その日は雷雨の夜だった。手元にあるランプだけが頼りで、しかし時折鳴る轟音が刹那の間全てを映し出してくれる。 今一度雷が落ちる。窓のすぐ側に落ちたのか、ガラスを大きく揺らす。 「ごはっ……!!」 私の血を吐く音が雨音に混じり溶けていく。目の前に深くフードを被ったロングコートの男が居た。その手に持った、血が滴るナイフが闇夜に光るのであった。 ⭐︎ 「シュリンちゃん? おーい!」 「はっ……!!」 師匠に頼まれたお使いの最中。わたしはボーッとしてしまっていたようで、商人のおじさんに意識を戻される。 「どうしたの?」 「なんかぼーとしちゃって……」 「それよりはいこれ林檎一つおまけね」 「わーありがとうございます!」 行きつけのお店の店主からおまけに林檎を受け取り、それを鞄に入れ帰路に着く。 「ん〜美味し〜」 シャキっとした食感に甘酸っぱい味。噴水の流れる音や馬車の走る音を聞きながらそれを味わう。 (そういえばわたしが記憶を失ってからもう二年かぁ……) わたしがこの街で探偵の師匠に拾われたのは二年前。聞いた話によると雷雨の中倒れていたらしい。 今日までずっと探偵のツテや療法など用いて記憶を取り戻そうとしたが、それが実を結ぶことは一回たりともなかった。 (ま、もうここまで来たら……戻らなくてもいいか) 正直に言って今の生活はかなり心地が良い。探偵業をやるのも中々に楽しいし、この街の人達も優しく友達や知り合いもたくさんできた。 「ま、先のことは先に考えればいっか!」 わたしは明るく前向きに未来を考えることにして、歩幅を大きくさせる。だが突然右腕がグッと引っ張られ、林檎を落とし路地裏に連れ込まれる。 「んむむぅ〜!」 抵抗しようとしたものの、わたしを掴むその腕は太くとてもじゃないが勝てない。 「だ、誰!?」 やっと口だけは解放され、わたしは屈強な男二人を睨む。腕や顔に刃物で傷つけられた様な跡があり、人相も相まって明らかに表の人間ではない。 「テメェこの前はよくもやりやがったな……!!」 「えっ? 何を……ですか?」 適当に因縁をつけてきたという訳でもなく、二人は明確に、真剣に恨みからくる敵意をこちらに向けてくる。だがわたしはこんな強面と面識などないし、恨みを覚えられる筋合いはない。 「三日前の
Last Updated : 2025-07-05 Read more