Semua Bab 月光は、いま遠く: Bab 11 - Bab 20

21 Bab

第11話

東都で氷川家の若様がどれだけ絵里を愛しているか、知らない人なんていない。結婚式に集まった招待客たちは、誰もが今日の式がこの上なく華やかなものになると信じて、ふたりの幸せを本気で願っていた。まさか、あんな形で式場の大スクリーンにあんな醜態が流れるなんて――誰ひとり、想像もしていなかった。会場中がざわつく。「どういうこと?北斗さんが浮気してたってこと?あんなに絵里さんを大事にしてたのに?」「ただの浮気じゃないよ、不倫女に子どもまで産ませてるんだって!」「まさか不倫女の方が本命?さっきはっきり『絵里なんてただの暇つぶし』って言ってたじゃない!」「それって……絵里さんの気持ちを弄んでたってこと?最低すぎる……」ざわめきが止まらない。北斗は周囲の声など耳に入らなかった。今は、ただひたすらに絵里に会いたかった。伝えたかった。自分にとって彼女は決して「ただの暇つぶし」なんかじゃないこと。初めて彼女を見た、あの日から――もう心を奪われていたことを。自分は詩織なんて愛していない。あの子のお腹の子どももどうでもいい。ただ、絵里だけと一緒にいたい――その想いしかなかった。いても立ってもいられず、北斗は我を忘れて控え室の方へ駆けだした。絵里の一番の親友・松原蓮(まつばら れん)が、化粧室のドアの前に寄りかかるように立っていた。まるで、北斗がここに来るのを最初から予想していたみたいに、その美しい顔には、驚きや戸惑いの色は少しも見えなかった。蓮は何も言わず、すっと身をよけて、北斗を化粧室に通した。「絵里……」北斗は、絵里にどんなに責められても、憎まれても受け入れる覚悟だった。詩織と関係を持ったのも、自分は絵里じゃなきゃダメだなんて、そんな未練がましい男じゃない――と証明したかっただけだった。でも、どんな言い訳も通じないほど、もう彼女を愛していた。彼女を失うのが怖くて、たまらなかった。もう、彼女なしでは生きていけない。土下座してでも、もう一度だけ、チャンスがほしい――そんな気持ちで化粧室に飛び込んだのに、そこに絵里の姿はなかった。しかも、化粧台には花嫁用の化粧品さえ、一つも置かれていなかった。がらんとした鏡台を前に、北斗の不安と恐怖は一気に膨れ上がる。慌てて化粧室を飛び出す
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第12話

絵里がドイツ語を理解できる?北斗の頭の中に、突然、爆発音が轟いた。気づけば、半月前、クリスタルのグランドピアノのそばで受けたあの電話のことを思い出した。あのとき彼は、絵里がドイツ語を理解できるはずがないと、信じて疑わなかった。だからこそ、友人たちとの間で逃げる計画の話も、亡くなった兄への復讐の話も、ためらいなく口にした。彼女に近づいたのは、ただ兄のために復讐したかったからだ。彼女をもてあそんで、恥をかかせてやりたかっただけだ。そんな残酷な言葉も、ためらいもなく話していた。そればかりか、北斗の友人たちは下品で卑猥な話題を次々と投げかけ、「一晩に七、八回は抱ける」とか、「みんなで一緒に好き放題してみたい」といった彼女の身体を弄ぶような言葉を何度も口にしていた。北斗は、そんな言葉を聞いても、一度も止めることなく、ただ見ていた。絵里は、どこまでも真っ直ぐに、全身全霊で北斗のことを愛していた。彼を信じ、疑うことなく、すべてを捧げてきた。それなのに北斗は、そんな彼女をおもちゃのように扱い、彼女を傷つけ、友人たちが侮辱する言葉さえも、黙認した。どれほど彼女が傷つき、絶望したか――それでもあの日の絵里は、何も問い詰めず、泣きもせず、騒ぐこともなく、ただ静かに、その場を去っていった。あのとき北斗は、絵里がドイツ語を理解できるなどとは、これっぽっちも思っていなかった。けれど今になって思い返すと、あの日の絵里の表情には、もう何ひとつ感情が浮かんでいなかった。ただ、心が死んだあとの静けさだけが残っていた。もしかしたら、あの瞬間からすでに、彼女は自分のもとを離れる覚悟を決めていたのかもしれない――あの夜、詩織が猫耳のコスチュームで北斗に媚びていたときも、絵里の視線はずっと北斗のスマホの画面に向けられていた。あのとき、彼女は一体、どんな気持ちでいたのだろう。きっと、彼女は北斗を愛してしまったことを、心の底から悔やんでいたに違いない。思い出すだけで、胸がえぐられる。そしてその後も、北斗は絵里の目の前で、「あいつのことなんて絶対に愛せない。見るだけで気持悪い」そんな酷い言葉を、ドイツ語で詩織にメッセージとして送り続けていた。彼女はどれほど深く絶望し、もう何も言葉を交わす気力さえ残っていなかったのだろう。ただ
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第13話

北斗は、自分がどうやって新居に戻ってきたのかさえ、覚えていなかった。絵里が結婚式から逃げてしまってからというもの、まるで魂が体から抜け落ちてしまったかのように、今の自分は、ただの抜け殻、感覚のない屍のようだった。そして絶望的な思いで気づいた――自分は思っていた以上に、絵里のことを愛していたのだと。初めて出会ったときから、忘れられなかった。再び会えば、その心を奪われた。気づけば、どんどん彼女にのめり込んで抜け出せなくなっていたくせに、最後まで素直に認めることができなかった。北斗は、持てる力のすべてを使って絵里を捜し始めた。けれど彼女は、市内中心部の高層マンションにもいなかったし、実家にも戻っていなかった。東都中のホテルを調べても、彼女の宿泊記録はどこにもない。彼女の友人や同級生にも連絡したが、誰も彼女の行方を知らなかった。夕方になって、やっと秘書から連絡が入った。二人の新居の周辺の監視カメラ映像を追っていくと、絵里が空港に向かったことが判明したという。ところが航空会社で調べても、彼女がどの便に搭乗したかは分からなかった。空港の外の監視カメラも調べたが、彼女は空港に入ったきり、外には出てこなかった。おそらく、すでに国外へ出たのだろう。ただ、どこの国へ行ったのかは分からない。その電話を受けたとき、北斗の胸はナイフで切り裂かれるように痛んだ。氷川家は特殊な背景を持つ家系で、北斗自身は海外に自由に出られない。絵里が国外へ行ったのは、もう二度と自分に会いたくないという意思表示なのだと、彼にもはっきり分かった。自分が犯した過ちは、もう取り返しがつかない。だけど、どうしても彼女に会いたい――狂おしいほど、絵里を求めてやまなかった。どんなことをしても、彼女を見つけ出したかった。寝室の大きなベッドの縁に腰掛けて、思わずそっと、あのプレゼントの箱を抱きしめる。そうしていると、ある大切なことに気がついた。少し前、ベッドサイドに飾っていた二人の写真立てが割れてしまったことがあった。絵里は「また新しいガラスのフレームを作り直してもらう」と言っていたのに、もう半月も経つのに、写真は戻ってこなかった。今にして思えば、彼女が「作り直す」と言っていたのは、ただその場をごまかすためだけのものだったのだ
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第14話

東都の名門・氷川家の御曹司が結婚――その結婚式の最中、新婦が「愛人との密会写真」を暴露して、そのまま逃げ出した。そんなゴシップ、もし世間に流れたら、きっと大騒ぎになるに違いない。ただ、氷川家の影響力はあまりにも強大で、どれだけ周囲が好奇心や噂話で盛り上がっていたとしても、誰ひとり勝手に写真を撮ったり、軽々しく情報を流したりする者はいなかった。そのため、この一件がネットに出回ることはなかった。北斗は詩織が自分と絵里の結婚式に現れることを決して許さなかった。詩織自身も、式で何が起きたかは知らないままだった。ただ、結婚式が中止になったという話だけを耳にしていた。昨晩、詩織はトラブルに巻き込まれたふりをして北斗を呼び出し、必死に彼にすがりついた。「本当にあなたが好きなの。私も、あなたの子どもも、あなたなしでは生きていけない。お願い、絵里さんと結婚しないで」かつて北斗は「絵里なんて愛したことはない、あの結婚式もただ彼女を辱めるためだ」と、詩織に語っていた。しかし昨夜、彼ははっきりと「誰にも俺たちの結婚式を邪魔させない」と言い切った。さらに、「数日中にお前を海外に送る」と告げ、お腹の子どもを産むかどうかも詩織の自由だと突き放した。どちらにせよ、彼は子どもの生死に興味がない――そう言われたのだ。北斗がどうしても絵里と結婚すると言い張ったその時、詩織の心には、まるで何百本もの矢が突き刺さるような痛みが走った。だが今、彼と絵里の結婚式が中止になったと知り、嬉しさを隠せないでいた。彼が一人で絵里との新居に戻ったと聞くと、北斗から「新居に近づくな、絵里の気分を害するな」と何度も警告されていたにもかかわらず、胸を高鳴らせて北斗のもとへ向かった。「北斗さん!」車を降りるなり、彼女の目に映ったのは、死んだような北斗の姿だった。いつもは自信に満ち、どこか余裕を感じさせる彼なのに、今目の前にいる北斗は、まるで別人のように生気を失っていた。詩織は一瞬だけ不安を覚えたが、すぐにその気持ちを振り払い、無邪気に北斗に抱きついた。その瞬間、彼女の腕の中で、北斗からあふれていた死気は氷のような冷たさに変わり、その瞳の奥に宿る血の色は、まるで地獄の血の海のように、彼女を底なしの闇へと引きずり込むものだった。北斗は今まさに
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第15話

「北斗さん、何言ってるの?」詩織は必死に涙を流しながら訴えた。彼女はずっと、「子どもさえ産めば、自分の運命は変わる」と信じていた。たとえ昨日、北斗が「海外に行け」と言ったとしても、どうせ口先だけだとしか思っていなかった。北斗が自分と、そのお腹の子どもを本当に手放すはずがない、と。けれど、まさか――北斗が、本気でお腹の子どもを「消せ」と命じるなんて!「北斗さん、そんなのひどいよ!お腹の子は、あなたの赤ちゃんなんだよ?自分の子どもを殺すなんて、そんなことしないで!もう二度と絵里さんの邪魔なんてしないから……お願い、お願いだから、私たちの子どもだけは傷つけないで!」北斗の目には、一片の情けも浮かばなかった。しばらく黙り込んでいた北斗は、遠くを見つめながら、うわごとのように呟く。「お前のせいで……絵里は、お前が病院であんなメッセージを送ったせいで、お前が妊娠していることを知って、俺たちの子どもを諦めたんだ。本当は、俺にも子どもができるはずだった。パパになるはずだったのに……もう何も残ってない、全部なくなった……詩織、お前のせいで俺と絵里の子どもは消えたのに、どうしてお前のお腹の子だけが生き残る必要がある?」詩織は一瞬絶句した。まさか、絵里も妊娠していたなんて思いもしなかった。絵里が子どもを諦めたと知ったとき、どこかでほっとしていた自分がいた。けれど今は、ただ必死に哀願するしかなかった。「本当に知らなかったの、絵里さんが妊娠してたなんて……絵里さんの子が北斗さんの子なら、私のお腹の子もあなたの子でしょう?お願い、私たちの赤ちゃんを傷つけないで……!」「連れて行け」北斗は冷たく言い放ち、手下たちに詩織を無理やり車へと押し込ませた。彼は知っていた。もし詩織に子どもを産ませてしまったら、もう二度と絵里とやり直すことはできないと。絶対に、失敗は許されなかった。しばらく沈黙したあと、北斗自身も車に乗り込み、病院へ向かった。「やめて!お願い、私の赤ちゃんを殺さないで!北斗さん、お願い、止めて……!動物でさえ自分の子どもを守るのに、どうしてあなたは自分の子を捨てるの……」詩織は必死に抵抗しながらも、北斗の勢力の前では何の意味もなかった。この私立病院も彼の支配下にあり、詩織
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第16話

幸いにも、蓮がこの件を早めに知らせてくれたおかげで、絵里は北斗が探しに来る前日にフランス行きの飛行機に乗ることができた。海外に渡ったこの二年間、絵里の生活は穏やかで、満たされたものだった。何しろ、北斗のことをあまりにも長く、そして深く愛してしまったせいで、彼を完全に忘れることは、簡単なことじゃなかった。最初に海外へ出たばかりの頃は、よく彼のことを思い出した。自分を責めたり、心が引き裂かれるような痛みで、何夜も眠れないことがあった。けれど、「もう二度と北斗を愛さない」と心に決めたとき、それはまるで、自分の中の古い傷を自分の手でえぐり取るような、耐えがたい苦しみだった。けれど、傷はやがて少しずつ癒えていった。気がつけば、だんだん彼のことを思い出すこともなくなった。たとえ思い出したとしても、心はほとんど波立たなくなった。――本当に、もう彼を手放せたのだと、自分でも分かっていた。今では、北斗が世界中を探し回っていると聞いても、何の感動もなかった。むしろ、彼の行動が自分の穏やかな生活に迷惑をかけていると感じていた。ただ願うのは、これ以上、自分の情報が彼に伝わりませんように、彼ももう自分の人生に関わってこないでほしいということだけだった。絵里はフランスの小さな町に移り住んだ。その町は静かで美しく、人々も親切だった。誰も国内のゴシップになど興味を持たず、絵里は穏やかで幸せな日々を過ごした。月日は流れ、彼女が結婚式から逃げてから、もう三年が経っていた。この三年で、絵里は多くのものを手に入れた。名門ダンスアカデミーの卒業証書を取り、恩師とともに世界各地を巡る舞台に立ち、そのどれもが好評だった。最近、恩師が帰国を考えており、「一緒に帰るか、それともこのまま残るか」を尋ねてきた。海外の景色も素晴らしかったが、絵里はやはり故郷が恋しかった。この一年、北斗の情報はまったく耳に入ってこなかった。これだけ時間が経てば、きっと彼にも新しい恋人ができているだろう。自分が帰国しても、もう彼が追いかけてくることもないだろう――そう思い、絵里は恩師と一緒に帰国することを決めた。まさか帰国の一週間前、自分が借りていた部屋の外で、晶哉と再会することになるとは思ってもいなかった。この三年間、絵里は時折、晶哉のこと
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第17話

「お姉さん、本当に……ずっとキスしたかった。もう我慢できない……」晶哉の吐息が耳元で熱を帯びる。晶哉は、一見すると冷たく凛とした顔立ちをしているくせに、こうして情熱をさらけ出すときは、どうしようもないほど危うくて――その熱気が、思わず絵里の心拍数を跳ね上げさせる。呆然としているうちに、彼の唇がそっと重なってきた。「お姉さん、黙ってるなら、同意ってことでいいよね?」そう囁くと、彼はキスをさらに深くし、呼吸も奪われるほどの激しさで、まるで絵里のすべてを自分のものにしようとするかのように、貪欲に唇を重ねてきた。三年前よりも格段に洗練されたそのキスは、時に甘く、時に噛みつくように熱く、絵里の胸に、どうしようもないほどの思いが流れ込んでくる。胸の奥に鈍い痛みを感じながら、なぜだか彼を押しのけることができなかった。「お姉さん、ドアを開けて」晶哉の声が聞こえて、絵里ははっと我に返った。――これ以上、彼を部屋に入れてはいけない。絵里には、これがきっかけで二人の関係が暴走してしまう強い予感があった。もう一度誰かと恋愛をやり直すつもりなんて、さらさらなかったのに。けれど、そのとき隣人の陽気な声が廊下から聞こえてきた。「あなたの彼氏、すごくイケメンね!」咄嗟に否定しようとした。けれど、見た目は涼しげで落ち着いた雰囲気の晶哉は、意外と図太いところがある。なんと流暢なドイツ語で、にこやかに隣人にお礼を言っていた。絵里は顔が真っ赤になり、これ以上廊下で人目にさらされるのが嫌で、ついを晶哉を部屋の中に入れてしまう。「お姉さん、今日の晩ご飯は何が食べたい?」晶哉は当然のように絵里を抱き寄せ、まるで自分の家のような手慣れた様子でキッチンへ向かう。ああ、やっぱり入れなければよかった――けれど「もう帰って」と言いかけた言葉は、彼の次の一言で喉につかえてしまった。「冷蔵庫にいろいろ食材があったからさ……肉じゃが、豚の生姜焼き、サバの味噌煮、それからデザートも作ろうか?」絵里は言葉をのみ込んだ。両親は早くに亡くなったけれど、兄はとても優しくしてくれた。しかも天才肌で、学生のころから起業し、大学を出る頃にはすでに会社を上場させていた。兄に大事に育てられたおかげで、絵里は家事がほとんどできなかった
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第18話

四千万円で彼を百年も「囲える」なんて――なんてお得なのだろう、と絵里はふと思った。もちろん、男性を「囲う」なんて決して誉められたことじゃないと、心のどこかでは分かっていた。それにしても、晶哉は本当にイケメンで、しかも料理も上手だ。一度お金を払ったのなら、今さら余計な遠慮をする必要なんてない、そう思ってしまうのだった。だから今夜、晶哉がシャワーを浴びて出てきて、濡れた髪から水滴が鎖骨を伝うのを見たとき、絵里はもう我慢できずに彼に飛びつき、あっという間に二人は熱く溶け合っていった――そして、そのまま朝まで止まらなかった。絵里は、もう「囲う」なんて話をすることもなくなっていた。だけど二人の間には、言葉にしなくても「そういう関係」が自然と続いている、そんな不思議な絆が生まれていた。晶哉は、当然のように絵里のアパートに住み着いた。「あなたが故郷に戻るとしても、海外に残るとしても、ずっとそばにいる」そう言ってくれる晶哉の横顔を見て、三年前に彼を「囲った」ことが、自分の人生で一番の選択だったと、絵里は心から思った。本当に、コスパが良すぎるのだ。外では冷たく清らかで、誰も近寄れない「高嶺の花」のような彼も、絵里の前では本当に優しく、思いやりに溢れている。日中は散歩や運動に付き合ってくれ、食事の時間には当たり前のようにキッチンに立って手料理をふるまってくれる。そして夜――二人は息の合った恋人同士になった。毎晩、晶哉は強引に絵里を天にも昇るほどの快感へと導き、彼女はその甘い世界から抜け出せなくなっていった。たった一週間で、絵里はもう晶哉と一緒にいることが当たり前になってしまった。むしろ、いつか彼が結婚して家族を持ち、「この関係を解消したい」と言い出す日が来るのかと思うと、胸がきゅっと締めつけられるような寂しささえ感じるのだった。もう少しなら、お金を上乗せしてもいい――できれば、晶哉を一生『囲って』いたい……そんなことまで、ふと考えてしまう。帰国の前夜、晶哉はいつもより激しく絵里を求めた。バレエを専攻していた絵里は体力には自信があったが、彼の情熱の前ではさすがに腰が砕けそうになり、翌朝には全身がぐったりと力が入らないほどだった。ほとんど夢うつつのまま、晶哉に抱きかかえられて車に乗せられ、そのま
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第19話

北斗が詩織の話を口にしたとき、絵里はわずかに眉をひそめた。まさか三年前、あれほど詩織とそのお腹の子どもを大切にしていた北斗が、自分で手放すなんて――絵里は思いもしなかった。でも、もうそんなことはどうでもいい――絵里の心の中では、とっくに彼との関係は終わっていたのだから。「絵里……三年前、お前が妊娠していたなんて、知らなかったんだ……」北斗の瞳には深い痛みが浮かび、目尻は今にも血の涙がこぼれそうなほど赤く染まっていた。その声はかすれていて、まるで心が擦り切れてしまったようだった。「本当に後悔してる。あれは、俺が、俺があの子を殺したんだ。でも、絵里……これからは、たくさん子どもを作ろう。お前と子どもを、全力で愛する。だからお願いだ、どうか俺を捨てないでくれ!」「……氷川さん」北斗がすがるように手を伸ばしかけたその瞬間、絵里は迷いなく晶哉の手を取り、そっと一歩下がった。その冷ややかな態度と警戒心が、北斗の胸に鋭く突き刺さる。「氷川さん」と呼ばれたこと――もう「北斗」とも「あなた」とも呼ばれないことが、彼の心を何本もの矢で貫いた。まだその痛みから立ち直れずにいる北斗に、絵里は静かに告げる。「訂正しておくけど、私はあなたの妻じゃない。三年前、あなたが結婚式から逃げようとしていると知ったあの夜、私はすべてに失望した。結婚式の日、自分の意志で逃げ出して、その瞬間から、あなたとの関係は完全に終わったのよ。だから、もう妻なんて言わないで。そんなふうに呼ばれると……」晶哉は本当は絵里の恋人ではなく、ただ貧しい大学生を「囲っている」だけ。けれど、北斗にこれ以上関わってほしくなくて、絵里は言い切った。「そんなことをされたら、私の彼氏が誤解するじゃない。私は、彼のことを愛してるの。もし彼が傷ついたら、私も胸が痛む」「彼のことを愛してる……」絵里が「愛している」と言った瞬間、北斗の胸にはナイフのような痛みが走った。彼女が他の男を愛しているなんて、どうしても受け入れられない。それでも、北斗は震える声で、なおも縋りつこうとした。「何年も一緒にいたのに、そんなに簡単に他の男を好きになるわけがない。お前がこの男を彼氏だと言うのは、俺を嫉妬させたいからなんだろ?本当に後悔してる。もう二度とお前を傷
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第20話

「早瀬、妻と今一緒にいるのか?絵里をどこに隠したんだ?俺の妻を返せ!」晶哉は本当に体力がありすぎる。晶哉の熱に包まれて、ただ彼に乱されるまま、身を任せていた。北斗の必死で不安げな声など、まったく耳に入っていなかった。ただ本能のまま、甘えた声で囁く。「晶哉……もう、少しは手加減して……」「絵里!」北斗は、女の扱いに慣れている男だった。絵里の声を聞いた瞬間、彼女と晶哉が何をしているのか、すぐに悟ってしまった。無数の痛みが心臓をぎゅっと締めつけ、息苦しさに胸が押しつぶされそうだった。彼女が晶哉と関係を持っていると聞いたときも、心が切り刻まれるようだった。だが、そのときの痛みなど、今この瞬間の絶望には到底及ばなかった。空港で、彼女が「晶哉と寝てる」と言ったのは、ただのはったりだと思っていた。まさか本当に、彼女が晶哉とすべてを受け入れるとは――自分は、ただ彼女が他の男に抱かれている声を聞いただけで、心に何本もの矢が突き刺さるような痛みを感じ、生きているのがつらいほどだった。三年前、彼女は自分と詩織が親密にしているところを、目の当たりにしていた――そのとき、彼女の心はどれほど傷つき、どれほど絶望したのだろうか。耐えがたい痛みが北斗の胸を引き裂き、思わずその場に膝をついた。そして、なんとか声を振り絞り、今にも泣き出しそうな、情けない声で叫んだ。「絵里、あいつに触らせるな!早瀬、俺の妻に指一本触れるな!」だが叫んでいるうちに、声には情けなさと、どうしようもない悲しみがにじんでいた。「絵里、本当に俺が悪かった……お前に他の男ができても、怒ったりしない……二度とお前を悲しませない。お願いだ、どうか戻ってきてくれ……」「ふざけるな!」晶哉はわざと北斗に二人の声を聞かせて、完全にあきらめさせようとした。だが、どんなに声を聞かせても、北斗は最後まで手放さなかった。晶哉はそれ以上無駄口を叩くことなく、冷たく電話を切ると、すぐに絵里の唇に深く熱いキスを落とした。晶哉には誇りがある。どんなに貧しくても、決して女に養われるような男じゃなかった。けれど、三年前に自分を「囲った」のが絵里だったから――子どもの頃からずっと忘れられなかったあの人だったから、彼女に養われることに、屈
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