All Chapters of 記憶喪失の私が貴族の彼と付き合えた訳: Chapter 11 - Chapter 18

18 Chapters

11話 苦悩の螺旋

「ただいまー」 あと数時間で陽が昇りそうな頃合い。そんな時間にわたしは探偵事務所に帰る。やるにやりきれなく、わたし自身も瞳に光が宿っていない。 「……シュリンなのか?」 「え? そうだけど……どうしたの?」 師匠は早起きなのか徹夜なのかは分からないが起きていた。そして虚ろなこちらの表情を見て怪訝な声をかけてくる。 「いや何でもない。遅かったから心配してただけだ。何してたんだ?」 「ちょっと調査にね……ふぁぁぁ」 疲れからか大きな欠伸をしてしまい、わたしはソファーに腰を掛ける。 「師匠も目悪くなった? 入り口まで距離があるとはいえ、灯りがあるのにわたしの顔が分からないなんて」 「いやそういうわけじゃ……まぁともかくそっちも心配ありがとな」 「ん……ねぇ師匠。過去の記憶がしっかりあっても、それを捨てたり逃げたりするってどういう気持ちなのかな?」 「……依頼関係で何かあったのか?」 「うん……」 師匠なら何か別の意見が貰えるかもと、少なくとも悪くはしないだろうと思い包み隠さず起こったこと全てを説明する。 「なるほどな……ただの人探しがそんな面倒なことになってたとは」 「わたしも予想外だよ。とりあえず借金取り共はなんとかできそうだし、パン屋の人達の安全は確保されたけど……それで本当に依頼人の、それにネウロさんの笑顔が守れたのかなって」 依頼人の、ネウロさんにまた会いたいという想いは強く硬いものだったと思うし、娘さんだって父親に会いたいはずだ。 (わたしだって家族に……) わたしの家族。少なくとも父親と母親は居るはずなのに頭のどこを探っても微塵も姿形が見えてこない。 (今もどこかで待っててくれてるのかな……) 両親も今同じ空を見上げているのだろうか、それとももう居ないか、わたしのことなど忘れているのだろうか。そう考え出すとどうしようもなく寂しく、寒くなってしまう。 「いーんだよお前はいくらでも悩めば」 「悩んでるよ。悩んでも悩んでも答えが出ないから困ってるんじゃん」 「そうだそれで良いんだ。答えが出るまで、いや出ても悩み続ければ」 未熟なわたしではどういうことか分からず反応を返せない。 「俺の歳になれば後悔や選択を間違えてしまったことなんていくらでもある。なんならつい最近もな」 「そういう場合師匠はどうし
last updateLast Updated : 2025-07-15
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12話 押された一歩

「だからお願いします。もう一度奥さんと娘さんに会ってあげてください……一回顔を見せるだけでも、きっと変わるものがあるはずです!!」 盗み聞きをする気などなかったが、わたしはついドアの前で聞き耳を立ててしまう。中ではロンドさんがネウロさんに向かって必死に訴えかけていた。 「変わるかも……しれませんね。貴方の言う通り良い方向だったらいいのですが……悪い方向にも転ぶかもしれません。私にはそれが堪らなく怖い……!!」 ドアにはちょうどわたしの目の位置くらいに透明な部分があり、そこから中を覗く。ネウロさんは腕や肩を震わせており、それを抑えようと手に力を込める。 「僕は今朝パン屋に行ってきたんです」 ロンドさんは一つパンを取り出す。ふっくらとしていて遠くから見ても美味しそうだと思える。 「これは妻が作ってくれた……?」 「はい。食べてみてください」 彼はパンを頬張る。途端に目が遠くを見始め、それからちびちびとパンを口に運ぶ。段々と目に水が溜まっていき、大きな粒が床の板材の隙間に吸い込まれていく。 「あの頃と変わらない味だ……」 「えぇ。奥さんは貴方がまた帰ってきても恥ずかしくないように、パンの作り方や味を継いでいるんです。見よう見まねで始めて、試行錯誤を重ねて貴方の帰る場所を守っているんです」 依頼人の頼んできたあの様子がフラッシュバックする。必死めいた形相、借金取りに脅迫まがいなことをされながらも守り抜いたあの場所。彼女の夫を待つ気持ちは常人では考えられないほど強かなはずだ。 「やっぱり私は……ダメな人間でした。結局我が身可愛さで……これ以上辛い目に遭いたくないと逃げてしまっていた……あいつの気持ちも考えないで……!!」 ネウロさんはその場に崩れる。大粒の涙をいくつも流し、それでもパンを最後まで食べ切る。 「貴方は確かに人を殺しました。でも相手側にも非はあるし、脅迫に加え犯罪組織にも所属していました。有能な弁護士をつければ刑期はそう長くはならないはずです」 「ありがとうございます……!!」 話にケリが着き、彼はロンドさんが差し出したハンカチで涙を拭く。 「あのー……」 タイミングを見計らってわたしも店内にゆっくり入らせてもらう。 「シュリンさん……!? いつからここに?」 「えーとネウロさんがパンを食べ始めたくらいか
last updateLast Updated : 2025-07-17
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13話 依頼解決

「今ここに……妻と娘が居るのですね……」 喫茶店から三人で歩いてパン屋に辿り着く。お昼の分を焼いているのか、中からはパンの香ばしい匂いがしてくる。 「この匂い……昔と変わってない……!!」 その香りが彼の記憶を呼び起こし、まだ妻子と対面していないというのに目に涙を浮かべ始める。 「自首したらまたしばらくは会えなくなってしまいます……でも、僕が口を利かせてなるべく早く出られるよう努力します。なので今はその前に会ってあげてください」 「はい……!!」 ネウロさんは恐る恐る扉に手を掛ける。開ける手が何者かに引っ張られるように硬直するが、ついに覚悟を決めて戸を開ける。 ☆ 「これにて一件落着ですね……」 全てが終わった後、わたしとロンドさんは探偵事務所に戻り紅茶を飲んでいた。 「それにしてもシュリンさんの淹れてくれた紅茶……とっても美味しいですね!」 「えへへ……師匠直伝の、プロメス探偵事務所特製の紅茶ですよ!」 ここの特製紅茶は貴族の彼にも通用したらしく、おかわりの一杯を追加で入れる。 「えーと確か師匠が隠していたのはここら辺の……」 わたしは出入り口から遠い場所にある師匠の机の引き出しの一つを開け、そこを探る。 「何してるんですか?」 「わたしの勘によると多分……あ、あった! やっぱり二重底の下に隠してあった!」 わたしは高そうな包み紙に包装されたお茶菓子を見つける。 「それはまた高そうな……大丈夫なんですか?」 「ロンドさんが居るのにお茶菓子の一つも出さないのはいけないですからね!」 「では一緒に食べましょうか。これで共犯ですね」 「えへへ……はい!」 わたし達はお茶菓子にも手をつけ紅茶を飲み、依頼の疲れを癒す。今回の依頼は緩急も大きく心身ともに疲れた。 「あの……少しいいですか?」 お茶菓子を三割程食べて丁寧に包装し直し元の場所に戻した後、最後の一杯を飲み終えたロンドさんが話を切り替える。 「何ですか?」 「例の辻斬りの件……まだ時間がかかりそうですし、それまでこうやって探偵のお仕事の手伝いをさせてもらえませんか?」 「えっ……? 良いんですか?」 わたしにとってはこの上なく嬉しい申し出だ。ロンドさんはわたし……どころか師匠よりも背が高いし力もある。探偵業は時に危ないこともあるし、今回の
last updateLast Updated : 2025-07-18
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14話 照らし出された真実

「それで……辻斬りの件は何か進展はありましたか?」 お説教が済んだ後、ロンドさんが少し焦るように例の件について尋ねる。 「まー分かったこともあるが……確信には至らずって感じだな」 「そう……ですか」 ロンドさんはこんなに早く真実に辿り着けることはないと半ば分かっていながらもがっくり肩を落とす。 「分かったことと言えば……辻斬りは背の高い黒髪の男ってことだな」 (背が高くて男で黒髪……わたしと真逆みたいな人ってことか) わたしは女性の中でも背が低く、女で金髪だ。辻斬りの特徴からは大きく外れている。まぁ犯人ではないのだから当たり前だが。 「分かりました……そろそろ時間なので僕は帰らせてもらいますね。引き続き辻斬りの件はお願いします」 「おう! 任せとけ!」 ロンドさんは帰り、この事務所はまたいつもの雰囲気に戻る。 「それにしても辻斬り……本当に物騒な世の中になっちゃったね」 「あ、あぁ……そうだな……」 前々から感じ取ってはいたが、師匠は辻斬りの話になるとどこかよそよそしくなり、こちらの顔を窺う機会が幾分か増している気がする。そういう変化は読み取れるものの、それがどういう心情や思考を表しているのかまではイマイチ分からない。 「わたし疲れたからもう寝るね。おやすみー」 「あぁおやすみ」 少し疑問に思ったが、特に気に留めずわたしは自室に入り寝支度を始める。 明日になればまた師匠と会い挨拶を交わし、ロンドさんも来てさっきのような笑顔溢れる空間になる。だからそこまで深く考えず眠りにつこうとする。 「ふわぁぁぁ」 明日起こることなど誰も知り得ない。この時のわたしもまさかあんなことになるだなんて想像もしなかった。 「う……ん……?」 寝ようとベッドの前に来たところで突然ズキりと頭が痛む。 「あ……がっ……!!」 パン屋であの男達に絡まれた時のような痛みがわたしを襲う。視界がぐわんと歪み足元がおぼつかなくなる。 「もう……だ……め……」 ついに限界を迎え、わたしはベッドに辿り着く前にバタリと倒れてしまうのだった。 ☆ 「ふわぁぁぁ……うん?」 目を覚ますとわたしは自室のベッドの上に横たわって居た。 (確か部屋に入って……あれ? それからわたしどうしたんだっけ?) 寝る前の記憶が曖昧でおぼつかな
last updateLast Updated : 2025-07-20
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15話 断たれる未来

「やべーですぜ兄貴どうします!?」 「うるせぇ今考えているところだ!」 オレは裏の者には有名な犯罪組織の長。いつもは違法に儲けた金と逆らえない女を使い豪遊しているが、今日だけは事情が違った。 下の者が立て続けに何人も殺されたりパクられたりした上に、衛兵どもがアジトに押しかけて来やがった。今は予備のアジトに居るが金も持ち出せてないし、追加で何人もパクられてしまった。 「あのパン屋がチクったからだ……あいつらやりますか兄貴!?」 「馬鹿野郎!! そんなことして何になるってんだ!? 一銭にもなりゃしねぇ!!」 衛兵に捕まった奴らはもうどうしようもない。見限ってまた再スタートするしかない。 それに不幸中の幸いか、ある程度資金は持ち出せてはいる。ここからまた闇金を始めればよい。 「あ、兄貴! 上の窓に誰か……」 部下の一人が二階の方にある窓を指差す。オレは即座にナイフを引き抜きそちらに体を向けようとするが、それよりも速く灯りに何かがぶつかり割れて弾ける。 (この一瞬で全ての灯りを……!?) 灯りは吊るされているものも含め6つはあった。その全てがたった一瞬で正確に潰される。 「ぎゃぁ!!」 「ぐわぁぁ!!」 反応を示す暇もなく部下達が次々と悲鳴を上げていく。 「ぐっ……ここかぁ!?」 部下達全員の悲鳴を聞き終え、オレはほぼ直感でナイフで己の腹をガードする。甲高い金属音がなり、奴が目の前に来たことでその容姿を視認する。 フードを深々と被っており顔は見えにくいが全体的に小柄で髪色は金色だ。 「ちっ……うぉりゃぁ!!」 体格はこちらが勝っている。オレは力任せに腕を振り抜き奴を吹き飛ばす。 「お、女……!?」 吹き飛ばされ際に奴のフードがふわりと浮かぶ。露わになったその顔は女のガキのもので、しかし瞳は冷たくこちらを睨んでいた。 「ぐふっ……!!」 奴がまだ空中に居る間に腹に激痛が走る。いつのまにか奴の手にあったナイフがなくなっており、それがオレの腹に深々と突き刺さっている。 (いつのまに投げやがった……!? やべぇ……力がもう……) オレは情けなくその場に倒れ、奴がもう一本ナイフを取り出し近づいてくる。そしてオレの首筋にそれが押し当てられる。 「や、やめっ……!!」 抵抗虚しく刃がオレの首に挿入される
last updateLast Updated : 2025-07-22
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16話 探偵として

「師匠……師匠!!」 どれだけ揺さぶっても冷たくなった身体は再起動しない。段々脳が現状を受け入れ始め、ポロポロと涙が溢れ出す。 (これって殺人事件……だよね?) 明らかに何者かに刺された痕に、机の引き出しには荒らされた痕跡もある。 私は動揺を押し殺し、事務所から出て衛兵さんに事件が起こったと伝えに行く。 「ん? お嬢さんこんな時間にどうしたのかな?」 衛兵さんは人が殺されたなんてもちろん知らず、私のことを夜遊びしている不良とでも思ったのか優しく補導するように対応する。 「私のお義父さんが……殺されたんです!!」 ☆ 「なるほど……起きたら彼が死んでいた……と」 あれから衛兵さんと事務所に行き、別の人に変わって事情聴取を受けていた。 「荒らされた形跡もあるし強盗の可能性は高いが、金目の物は盗まれていない……」 衛兵さんの懐疑の目がこちらに向けられる。 (あっ……これってもしかしてまずい……?) よくよく考えてみればこの事件に関して私はかなり怪しい人物だ。被害者である師匠に一番近い人物の上、そもそも身元不明の得体の知れない人物。 衛兵さんが疑いの目を向けるのも無理はない。 「君は記憶喪失で倒れていたところを被害者に引き取られた……と?」 「はい……」 衛兵さんは私の言うことを信じている様子はなく、全身を調べられるようにジーッと見られる。 「とりあえず身元調査も含めて今から取り調べを……」 「シュリンさん!? 何があったんですか!?」 衛兵さんがこちらに詰め寄ろうとした時事務所の入り口をロンドさんが開け放つ。 「ロンド……!? 何でここに!?」 「ここの主人に色々依頼してまして……それより何が?」 衛兵さんが事件の概要を説明し、そこにわたしが怪しいという状況も臆せず付与し話す。話し方から見てロンドさんと衛兵さんは友人同士らしい。家の都合とかで話す機会があったとかだろう。 「とにかく彼女は人殺しなんてできる人間ではありません! それは僕が保証します」 「ま、まぁお前がそこまで言うのなら……それに判断が早すぎたな。一旦現場をもっと調べてみるよ」 彼のおかげでなんとか場は収まり、更に数人衛兵さんが来て捜査が進む。 「おい」 1、2時間経ち昼に近づきつつある頃、先程の衛兵さんが話しかけてくる。
last updateLast Updated : 2025-08-01
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17話 お屋敷

「待ってください……じゃあまさか所長は僕が依頼したせいで……?」 わたしが邪念を振り払っている最中。ロンドさんは顔色を悪くしていく。 「どうし……あ」 わたしも同じ考えに行き着き言葉を詰まらせてしまう。 師匠が辻斬りに殺され理由。資料がなくなっていることからある程度推察はできる。調べていることがバレて消されたのだ。そしてその依頼自体を頼んだのは…… 「すみません……」 ロンドさんは消え入りそうな声でこちらに謝罪してくる。 「い、いえ……ロンドさんのせいじゃないです。悪いのは……全部辻斬りですから」 それにロンドさんが依頼しなくても、奴が活動を続けていればいずれはここにも依頼が舞い込んできた可能性は高い。 「とりあえずこの現場はしばらく立ち入れないぞ」 「えっ……!? その場合わたしどこに泊まれば良いんですか!? ここに入れないとなるともしかして……野宿!?」 「いや流石にこちらで宿を手配させてもらうよ。それに一週間もすればここも開放され……」 「あのっ! 僕の屋敷に使っていない部屋があるんですけど、そこに来るっていうのはどうですか? いやほら、そうすれば衛兵さんとこも節約になりますし、これから一緒に調査する都合上やりやすいですし」 自分が依頼したせいで彼を死なせてしまった。いくらこちらが否定しようともそんな罪悪感が付き纏うのだろう。 もちろん言ったことは筋が通っているし、一緒に住めば調査もしやすくなるのはその通りだ。だがそういう問題ではない。 (恥ずかしい……) 真面目な事情があるとはいえ想いを秘めている男性と同じ屋根の下で過ごすというのは緊張してしまう。向こうがそんなこと考えていないことは分かってはいるが、それでもこちらは意識してしまう。 「んーまぁロンドなら身元もしっかりしてるし問題ないが……お嬢さんはそれでいいか?」 「あっ! は、はい大丈夫です!」 結果人の善意を無駄にできないわたしの性格が出て、流されてロンドさんのお屋敷で寝泊まりさせてもらうことになる。 ☆ 「こ、ここがロンドさんのお屋敷……!?」 事情聴取を終え夕方頃になり、わたしは荷物をまとめて事務所をあとにしロンドさんのお屋敷まで来ていた。 予想はしていたものの、ロンドさんのお屋敷はわたしの想像を優に超える巨大さだった。 (え
last updateLast Updated : 2025-08-02
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18話 嫌味な兄

「そちらの女性は……父さんに無断で女を連れ込むとは……見ない内に成長したものですね」「いえ彼女はそういうのではなくて……」 ロンドさんの兄なので弟に似て優しく誠実な人だと思っていたが、言葉の節々に棘を感じ似ているとは到底思えない。「あのっ……す、少しの間ですけどお世話になります……」 嫌に感じても相手は圧倒的に目上の立場の人間だ。怒らせないためにも下手に出て礼儀正しくする以外ない。「……貴方どこの家の出ですか?」「えっ……?」 彼は頭を下げるわたしに偉ぶるでも認めるでもなく、怪訝そうに何かを探るよう一歩引く。「実は彼女は記憶喪失でして……この前兄さんにも行った探偵事務所の人に拾われてたんです。そこで助手をしていて……」「いえ、もういいです。大体分かりましたから。それと……貴方のお名前は?」「えっ……? シュ、シュリンです!」「そうですか……私はリントと申します。まぁ短いでしょうがよろしくお願いしますね」(い、嫌味ったらしい〜!!) "短い"という部分をわざと強調するように言い、最後にこちらに不敵な笑みを浮かべると背を向けて部屋から立ち去っていく。 こんな短時間でかなり彼への印象が悪くなり、皮肉の一つでも言ってやりたかったがロンドさんこ立場もあるのでグッと堪える。「あの人本当にロンドさんと血が繋がってるんですか……?」「まぁ……僕とはあまり似てませんよね……でも根は良い人なんです」「うーん……」 ロンドさんは兄を庇うような言動を見せるが、わたしにはどうしても彼が良い性格の人だとは思えない。 まぁ彼の言った通りそう長い付き合いにはならないだろう。ここに住まわせてもらうのは辻斬りを見つけるまで。それに少しすれば事務所だってまた使えるようになるはずだ。(師匠……) しかし帰ったその場所に師匠は居ない。これからずっと一人で孤独に暮らしていかなければならない。 そう考えてしまうとたまらなく恐ろしくなり、みるみる顔色を悪くしていってしまう。「シュリンさん……あ、お水でも持ってきましょうか?」「いや……そんなに喉渇いてないので大丈夫です。それよりちょっと一人に……」「はい……何か用があればメイドに話しかけて僕を呼んでください。今日はもう外出する予定はないですから」「ありがとう……ございます」   彼の優しさが胸に沁みるが、それ
last updateLast Updated : 2025-08-03
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