったのか聞き出そうとする。ミラモはそれが面白くないようで、悪態をつきながらも仕方ないと諦めその日何があったのかを語り出す。☆「はぁー今日もかったるかったぁ」 今日も今日とて親父や従者からやれ勉学やら礼儀作法を身につけるやらで疲れ果てていた。 オレはベッドに倒れ疲れを癒しつつも目は閉じない。枕元に置いてある箱に目を移す。赤い包装の施された丁寧で高級感のあるものだ。(親父……喜んでくれるかな?) 明日は両親の結婚記念日だ。いつもは商談などで忙しい親父だが、結婚記念日だけは絶対に仕事を入れないようにしている。そして母の遺影と共に盛大な食事をする。 それが亡き母へのせめてもの弔いと言って。(母さん……) 母は自分が幼い頃に病気で亡くなった。小さい自分ではその事実が受け入れられず、親父への反発も増え現実逃避がしたく女装をしたりしていた。 女装している間は他の誰かになったような気がしてだいぶ気持ちが楽になる。母親の死や迫るプレッシャーを忘れられる。 だがそれも明日だけは、大切な一日だけはオレも絶対にしないようにしている。(トイレにでも行くか……) 寝る前に少し飲み物を飲んだせいで尿意を催してしまい、オレは部屋を出てトイレに寄ろうとする。(物音……?) ほんの、普通なら気づかないような物音。だがオレの耳はそれを聞き取る。親父の部屋からした何かの音を。「親父……?」 第六感というものなのだろうか、オレは何かを察知し恐る恐る扉を開ける。部屋に入った途端風が足元を吹き抜け、鉄臭い匂いを運んでくる。「親父……なんだよそれ……む、胸……どうなってるんだよ!?」 返答などあるはずがない。暗がりの中確認しようと近づけば近づくほど匂いが強くなっていき、よりハッキリと親父の身体が見える。 胸にポッカリと穴を開け、血の池を作る自分の父親の姿が。☆「なるほど……誰にも気づかれず一突きで。物
last updateLast Updated : 2025-08-09
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24話 何かを知る者

「どうした? お前がこんなミスをするなんて珍しい……」「あっ、す、すみませんすぐに片付けます!!」 メイドさんは心ここに在らずといった様子で、慌てながら割れたコップの破片を拾う。その間もチラチラとわたしの顔を見ては困惑を顔に出す。「どうかしたんですか……?」「い、いえなんでも……ございません……」 何でもないとは言っているものの、その動揺はわたしでなくても察知できていて、この場にいる全員が不自然に思っている。「わたしの顔を見て……はっ! もしかしてわたしとどこかで会ったことがあるんですか!?」 まさかと思いわたしは勢い良く席を立つ。じっと彼女の顔を観察しほんの些細な表情の変化も見逃さない。「い、いえ……知り合いに顔が似ていただけです……驚かせて申し訳ございません」 嘘をついている。目を泳がせ、こちらの顔をなるべく視界に入れないようにしている。「ま、待ってください!!」 わたしは部屋を出ようとする彼女の腕を掴み強引に引き止める。(怯えてる……?) 彼女の腕は震えており、何がそんなに怖いのか額に汗を浮かべている。まるで蛇に睨まれた蛙のように。「な、何でしょうか……?」「いやその……」 この焦りよう、何か知っている可能性が高い。だがこの怯えっぷりから詰め寄るのは酷だと自制が働く。「す、すみません何でもありません……」 この場で問い質してもあまり良い結果にはならなそうだ。それにここにはこれから調査の一環でまた来るだろうし、頭を冷やす時間を用意する意味も込めてここは一旦引き下がる。「本当にどうしたんだアイツ……? なんか悪かったな」「いえ気にしないで。じゃ、わたし達は帰るね」 気になりはするが、あまり遅くまで滞在はできない。わたしとロンドさんは捜査を切り上げ屋敷まで帰る。「おや、こんな遅くまでご苦労なことですね」 屋敷に戻るなりリントさんとばったり出会してしまい、開口一番にまた嫌味ったらしいセリフを吐いてくる。「あぁそうだ。ロンド、ちょうど父さんが家に帰ったところだ。挨拶してきなさい」「父上が? 予定より一日早いですが……分かりました行ってきます」 話の流れ的にわたしはついていかない方が良いだろう。そう判断し、リントさんに作り笑いを見せてから自室へと向かうのだった。☆「来たか……」 部屋に入るとそこにはソファに父上が
last updateLast Updated : 2025-08-10
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25話 辻斬りは誰か

「シュリン……街の人達の笑顔を守る探偵……か」 二人が帰った後、事情聴取も終わったのでオレは自室で寝っ転がり身体を伸ばしていた。(親父……犯人は絶対見つけてやるからな……) ベッドの側の棚には親父と母さんがくれた誕生日プレゼントの指輪があり、それは今となっては二人を表している形見となってしまった。「ミラモ様……少しよろしいでしょうか?」 さぁそろそろ寝ようと毛布を掴んだ時、間が悪くメイドが扉を叩く。その声の主はさっきお茶を溢し明らかに狼狽えていたメイドのテルタのものだった。「はぁ……いいぞ」 正直今日は疲れているし突っぱねたかったが、親父が従者にも誠実に対応しろと口うるさく言っていたのを思い出し嫌々部屋に入れさせる。「それでどうした? さっきのお茶の件なら別に謝らなくてもいいぞ。誰にでもミスはあるものだし次から……」「いえ……そうではなく、もしかすると私……辻斬りの正体を知っているかもしれません」「は……?」 しかしテルタの口から発せられたのは予想だにしない言葉だった。「辻斬りの……親父の仇の正体を知っているのか!? 何ですぐに言わなかった!!」 親父の仇のことになると頭に血が昇ってしまい、いつもはしないような声で彼女を詰めてしまう。「い、いえそれは……」「あっ、いや……すまなかった気が立っていた……」 ハッと冷静になり、胸倉を掴もうとしていた手を降ろし一旦彼女から離れる。「ミラモ様は私がここに来る前に別の屋敷に勤めていたことはご存知でしょうか?」「ん? あぁ……確か母親が病気になって一時的に休職して、それからちょうど二年前くらいに復帰してうちに来たんだったよな?」「はい……それで前に勤めていた、イメン家での話です……」☆(今日もお仕事が終わりましたね……) 今日の仕事を少し早めに終え、私は最後にこの屋敷の主人であるお方の部屋に伺いお茶でも入れようかと考えていた。「一体どういうことだ!?」 しかし部屋から聞こえてきた怒号に足が止められ、扉に掛けようとした手が静止する。(この声はご主人様……? 一体何が……?) 聞き耳を立てるなんて失礼なこと憚られるが、どうしても知りたいという好奇心に負け、私は聞き耳を立て情報を断片的にだが取得する。「辻斬りがお前だったなんて……何で……」(辻斬り……!?) それは昨今噂にな
last updateLast Updated : 2025-08-11
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26話 お姉ちゃん

「そろそろ寝ようかな……」 ミラモの屋敷から帰ってきた後、状況を整理して数時間。作業を終え私は疲労した身体を倒し眠りに着こうとする。 「シュリンさん起きてますか?」 「ロンドさん……? はい起きてます!」 横にした身体を起こし扉を開き彼を部屋に招き入れる。 「すみませんこんな時間に……」 「いえいえ大丈夫ですよ。それよりお父さんと何か話したんですか? あ、もしかして私がここに居るのが……」 「いえシュリンさんがここに泊まる件は快く了承してもらえました。まぁあんまりこういう探偵の仕事に首を突っ込みすぎるなと怒られはしましたがね」 「あはは……それはまぁその通りですね。探偵って結構危ない仕事ですし、調べてる件が件ですし心配はしますよ」 とはいえとりあえずここを追い出されることはなさそうで一安心する。 「それで何か用件が?」 「はい……少し今日のことを一緒に整理しようと思いまして……」 「ですね……色々ありましたし」 ロンドさんと話せば新たな視点で物事を考え意外なことに気づけるかもしれない。 「シュリンさんも気づいたと思うんですが……あのメイド……」 話すこと十数分。ついにロンドさんはわたしの顔を見て狼狽えていたメイドの話題を口にする。 「やっぱり何か知ってそうですよね……わたしの顔を見て狼狽えてたってことはやっぱり……」 「シュリンさんが記憶を失う前の知り合いですかね?」 「だとしてもあんなに狼狽えます?」 不自然な彼女の行動にあれこれ言葉を交わすが、ここでどう述べようが机上の空論にしかならない。 「シュリンさん……は警戒されているようですし、明日僕が尋ねておきますよ」 「その方が良さそうですね……すみませんお願いします」 「シュリンさんが記憶を取り戻せるならそれに越したことないですから。任せてください!」 「頼りにしてますよ」 時間を見て頃合いをつけ、話し合いを終えてロンドさんは自室に帰っていく。 明日の調査に支障が出てもいけないので、わたしは今度こそベッドに横になる。 「わたしの記憶……か」 唐突に現れた自分の過去を知っているかもしれない人物。半ば諦めていた自分の過去や記憶について何か知れるかもしれない。 「一体わたしは……何者なんだろう……」 記憶を
last updateLast Updated : 2025-08-13
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27話 証拠隠滅

「すみませんミラモ様……」 私は荷物をまとめ、置き手紙を書きつつここには居ない主人に謝罪する。 (きっとこのままだと私は近いうちに殺される……!!) 聞くに辻斬りは用意周到で痕跡を決して残さないという。もしシュリンが辻斬りならきっと私は…… (まだ大丈夫……今逃げればきっと助かる……) ミラモ様の将来を見届けられないのは残念だが、それでも私は自分の命が惜しい。 実家なら場所を辻斬りに知られていないだろうし、そこで農家として第二の人生を送ればよい。それに両親のことも心配で、どのみちいつか辞める可能性が高かった。時期が早いか遅いかだけの違いだ。 心の中で自分に言い聞かせているうちに置き手紙を書き終え、自分の部屋の机の上に、すぐに発見してもらえる場所に置いておく。 「雨……?」 そろそろ出ようと思っていた矢先、急に雨が降り始める。ポツポツとしたのではなく始めから強くどしゃ降りだ。 「こんなタイミングで……最悪……」 すぐに止む通り雨かと期待したがそんなことはなく、勢いは更に強くなり雷まで落ち始める。 (やっぱりここを出るの明日にした方が良さそうかな……?) 別に今日明日殺されると決まったわけでもないし、そもそも杞憂だったという可能性もなくはない。 「ん? 誰か来た……?」 迷っていると廊下の方から足音が近づいてくる。そしてそれは私の部屋の前でピタリと止まる。 (警備……?) 先日の件もありこの屋敷には、特に夜に警備を回らせている。なので足音が聞こえるのは何ら不思議ではないが、私の部屋の前で止まる理由がない。 「誰で……」 気が緩んでしまっていたのか、私は無警戒に扉の前に行き声を出してしまう。 (何……この胸騒ぎ……) ドアノブに手が触れようとした途端背中に悪寒が走り、頭で考えず本能で手が止まる。しかし無情にも扉の向こう側に居る者はドアノブを捻る。 「ひっ……!!」 ほんの少し開いた隙間から覗かせたその顔。金色の髪を垂らし、赤い瞳を光らせている。 「マリル様……!!」 私が口にしたのは、イメン家虐殺事件で唯一殺されなかった一家の者であり、そして今はシュリンと名乗っている少女だった。 「誰か……」 私は身の危険を感じ取り助けを呼ぼうとした。だがそれよりも早くマリルの手が
last updateLast Updated : 2025-08-13
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28話 拘束

「う、うぅ……あれ? ここは……?」 わたしは確かロンドさんと部屋で別れてそこで眠ったはずだ。なのに目を覚ますと暗いどこかの庭に立っていた。「ロンドさんの……屋敷じゃない……?」 てっきり寝ぼけて歩いて庭に出てしまったのかと思ったがそうでもないらしい。あそこの中庭は一度見ているがこんな構造ではなかった。「あれここ……ミラモの……屋敷……?」 暗くて分かりにくかったが、観察することで気づく。ここが昼に一度通ったミラモの屋敷の庭であることが。「そ、そんななんでわたしここに……!? だってロンドさんの屋敷とここって結構離れてるはずじゃ……!!」 もし寝ぼけて歩いてきたのだとしたら、数時間は歩いた計算になる。流石におかしいことは寝ぼけた頭でも理解できた。(何が何だか分からないけど、とにかく屋敷の中の人と……この時間だと警備の人とか居るはずだから聞いてみよう) まだ完全に目が覚めてなく足元がおぼつかないが、雨も降ってるしここで倒れて寝てしまったら風邪を引いてしまうので、根性でなんとか耐えて屋敷の中を目指す。(なんだか足が痛い……まるで高いところから飛び降りたみたい……) 足に痛みを覚えながらもなんとか扉の前まで行き、倒れ込むようにして屋敷の中に入る。「何か騒がしい……?」 屋敷の中に入り、わたしはやけに屋敷が騒がしいことに気づく。「シュリン……!!」 外を見るにだいぶ遅い時間だと推測できるのに、ミラモは起きており顔色も悪い。「あ、ミラモ! ごめんね寝てたはずなのに気づいたらこんなところに居て……雨も降ってきてるし咄嗟に中に入っちゃった。それで……」「……えろ」「え? ど、どうかしたの?」 ミラモはそっと俯き、震えながらも手を上げ指をこちらに向ける。「この女を捕えろ!!」「えっ……?」 困惑しフリーズしてしまうわたしのことなどお構いなしに警備の人達が向かってくる。「ちょっ、ちょっと待って! 無許可で敷地内に入ったことは謝るわ! でも無意識っていうか……気づいたらここに居たの! 本当なの信じて!!」「うるさい……この……辻斬りめ!!」「つ、辻斬り……!? わ、わたしが!?」 一体何を思ったのか、ミラモはわたしを辻斬りだと、師匠を、わたしの大事な人を奪った奴だと決めつける。「ま、待って……ちがっ……わたしは辻斬りじゃない!!」
last updateLast Updated : 2025-08-15
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29話 彼女の無実を示すため

「うーん……どこから調べれば……」 シュリンさんを助けてみせると啖呵を切ったものの、正直言ってどこから手をつけていいのか分からない。調査するべき場所はたくさんあるというのに、時間はあまりない。(とにかくまずは遺体があったっていう現場まで行ってみますか……) 流石に現場には何かしら情報があると考え、近くの従者に事情を説明しそこまで案内してもらう。「これは……」 想像はしていたが、現場はかなり凄惨なことになっていた。遺体はまだ回収されておらず、衛兵が検死している。 肝心の遺体は地面に横たわっており、地面の草は血を吸っている。「ロンド……」 遺体の側には知り合いの衛兵が居て、詳しく事情を伺う。 遺体が発見されたのは今日の深夜2時。雨の降る中犯行が行われたそうで、背後から心臓を刃物で一突きされたらしい。「やはり辻斬りの手口ですね……」「そうだな。心臓を狙って寸分のズレもなく一撃で……」「それともう一つ。何故シュリンさんが疑われているのですか?」「犯行が行われた時刻に屋敷に入ってきたらしい。それと被害者が殺される直前に彼女が辻斬りに違いないとミラモに証言したことから現状一番怪しいと睨んでいる」「でも彼女がそんなことするわけ……」「先入観は捨てろ。普段の態度なんていくらでも取り繕える……事件の調査をしたいならそれくらい弁えておけ」 悔しいが言い返せない。状況から考えるとシュリンさんは僕目線でも怪しい。でもだからこそ僕だけでも味方でいないといけない。(僕はシュリンさんを信じる……絶対に無罪の証拠を見つけてやる……!!) 遺体を軽く調べるが特にこれといった情報はない。今まで通り、過去の辻斬りの被害者となんら差異のないものだ。「ん? この花壇……」 少し離れた場所にある花壇に目が留まる。何か重たいものに潰されたかのように花がひしゃげている。「上は……あの部屋か」 ちょうど真上の四階の部屋の窓が開かれている。そこから飛び降りたのだろう。あの高さ本来なら大怪我しそうだが、近くには背の高い木もある。上手く身体をぶつければ軽症に抑えることは可能だろう。(飛び降りたのが被害者なら……あの部屋で襲われた……?) 庭から現場にかけては特段目立った情報はなかった。一旦屋敷に入って窓が開いていた部屋に行く。「あ、すみません……」「あぁロンドさんです
last updateLast Updated : 2025-08-16
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30話 夢遊病

 何度もその髪を触り、色や長さを確かめる。だが確かめる度にこれはシュリンさんのものだも脳に突きつけられる。(シュリンさんはこの部屋に……いや入っていないはず。昨日ここに来た時は常に一緒に行動してたし、この部屋には立ち寄らなかった……)「そんな真剣な顔して何か見つけたんですか?」「あっ、いや……一つ質問が。ここの従者や警備の人に、金色の長髪の人は居ますか?」「少々お待ちを……」 衛兵は廊下に居たメイドに話しかけ、その人が他の従者や警備の人達に聞いていく。「すみません確認取れました。とりあえずそのような人物は居ないそうです」 十分後。悪い方の予想が的中してしまう。やはりこの髪はシュリンさんのもので間違いなく、同時に彼女がこの部屋に来たことを示している。 (いや……まだ決まったわけじゃない。偶然辻斬りがシュリンさんと似た髪質という線もある) 僕はこの髪のことを自分の胸の中にだけしまい、シュリンさんの元に行く。「あっ、ロンドさん! 何か分かりましたか?」 彼女は唯一の希望に縋るように僕の方を見て目に光を灯す。その様子からどう考えても嘘をついているようには思えない。「少し隅で話しませんか?」 僕は声を控えながら彼女を部屋の隅へと誘導する。ここなら入り口近くに居る警備の人に聞こえないはずだ。(こっちに聞き耳を立ててる様子はないな……よし)「一つシュリンさんに確認したいことが……」「は、はい。何でしょうか?」 シュリンさんも空気を読んで声を抑える。「被害者はどうやら部屋で襲われ、そこから逃げて庭で殺されたようです」「なるほど……何か目ぼしい証拠などはありましたか?」「それは……シュリンさん。正直に答えてください。貴方は深夜……被害者の部屋に入りましたよね?」「えっ……? いや入ってません……というよりその部屋がどこかすらも分からないです」 じっと彼女の顔を見つめる。以前彼女と話した際に教えてもらった読心術を試しみる。瞳孔の動きや発汗。声の上擦り方など教えられた通り観察してみるが、やはり彼女は嘘をついていない。 もちろん精度はシュリンさんと比べて低く、参考にならないと言われてしまってはそれまでだが、僕の中で彼女が本当のことを言っているという信憑性が高まる。「実はその被害者の部屋に……シュリンさんの髪があったんです」 僕はポケット
last updateLast Updated : 2025-08-17
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