「ただいまー」 あと数時間で陽が昇りそうな頃合い。そんな時間にわたしは探偵事務所に帰る。やるにやりきれなく、わたし自身も瞳に光が宿っていない。 「……シュリンなのか?」 「え? そうだけど……どうしたの?」 師匠は早起きなのか徹夜なのかは分からないが起きていた。そして虚ろなこちらの表情を見て怪訝な声をかけてくる。 「いや何でもない。遅かったから心配してただけだ。何してたんだ?」 「ちょっと調査にね……ふぁぁぁ」 疲れからか大きな欠伸をしてしまい、わたしはソファーに腰を掛ける。 「師匠も目悪くなった? 入り口まで距離があるとはいえ、灯りがあるのにわたしの顔が分からないなんて」 「いやそういうわけじゃ……まぁともかくそっちも心配ありがとな」 「ん……ねぇ師匠。過去の記憶がしっかりあっても、それを捨てたり逃げたりするってどういう気持ちなのかな?」 「……依頼関係で何かあったのか?」 「うん……」 師匠なら何か別の意見が貰えるかもと、少なくとも悪くはしないだろうと思い包み隠さず起こったこと全てを説明する。 「なるほどな……ただの人探しがそんな面倒なことになってたとは」 「わたしも予想外だよ。とりあえず借金取り共はなんとかできそうだし、パン屋の人達の安全は確保されたけど……それで本当に依頼人の、それにネウロさんの笑顔が守れたのかなって」 依頼人の、ネウロさんにまた会いたいという想いは強く硬いものだったと思うし、娘さんだって父親に会いたいはずだ。 (わたしだって家族に……) わたしの家族。少なくとも父親と母親は居るはずなのに頭のどこを探っても微塵も姿形が見えてこない。 (今もどこかで待っててくれてるのかな……) 両親も今同じ空を見上げているのだろうか、それとももう居ないか、わたしのことなど忘れているのだろうか。そう考え出すとどうしようもなく寂しく、寒くなってしまう。 「いーんだよお前はいくらでも悩めば」 「悩んでるよ。悩んでも悩んでも答えが出ないから困ってるんじゃん」 「そうだそれで良いんだ。答えが出るまで、いや出ても悩み続ければ」 未熟なわたしではどういうことか分からず反応を返せない。 「俺の歳になれば後悔や選択を間違えてしまったことなんていくらでもある。なんならつい最近もな」 「そういう場合師匠はどうし
Last Updated : 2025-07-15 Read more